ランドセルと缶コーヒーと先輩と後輩と
「「いいなぁ・・」」
自販機の近くで、横並びに飲み物を飲んでいた少女たちがつぶやく。
「どうしたんですか、麗先輩?」
「和美ちゃんこそ」
「横目で見てて改めて先輩って身長高くてスタイル抜群で、大人っぽくて美人で羨ましいって思ったんです!」
「私はあなたの庇護欲をかき立てられる、愛らしい小動物のような見た目がとても羨ましいって、チラ見しながら思ってたのよ」
「そうなんですか‥なんか照れちゃいますね。不躾で申し訳ないのですが、先輩の缶コーヒー持たせていただけませんか?」
「いいけどどうしたの?」
「麗先輩の真似したらカッコいい女性に近づけるんじゃないかって」
「もうその発想が可愛いわね、羨ましい‥。はいどうぞ」
大きい手から小さい手へと飲みかけの缶コーヒーが手渡され、小柄な少女は缶コーヒーを右手に持ち、左手は拳を握り、腰へと当てた。
「ど、どうでしょう?大人っぽいですか?」
「子供が背伸びしてコーヒー飲んでるみたいでとても愛くるしいわ。おませさんって感じ」
「ガーン!!そんな~‥ぐすん」
「落ち込んでる姿も可愛いわね、羨ましい‥」
大柄な少女は小柄な少女の頭に手を置きやさしく撫でる。
「私が和美ちゃんみたいになるのは難しそうね・・。せめて和美ちゃんの似合いそうなものを身に着けてみたら近づけるかしら。あ!そこの君ちょっといいかな?」
近くを通りかかった小学生に大柄の少女がかけより声をかける。
手に荷物を持った大柄の少女が再び小柄な少女の元へと戻ってくる。
「先輩どうしたんですかって‥それランドセル?」
「和美ちゃんに似合いそうなもの身に着けたら私も可愛くなれるかなぁと思って借りてきた」
「私高校生ですが!?」
「まあまあ見てて。よいしょっと‥どうかしら」
赤いランドセルを背負い、バレエダンサーのようにくるっと一回転し、小柄な少女に向かい合う。
「なんかモデルさんがオシャレなカバンを背負ってるみたいでカッコいいです!」
「‥そう。可愛いとは違うのね‥」
しばし気まずい空気が流れ、それを断ち切るように大柄の少女が口を開く。
「試しにお互い交換してみない?」
「え?いいですけど‥」
大柄の少女の手に再び缶コーヒーが、そして小柄の少女はランドセルを背負った。
「可愛い‥」
「カッコいい‥」
お互いの姿を羨望の眼差しでとらえ、二人は言葉を漏らす。
向き合ったまま暗くなり始めた空を仰ぎ、少女たちは呟いた。
「「いいなぁ・・」」