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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
運命は二人を引き寄せる
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剣聖ルベド

 僕が意識を取り戻した時、目の前にアンネが居た。金髪の長い髪と白い肌、整った顔立ちの幼女が倒れていた。

 僕は状況を確認した。敵の殆どは死んでいた。生きているのは弓使い1人と神官二人、そしてウィルだけだった。

 弓使いがアンネに弓を向けた。そして、マリーにこう言った。

「動くな!動けば聖女を殺す」

「面白い事を言う。私の間合いで、そのハッタリが効くとでも?」

 マリーがそう言うと姿が消えて弓使いの後ろに一瞬で移動していた。そして、弓使いは弓ごと斬られて絶命していた。マリーはそのまま後ろで怯えていた神官の女を殺した。その後で、マリーはアンネと僕の元に走って来た。

 僕はアンネのステータスを見た。魔力がマイナスになっていた。アンネの魔力は人間としては平均値なのだろうが、魔族の僕から見たらとても少なかった。

 僕は死んだと思っていた。だが、生きている。アンネの魔法欄に『蘇生』が増えていた。何らかの理由でアンネが蘇生の魔法を使えるようになり、僕を蘇生させたのだろう。だから、魔力がマイナスになっていた。

 母さんから聞いたことがあった。魔族は魔力切れになる事はほとんどない。だが、人間は元々持っている魔力が少ないからすぐに魔力切れを起こすと。その場合、死んでしまう事もあると聞いていた。

 だから、アンネに魔力を分けてあげたいと思った。

≪スキル『愛の奇跡』の条件を満たしました。スキル『魔力共有』を獲得しました≫

 スキルが発動した瞬間、アンネが目を覚ました。

「シュワちゃん。良かった蘇ったのね」

 そう言ってアンネは僕を抱きしめた。マリーは駆け付けるとウィルと僕たちの間に立ちふさがった。

 ウィルはセバスと戦っていた。ウィルは神官のサポートを受けていたが、セバスの方が有利に戦いを進めていた。ウィルはこちらに来ようとしていたらしいが、セバスが妨害していた。

「セバス様。アンネ様の安全は確保しました」

 マリーがそう言うと、セバスは一旦ウィルと距離を取り、呼吸を整えた。そして、大上段に構えた。

 ウィルは、マリーがアンネの前に立ちふさがったのを見て、セバスを倒すことに集中したようだ。セバスから恐ろしいほどの殺気が放たれた。ウィルは怯まなかった。

「修羅一刀流、一の太刀、雷撃」

 セバスがそう言うと、一瞬で間合いを詰め、ウィルに大上段から雷のごとき斬撃を放った。ウィルは盾で斬撃を防ごうとした。だが、盾ごと腕を切り落とされていた。

「ひぎゃ~~~~」

 ウィルは情けない悲鳴を上げた。神官がウィルに回復魔法をかけようとしていた。だが、マリーが持っていた小剣を投げ、神官の眉間に剣が刺さった。

「シュワルツ殿、不快かもしれませぬが、この者の傷を癒してはいただけませんかな?」

 セバスは冷酷に僕に依頼した。僕はセバスが何を行うのか理解したうえで、ウィルの傷だけ塞いだ。

「アンネ様は馬車にお戻りください。シュワルツ殿にはアンネ様の護衛をお願いいたします」

 アンネはセバスの指示に従って僕を持って馬車に戻った。セバスとマリーは命乞いをするウィルから聞き出せるだけの情報を聞き出して、ウィルを殺した。

 アンネはそれを知っていた。

(私のせいで、また大勢の人間が死んだ。このまま生きていて本当に良いのかな?)

 アンネは一人で悩んでいた。僕はアンネの頬を嘗めた。すると、アンネの不安が薄らいだ。

(ありがとう。シュワちゃん。私、もう少し頑張るね)

 声に出さずにアンネは僕の頭を撫でていた。

 セバスとマリーがウィルから聞き出した情報は、黒幕がオールエンド王国である事、アンネは生きて引き渡すことが絶対条件だった事、目的はフーリー法国とシュワルツェンド皇国間で戦争を起こさせる事だと知った。

 尋問が終わりマリーが客車の扉を開けた時、事態は急変した。空から黒い巨大な塊が降って来た。

 それは、僕の母さんだった。母さんは怒っていた。

「出てこい人間!殺してやる!殺してやる~~~~!」

 それは人間の言葉ではなく、犬の言葉だった。セバスとマリーは吼えている母さんを見て固まっていた。僕は慌てて飛び出した。このままでは母さんがアンネたちを殺してしまうと思った。僕が出ていくと目に見えて母さんの怒りが収まった。

「ジーク!生きていたのね。良かった」

 そう言って、母さんは僕を嘗めた。

「大丈夫だよ母さん」

 僕が答えると母さんが、一気にまくしたてた。

「本当に無事で良かった。あなたの事が心配で危機が迫ったら連絡が来るように魔法をかけてたんだけど、いきなり死んだと表示されて、慌てて飛んで来たんだよ。そしたら生きてて本当に良かった」

 そう言って母さんは僕にすりすりと顔をこすり合わせてきた。そんな母さんを見て、セバスが驚愕の表情を浮かべていた。

黒の殲滅者シュワルツ・フェアニヒター……」

 セバスの姿を見て、母さんは嬉しそうに呟いた。

朱羅しゅらの剣聖ルベド・リッターか、懐かしいな」

 母さんはそう言うと人間の姿になった。それまでは、僕としか会話していない。人間の言葉を話していなかった。母さんは人間の姿になると、贅肉の無い筋肉質の美女になった。大事な部分は毛に覆われていた。黒目黒髪で頭部には犬の耳が付いていた。髪はくせっ毛のショートヘアーだった。

「久しいな、朱羅の剣聖」

 母さんは、人間の言葉で話した。セバスが、我に返って返事をする。

「殲滅のエリーゼか、黒の殲滅者の子供が居たからもしやと思っていたが、君だったか」

 セバスと母さんは知り合いの様だった。しかも、母さんは厄災と呼ばれる魔族の中でもあざなを持っていた。それは、五大厄災と呼ばれているらしい。『黒の殲滅者』『赤の暴虐竜ローツ・ゲバイト・ドラッケン』『白の破壊者ヴァイス・ツェアシューター』『青の不死者ブラウ・ウンシュテァプリッヒ』『紫の疫病蝶リラ・ペスト・シュメッターリング』これらの種族の中で最強の者に字が贈られる。

 字は『殲滅の○○』『暴虐の○○』『破壊の○○』『不死の○○』『疫病の○○』となっている。○○の部分には名前が入るらしい。

 そして、僕は母さんのステータスを初めて見た。レベルは200で魔力は25000、他の能力値は2000を超えていた。その上、スキルと魔法もえげつなかった。僕が持っている魔眼も当然のように持っていた。何より驚いたのが戦闘スタイルだった。てっきり僕と同じ『魔法使い』だと思っていた。だが、母さんの戦闘スタイルは『魔拳士』だった。

 そして、必殺技の欄には凶悪そうな技『黒炎流星爆裂乱舞』というものがあり、名前だけでやばい技なのが伝わってきた。魔法も『殲滅の黒炎黒雷無限連鎖爆裂』と複数の効果が発動しそうなものがあった。たぶん、母さんが本気になったら都市一つぐらい一瞬で消し飛ばせるのだろう。

「それにしても、老いたな。一騎当千と謳われた剣聖も老いには勝てぬか」

「そうだな、20年前の私なら、この程度の相手に苦戦する事も無かった」

「それで、どうして我が息子ジークフリードと一緒にいる?理由によっては死んでもらうぞ?」

「君の息子とは知らなかった。だが、オールエンド王国の兵士たちに殺されそうになっていたところを助けてもらった。以後、アンネローゼ様が、彼を連れてきてしまった。危険な事に巻き込んでしまった事は謝罪する」

 そう言ってセバスは深々と頭を下げた。

「なるほど、ジーク。母さんの言いつけを守らなかった理由を教えて頂戴」

 母さんは笑顔で怒っていた。怒っている時の母さんに嘘を吐くと、なぜか嘘がバレてしまうのだ。今なら分かる。『真実の魔眼』を使っていたのだ。だから、僕は正直に話した。

「ごめんなさい。どうしても人間の魔法が知りたくて、人間の街を探してたら馬車を見つけて、街に潜入しようとしたら、女の子が襲われそうになってて、つい助けちゃって、そしたら、見捨てるわけにも行かなくて、だから一緒に居る」

 僕の説明を聞いて、母さんの怒りは少し減ったようだった。

「優しいジーク。でも、どうして人間の魔法を知りたいの?」

「信じられないかもしれないけど、前世の記憶があって、どうしても会いたい人が居るんだ。だから、異世界に行ける魔法を探したくて……」

「そう、日本という国に行きたいのね」

 母さんは六年前、僕がたった一度言っただけの言葉を覚えていた。母の愛は凄いなと思った。

「うん」

「本来なら魔王様に聞きに行けば良いんだけど、魔王様は変わってしまわれた」

 そう言って母さんは悲しそうな顔をした。

「すまない」

 なぜか、セバスが謝った。

「そう、思うのならオールエンド王国の国王をさっさと魔王軍に引き渡せ」

「それが、出来るのなら20年前に、魔王城に結界を張りに行く事などしなかった」

「なぜ、出来ない?たかが人間一人だろう?」

「一国の王を拘束するのは容易くない。逆に聞くが魔王を拘束してこちらに引き渡せと言われて君は出来るのか?」

「無理だな、すまない簡単にいかない事は理解した」

「それにしても、君が人間の国で子育てしてるとはな……」

「仕方ないだろう、魔王様に息子を殺せと言われたんだから」

「なぜだ?」

「息子がいずれ自分を殺しに来ると予言があったそうだ」

「なに?本当か?」

「ああ、『愛を知る黒き獣が邪悪なる征服者を倒すであろう』という予言だ」

「『愛を知る黒き獣』なら他にも該当者が多そうだが?」

「ジークのスキルは見たか?」

「ああ」

「『愛の奇跡』というものがあっただろう、あれが『愛を知る』という部分らしい」

「ふむ、こちらの神託は知っているのか?」

「ああ、知っているとも『聖女の結婚相手が、邪悪なる征服者を討伐する』だったな」

「その聖女がジーク殿が助けてくれたアンネローゼ様なのだ」

「なるほど、お主の言いたいことは分かった。アンネローゼに会わせてもらおう」

 母さんがそう言うと、マリーが馬車の入り口から離れて、アンネが出て来た。母さんは、アンネを値踏みするような目で見ていた。

「答えよ。お主にとって我が息子ジークはなんだ?」

 母さんは凄みを聞かせて質問した。それに対してアンネは毅然として答えた。

「大切な友達」

 それを聞いて母さんは嬉しそうに笑った。

「君が、ジークを蘇らせてくれたのだな?」

「はい」

「分かった。まだ早いが、君に息子を預けよう。頼んだよアンネローゼ」

 母さんは最初の高圧的な態度を一変させていた。最後は僕に対するような慈しみを持ってアンネローゼに接していた。まるで、アンネを僕の嫁と認めたような発言だった。だが、僕には心に決めた人が居るのだ。だから、母さんが思うような関係にはならないと思った。

「はい。ありがとうございます」

「アンネローゼの気持ちは分かったが、私は心配症だ。だから、今のお主の実力を測らせてもらうぞ?いいか?ルベド」

「ああ、構わない」

「どうせ、私の攻撃をかわすだけの能力はもうあるまい。今出せる最高の一撃を見せてくれ」

「分かった」

 セバスは剣を大上段に構えた。

「待って、その一撃の強さによってはジークを連れて行くの?」

「そうだな、あまりに惰弱だった場合は、そうなる」

 これは、嘘だった。母さんは、セバスの能力が足りないと判断した場合、陰ながら護衛するつもりでいた。母さんはアンネを試す為にそう言った。

「分かりました。なら、セバスに、いえルベドに補助魔法を使っても良いですか?」

「ふむ、良いだろう」

 母さんは楽しそうに言った。アンネの実力を見極めるつもりのようだ。

(ほう、このタイミングで魔法を習得するのか、面白い)

 母さんが意味深な事を言った。

「聖女アンネローゼ・フォン・シュワルツェンドの名において、我を守護する者に若返りの奇跡を与える」

「聖女アンネローゼ・フォン・シュワルツェンドの名において、我を守護する者にあらゆる厄災から身を護る加護を与える」

「聖女アンネローゼ・フォン・シュワルツェンドの名において、我を守護する者に武神の加護を与える」

「はっはっは、凄い凄いぞアンネローゼ。さあ、こいルベド。最高の一撃を見せてくれ!」

 母さんはとてもとても喜んでいた。自分の母が戦闘狂である事を知ってしまった。敵が強ければ強いほど燃える。我が母ながら少しひいている。一方のセバスは、見た目が若返り、ステータスも一番低かった生命力と体力を含め能力値が1500台に上がっていた。

 それは、母さんには及ばないものの人間の能力を逸脱するレベルになっていた。そして、スキルに『剣聖』が追加されていた。

 セバスは大上段に構えた剣を正眼に構え直し、深く呼吸をした。

「修羅一刀流、ついの太刀、修羅無限闘舞」

 その言葉を残してセバスが消える。だが、母さんが片手で何かを弾いた。重い金属音が鳴り響いた。そして、セバスが百人ほど見えたが全て残像で、遅れて金属音が鳴り響き続けていた。母さんはいつの間にか両手で見えない何かを受け流しているようだった。母さんを中心に地面が抉れ、弾けて砕けていく、それはセバスが地面を蹴った後の様だった。

 1分ほどたった時、母さんは一歩も動いていなかった。ただし、頬にかすり傷を受けていた。そして、セバスは母さんの前で屈みこんで、肩で息をしていた。

「さすがだな、あの時の戦いを思い出したぞ」

 母さんはとても上機嫌だった。

「さすがに一人では致命の一撃を入れる事も出来ないか……」

 セバスはいつの間にか初老の姿に戻っていた。アンネは心配そうに母さんを見ていた。

「さて、息子の無事も確認したし、私は帰るとしよう」

 そう言って、母さんは犬の姿に戻って飛び立とうとしていた。どうやら、合格という事らしい。

「待って母さん。僕も人間の姿になれる?」

 僕は、人間と会話がしたかった。だから、人の姿になる方法を聞き出したかった。

「今は無理ね。でも、何年かしたら、人間の姿に変身できるようになるわ」

「そっか、ありがとう」

 今すぐには無理らしい。母さんが飛び立った後で、アンネは安堵のため息をついていた。

(良かった。これからもシュワちゃんと一緒に居られる)

 そして、マリーとアンネがセバスに尊敬の眼差しを向けていた。

「セバス様、あなたは伝説の英雄『三聖』の一人、朱羅の剣聖ルベド・リッター様なのですか?」

 マリーが、声を震わせながらセバスに聞いた。

「昔の話です」

 そう言ったセバスは寂しそうな目で空を見ていた。セバスは自分が老いてかつての実力を失っていた。それを寂しく思っていた。

「リッター様……」

「今はセバスですよ」

「畏まりました」

「母様は、セバスの正体を知っているの?」

「ええ、知っていて私に依頼したのですよ。ですが、老いた身では以前の名前は重すぎました。ですから、セバスとして雇って頂いたのです」

「分かった。ありがとう。セバス。そして、これからもよろしくお願いします」

 アンネは嬉しそうだった。

(母様は私を守る為に、最強の英雄を雇ってくれたんだ。なのに私はセバスの実力を知らずになんて無礼な事をしたんだろう)

 それは、アンネの心の声だった。詳細は分からないが、アンネとセバスの間に何かあったらしい。それにしても、セバスは20年前に一体何をしたのだろうか?僕以外のみんなは知っているようだが、聞こうにもワンとしか言えない。

 だから、スキル『愛の奇跡』でスキルが獲得できないか試そうと思った。スキルの発動条件が分かった気がした。アンネの為に何かしたいと思った時にスキルが発動していた。だから、アンネの為に会話がしたいと思えばスキルが獲得できると考えた。

 しかし、スキルは発動しなかった。他にも条件があるらしい。僕にはもう何が発動条件なのか分からなくなった。だから、スキルに頼るのは一旦やめて、自力で頑張ろうと思った。


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