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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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自殺する子供

本当は正の部屋で、温かいご飯に味噌汁の朝ごはんぐらい

用意して上げたかったが調理器具がまるでない。

米も食材もない。


自炊してないのだ。

部屋を出て十五分ほど歩くと駅前に出た。

吉祥寺のスタバへ入った。


私はいつもスタバオンリーだ。

コーヒーはたまにしか飲まない。

ゆず・ストラスティーを頼んだ。


メニューはいっぱいあるのに、

いつも頼むのはこれだ。

疲れた時は間にスタバラテを入れる。


テーブルに着いてすぐに前に男が座った。

昨日尾目てきた男の一人だ。

黒いスーツが上背のある体に似合う。


スタバラテの紙グラスを手にしている。

「相席させてもらうよ」

他に空いてるテーブルがあるのに

ニヤリと渋い笑いを見せていった。


昨日、正に叩きのめされたことなど

おくびにも出さない。

こういう態度は好きだが、そんな生易しい相手ではない。


「協力してもらいたいんだがな。

絶対悪いようにはしない」

そりゃそうだろう。億単位の金が転がり込んでくる。


私は貴重な金づるだ。

他に代わりは絶対ない。確信を持って言える。

「最初に言っとくけど、私はあんたの敵だよ」


「まぁ、そう言うな。話し合い余地はあるだろ」

「第一に私は子供に自殺をさせない!」

相手の目を見て言った。これは決定的だった。


男の目に表情はない。何とかすると言う自信があるのだ。

「第二に私は寿命に金を介在させない。金持ち貧乏人関係ない」

今どき、こういう啖呵をきる人間は珍しい。


「いや、むしろ金のない奴の味方だ」

綺麗事でなく、みんな金を求めて右往左往している。

前のスタバラテには手をつけず、男は無表情で言った。


「百万千万のはした金じゃない。億から数十億の金が動く」

あるところには、そんな金もしはた金だ。

リーパーとの話では、一切金の話は出てこなかった。


だから私は乗った。

人間の命も、卑しい人間たちは金に変える。

相手はそれをチャンスと捉える浅ましさに気づいていない。


「無料なら話に乗るけど、金にするなら協力できない」

私は相手にハッキリとどめさした。

男は言った。


「上からの命令でな、こっちは何が何でもやる」

相手もとどめを刺して来た。

「あんたも命は惜しいだろう。保証しないぜ」


私はおもわず笑った。

「私を殺したら、何もかもチャラだ。

上もそんなバカじゃないでしょ」


男は私の目を見つめたまま行った。

「甘いな!死より怖いことだってあるんだ」

私は正を思い出した。


いま彼は自死への秒読みの中で、死より辛い目に会っている。

突然、正が店へ入ってくるのが見えた。

まっすぐ我々のテーブルへ来て、

隣のテーブルの空いてる椅子を置いて私の横へ座った。


男へ向かって言った。

「あんたもしつこいな。女を待ち伏せて口説いてるのか」

正を睨みつけて立ち上がった。


「甘く見るな。後悔するぞ」

低く言って店を出て行った。

「手下が二人いて、こっちを監視してる」


正は私の隣に座ったまま動かない。

ゆず茶をちらりと一瞥して言った。

「そんなもん、朝飯にしてんのか」


広い店の中を見回していたマユが、

壁際の少女に目をとめた。

「三日、まゆみ」という声が聞こえた、


立ち上がるマユ。

「ちょっと待ってて。

カウンターでチーズケーキでも頼んで。美味しいわよ」


「待てよ、どこへ行くんだ」

壁際のまゆみを見てマユが言った。

「あの子、三日で自殺する。話してくる」


正がマユを引き止めた。

「待てよ!連中の前で、そんな子に会っていいのか!」

「死を決めてる子は強いの。

中途半端に大切なもの持ってる子が脆い」


マユはまっすぐ女の子へ向かって歩いて行った。

正は飲みかけのマユのゆずティを飲んだ。

ああやって自殺する子がわかる

マユの力は一体何なんだと正は思った。








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