仲間たち
マユは荷を受け取りの家の玄関チャイムを鳴らした。
周囲には五、六人の私服デカが張り込んでいる。
「宅急便です」
マユはインターホンへ叫んだ。
待っていたように玄関ドアが開いた。
マユの差し出す荷を受け取った。
同時に私服三人が男に躍り掛かった。
荷物ごと待機していた覆面パトカーへ連れて行く。
「な、なんなんだよ!」
叫ぶ男をデカたちは容赦しない。
車の中で待っていた鑑識が、試験管の中へ荷の白い粉を入れて志薬を垂らす。
見る間に粉はブルーに変わる。
それを本人に確認させる。
「ブルーに変わったな」
男は無言でうなづく。
デカは腕時計を見て
「四時二十三分、シャブ所持容疑で逮捕する」
と言い、同時に男の両手に手錠をかける。
その出際のいいこと、驚くばかりだ。
男は何も言えない。
バトカーのドアを閉め、直ちに本署へ発進する。
マユは茫然とそれを見送っていた。
残っていたで形が、マユを囲んだ。
「問題お前だ」
おいおい、今度はこっちへ来るんかい。
店の親父さんはマユは安全だと言ってたけど。
「お前、荷の中身はシャブだと知って届けただろう。だったら同罪だ」
腰のベルトから手錠を出す。
「そんなこと知るかい! こっちは頼まれたから届けただけの宅急便屋だ」
マユの答えにデカは鋭い目で言った。
「じゃ、なぜ我々を途中で巻こうとした。中身知ってたからやったんだろう」
今にもマユの手に手錠をかけようとする。
「あんたら、何もわかってないな。こっちは仲間と会うために近道しただけだ」
「仲間? そんなの見なかったぞ。でたらめ言うな!」
なおも手錠をかけようとするデカに、マユは言った。
「じゃ証明してやる。仲間はぐじゃぐじゃ居たんだ。今でも私を待ってる」
デカたちは顔を見合わせた。
「それ、証明できるか。人間なんて一人もいなかったぞ」
「じゃ付いて来な。証明してやる」
さっき来た猫道へ向かって歩き出すマユ。
三人のデカが半信半疑で、逃げられないようにマユを囲んで付いてくる。
何軒もの人かとマンションの裏を通って、やっとあの雑草だらけの空き地へ来た。
デカの一人が「やばいぞ、家宅侵入だ」とつぶやいた。
こんなことマユはいつもやってる。
こうしないと仲間に会えないからだ。
空き地へ来ても、人間など一人もいない。
デカたちはしきりと人影を探した。
「どこに仲間がいるんだ」
しきりと探すデカにマユは言った。
「そんなとこに立ってるからだよ。もっと下がって!」
デカたちは空き地の隅まで退らされた。
いきなりマユは叫んだ。
「みんな出ておいで。ガラは悪いけど、このおっさんたちはお前たちを捕まえに来たんじゃないから」
するとあちこちの草むらから、猫たちが顔を出した。
アメショーや三毛やペットショップで買えば五十万もするベンガルもいる。
デカたちはさすがに驚いた。
「仲間って猫かよ!」
「悪いか!私の大切な仲間たちだ」
デカは言葉もなく無数の猫たちを見つめた。
優に十数匹はいる。
「もっと退がって!みんな怖がってるだろ!」
デカたちは仕方なく、空き地のはずれまで退がった。
猫たちは恐る恐るマユの周りに集まった。
「これでわかったろう。私はみんなと遊んでくから、あんたらはパトカーへ戻って!」
デカたちは無言で人家の裏を引き返していった。
あの猫はマユになついている。
マユの言葉に嘘はなかった。
みんな間違いなく彼女の仲間だった。
あんな女の子、デカたちは初めて見た。
無言でパトカーへと引き返して行った。