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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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ミロとの出会い

客から猫を運ぶことを頼まれた。

普通、宅急便では動物を運ばない。

当たり前だ。生き物は何があるかわからない。


他の荷物と一緒にはできない。

大手はすべて断る。

だが弱小企業でしかも知り合いから頼まれたら断れない。


そんなわけでマユは猫を運ぶことになった。

猫は好きだが、無愛想な猫だった。

息ができて様子が見られる猫ケージへ入れて運ぶ。


マユは最初乗り気でなかった。

でも、店長が言うんだから仕方ない。

内心、店長自分でやれよ! と思った。


阿佐ヶ谷まで思いケージを下げてマユは歩いた。

ケージを覗いても、猫は目を合わせようとしない。

つむじ曲がりの猫だ。


性格良くない。

とにかく早く届けちまおうと思った。

ところが届け先の家を訪れると、そんなこと聞いてないという。猫なんか嫌いだし。


仕方ない。また、重いの下げて店へ戻る。

依頼人に連絡すると電話に出ない。

住所に該当者いない。


つまり、送料払って店は猫処分に使われたわけだ。

店長は頭にきて、猫を保健所に連絡する保護猫にするという。当然だ。猫はお腹すくし、トイレもする。


店へは置いとけない。

マユはプライドが高く愛想のない猫がかわいそうになった。

つい、自分が飼うと言っちまった。

「ビジネスホテル暮らしで、どうやって猫飼うんだ」

と店長は言った。


そうだった。自分の家、燃やしちまってなかったんだっけ。

「でも、こいつ飼いたい」

私は言った。


「こいつ、性格悪そうだぞ」

ケージ覗き込んで店長が言う。

だからいいんだ。こいつ、人間に媚びない。


前の飼い主から、だから捨てられたんだ。

こいつとは仲良くなれそうだ。

「どうしても飼いたい!」


マユは店長に粘った。

「じゃ、二階を使え。物置だが自分でかたづけろ」

マユは猫をミロと名付けた。


こいつと会って一時時間以上経つのに、まだ自分を一度も見てないからだ。

せめて、私を見ろよ! こんなに苦労してお前を飼うことにしたんだ。これから私はお前の友達なんだぞ。


それでも猫は私を無視する。

見ろ! まず私を見ろ! それで名前がミロになった。

ミロを連れて店の二階へ上がった。


物置なんてもんじゃない。

マユの寝る場所もないくらい、雑然とガラクタが置かれていた。そんなのへっちゃらだった。


まずミロをケージから出した。

ミロは動かず、辺りを見回した。

こんなひどい場所、初めて見たんだろう。


「今日からここが、お前と私の家だよ」

マユはミロに言った。

キャットフードと水をミロの前に置いた。


見向きもしない。

猫はクールだというが、こいつは特別だ。

感謝しろとは言わないが、喉をゴロゴロぐらいさせろよ。


自分が置かれた立場もわからず、

その誇り高さがマユには哀れでもあり可愛くもあった。

一つ間違うと、店長から保健所へ送られ殺処分されたかもしれないのだ。


その日の配達はもうなく、マユは部屋を片付ける気にもならず

ほこりだらけの古いデスクの上で寝た。

朝、目を覚ますと、なんとミロはマユの腕の中で眠っていた。


彼女の温かいぬくもりが伝わってくる。

見てはくれなかったが、懐へ入ってくれたんだ。

マユは思わずミロを抱きしめた。


眠っているミロは、低くゴロゴロと喉を鳴らした。

どんなことがあっても、このプライド高い猫を離さない!とマユはミロを強く強く抱きしめた。


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