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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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彼らの試験


マユは終日、期末試験の準備に明け暮れていた。

これを乗り切らなければ、最悪の場合卒業できない。

雨宮の仕事に忙殺され勉強どころでなかったのだ。


FAXの電源は切っていた。

雨宮の依頼は入ってこない。

マユは追い詰められていた。


何としても卒業したい。

これまであまりにリーパーの指示に振り回されてきた。

容疑者と死体だらけの生活は、もうたくさんだ。

本来の自分に戻るのだ。


そうマユは固く決意していた。

一切の電話に出なかった。

部屋に閉じこもって勉強していた。


家の前に大型のセダンが停まった。

二階の窓から見ていると運転席から雨宮が降り、

リヤシートから二人のスーツ姿の外人が出て来た。

ついに恐れていたものが来たのだ。


いくら電話しても応答しないマユに、

雨宮は来日したFBIの特別捜査官を自宅へ連れてきたのだ。

彼らのマユへの関心は異様だった。


玄関の呼び鈴が鳴った。

マユは仕方なく勉強を中断して階段を降りた。

玄関ドアを開けると雨宮は上機嫌でマユを見た。


「FBIワシントンDC本部から見えた特別捜査官をお連れしました。中で話しましょう」

マユは三人を客間へ案内した。


「試験勉強中だったんでしょう。悪いわね」

事情は雨宮も心得ていた。

ソファーに座る三人にマユはポットのお湯で紅茶を出した。


「そんなことはいいから、まず座って」

雨宮は二人の捜査官を紹介した。

背の高い方がマイケル・バレツキ―、眼光鋭い中肉中背がエルモア・ガードナー言った。


「鳥羽マユです」

と自己紹介してマユは頭を下げた。

招かれざる突然の客たちに当惑していた。


雨宮はバッグから紙の束を出した。

「お互いに時間がないから、まず溜まっている仕事をあなたにしてもらうわね」


猛勉強中のマユの事情も考えず、勝手なことを言うと思った。

これがFBI捜査官たちのやり方なのか。

ガードナーは砂糖も入れずストレートの紅茶を口にした。


バレツキーは全く紅茶に手もつけない。


捜査官たち二人の最も知りたいことを、まず眼の前でやらせるというのだ。


「いつものように、この中から殺人者を選んで」

紙の束の中から四人の男を選んで、脇へ置いた。

二人の捜査官は鋭い眼光でそれを見ていた。


雨宮はいつものようにうなづいた。

「ありがとう」

ガードナーはすかさず言った。

「私たち二人のうち、どちらが容疑者を射殺している。指差してくれ」


彼のことはが終わらぬうちに、マユはバレツキーを指差した。

それは玄関での初対面から分かっていたのだ。

二人は無言でマユを凝視した。


FBI捜査官の心の奥まで見通す眼の光だった。

マユへの試験は終わったのだ。

パーフェクトだった。


「お邪魔したわね。勉強を続けてちょうだい」

雨宮は二人を促すように立ち上がった。

二人の捜査官はまだ何か言いたげだったが、雨宮はこれ以上ら長居は許さなかった。


玄関を出る時、雨宮は言った。

「また改めて連絡させてもらう。悪かったわね」

ガードナーとバレツキーは無言で立ち去った。


彼らの目には、明らかに驚愕の色があった。

マユは二階の自室へ戻って勉強の続きをした。

あれがFBIのやり方か。


他人の意志など関係なく、自分たちに必要な情報を得て立ち去る。

マユは内心、二度と彼らに会うものか!と思っていた。


容疑者の写真を見せられ、猿芝居まがいの試験をされた。

マユにはつまらないことだったが、あの二人には驚天動地の信じられないことだったろう。


だが、これですべて終わったとマユは思っていた。

これからは大学入試を目指す普通の女の子になるのだ。

雨宮と失礼なFBIたちの縁を完全に切る。



彼らの試験は終わった。

だがマユには何の意味もなかった。

新しい生き方に戻る。


マユはそう決意していた。

リーパーからは何の応答もなかった。

今夜は徹夜になるだろう。





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