喪失
マユのスマホへ瀬能からの写真が届いた。
殺人事件の容疑者の男のものだ。
どこででも見かける中年男の顔が写っていた。
それを手にしても、マユはなんの感慨も湧かなかった。
殺人者でもなんでもない。
ただの中年男である。
瀬能は焦っていた。
マユの回答をラインで求めてきた。
再度、複数の男たちの顔写真を送ってくれるよう返事した。
いつものマユならズバリと正解を告げてきたからだ。
彼女には写真から何も見えなかった。
5枚の写真が送られてきた。
それにもマユはなんの関心も示さなかった。
彼女の中になんの関心も湧かなかったのだ。
そして、気がついた。
自分には殺人者を見抜く異能が失われていることに。
リーパーを呼んだ。
何も答えてはくれなかった。
何もわからない普通の女の子に、自分は戻っていた。
どいうことなのか!
マユは錯乱した。
自分はどうなってしまったのか。
瀬能には答えを少し待ってほしいとメールした。
待ったって自分は変わらない。
殺人者を見抜くことも相手の残された寿命を読み取ることも
激怒した時は白い殺人光線を相手に放つことも、
時空を超えて死者の元へお迎えとしてゆくことも、
すべての力を自分は失っていることに気づいた。
マユは呆然と部屋に立ち尽くした。
リーパーが術を消したとは思えない。
いったい何が原因なのか。
ただ一つ思い当たることは
昨日の早朝、死んでも良いから石田に会いたいと思ったことだ。
石田を今でも愛していることを再確認した。
そのことなのか?
それが自分からすべての異能を喪失させたのか。
石田への思慕としに関する自分の異能と何の関係があるのか。
いくら問いかけてもリーパーは無言だった。
そして、マユは最後の疑問にたどり着いた。
自分はフェニックス、すなわち火の鳥としての力も失ったのか。
試してみようと思った。
方法はただ一つ。再びあの校舎の屋上に立つのだ。
そして眼下の校庭へ身を投げる。
文字通り命がけの試みである。
失敗したら自分は死ぬ。石田の待つ黄泉の国へ行ける。
成功して生まれ変わったら、自分はまだ火の鳥なのだ。
今夜決行しようと決めた。
何度も矢継ぎ早に来る瀬能のメールには出なかった。
自分が死んだら、彼とはこのまま別れになる。
何も告げずにひっそりと消えたほうがいいのだ。
投稿した生徒たちは、
校舎の下で無残に亡くなっているマユを発見するだろう。