光代の秘密
試験はすべてクリアできた。
久しぶりに本気になって勉強したから。
マユはまず問題をすべてチェックする。
すべてわかれば、あとは時間との競争だ。
試験の期間中にも、何回も雨宮からFAXが来た。
すべて男の写真だ。
何十内もあった。
時には外人のものもあった。
いずれも不明とラインを送った。
あの特別捜査官たちもチェックしているのは分かっていた。
十数回繰り返すと、FAXは来なくなった。
マユの意思を彼らは悟ったのだ。
いかに殺人犯とはいえ、凶悪なシリアルキラーとはいえ、彼らチクってバイト代を稼ぎのは人を売ることだ。
もっとしてはならない行為に、マユは気付いたのだ。
恥ずべきことだった。
彼らは職務として自分たちで犯人を探したら良い。
これだけは二度と済まいと彼女は思った。
無事に期末試験が終わり、プロファイルが片付くと
突然、光代がやって来た。
しばらく家においてくれないか、と言う。
それは全然構わない。
家は広いし五つある部屋のうち二つしかマユは使ってない。
心なしか以前より光代はやつれた感じがした。
家にいるのは構わないが、両親や家族は心配しないのか、と確かめた。それは全然問題ないと光代は言う。
だが、何かあるとマユは思った。
光代は飛天だ。そうマユは確信していた。
恐らく母親もそうだ。飛天の血を母親から引き継いでいる。
夕食には得意のポテトカレーを作ってやった。
光代は喜んでお代わりした。
彼女が来るたびにカレーで、マユは少々辟易していた。
たまにはステーキを焼こうと思っていた矢先だったから。
深夜、毎晩のように光代はバルコニーへ出た。
そして、消えた。
恐らく天空へ舞い上がったのだ。
マユの家へ来るのは、それが目的だったのだ。
行き先をマユは確かめたくなった。
未成年者を預かるそれは責任でもあった。
家の前に自転車を用意し、光代の飛天に備えた。
バルコニーへ出た光代は天を仰ぎ、垂直に上昇した。
月明かりの中にマユはそれを目で追う。
90メートル近くも上昇し、月下を水平飛行に移る。
初めて見る光代の飛天に、マユは呆然と見とれた。
天空を舞う少女は、まさに法隆寺の壁画の天女だった。
我に帰ったマユは、慌てて自転車で彼女を追った。
月明かりの中とはいえ、深夜天空の光代を追うのは大変だった。何度も見失いそうになりながら、必死で光代を追った。
光代が舞い降りたのは、キリスト教系で有名な総合病院の屋上だった。なんでこんな場所へ? 面会時間などとっくに過ぎ、数百ある病室は明かりが消えて寝静まっている。
ここから先へはマユは入れなかった。
なるほど屋上へ降りたら、光代は出入りは自由である。
ここに光代が、どうしても会いたい人がいるのだ。
世に確かめようと思った
そう思いマユは家路に着いた。
彼女は悪いことをしているのではない。
明日、誰に会いに来ているのか、光代に話しを聞こう。
驚いたことに、翌日の朝食の席で光代の方からその話を切り出してきた。
話は寿命交換のことだった。
光代が寿命交換のことを知ってることに、まずマユは驚いた。
友人たちの間で、半信半疑の噂になっているのだろう。
そんな話題は、どこからともなく広がるものだ。
光代は冷静さを装っていたが、目は必死だった。
まず、寿命交換が可能かどうかと聞いてきた。
可能だが、いろいろ問題があるとマユは答えた。
確かに出来るが、人間の感情と欲望が障害となる。
それで、マユは石野以来諦めたのだ。
彼女に取っても、思い出したくない辛い思い出だった。
それに裏組織のどす黒い金儲けの欲望が輪をかけた。
その結果、マユは二度と寿命交換はしまいと決意した。
もし、可能ならばぜひやって欲しい人がいる、と光代は思いつめたように言った。
光代の必死さがマユに伝わった。
光代には誰にも言えない秘密があったのだ。
相手は一体誰なのだろう。