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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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死を賭けた再生


夜十時過ぎ、学校の正門も通用口も閉まっていた。

マユは高い正門の扉を乗り越えた。

それしか中へ入る方法はなかった。


闇の中に校舎は静まり返っていた。

出入り口はすべて鍵がかかっているが、渡り廊下の中央は

横切る通路のために解放されている。


そこからマユは校舎へ入った。

生徒なら誰でも知っていることだ。

静まり返る廊下を進み、階段を上がった。


十分後にマユは四階の屋上に立っていた。

1年半前、自殺しようとした場所だ。

また、ここに立とうとは夢にも思わなかった。


自分がまだフェニックスー火の鳥なのか、

命を賭けた試みをしようとしていた。

マユはまだ心のどこかでリーパー(死神)を信じていた。


彼の意に沿う働きをしなかったかもしれない。

しかし、彼女なりに真剣に異能と向き合ってきた。

突然、すべての異能を取り上げられ、

最後のフェニックスー火の鳥としての力がまだ自分にあるのか

すべてが始まったこの場所で確認しようとしていた。


文字通り、命を賭けた試みだった。

ここから飛び降りれば、

自分が火の鳥でなければすべてが終わる。


それでもよかった。

愛する石野のいる黄泉の国へ行ける。

屋上の端のあの場所に立った。


リーパーの声は聞こえなかった。

風がマユの背を押す。

早く飛び降りろというように。


暗い無人の校庭が眼下に広がっている。

マユは思考を停止した。

石野のこともリーパーのことも既に亡い両親のことも

すべて忘れた。


そして、一気に屋上を蹴って闇へ身を投げた。

自分の体が宙を落下していく。

わずか十数メートルの距離が無限に続くかに思われた。


想像を絶した衝撃が来た。

考えていたものとはまるで違った。

頭が割れ、全身の内臓が破裂したかと思った。


屋上から飛び降りても即死はしないのだ。

十数階もの高層でなければ数秒は生きているのだ。

その激痛と苦悩は想像を絶した。


全く身動きできなかった。

ただ痛みと苦しさに呻くのみだった。

無人の校庭でマユは地獄の底にいた。


死はすぐには来てくれなかった。

残酷な数秒間がすぎ、やっとマユの頭に闇が訪れた。

薄れていく意識の中で、これが死というものかと思った。


数時間が過ぎた。

校庭の東側か明るくなって来た。

朝日が家々の間から顔を出したのだ。


それまで血まみれで動かなかったマユの口からして

かすかにうめき声が漏れた。

そして目を開けた。


それはさっきまでの瀕死の彼女でなかった。

いつも朝、自分の部屋で起きるように伸びをした。

上半身を起こした。


マユは再生したのだ。

新しいマユの誕生だった。

彼女は立ち上がった。


自分がフェニックスー火の鳥であることを知った。

蘇った彼女は溌剌としていた。

屋上で悩み苦しんでいた自分ではなかった。


生徒たちが登校してくる前に、ここを出ようと思った。

リーパーの声が聞こえた。

なぜお前が火の鳥であり続けたかわかるか。


分からなかった。

警察の手先となって、犯人探しに躍起となっている。

そんなことをするために、異能を与えたのではない。

弱い者、人生に追い詰められる者、苦しみもがく者、それらは人生を全うせず苦しみに自らの命を絶とうとする。


それが目的であることを忘れたのか。

犯罪者など取るに足らぬことだ放っておけ。

お前は人生を半ばで終えようとする者たちの味方だ。


それを救うのが役目だ。忘れたのか!

そうだった。それで自殺しようとした自分をリーパーは

やめさせ、異能を与えてくれた。


殺人者の顔など忘れてしまえ!

校庭を歩きながら、マユは頭の中のリーパーの声を聞いていた。早朝見回りの教師が驚いてマユを呼び止めたが、全く彼女の耳に気入らなかった。


教師は呆然とマユを見送った。

リーパーは言った。

お前に新しい異能を与える。火の鳥と白光線はこれまで通りだが、それに加え飛天を加える。


すく飛天!! マユは驚いた。

光代の持っていたあの力でないか。

この三つの力を以て、人生を途中で捨てる者たちを救え!


すべてがわかった。

リーパーはつまらぬことで苦しむマユを見捨て、

火の鳥で再生するのを待っていのだ。


もうマユの頭の中には、瀬能の依頼も石野への思慕もなかった。苦しみで人生を途中で降りる者たちー自殺者の救済でいっぱいだった。


迷える者、苦しむ者、人生半ばでリタイヤしようとする者たちを救うのだ。

殺人者などどうでもよかったのだ。


まだ死ぬべき者でない者を救うのも、死神―リーパーの重要な役目だったのだ。



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