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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
商談が二人を結びつける

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異世界旅行準備

 石炭10キロを手に入れて、僕とデニスさんはアイアンメイズに戻ってきた。そして、そのまま船に戻った。

「お父様、交渉は上手くいったのですか?」 

 ベルタが心配そうに聞いてきた。

「エルフから木材を買うことは不可能だった。だが、救世主様が石炭を木炭の代わりに活用する方法を見つけてくれるそうだ」

「そんなこと、可能なんですか?」

 ベルタは本当に実現できるのか懐疑的だった。

「僕の故郷では、普遍的に採用されている方法だよ」

「救世主様の故郷ってどこですか?」

「この世界とは別の場所だよ」

「え?魔王じゃないと使えない魔法でしか行けない場所なんですか?」

 僕はすっかりと忘れていたが、魔法『異世界転移』は魔王しか使えない魔法だった。だが、今の僕には全ての不条理を説明できる便利な言葉があった。

「まあ、救世主じゃないと使えないほど高度な魔法らしいね」

 僕は、自分で救世主だと名乗っては居ないが、みんながそう呼んでいるので、間接的に魔法を使えても不思議はないとアピールした。

「なるほど、救世主様だから使える魔法で行くというのですね。そうなると、救世主様は別の世界から来たんですか?」

「そうだよ」

 ここで、黒の殲滅者シュワルツ・フェアニヒターに転生したという説明をしたく無かったので、異世界から転移してきた体で話をする事にした。

「ふ~ん。だから、知識に偏りがあったんですね」

 ベルタは納得してくれた。

「ねぇ、シュワちゃん。その世界って彼女が居た世界?」

 アンネから予想外の質問があった。

「なんで、知ってるの?」

「え?なんとなくそう思っただけ」

 アンネは嘘を吐いた。僕が日本に戻った時、アンネは僕が見た事を共有していたのだ。スキル『視覚共有』によって、僕が見た全てを知っていた。つまり、僕の彼女の死ぬ瞬間まで知っているという事だった。

 だが、その事を秘密にした理由が、僕が心を読めることを秘密にしたように、アンネも僕の秘密を勝手に覗き見た事に罪悪感があったからだ。だから、僕はその事を責める気にはなれなかった。

「そうだよ。彼女と僕が居た世界だ」

「なら、私も行きたい!」

 アンネは単純に銭湯に入ってコーヒー牛乳を飲みたいと思っていた。だが、その世界には××の両親が居る。そして、日本で僕が自由に行動する為には××の両親から協力を得る必要があった。

 僕は彼女が今は幸せに暮らしていると彼女の両親に伝えたかった。少しの間だがペットとして一緒に居たのだ。どうしても伝えたかった。彼女は願いを叶えて幸せに過ごしていると……。

 彼女の両親が願った。転生したら幸せになって欲しいという願いが叶ったと、どうしても伝えたかった。だが、彼女は記憶をなくしている。それでも、幸せに生きているという事実は彼女の両親にとっては嬉しい報告なのだろうから。

「良いよ。でも、一つだけお願いがある。その世界で自由に行動するには協力して貰う必要がある人たちが居る。その人たちにちゃんと挨拶してほしい」

「いいよ」

「私も行ってみたい」

 ベルタがそう言ってきた。アンネの親友として、アンネとの共通の思い出を作りたいと思っていた。ベルタを連れていくべきか迷ったが、アンネ一人だと暇を持て余しそうだったので、連れていくことにした。

「いいよ」

 そして、アンネを連れていくうえでメイドは必須なのでラビも連れていく。

「ラビも来てくれ、アンネとベルタの身の回りの世話を頼みたい」

「畏まりました。シュワルツ様」

 ラビは、そう言って恭しくお辞儀した。いつ見ても完璧な所作だった。そして、ラビを連れて行くとなるとキョウレツインパクトも連れて行かねばならなかった。奴一人を置いていくのは仲間外れにするみたいでできなかった。

「キョウレツインパクトも来てくれ、一応平和な場所だが、護衛が必要になるかもしれない」

「合点承知!」

 返事はいつも通り気合が入っていた。僕はデニスさんを見た。

(異世界、興味あります)

 目をキラキラさせてデニスさんは心の中で、そう思っていた。だが、言葉には出さなかった。僕としては、デニスさんは連れていけなかった。デニスさんほどの商人に異世界を見せたらどうなるか……。

 きっとあっちの世界の珍しいものを大量に仕入れて、こっちの世界に売るだろう。それが、何であれこっちの世界を大きく変えることになる。それが、良いことなのか悪いことなのか僕には分からなかった。

 僕のやろうとしている事も同じことなのだが、こちらの世界が一気に機械化することはないはずだった。なので、デニスさんは置いていくことにした。僕はデニスさんから目をそらした。

「救世主様!私も連れて行ってください!」

 僕が目をそらした途端にデニスさんは声を上げた。

「ごめん。デニスさんを連れていくことは出来ないんだ」

「なぜです!」

「異世界転移には人数制限があって、5人しか連れていけないんだ……」

「そんな……」

 真っ赤な嘘だが、デニスさんは確かめる手段を持たないので僕のいう事を信じるしかない。デニスさんはガックリと肩を落として膝をついて突っ伏した。

「大丈夫よ。お父様!私が必ず商売のタネを持ち帰るから」

 ベルタが手を突き出して親指を立ててデニスさんに宣言した。

「おお、ベルタ。頼んだぞ!」

 デニスさんはベルタの手を取って涙を流しながらお願いをしていた。

「任せて!最高の商品を仕入れてくるから」

 何か嫌な予感がするが、ベルタは子供だ。持って帰れたとしてもお菓子とかオモチャの類だろう。それぐらいなら問題ないはずだ。

「じゃあ、みんな準備が出来たら甲板に集合」

「準備って何が必要なんです?」

ベルタが不思議そうに聞いてきた。

「異世界はここよりも暑いから、夏向きの服装に着替えるのと、日差しを遮れるものがあればいい。あと、武器の類はナイフ一本持っちゃだめだよ」

「なんで、武器を持っちゃいけないの?」

「僕の世界では、武器を持つ者が罰せられるからだよ」

「ええ?魔物や盗賊が襲ってきた時は、どうするんですか?」

「魔物は存在しないし、盗賊は居ない。居たとしても警備兵が、即座に捕まえる」

 警察といっても通じないと思ったので警備兵と説明した。

「どんな世界なんです?」

「平和な世界だよ。警備兵以外は武器の所持を許可されていないし、武器を持っていたら即座に捕まる。だから、とても安全なんだ」

「理想郷のような場所なんですね」

 ベルタは心底驚いていた。

「あの、シュワルツ様。モップは武器に含まれますか?」

 ラビが、お気に入りのモップを両手に持って不安そうな顔で聞いてきた。幼稚園の遠足で先生に子供たちが良くする「バナナはおやつに含まれますか?」的な質問をしてきた。

「モップは武器に含まれないよ」

 ラビがキラキラと顔を輝かせたが、僕は冷酷に告げた。

「でも、かさばるから置いて行って」

 ラビはシュンとした顔で弱々しく答えた。

「畏まりました」

 それを見てキョウレツインパクトも聞いていた。

「シュワルツの兄貴、あっしは武器に含まれますか?」

 シュワルツはどや顔で聞いてきた。それは、ジョーダンのつもりでもなんでもなく、ラビが僕に質問したのを賢いと思ったから聞いてきた。自分も質問が出来ると、ラビの兄貴分だから当然だと思っていた。

「大丈夫。お前は全身凶器だが、見た目は人間だから大丈夫だ」

 僕は少し疲れ気味に答えた。

「という訳っす。ラビ。兄貴から全身凶器と言われたあっしが守るからモップは置いて行くっす」

「分かりました。先輩が、そう言うのなら喜んで」

 相変わらずラビは聖獣『草原の覇者』キョウレツインパクトの言う事だけは盲目的に信じていた。それにしても、馬鹿だと思ったが、キョウレツインパクトは後輩思いの様だ。


 再び集合したとき、アンネは水色の半そでのワンピース、ベルタは黄色の半そでのワンピースを着ていた。アブールで歌った時と同じ服装だった。二人ともお出かけ用のポーチを持ってきていた。アンネは青いポーチでベルタは赤いポーチだった。

そして、二人でお揃いの麦わら帽子を被っていた。その姿はとても可愛かった。靴はサンダルだったので、そのまま海に出かけても問題ない服装だった。

「二人とも似合ってるね」

 僕が笑顔でそう言うと、ベルタはこう言った。

「救世主様は白くなったのね」

 僕は白い半そでのシャツと白いズボンに着替えてきた。こっちの世界はもうすぐ夏だった。そして、あっちの世界に行くときに僕は夏に行く予定だった。だから、いつもの熱を吸収する黒い服はやめて、出来るだけ涼しい白い服にした。ちなみにズボンの側面には水色のラインが入っていた。

「シュワちゃんも似合ってるよ」

 アンネが満面の笑みで褒めてくれた。とても嬉しかった。キョウレツインパクトには白い半そでのシャツとジーパンのようなズボンを魔法『道具生成』で作って着せた。ついでにサングラスも作ってやった。靴はサンダルにした。

 見た目は完全にイケてる筋肉質のお兄さんだった。喋らないことが大前提だが、腕を組ませて歩かせれば問題ないだろう。

「それにしても救世主様に比べてキョウ様はカッコいいですわね」

 ベルタが褒めるが、キョウレツインパクトは意味を理解していなかった。

「俺の名前は、キョウ・レツ・インパクト。俺より強い男を探す旅をしている」

 バカの一つ覚えを地で行く漢だった。だが、そこがキョウレツインパクトの魅力だ。そして、ベルタもそれを理解していた。キョウレツインパクトからは、この答えしか返ってこないと……。

 そして、ラビには白い半そでのワンピースと麦わら帽子を作ってあげた。靴は女性用のオサレなサンダルを作った。ラビは髪も白で目は赤なので、アルビノっぽい儚げな印象のショートカットの女子高生に見えた。

「ラビ様も美しいですわね」

「そうね。ラビも綺麗ね」

「お二人とも恐縮です」

 そう言ってラビはいつも通り恭しく礼をした。

「さて、これから異世界に行くんだけど、注意事項がある」

「注意事項?」

「うん。1つ、勝手に動かない」

『は~い』

 みんな声を揃えて返事をする姿は幼稚園の遠足の様だった。

「2つ、僕が良いと言うまで言葉を話さない」

『は~い』

「3つ、これから会う二人には敬意を払うこと」

『は~い』

「4つ、勝手に買い物をしない」

『は~い』

「お断りです!」

 3人が素直に返事をしたのに、ベルタは文句を言った。

「私にはお父様に商売のタネを届けるという使命があります!」

 ベルタの気持ちもわかるが、オモチャでもコンピュータを使ったものを購入されたりすると技術革新が起こるかもしれない。そう思うと僕の目の届く範囲で買い物をして欲しかった。

「じゃあ、買っても良いけど僕が却下したものは、この世界に持ってこないからね」

「そんな!あんまりですわ」

 ベルタはワザとらしく大げさにショックを受けた振りをしてアンネに泣きついた。

「アンネ~~~。救世主様が意地悪する~~~」

「シュワちゃん。なんとかならない?」

 アンネにそう言われると、良いかな~と思ってしまう自分が憎い。

「分かった。負けたよベルタ。でも、予算は限られている。あっちの世界の通貨で千円までにしてね」

 僕は、金額を指定する方向性に変えた。千円なら大したものは買えない。

「その千円で何が買えるんですか?」

 ベルタは商人の娘だった。金額を提示すれば当然、その価値も聞いてくる。それで、何が買えるかが重要なのだ。だから、こちらの世界では高価でも日本では安い商品を教えた。

「服を1着買えるよ」

 これでベルタは千円を金貨10枚と同等の価値だと思い込んだ。金貨10枚は10万円の価値があるが、服の価値が、こちらの世界と日本では違っていたので、ベルタは勘違いしている。

「良いですわ。千円で手を打ちます」

(これで、お父様との約束は果たせますわ)

 ベルタは心の中で、そう思っていた。でも、残念だけど千円では大したものは買えないんだベルタ……。少し心が痛んだが、こっちの世界に科学の知識が与える影響が未知数なので許してくれ、最悪の場合、科学技術がもたらされたことで戦争が起こるかもしれないのだ。第二次世界大戦のような事が起こった場合、僕は何も責任が取れないのだから……。

「最後にベルタ。あっちの世界では救世主様は禁止」

「なんで?」

「あっちの世界では救世主を名乗ると色々な人たちから命を狙われることになるからだよ」

「あっちの世界の救世主様はお尋ね者なんですか?」

「ちょっと複雑な事情でね。だれが救世主か争っている人たちが居るんだ。僕はそれに巻き込まれたくないんだ」

「なるほど、分かりました。では、なんとお呼びすれば?」

「呼び捨てで構わないよ」

「分かりました。シュワルツ。さあ、行きましょう!新しい商売のタネを探しに!」

 急に馴れ馴れしくなったベルタは自分の欲望丸出しで僕に言ってきた。

「違うよ。戦争を止めるための技術を調べに行くんだよ」

「それは、シュワルツの目的でしょ?」

 僕は頭痛がした。

「まあいいや。じゃあ、行くよ」

 僕は、そう言って魔法『異世界転移』を使った。


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