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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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ラブレター


荷物を運ぶと言っても、大手の宅急便業者と違って個人の小口店はそれなりのドラマのあることがマユは分かってきた。

単に荷を運ぶのにドラマなどあろうはずがないのだが、

小口店だからこそあるのだ。


男性から女性に運ばれてきた荷物を、女性側が受け取りを拒否するなど、大手の宅急便業者ならありえないことだ。

拒否しようがなんだろうんが,置き配で処理する。


届ければ済むことだからだ。

ところがその若い女性は、断固として荷の受け取りを拒否した。荷を引き取って送り返してくれと言う。


荷を届けたマユは困惑した。

ならば受取人が自分で送り返せば済むことだ。

荷を届けることで宅急便業者の仕事は完了している。


だが、女性は断固として荷の受け取りを拒否した。

実はこの女性には、以前から荷の受け取り拒否で悩まされているという。


仕方がない荷は発送人に送り返される。

しかし、発送人は断固としてその受け取りを拒否する。

ここが弱小個人宅急便業者の辛いところだ。


同じ荷が両者の間を何度も往復する。

料金は1回分の料金しか支払われていない。

大手業者はそんな個人間の面倒には巻き込まれない。


それでは商売にはならないからだ。

何か複雑な事情があることは間違いない。

日に何百個と扱う荷に、個人間のトラブルなど介入する余地はない。


だがマユは介入した。

一番考えられるのは、男の方が一方的に荷を女性に送りつける場合だ。ある日、マユは玄関ドアも開けずに受け取りを拒否する女性に荷の中身を聞いてみた。


そんなことは宅配業者としてはならない事だ。個人情報に触れる人だからだ。しかし、荷はすでに両者の間を五回も行き来していた。


一回分の料金でこれでは商売にならない。

しかし、女性はインターホン越しに、中身はラブレターだといとも簡単に告げた。


やはり! 男の方が想う人に一方的にラブレターを送りつけ、女性性が拒否して両者の間をラブレターは何復する。単純に考えれば、そんなケースが予想された。


マユは敢えて女性に面会を求めた。

このままでは、ストーカーの男性から女性を護れない。

宅配業者としても、店は既に大きな損害を被っている。

だが、面倒だから個人間のトラブルには決して介入しない。

かといって警察に届ける問題でない。


若い女性の名は、春日美之と言った。

玄関先でストーカー男の状況をマユは彼女に聞いた。

ところが意外な答えが美之から返ってきた。


ラブレターはすべて彼女自身が相手の男に出したもので、

それがまとめて返送されてくるというのだと言う。

それではストーカーは彼女の方ではないか。


マユは困惑した。

では、美之がラブレターを出すのをやめるしかない。

マユの提案に彼女は断固として拒否した。


二人はかつて相愛の仲だった。

熱烈なラブレダターの交換をしていた。

ところがある日を境に、男は豹変しラブレターをよこさないばかりか彼女のものを返送してきた。


当然、彼女は納得できなかった。

新しい女ができたのか。彼女は必死で問いただした。

返事はった。ただ、連日出すラブレターがまとめて宅急便で送り返されて来るばかりだった。


彼女は男に未練があった。熱烈なラブレターのやり取りが突如一方的に打ち切られ、直接会うのも断固として男に拒否された。問題は男の側にあることが、マユはわかった。


美之が必死なことは、その表情からもわかった。

マユはため息をついた。問題はマユが考えていたほど単純なストーカー問題ではなかった。


これは男にあって事情を聴いて見るしかない。

いち宅配業者がそこまでやる必要があるのか。

店の店主に聞いたら、止められるに決まっている。


だが、美之の行き場のない感情もマユはよくわかった。

このまま放置したら、必ず二人の感情は事件に発展する。

それほど美之の気持ちは真剣というより必死だった。


このまま放置はできない。

それがマユの結論だった。

小さな宅急便箱に、二人の大きなドラマが秘められていた。


マユは休みの日に、遠く北海道まで男に会いに行くことにした。余計なお節介かもしれないが、美之の気持ちは限界まで追い詰められていた。それを解決してやるのは自分しかいない。マユはため息をついた。



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