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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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瀬能の言葉


自分の血を抜くと言っても、やったこともないし第一注射器がない。

仕方なくマユは瀬能に相談した。


話をじっと聞いていた瀬能は珍しく三十分後にいつもの喫茶店へ来い、と言った。こんな態度を瀬能が取るのは珍しい。

何かよほど気になったことをマユは言ったらしい。


仕方なく学校をさぼり、マユは阿佐ヶ谷の喫茶店へ行った。

瀬能は既に来ていた。

マユが麻子のことを言い出すと、瀬能はそれを遮った。


「その女性は余生が三ヶ月しかなく、光代がそばに寄り添うと言っていた女性だよな」

瀬能はひどく不機嫌だ。


「それを何でお前が余計なことをするんだ」

いつものきみからお前になっていた。

よっぽど不機嫌なのだ。

「それは私が火の鳥になり、その地を与えると永遠の命を得られるとの伝説から・・・」


瀬能がことはを遮った。

「火の鳥か何か知らないけど、お前はとんでもない勘違いをしている。他人の血を飲ませるということが、どういうことかわかっているのか!」


マユは言葉もなかった。

伝説では永遠の命を与えるとなっている。

「千年前、二千年前の話でないんだ。現代医学では、他人の血をのませて命を永らえることなど、完全に否定されている」


「しかし・・・」

瀬能はマユの言葉を遮った。

「無理心中を計った女が、相手の男の血を飲み激しく吐いて人事不省に陥った事件があった。輸血と違って、アフリカ奥地の原住民でもなければ、他人の血など飲まない!」


マユは言葉を失った。

神話に近い伝説で、火の鳥の血を飲み干せば永遠の命を得ると聞いているだけだった。


「すぐに止めろ!お前より若い光代が、最後までそばに寄り添うという心優しい気持ちが正解だ。火の鳥かなんか知らんが、その血を飲ませるなど忘れてしまえ。逆に彼女の命を縮めるぞ」


瀬能は激しい言葉で言った。

こんなに厳しい言葉を投げられたのは初めてだ。

「最近のお前はどうかしている!父親の遺言で警察に協力しないのは勝手だ。だが、リーパーだの火の鳥だの飛天だと言う世迷いごとは忘れてしまえ!」


厳しい言葉だった。

「お前があの心優しいマユから、違う人間になっていく」

瀬能の意外な言葉だった。


「でも、私は実際に飛天で空を飛べる!」

「それを忘れろ! と言ってるんだ。俺はお前に普通の人間でいてほしい。光代はそれで命を落とした。当たり前の人間でいても、優しい思いやりの心があれば人を助けられる」


瀬能の言うとおりだった。

リーパーの言葉に、確かにマユは思い上がっていた。

「人助けるのは異能ではない。寄り添う優しい心だ」


「火の鳥も飛天も忘れろ!そして、以前のマユに戻ってほしい! でなければ、俺はお前との縁を切る!」

瀬能の激しい言葉だった。


自分は異能が全てと思い上がり、光代の余命少ない麻子にただ寄り添ってやるという人間らしい心を忘れていた。

一言もなかった。


「よく考えろ!異能という力を持つ魔女と、俺は付き合う気はない」

そう言い放って、瀬能は席を立った。


魔女か!私は魔女になっていたのか。

普通の人間に戻りたかった。瀬能を失いたくはなかった。

火の鳥の血のことなど忘れよう。


そして光代のように、麻子のそばに寄り添い穏やかな最期を見届けよう。麻子はそれを願っている。

瀬能の言葉でマユは目が覚めた思いだった。


火の鳥も飛天も忘れよう。

もし、それを使うと擦れば、瀬能の命の危機が来た時だけだ。

マユは喫茶店の席にいつまでも座り、固く心にそう決めた。





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