番外編 大聖堂の塔の日常(ディビット視点)
今日も、シャーロット・バクスターの幽閉されている大聖堂の塔の警備。
「えいっ! えいっ!!」
シャーロットがちょっと休んだ隙に、扉はまた壊れている。足元には、壊れた扉が無残に倒れたままだ。
シャーロットはそんなことを気にもしないで両手を振りかざしてアミュレットの浄化をしている。
聖堂騎士がいつも2人でこの部屋の前で警備についているが、もう一人の聖堂騎士は扉の修理の手配に行った。
「えいっ! えいっ! えーーっい!」
あの掛け声はなんとかならないのだろうか……クッ……ふざけているようにしか見えん!!
見ているだけで、拳に力が入る!!
「……フゥー。やりましたわ!」
そして、たった一つ終わっただけでやり切った感の表情。
「シャーロット……君は何を考えているんだ……」
「あら、ディビット。いましたの? ちょうどいいですわ。私は、頑張ったので疲れましたのよ。美味しいお茶をお願いしますわ。それと、お菓子はパイがいいですわ」
「そこの、水差しの水でも飲んでろ」
俺は、決して小間使いじゃない! 聖堂騎士で、しかも大聖堂勤務なんだぞ!
「君は、なんでこんなに能力が低いんだ……このままじゃ、一生終わらんぞ」
「まぁ、失礼ですわ。私は、聖女の才能がありますのよ」
「全く、才能があるようには見えないぞ。ミュスカさんのように、能力を高めんか。彼女は、聖女の務めを怠ることなく、毎日真面目に勤め、ヴォルフガング辺境伯の領地は以前より栄えているらしいぞ……今年のリンゴは絶品だと、わざわざ買い求めに行く商人も増えているらしい」
「でも、私は才能がありますから努力は必要ありませんのよ?」
「だから、才能はないぞ。もし、あっても才能を磨かんか。宝の持ち腐れにもほどがあるぞ」
一体なんで、こんなに自信満々なのだろうか。わからない。
確かに、だれでも聖女になれるわけじゃないけど……これは、才能なんだろうか。シャーロットの場合は、ただの血筋のような気がする。
おかしいと思う俺をよそに、シャーロットはゴソゴソとベッドに入り込んでいる。
「……ふっ。……話を聞かんか! 話を!! なんで会話している途中でベッドに入るんだ!!」
「私は、今日はもう2つも浄化しましたから疲れましたのよ?」
なんで当然のことのようにキョトンとして言うんだ。
「3つ目をやれ。3つ目を! 君が休んだ隙にドアが壊れたんだぞ!! いつ危険が来るかわからない戦場にいる俺たちのことも考えろ!!」
「まぁ……ディビット。ここは戦場じゃありませんわよ? あなたは本当におかしな方ね。だから、ミュスカをレスター様に取られたんですよ」
「やかましい!!」
シャーロットと話していると疲れる。
毎日、浄化には励んでいるせいか、多少――は、聖力が上がっており調子のいい時は一日に3つすることもあるが……1つの浄化に時間がかかりすぎる。
それなのに、目の前のシャーロットはベッドで仮眠を取り始めている。
ため息が出ると、階段を歩く音が聞こえる。
「警備はどうだ? 新しいアミュレットが見つかったから、持って来たぞ」
「シャーロットは仮眠してしまいましたよ」
聖堂騎士が、呪物を入れる袋を片手にシャーロットの部屋に入ると、木箱の中にいつものように、アミュレットを入れた。黄色い宝石が光っているから、やはりコンスタンの教会で作ったアミュレットで間違いない。
ミュスカさんに仕事を押し付け、シャーロットたちは楽をしていたため、ミュスカさんとの能力の差は歴然で、そのツケが自分自身に回ってきている。
そんなことも気にせず、仮眠中のシャーロットを見ると、能力が低いせいで疲れているのは分かる。
「……少しだけ、警備を代わってもらえますか? 休憩に入ります……扉の修理もそろそろ来ますから……」
とにかく、やる気はあるんだから、もっと早く浄化をさせんと、いつか釈放されたときにバクスター伯爵家は破産している気がする。
「どこか行くのか?」
「パイが食べたいと言っていたので、買ってきます。とにかく、やる気を出してもらわないと、いつ扉で怪我をするか不安です!!」
「お前は、扉で頭を打っても平気じゃないか?」
「痛いんですよ!? 前触れも気配も無く、扉が倒れるんですよ!? しかも、どの方向に倒れるかわからないんですよ!? しかも、蝶番も吹っ飛んでくるんですよ!? おかしいでしょ!?」
扉に気配があると思っているのか!? あるわけないだろ!!
「とにかく!! パイでやる気になるなら買ってきます!!」
そう言って、交代して街でパイを購入すると、思いのほかシャーロットは喜んでいた。
いつも読んでくださりありがとうございます!
大聖堂の塔が書きたくなって、書いてみました。
また、突然書くこともあるかもしれませんが……どうぞよろしくお願いします!