意外な頼み
何気なく時計を見たら、夜中の三時だった。
私は十二時間近く寝ていたのだ。
だがここは荻窪で、光代の家は阿佐ヶ谷のはずだ。
まだJRはもちろん地下鉄もバスも動いてない。
どうやってここまで来たのか。
少女が真夜中に自転車などを走らせていたら、
間違いなく交番かパトカーの警官に止められる。
謎だった。
しかし、私は謎は謎のままにしておく主義だった。
真相はいずれ自然にわかる。
「カレー食べてもいい・・・ですか」
光代が遠慮がちに言った。
それが目的できているのはわかっていた。
「いいわよ。一人でできる」
「任しといて」
光代はすぐに階下のキッチンへ降りて行った。
これが目的できているのはわかっていた。
ジャガイモカレーは他では食べられない。
光代が気に入ってくれてマユは嬉しかった。
ひと眠りして目がさめると、階下は静かだった。
降りて行ってみると皿やスプーン、容器は綺麗に洗って流し脇に置いてあった。
すでに光代の姿はなかった。
家へ戻ったのだ。
どうやって?
まだ午前四時前だ。
交通機関はタクシー以外動いてない。
彼女がかタクシーを使うとは思えなかった。
不思議な子だ。
マユはため息をついた。
洗面所の鏡で見ると首の傷は、跡形なく消えていた。
出血のせいで、少し貧血気味でフラフラした。
これも昼までには治るだろう。
学校の始業時間少し前に、
マユはあの通学路脇の小公園へ向かった。
小公園にはあの四人グループの一人が待っていた。
少女は頭を下げてマユに言った。
「三人は怖がってきません。私は個人的なお願いがあってきました」
三人がこないのはわかる。
頸動脈を平気で切るようなな相手には
二度と会いたくないだろう。
個人的なお願いとは何だ?
少女は真剣な顔をしていた。
「あ、申し遅れました。私は鶴岡奈々と申します」
ちゃんとした挨拶だった。
「何か心配ごとがあるの」
「私、男の人に狙われてるんです。元の彼です」
中学三年生にしては早すぎるが、よくある話だ。
「私の仲間が下級生をいじめて、
その男の子が事故で亡くなったんです」
光代のケースとよく似ている。
「後でわかったんですが、その男の子の兄が
私の付き合ってる彼氏だったんです」
「彼氏は何歳なの?」
「高三です」
マユより一学年下だ。
「で、お願いってなんなの」
「彼は弟が亡くなったのは私のせいだと思って、
仕返ししようとしているらしいんです」
「だって君は、そのいじめに
加わってなかったんでしょう」
「私の仲間ですから、彼にはそんなこと関係ないです」
「いじめって、どんなことしたの」
「同じクラスの悪いのを使って暴力加えたらしい」
「上級生の女性との言うことなんて、彼ら聞くの?」
「仲間の何人かには
暴力団の準構成員の兄弟もいるんです」
「そういうことか。そりゃ怖いだろうね」
「彼は自分の付き合ってる私までやった
と言うことが許せないんです」
「話してもダメなの」
「会うことさえしてくれない」
「そうか、相手は弟の自殺を君と
関連付けてるのか」
弟は自殺にまで追い込まれているというのは
相当なことをされてたんだ。
私は高三の兄の気持ちがわかる気がした。