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黄泉からのマユ  作者: 工藤かずや
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愛の裏切り

その夜は彼の勧めで、

吉祥寺の彼の部屋に泊まることにした。

何も物を置かない無機質な部屋だった。


ただ一枚、壁に掛けられた若い女性の写真が印象的だった。

薄幸な女性だった。

それが彼の全てを物語っていた。


すでに数年前自死した彼の女性だった。

彼は何も話さなかったが、私にはすべて分かった。

いま彼は彼女のすべてを追っている。


この部屋は彼女のための部屋なのだろう。

滅多に人を入れないらしかった。

いずれ、正は彼女を追って逝くのだろう。


思い出の詰まったこの部屋で。

二人は一晩中、ほとんど会話を交わさなかった。

私はリーパーと話していた。


彼女を蘇らせることはできないのか。

「私は死神だ。死ぬのは看取れるが、生き返らせることはできない」

分かっている。どんな犠牲でも払う。一晩だけでも不可能なのか、私は懇願した。


「死神は悪魔ではない。人の好意には応えてやりたい。だが、こればかりは権限を越えている」

私は一晩中、私はリーパーと話した。


横で正が昼間の疲れから、安らかな寝息を立てている。彼のために、私は必死だった。

明け方近くになって、ついにリーパーが一つの条件を出した。

「寿命交換を千人にするなら、実現してやっても良い」と。


私の一番痛いところを突いてきた。

正は壁にかかる女性の後を追おうとしている。

何か分からぬが、それまでに何かをしようとしている。


多分、彼女は彼の犠牲になって亡くなったのだ。

その埋め合わせか、復讐か、恩返しか・・・。

彼は何も話さないからわからない。


そして、外が白み始める頃私は決断した。

彼が私を護ってくれたことと、真逆のことをしようと。

彼のために、彼を裏切るのだ。


千人寿命交換したら、彼女は蘇る。

だが、それは気の遠くなるような人数だった。

いつか分からぬが、死んだら私は確実に地獄へ堕ちる。


達成したら、多分社会問題になっている。

それでも彼が一瞬でも幸せになってくれたらいい。

横に眠る彼の寝顔を見ながら、石野にはしてやれなかったことを彼にしてやろうとしていた。私は彼に好意を抱いていた。


彼が眠っているうちに部屋を出た。

悪から足を洗ったと言っていた。彼の枕元に五万円を置いてきた。

裏切った私は、彼と戦うことになるかもしれない。


みんな彼のためだった。



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