他人との距離
ん
「はい、それじゃあ始めるか」
今現在、朝の5時半。
俺たちは何故か校庭に居た。
何でこんなことになっているかと言うと。
◆◆
「失礼します。1年1組水上奏夜です」
「宮野徹です」
「1年2組石崎拓馬でござるでござる」
ござるでござる!?教師含めみんなの視線が一瞬オタク君に集まった。
というか、石崎拓馬って言うんだ。何気の今知った。
オタク君に集まった教師たちの視線はすぐに隣の人物へ向けられる。
もちろん俺じゃなくて水上だ。
「弦刻先生居ますか?」
誰に話せばいいのかとかを俺は知らないので水上に任せる。
「ここだ」
弦刻先生がデスクから手を軽く上げる。
三人で先生の前へと行く。
「部活を作りたいんですけど、取り敢えず三人集めて来ました」
「そうか、分かった小説部だったな?ただ、三人だと同好会になる。良いな」
「はい、また部員集めるんで大丈夫です」
先に何かしらの話を通していたらしく比較的話が早く進む。
書類の提出やら何やらをして、職員室を後にした。
◇◆◆◆
うーん、間違えた。
回想シーン違ったわ。
ここじゃ何が何だかわからないな。
もう一回、どうぞ。
◆◆
「先ず、オタク君は痩せよう、ダイエットだな。プロテイン、サプリ、食事制限、運動。
まぁ、色々あるけど今運動してないだろ?」
「うん」
石崎が頷く。
「宮野は?」
「俺?あんましてない」
最近は外に出る機会も少ないくて運動も春休みの間一回もしてない。
「じゃあ、運動はしよう。体力とかあった方がいいし体を動かすのは悪いことじゃない」
運動不足は最近感じ始めてたのでいいかもしれない。
「じゃあ、明日の5時半校庭に集合で」
朝、5時半?
「何するつもりなんだ?」
「勿論校庭を走る」
清々しい良い笑顔で水上は笑った。
◇◆◆◆
で、今に至ると。
「先ずは軽くトラック10周だな」
「それは軽く無いだろ!」
この高校のトラックは一周400mあった筈だから10周したら4kmだぞ。
「最初はゆっくり走って段々速く走れるようになれば良いさ。何は兎も角走ろう!」
聞いて無いっすね〜。
この部ってもしかして陸上部だった?
駅伝でも出んの?
一周50秒ぐらいをキープして走る。
今は4周目で息も切れて来た。
「以外と走れるじゃん!」
隣で驚いたような声がして顔をむける。
「一応、運動神経と身体能力、自体は悪くない、から」
呼吸のタイミングを考えながら話す。
「そうか、そうか」
何がおかしいのか笑う水上。
むしろおかしいのは水上だ。
俺より速く走って一周差が既に付いてるはずなのに全く息が切れてない。
サッカー部とかに入ってるとこうなのか?
ちらりと後ろを見る。
50mぐらい後ろでヘトヘトの状態で何とか走っている石崎。
1人で走るという行為は意外と辛い。
前に誰かいたり、後ろに誰かが居れば引っ張られるよう走ったり、追いつけるよう、追い抜かれないよう走ったりすることが出来る。
隣に誰かいればペースがキープでき心に余裕が出来たりする。
でも、追い付けない、追い抜かれる。
その状況は中々に心にくる。
俺の視線に気付いてか水上が石崎の方を見る。
「良いか陰キャ、お前はちゃんとペース下げずに走れ。むしろ上げろ。限界まで走れ。別にそれが効率がいいだの何だのは無いが限界まで頑張るって行為は必要な経験だ。手抜くなよ」
「良い加減陰キャって呼ぶの止めろよ!」
叫びながら少し速度を上げる。
足が辛いけど前に出す、息が苦しいけど止まらない。
必死に走っていると隣を風が通り過ぎた。
「はっや」
思わず声に出してしまう。
風が通り過ぎたとしか表現できない様なスピード。
確か直線部分は100mの筈だったが9秒も掛かって無かったくないか?
いや、流石にそれはないか。
水上はあっという間に石崎に追いついていた。
「俺も、走ろ」
呼吸法をしっかりしてまた前を向いて走った。
◆◇◆◆
息が苦しい。水上殿と宮野殿の背中がずっと遠くにあるように見える。
もう、足が辛い。走るのは嫌いだ。
マラソン大会のとき、最後の人は拍手で迎えられるなんてのは嘘だ。
誰も、拍手などしてなかった。
拙者の無様な姿を嘲笑っているかのような視線。
一緒の走ろうと言ってくれた人もすぐに見えなくなった。
良いんだ、疲れた。元からこんなオタクの拙者は変わることなんて出来ない。
やめよう、謝って同好会を抜けよう。
また、オタク活動に身を興じれば良いんだ。
「オタクは悪いことじゃないだろ。お前が治すべきはその肥満体型と臆病で自信がないとこだ」
「え?」
いつの間にか隣に水上殿がいた。
あれ?さっきまでそこに、速くないでござるか?
「ほら、俯くな。辛いだろうけど下向いたらもっと辛くなるぞ」
そう言いながら背中を押す水上殿。
言われた通り前へ向く。
いつの間にか宮野殿の背中がさらに遠くなっている。
「おい!余計なこと考えんな。何と今の状況重ねてるかとか知らんけど、今ダイエットの一環で走ってるだけだよ?脳は酸素良く使うから考え無い方が息が楽だ」
返事をする余裕がないので小さく頷く。
「人によって得て不得手はあるから追い付けないのはしょうがない。人は生まれながらにして平等じゃない。ただ、能力が違って状況も違うならゴールも違うだろ?何か一つのことで一番を競わなくて良いんだよ。自分にとって必要なことを積み上げてけ」
「でも、みんな拙者から離れて…」
「どうせ周ってるんだからどれだけ先に行ってもまたこうやって並ぶでしょ。300m差が開こうが400m離れたら同じ場所じゃん」
いつの間にか追いついた宮野君の声。
「辛くなって考えすぎだなwお前は幸運だ、多分。人は1人で変わるのは難しい。だから俺が無理矢理変わるの手伝ってやる」
そう言って水上殿はニヤッと笑った。
◇◆◆◆
「疲れた〜」
10周走り終えヘトヘトの状態で校庭に倒れ込む。
「お疲れ〜」
水上が寄ってくる。
こいつ何で息切れも何もしてないの。
「石崎は?」
「まだ走ってる」
「一緒の走らないのか?さっきの感じだと何か思い詰めてそうって言うか余計なこと考えてそうって言うか」
上手く、言葉に表せないがきっと石崎は何か思うとこがあったのだろう。
「良いよ、俺も、オタクも「疲れた、辛い」「頑張れ」で、終わる会話を謎に難しくしてた。途中話してたことも矛盾とか意味不明なことだらけだろうな」
「適当なんだな」
本当にコイツと一緒に部活して良いのか不安になってくる。
「良いんだよ。大丈夫!ってことさえ伝われば話したのは紛れもない本心だ」
石崎の方を見ながら言う水上。
「そうか」
考えてみたらその通りだ。
ただ、部活をやろうって話なだけじゃないか。
やっと自由に描ける