光の御子ライト
それから夕方まで、僕はライトに勝利し続けた。
「クソ!なんで勝てないんだ!」
「簡単な理由だよ。君が僕よりも弱いからだ」
「クソ!クソ!クソ!お前たちが弱いから俺は負けた!お前たちのせいだ!」
ライトは自分の弱さの責任を兵士たちに押し付けた。自分は悪くない。そんな幼稚な考えでプライドを守ろうとしていた。それは、子供だから仕方ないと思うが、その後の行動は看過できなかった。
ライトは兵士の一人に向かって木剣を振り上げた。腹立ちまぎれに兵士を打とうとしたのだ。僕は黒の剣鎖でライトの木剣を絡めとった。そして、素手でライトに接近する。
「何をしようとした?」
僕はライトに詰め寄った。
「何って、こいつらが悪いからお仕置きを」
「無抵抗の奴を腹立ちまぎれに殴ろうとしたの間違いだよな?」
僕が凄むとライトは怯えた。
「違う!こいつらが弱いからお仕置きを……」
「そうか、なら僕が、これから行う事もお仕置きだ。歯を食いしばれ」
「えっ!」
僕はライトが死なない程度に手加減してぶん殴った。ライトは吹っ飛び、訓練場の壁に激突した。ライトの鼻から血が流れ落ちる。
「あ、えっ?う、う、うあああああああ~~~~~」
ライトは痛みのあまり泣き出した。僕は泣いているライトに近づいて髪を引っ張って立ち上がらせた。
「痛い!痛い!ヤメテ!」
僕は無言で殴った。今度は吹っ飛ばない程度に加減した。ここまでしても兵士たちは僕を止めようとしなかった。つまり、ライトの行いに腹を立てていた。
「ヤメテ!ヤメテ」
ライトは泣き叫んでいたが、僕は無言で十発殴った。そして、ライトを放した。
「やられる気分はどうだった?楽しかったか?」
ライトは答えずに泣いていた。僕は仕方なく回復魔法を使って痛みを取り除いてやる。
「こんなことをしてタダで済むと思うな、父上に言いつけてやる!」
僕は今度は座っているライトに近づき屈みこんでビンタした。
「質問に答えろ、楽しかったか?」
ライトは僕を見て驚愕の表情を見せた。
「おい!お前ら何をしている。こいつを止めろ!」
ライトは兵士たちに命令したが誰も動かなかった。僕は再度ライトをビンタした。
「もう一度聞く?楽しかったか?」
「うっ、うっ、楽しくないです」
「どう思った?」
「許せない!殺してやるって思いました」
「君が同じ事をした兵士たちは同じように思っている。だから、誰も君を助けない。分かるか?」
そう言われて初めて理解したかのようにライトは驚愕の表情を浮かべていた。
「嘘だろ、だって俺は高貴な身分で何をしても許されるはずだ」
「みんなはそう思っていないようだけど?」
「なぁ、みんな俺を憎んでいるのか?」
兵士たちは何も言わない。言えば不敬罪になるからだ。
「沈黙が答えだよ。高貴な身分だからと言って他人を虐げて良い訳じゃない。そんな事も聖王様は教えてくれなかったのか?」
「だって、誰も何も言わなかった」
どうやら聖王様は子育てが苦手らしい。
「そうか、だから僕が来た。君の行いを正す為に、それとさっきは悪かった。痛みを教えるためとはいえ無抵抗の君を散々殴った。詫びに一発殴らせてやるから、それで許してくれ」
僕は腕を組んで立ち上がりライトが立ち上がるのを待った。ライトは立ち上がって僕を殴った。
「これで、許してやる。それと、ありがとう。色々と教えてくれて……」
「礼なら聖王様に、僕はお願いされて来ただけだから」
「そうか、それでもありがとう」
そう言ってライトは兵士たちの元に向かった。
「今まですまなかった。俺は君たちに酷い事をした。だから、みんな俺を殴ってくれ、そして許して欲しい。今後は二度と君たちを理不尽に殴ったりしないと誓う」
どうやらライトも良い王様になりそうだった。自分の間違いに気づき謝る事が出来る。そういう人間は成長する。それを出来ない人間は成長しない、子供のまま大人になる。そいつが権力を持った時、暴君と呼ばれるのだ。
兵士たちはライトを許した。許しはしたが、やはり1発は殴っていた。その後、回復魔法で傷を癒して仲直りの握手をしていた。
僕は自分の役目が終わったと思ったので、訓練場に案内してくれた兵士に話しかける。
「聖王様のお願いは聞き届けたから帰るね」
「え?あの救世主様お待ちください。聖王様がお礼に夕食を用意されています」
「あ~良いよ。待たせてる人が居るから帰ると伝えて欲しい」
「それでは、聖王様のメンツが立ちません」
「それなら、僕へのお礼は彼ら兵士に与えてください。それが僕の望みという事でさようなら」
僕は逃げるように魔法『空間転移』でデニスさんの元に戻った。王族との会食などしたことが無いしテーブルマナーも詳しく知らないので逃げた。王宮料理には興味があったが、それよりもアンネたちと夕食するほうが楽しいだろうと思った。
後は、仲直りできたとは言え王子様をぶん殴ったのは事実なので、聖王様に会いたくないというのもあった。僕は教育しただけだと思っているが、言葉が通じない相手だからといって暴力を振るった事を正しいとは思っていない。だが、他にどうしたら良いのかも分からなかった。だから、今は逃げる。
デニスさんの船に戻ると、船の甲板にはアンネが一人で立っていた。
「おかえり、シュワちゃん」
夕日を浴びてアンネの金髪が輝いていた。
「ただいまアンネ」
いつの間にか、僕はアンネの隣に居るのが当たり前になっている事に気が付く、まるで家族の様にアンネは僕を出迎えてくれた。
「どこで遊んで来たの?」
「え?ああ、ちょっと空の散歩をしてきたんだ」
「ふ~ん。デニスさんは街のパトロールって言ってたけど?」
(やっぱり、何か隠している。でも、きっと私とベルタのために何かしてきたんだろうな~)
アンネに嵌められた。だが、心の中で理由を正しく理解してくれていた。
「まあ、空から町を見てたんだよ」
「まあ、いいわ。夕食の準備は出来てるから一緒にご飯食べましょう」
そう言ってアンネは僕に手を差し伸べた。僕はその手を取って一緒に船の食堂に向かう。そこにはみんなが居た。
『救世主様、お帰りなさい』
「アニキ、お帰りっす」
「シュワルツ様、お帰りなさい」
「ただいま」
僕にとってデニスさんたちとベルタ、キョウレツインパクト、ラビが掛け替えのない家族の様な存在になっていた。僕は彼らを守る。例え誰が相手であろうと……。




