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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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愛憎の四角関係


朝、瀬能からラインがあり、急だがランチを食べたいという。

マユは彼の捜査一課復帰の祝いもあるが、仕事の相談もあると直感した。

彼がこんなに性急に食事したいというのは珍しい。


昼前、瀬能が予約していた荻窪の和食割烹へ行った。

マユがつくと、すでに瀬能は奥の個室に来ていた。

久しぶりの再会で、新鮮な魚のお造りと鯛めしでランチを楽しんだ。


食事が終わると、彼は待っていたように仕事の話を持ち出した。

男女二人の殺人事件があり、現在杉並署に捜査本部が置かれている。

なんとも不可解な事件でマユの意見を聞きたいという。


父が生きている頃から、マユの捜査に関係するのはご法度となっていた。

知らない瀬能ではない。

それを敢えてマユに相談を持ちかけるというのは余程の難事件なのだ。


タッチしたくないというマユに、

瀬能は決して公にはしないからせめて容疑者の二人を見て欲しいと懇願した。

顔を見れば、マユは即座に殺人犯を特定する。


容疑者は大学も同窓で、大手IT企業へ同期入社した親友同士だった。

片方が殺人を共謀でやったと言い張るのに対し、

もう一人は関与していないと主張する。


捜査本部の結論は現場の状況から見て、謀議へ傾いていた。

しかし、瀬能一人はどうしても納得できないでいた。

殺されたのは容疑者二人と同期の女性で、もう一人の犠牲者は入社したばかりの若者だった。


犯行は西荻窪に今も残るりんご果樹園の番小屋で行われた。

被害者の青地弥生は、大学では容疑者福与と真崎の同窓だった。

こんなに仲の良い三人に、なぜ殺人事件がおこなわれたのか。

問題は新入社員の山久武生の存在だった。


福与と真崎は無二の親友同士だったが、弥生をめぐっては暗黙のライバル関係にあった。

よくあるケースである。

大学時代と社会人になってからの約六年間、二人の男と一人の女は他もうらやむ良い関係にあった。


福与も真崎も弥生とは、三人で食事をしり飲んだりする良い関係だった。

それが後輩の青地の登場でバランスが崩れた。

特に弥生への想いが強い福与の衝撃は大きかった。


大学時代から二人の女神的存在に、山久が遊び人で手を出したのだ。

弥生も後輩ということもあり、適当にあしらっていたが彼女が泥酔した夜、

ついに肉体関係に及んでしまった。


若い男女によくある過ちである。

だが、福与と真崎にとってはそうでなかった。

二人が詰問する山久はニタニタ笑いながらはぐらかす。


山久には弥生をものにすることなど何でもなかった。

福与と真崎と弥生の関係は普段から知っていた。

二人が手を出さないから、飲んだ帰りに弥生をものにしただけだ。


彼女をどうしようなどという考えはまるでない。

一時の遊びだった。全てを聞いた福与は用意していた大型ナイフで、いきなり山久の腹を刺した。

真崎は驚愕し、弥生は半狂乱となった。


それからすぐに二人は逃げるように番小屋を出た。

真崎には福与が問い詰める山久がヘラヘラするのを衝動でやったのはわかっていた。

真崎も同じ思いだったから。


漆黒の闇の果樹園中ので、

木戸の出口を見つけることができず二人はさ迷った。

思わぬ自体に気が動転していたことも事実である。


真した崎の勧めで福与は近くの交番へ自首した。

今日の午後、警察は殺人事件容疑者となった福与が、

証人の真崎同伴で現場である果樹園の実況検分をした。


午後、検分を終えた二人が署へ戻ってくる。

署内の裏口駐車場の隅に瀬能とマユは車の中で待機していた。

検分中、新たな事態が起きたらしい。


番小屋に残していったはずの弥生の死体まで発見されたのだ。

真崎が小屋を後にする時、やよいは確かに生きていた。

それが数日後に山久とともに死体で発見されたのだ。


不可解だった。ともに残された山久はすでに死んでいた。

では誰がやったのか。福与は真崎の犯行を匂わせていた。

そんなはずはない。

二人はその時刻、闇の中で果樹園の出口を探してさまよっていたのだから。


検分を終えて戻ってくる二人を、

瀬能は一目で良いからマユに見てくれと懇願したのだ。

弥生は首の骨を折られるという不可解な死に方をしていた。

残虐な殺しである。殺しの現場を数多く見てきて瀬能もそんなのは見たこともなかった。


福与と真崎の共犯説に傾く捜査本部でも、

瀬能だけはそれに疑問を持っていた。

普段温厚な真崎が、弥生を手にかけるはずがない。


手口から見て、絞殺でなく首の骨を折るなどというのは恨みのある者の犯行である。

瀬能は人間の首の骨は簡単に折れることを知っている。

背後から相手の顎を引けば呆気なく首は折れる。


女神と大学時代から愛してきた弥生を、真崎がそんな残虐な方法で殺すだろうか。

今日実況見分で立ち会った二人が、署へ戻って来ると妻゜の条件をつけた。

裏の駐車場の車の中で、二人の顔を一目見て欲しいと瀬能はマユに頼んだ。


マユは一つだけ条件をつけた。

自分の感想は絶対に捜査本部で明らかにしないこと。

あくまで私見として瀬能の胸に留めておいて欲しいことである。


瀬能は快諾した。瀬能はこの事件に精魂を打ち込んでいるのがわかった。

自分の名が捜査本部で出ると、大変まずいことなになる。

マユはそれを恐れた。











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