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人間から治る日  作者: 茶茶
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負の感情

負の感情がとぐろを巻き、肥大して、自分の皮膚を突き破ってしまいそうになる。


そんな時、私は一人、旅に出る。


薄暗い部屋の中。布団を頭からかぶり、自分の皮膚を突き破ってくる化け物を必死におさえこむ。つらさを甘受し、痛みを抱え込むように布団の中で丸くなる。ヤスリでなでられたように心がボロボロとすり切れ、鮮血が吹き出している。


だんだん息苦しくなり、布団から顔だけだした。窓に顔を向けると、白いレースカーテンが風に揺らめいている。光を透かすカーテンの隙間から、絵の具で優しく伸ばしたような青空がみえる。


もう生きていたくない。でも死にたくない。まっさらで、ただひろくて、何もない無の世界に行きたい。目をつむり、心の底から神様にお願いしてみる。けれど、叶うはずもなく目を開けば、見慣れた天井があるだけだった。


覚悟を決め、布団から勢いよく立ち上がった。壁に手を伸ばし、帽子をつかむ。机に散らばっている素のままのお金と携帯。そして、そこら辺に落ちている文庫本をズボンのポッケに押し込んだ。


一人旅の始まりだ。心の中でそうぼそりと呟いた。


光がつきささる。目を細め、太陽仰ぎ見る。いつも堂々としていて、しつこいほど熱い。そんな太陽が、うざったくも、少しうらやましい。


いつもは背負っている目的のために、素早く通り過ぎていく道。今はその道を、気の向くままの速度でふらふらと歩く。


普段の自分は完璧な私を演じる。歩き方ひとつをとってもそうだ。背筋をピンと伸ばす。まっすぐ前だけを見て視線をあちこちに飛ばさない。一直線の白線を描き、その上を体の芯がずれないように固定する。疲れていても、微笑を絶やさない。いくつものチェックシートを厳格にマークし、正しい自分であることを強要する。


だけど、今だけは私じゃなくていい。誰かという存在でいい。気をぬいて歩いていると、視線は下がり、真顔になる。背筋はまがり、ゆっくりふらふらと歩いている。チェックシートには罰ばかりがならんでいる。そんな私を、誰も気に止めやしない。

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