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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
商談が二人を結びつける

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ドワーフの国

 フーリー法国の港町アブールを出港し、フーリー法国の港3ヶ所に寄港した。そこで、商売した後で、ドワーフの国アイアンキングダムに向かった。アイアンキングダムの首都アイアンメイズには、アブールを出港してから18日後に到着した。アイアンメイズは運河が整備されているので、直接船で寄港できた。

 そこには人間以外の亜人種が沢山いた。フーリー法国とシュワルツェンド皇国ではほとんど見かけなかった。もちろんドワーフは色々なファンタジー小説に出てくるような外見で、背の小さい髭が特徴の種族だった。男の方は、髭面だが女性は身長は低いが髭は無く可愛らしい外見をしていた。

 ドワーフの他には竜の姿に似たドラゴノイド、狼の外見に似ているワーウルフ、猫に似ているワーキャットなど、他にも多数の種族が行きかっていた。

「すごい。亜人がいっぱいいる」

 僕は素直に感想をいった。

「私も初めて見る」

 アンネも初めてのようだった。

「法国も皇国もどっちも亜人は住みにくいからね」

 ベルタが得意げに言った。

「そうなの?」

 僕が聞き返すとベルタは満面の笑みで答えた。

「救世主様は知らないのね。どちらの国も平民は土地を借りて農作物を納品するか、商売をして税金を納めるか、冒険者として報酬を貰って暮らすか、兵士として国に仕えるかしないといけないのだけど、亜人は冒険者以外の生き方が選択できないのよ」

「なんで?」

「価値観の違いが大きいわ。亜人たちは自然と共に暮らすのが主義なの、だから国に税を納めるという習慣がないわ。それと、国に仕える習慣も無いから兵士も無理。なので、人間の国では亜人は生きづらいのよ」

「なるほどね」

「ベルタは物知りね」

 アンネがベルタを褒めた。

「私は商人の娘ですから当然です」

 ベルタは鼻を高くして胸を張って答えた。

「それにしても、なんかドワーフの人たち怒ってない?」

「言われてみれば、なんか怒っているような雰囲気ですわ」

 僕の質問にベルタが答えた。

「ふ~む、これは何かありましたな、ベルタ、事情がハッキリするまで船に居なさい。アンネ様もよろしいですね」

 デニスさんはドワーフたちの様子から何かを感じ取っていた。

(なんだこれは、まるで戦争前夜の様相ではないか……)

「救世主様。私と一緒に来て頂けますかな?」

「良いよ」

 デニスさんはクラウスに近づいて耳打ちした。

「クラウス。いざとなったら私の事は構わず逃げろ」

 小声で他の者に聞かれないように話していたが、僕は耳が良いので聞こえた。いざとなったら、デニスさんを連れて船に戻ろう。


 デニスさんが向かったのは商人ギルドだった。そこにはドワーフの職人と色んな種族の商人たちが居たが、全員顔が暗かった。

 デニスさんが受付の女性ドワーフに話しかけた。

「シュワルツェンドの商人デニスだ。アイアンメイズの職人キュクロに会いに来た」

「デニス様。お待ちしておりました。キュクロ様はB25番でお待ちです」

「ありがとう」

 デニスさんは慣れた様子で商人ギルドの中を移動し部屋に入った。そこには4人掛けの簡素なテーブルが置いてあった。扉から反対側の席に髭面のドワーフが一人座っていた。服装は鍛冶職人っぽく簡素な作業着だった。

「よう!デニス」

「お久しぶりです。キュクロさん」

「何度も呼び捨てで良いと言ってるだろう」

「いえいえ、親しき中にも礼儀ありと申しますでしょう。なにより、私は商人で、あなたは職人だ。仲良くしても互いにいい事はありませんよ」

「まあ、商人はそうだろうな」

 商人は職人から物を買う。仲良くなると、値引き交渉がしにくくなるし、仕入れ先を変更し難くなる。だから、仲良くしつつも距離を置く。

 一方、職人は商人と仲良くなる事で、得意先を増やして製品を多く売るというスタンスだった。値引きに関しては、得意先を多く確保できれば応じる必要が無くなる。だから、積極的に仲良くなろうとする。

 これは、二人の心を読んで分かった事だった。

「まあ、掛けてくれ」

 キュクロさんの勧めで席に着く。

「それで、そっちの黒いのは誰だ?クラウスは首にしたのか?」

「ああ、彼は護衛ですよ。クラウスは船を守っています。街の様子がおかしかったので置いてきました」

「やっぱり、気付いていたか」

「何があったんですか?」

「戦争が始まる」

「なぜですか?」

「木を切り過ぎたんだ。武器が金になるからと際限なく鍛冶の燃料になる木を切った。その結果、国内に鍛冶に仕える木材は無くなってしまった。全く馬鹿な話だ……。そして、そのツケをエルフに払わせようとしている」

「交渉して、木材を買えば良いのでは?」

「エルフが拒否した」

「だから戦争するというのですか?」

「王が決めたことだ。俺はもちろん反対だ」

「エルフと交渉させてくれませんか?」

「説得できるのか?」

「分かりませんが、最善は尽くしますよ」

「デニスが、そういうのなら王に許可をもらおう」


 デニスさんと僕は、キュクロの手配でドワーフの王、ミダスとの謁見が叶った。ミダスは謁見の間の玉座に座っていた。宝石が散りばめられた黄金の鎧に身を包み、首には複数の宝石が嵌められたネックレス、指には10個の指輪をしていた。顔は普通の髭面のドワーフだが、頭に王冠を乗せていた。

「エルフと交渉してくれるそうだな、シュワルツェンドの商人デニスよ」

「はい、私で良ければ行かせて頂きます」

「行くのは構わないが、上手くいかんと思うぞ。こちらがどれほど金を積み上げても首を縦に振らなかった」

「私は、商人でございます。金がダメであれば物で交渉いたします。エルフが必要としている物を聞き出し、木材と交換してきます」

「なるほど、ワシには思いつかなかった。そなたを信じて開戦は待つことにする」

「ありがとうございます」


 船に戻り、みんなに事情を話した後で、僕とデニスさんはドワーフの国アイアンキングダムとエルフの国ライトフォーレストとの国境に、ミダス王が用意してくれた豪華な飾りのついた馬車で向かった。

 国境は一目見て分かった。アイアンキングダム側は荒野で、ライトフォーレスト側は緑豊かな森だった。

「これまた、綺麗に分かれたものですな~」

 デニスさんも同じことを思ったらしい。

「そうですね。それにしても鍛冶に木材が必要とはいえ、こんなに消費するものなのですか?」

「鍛冶だけなら、こうはならなかったでしょう。近年、船での交易が盛んになり、そこからは木材の消費は右肩上がりになりました。そして輸出する製品の数も倍増しているので、木材の枯渇問題は前から指摘されていました」

「船の材料は変えようが無いと思いますが、鍛冶の燃料は石炭に変えれないのですか?」

 僕は、あるゲームで鉄鉱石を石炭で鉄のインゴットに変えれる事を知っていた。もしかしたら、歴史の授業で溶鉱炉の燃料が木炭から石炭へ変わっていった経緯を説明受けているかもしれないが、あまり興味がなかったので覚えていない。

 とにかく、木炭の代わりに石炭が使えることだけは知っていた。

「それが、ドワーフたちは、職人気質の者が多く、今までのやり方に拘っていて、石炭で鉄を溶かす方法を研究していないのですよ。それに、アイアンキングダムに石炭を供給する交易路も確保されていませんしね」

「なるほど、いろいろ問題があるんですね」

 そんな会話をしていると、国境の森に到達した。森に入ろうと馬車を進めると、矢が一本降ってきた。その矢は馬車の手前に刺さった。馬がビックリして立ち止まる。

「止まれ!何しに来た!ドワーフの盗人どもめ!」

 僕とデニスさんは馬車を降りた。そして、戦う意思がないことを示すために両手を上げた。交渉はデニスさんが行う手はずだった。

「エルフの戦士よ。私はシュワルツェンドの商人デニスです。あなた方と交渉がしたい」

 森の暗がりに息を潜めている姿の見えないエルフの戦士にデニスさんは語りかけた。

「木材の購入なら諦めろ!今年の取引分は既に売り切れだ!これ以上売れる木材は無い!」

 ここで、僕とデニスさんは顔を見合わせた。ドワーフたちから聞いていた話と違ったのだ。エルフが一方的に売らないと言ったのではなく、条件が付いていたのだ。

「失礼、もう一度、お聞きしますね。今年の取引分は終了したとおっしゃいましたか?」

 デニスさんがエルフの戦士に尋ねた。

「そうだ、だから、帰れ!」

 デニスさんの目論見は崩れ去った。エルフは森を大切にする種族だった。だからといって木を切らない訳ではない。生活のために切ったり、木をより大きく成長させるために切ったり、売るために切ったりしていた。

 それらの木材をデニスさんは買い付けようとしていたのだが、その分は売り切れたと言っている。この場合、エルフは何があっても木材を売ってくれないのだ。僕は、デニスさんの心を読んで上記の事柄を理解した。

「一度、エルフの王と話をさせて頂けませんか?」

 それでもデニスさんは戦争を回避することを諦めなかった。

「何のために?」

 僕の目に、森の奥でエルフの戦士が弓に矢を番えてデニスさんを狙っているのが見えた。答え次第で、デニスさんを殺すつもりのようだ。

「戦争を回避するためです」

 デニスさんは真剣に語りかけた。エルフの戦士は、しばらくデニスさんを見ていた。時間にして5分、エルフの戦士は弓を下げてくれた。そして、森から姿を現した。

 金髪碧眼で耳の尖った長身痩躯の美青年だった。深い緑色のマントに身を包み、弓を背負っていた。

「付いてこい!特別に案内してやる」


 エルフの戦士に案内されて、たどり着いたのは小さな祠だった。その中には魔法陣が描かれており、その大きさは直径5メートルほどだった。

「真ん中に立って居ろ。王都まで飛ばしてやる。飛んだ先に居るエルフに『緑の守り手』が面会を許したと伝えろ。それで、生きて王に会える」

「分かりました」

「では、交渉が上手くいくことを願っている」

 次の瞬間、魔法陣が輝きだして、視界が切り替わる。目の前には弓に矢を番えてこちらを狙っているエルフが5人ほどいた。

「私はシュワルツェンドの商人デニスです。『緑の守り手』から王への面会を許可されてきました」

 デニスさんが、そう言うとエルフたちは弓を下げた。そのうちの一人が、付いてこいと手招きした。


 僕とデニスさんは案内に従い、森を進んでいった。すると目の前に巨大な樹が見えた。その樹は、他の樹の10倍は大きかった。どうやら、その樹に向かって進んでいるらしい。

 途中で、エルフの家らしきものが、ちらほら見えた。どの家も木の上に建てられていた。今まで、中世ヨーロッパ風の景色がメインだった。この世界に来て、生き物以外で初めてファンタジックな景観を見た気がした。


 巨大な樹の根元には、開けた場所に玉座が置いてあり、そこに王冠を抱いた金髪碧眼のエルフの女王が居た。胸の大きな美女だった。服装は、ドワーフの王とは対照的に質素だが、綺麗な白いドレスを着ていた。

 僕は、デニスさんと共に玉座の前まで案内された。そして、エルフの戦士が身振りで平服するようにジェスチャーしてきた。デニスさんが片膝をついて平服したので僕も倣った。

「女王陛下フラン様、シュワルツェンドの商人デニスと、その従者をお連れいたしました。『緑の守り手』からの紹介です」

 案内してくれたエルフの戦士が紹介してくれた。

「それで、私に何を提案しにきたのか?」

 フランの言葉にデニスさんが答える。

「戦争を防ぐ手立てを見つけるために参りました」

「あっはっはっは、愉快だ。戦争を防ぐために、同じ日に二人の人間が現れるとは……。神は、この戦争をどうしても止めたいみたいだな」

「二人……ですか?」

 デニスさんはフランの言葉を聞いて、首を傾げた。

「ああ、この場所で話す内容ではない。別の部屋で話し会おうぞ。人間」

 そう言って、フランは玉座から立ち上がり、移動を始めた。僕たちは案内役のエルフに付き従って移動した。


 案内されたのは、小さな小屋だった。それはエルフたちにとっての会議室だった。中に入ると女王のフランの他に、青い髪と青い目の痩身中背の美男子がいた。それはアイスだった。心の中で「なんで、ここに?」と思っていると、アイスが話しかけてきた。

「どうして、ここに居るのですか?シュワルツ様」

「それは、僕のセリフだ」


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