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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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初めての話


人間は亡くなった時が

その人の寿命と考える。

しかし、リーパーは生まれた時に

その人間の寿命は決まっていると見ている。


だから若くして亡くなった時は、

当然その人のあるべき寿命は残っている。

そこに寿命交換の意味がある。


マユもそれが事実ならどんなに良いかと思う。

そんな運命論を現代医学は全面否定する。

亡くなった時が寿命だという見方は合理的だ。


だが、リーパー(死神)は人間の生死を俯瞰的に見ている。

人間の医学もDNAの存在でそれに気付き始めている。

その人の寿命のみならず病気や事故まで解明しつつある。


若くして自死した人の残され命を、必要とした人に与える。

そんな概念は現代人にはない。

科学の発展で、それが当たり前の時代が来る。


寿命とは見えない時間なのだ。

DNAの解明が進むことで、いずれそれが可視可能な時代が来る。

人間は想像できることはすべて実現できる、

と言う言葉がある。


マユはラッシュの終わった電車の中で

そんなことをぼんやり考えていた。

寿命交換を肯定するなら、

まなみのような少女の自殺も黙認しなければならない。


自殺を認める上に立った寿命交換は、

やはりどこかおかしい。

リーパー(死神)はサタン(悪魔)ではない。


人間に悪意は抱かないが、

我々が考える好意もない。

あるのは事実だけだ。


死に瀕した人間が

「お迎えが来る」という。

それがリーパーの真の務めだ。


死にゆく者の不安と恐れを取り除き、

懐かしい故郷へ帰ることを悟らせる。

安心立命して人は死に臨む。


リーパーは最後までそれに着き奏う。

懐かしい故郷へ帰るなら

死は恐怖ではなくなる。


気がつくと座席に座るマユの両側に

二人の男たちが座っていた。

「一度君とじっくり話したいと思っていたが

その機会もなくここまで来てしまった」


右側の男が静かに言った。

耳を傾けさせる声だった。

「我々は暴力団でも宗教家でもない」


マユは何と答えて良いかわからなかった。

彼女を追っている者は何組かあるようだった。

「いらなくなった者を必要とする者に与える。

これは法に触れることでも犯罪でもない」


左側の男は黙っている。

「君のお母さんを、死に追いやった連中もいるようだ」

男の声に嫌な響きはない。


「心から同情するよ」

話して分かる相手なら私も言おう。

「自殺する者を傍観できない。

ましてや子供なら、してはならないでしょう」


男は黙っていた。

聞くことに徹するつもりらしい。

「他人の寿命を転移して、

お金儲けすることも絶対許されない」


男は静かに言った。

「個人の死は個人情報以上に

犯してはならない個人の尊厳だ」


確かに人には生きる権利と同時に

死ぬ権利もある。

なぜ死ぬ権利を憲法で定めないのか。


私の降りる駅に着いた。

「また、君とは貸したい」

男は言った。


こういう話し合いなら歓迎だ。

リムジンで問答無用連れ去る輩は困る。

男たちは降りてこなかった。





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