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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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追われる光代


久しぶりに夕飯にカレーを作ることにした。

父も私も大好きな特製カレーだ。

大きなジャガイモを必ず入れる。


ジャガイモが入ってなければ、我が家ではカレーではない。

父の郷里が北海道ということもありジャガイモは大好物だ。

入っているのはジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ、牛肉だというシンプルなものだ。


大鍋で最低一時間は煮込む。

余ったら真空ラップして冷凍庫へ保存する。

ジャガイモは細かく切ったものと大ぶりなものを入れる。


細かく切ったものはすべて溶けてしまう。

これが美味いのだ。

幼い頃から食べ慣れている我が家の特製カレーだ。


カレーが出来上がる頃、スマホが鳴った。

出ると光代からだった。

私がいたので安堵するように言った。


これから家へ行ってもいいかと言う。

心なしか声が緊張している。

大歓迎だった。


カレーが出来たばかりだから、一緒に食べたようと告げた。

返事もなく電話は切れた。

何か急いでいるようだった。


十五分後、光代は来た。

六時過ぎだというのに、鞄を下げた下校姿だった。

しきりと窓の外を気にしている。


追われているのか?

マユは直感で感じた。

しかも脱いだ靴を持ってキッチンの裏口へ置いた。


「どうしたの?」

マユは声をかけた。

「四人が万引きして捕まりそうになったので、私が香水を掴んで逃げてきた。

追いかけてきていると思う」


万引き!

私は驚いた。

光代がそんなことをしているとは!


「四人は逃げたの?」

「無事に逃げたと思う。店の人は私だけを追って来た」

彼らは常習犯だと思った。


光代が開いた手には、まだ高級香水が握られていた。

彼女が囮になって四人を逃したのだ。

恐らく光代は初版なのだろう。


掌に汗をかいていた。

カレーどころではなかった。

追っ手が来るかもしれない。


たかが香水ぐらいでここまで追ってくるのは、彼女らは常習犯なのだ。

マユは裏口から光代を逃した。


ほとんど同時に玄関に男が現れた。

まだ若い男だった。

万引き警備員の身分証を見せて、

少女がこなかったかマユに聞いた。


マユは何も知らぬと答えた。

警備員がここまでやるのか。

まるで警察だ。


「失礼して上がらせてもらいます」

いくらなんでも、それはやり過ぎだ。

捜査令状がなければ、警察でもそこまではやらない。


マユは拒否した。

男は鋭い目で彼女を見て引き下がった。

これは明らかに常習万引き犯と見てマユを追っている。


彼らに店の敷地外まで、万引き犯を追う権限はない。

大変な奴らにマユは目をつけられたのだ。

家の中を探しても、光代の姿はなかった。


裏口から逃走したのだろう。

彼女がプライドを捨てると言ったのは、こんなことだったのか。

光代が痛ましかった。身を張って彼女らの身代わりとなったのだ。


そんなにしてまで・・・!

マユは言葉もなかった。

翌日、下校時を張っていた。


マユは声をかけた。

「あんたら、万引きしてるね。盗った品物を返して背に謝りに行きなさい」


「証拠があるの」

ボスらしい女がふてぶてしく言った。

こいつら、予想以上のワルだ。


光代がプライドを捨てると告げた時に、注意すべきだった。

「証人がいるんだ。行かなければ、証人を連れて警察へ行く」

四人は顔を見合わせた。


「今日中に店へ謝りに行きなさい!

でなければ、警察が学校へ連絡するよ」

彼女たちが一番恐れていることだ。


女の一人がふてくされたように言った。

「わかったよ。今日中に行けばいいんでしょ」

恐らく盗った品物は、仲間に売るか転売している。


彼女らの態度から悪質な常習犯とマユは見た。

マユは歩きながら、なぜ光代はこんな奴らと!と唇を噛んだ。

気になるのは、あれから光代の連絡がないことだった。


光代と言う証人がいなければ、

マユの言葉は単なるはったりとなってまう。

携帯の着信で電話番号はわかるが、家までは知らない。


彼女とは 阿佐ヶ谷駅で助けただけで、

そんなに深い付き合いではなかった。

今度会ったら、彼女たちとの付き合いを過去に遡って詳しく聞こうと思った。


通勤快速へ飛び込もうとしたのだ。

それを見過ごした自分を後悔した。

威嚇の意味で彼女らに警察の名を出したが、

できたら警察を介入させずにことを収めたかった。


彼女らのためではない。

光代のためにだ。

だが、瑶として彼女と連絡が取れなかった。








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