夜中の決闘
夜9時___。
約束通り屋上に着いたリーブは、辺りを見渡していた。
「本当に1人で来てくださったんですね」
「っ!?」
不意に後ろから声をかけられ振り返る。
夜に溶け込む様な黒いゴスロリ服を着た少女の姿がそこにあった。
「改めて自己紹介を。私、2年2組の黒井餡子と申しますわ。以後お見知りおきを。」
スカートの裾を摘みお辞儀する餡子。
「翠川リーブです。えっと……果たし状を送ってきた方ですよね。」
「えぇ。私、あなたが生徒会長なのが気に入りませんの。その席は本来私のものだったハズなのにあなたのようなぽっと出の1年に奪われて___!!」
そう言って頭を掻き毟る餡子。
「だから__死んでくださいまし?」
刹那。
「『剣舞 夜桜』」
二刀流で斬りかかって来た。
「っ!?」
咄嗟に抜刀し防ぐリーブ。
「あら、防がれてしまったわ。腹立たしい。」
「な、何とかなった……!」
「私、桜流の師範でもありますの。『剣舞 灰桜』」
辺りに霧が立ち込め、餡子の姿が見えなくなる。
「……」
リーブは構え直すと辺りを警戒する。
刹那、背後から刀が現れた。
「強化!筋力!」
リーブは能力で強化し何とか凌ぎ切る。
「これでもダメなの?しぶといわね」
「そう簡単にやられませんよ……!」
霧が立ち込める中、どこから来るか分からない剣撃をかすりながらも防いでいくリーブ。
「ここまで防戦一方……。隙を作らなきゃ……」
「あなたがどれだけ防ごうと私の体力は尽きません事よ?」
舞うような美しい剣撃を放ちながら告げる餡子。
「かはっ……!」
突如剣技ではなく放たれた蹴りが腹に命中し、もんどり打って倒れる。
「う、ぐ……」
立ち上がろうにも力が入らない。
意識が遠のくのを感じる。
いや、今は手放してはダメだと必死に意識を保つリーブ。
「おとなしくしていれば痛みなく殺して差し上げますわ」
餡子がにじり寄る音が聞こえてくる。
その刹那___
「とうっ!」
「きゃっ!?」
聞き覚えのある声。
「リーブちゃん、大丈夫かい?」
「菜花……さん……?」
「君に死なれては困るんでね」
ニヤリと笑っては餡子の方に視線を移す。
菜花の勢い任せの飛び膝蹴りはクリーンヒットしたらしく、フラフラと立ち上がる餡子。
「また邪魔者が……!」
餡子の美しい黒髪が激しく乱れる。
「えーと、餡子先輩。ここは引いてくれないかな?さもないと僕と戦うことになるぜ?」
「引くわけないじゃない!もう少しで仕留められたのに……!『剣舞 桜花』!」
餡子の持つ刀に桜の花びらが宿る。
「はぁっ!」
桜の花びらが目隠しとなり菜花の視界を奪う。
だが菜花は立ったまま警戒もせず眺めていた。
「余裕そうですね」
「君の能力の弱点がわかったからね」
「それはどう言う__っ!」
菜花の拳1発でピシリ、と餡子の刀にヒビが入り、やがて砕け散っていった。
「な……!」
「す、凄い……!」
驚くリーブと菜花。
「これで……トドメ!」
パリンと音を立ててもう一本の刀が割れる。
菜花は血を流してはいなかった。
「まだやるかい?」
「当たり前でしょう?あなた達、気に食わないわ」
「それは失礼。リーブちゃん、立てるかい?」
「う、うん……。」
フラフラになりながらも立ち上がるリーブ。
「君が注意を引き付けて、僕が仕留める。いいかい?」
「わかった……。」
「遺言はお済みで?それでは……『剣舞 枝垂れ桜』」
餡子は隠し持っていた短刀でリーブに斬り掛かる。
「っ……!やっぱり強い……!」
ガチガチと金属がぶつかり合う音が響き渡る。
「今だ!」
菜花が餡子の横腹目掛けて蹴りを放つ。
「かふっ……!」
モロに喰らった餡子はもんどり打って倒れる。
「ふぅ……やっと終わった。リーブちゃん、大丈夫かい?」
「う、うん……ありがとう」
差し出された手をとるリーブ。
「とりあえず彼女は縛って生徒会として処分を下そうか」
「うん……」
夜が明け、朝日が見えてきた。
幸い今日は土曜日だった。
波乱の夜はこうして幕を閉じるのであった。