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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
商談が二人を結びつける

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ゴールデン・ローゼン

 僕たちは港を出港してフーリー法国の港町に向かっていた。僕とアンネの目的は旅行、デニスの目的は商売だった。船旅は順調だった。船酔いも無く、船から見える大海原と時折姿を見せる海の生物に感動したりしていた。

 思ったよりも旅を楽しんでいる自分に気が付き驚いていた。彼女の死を忘れたわけではない。でも、喪失感は薄れていった。隣にアンネが居てくれるからだ。そのアンネが悩んでいた。心が読めるので何を悩んでいるか知っていたが、アンネが言い出すまで知らない振りをしていた。だが、決心したのか、その日アンネは僕にこう言ってきた。

「シュワちゃん!私、戦えるようになりたい!」

 今まで、アンネは守られてきた。それは、子供で弱いから当然の事だった。でも、この前、幽霊船でアンネは幽霊を浄化した。それが自信に繋がったのだろう。自分も戦えると思うようになっていた。

「いいよ」

 僕はあっさりと了承した。アンネが強くなることは良い事だった。魔族とオールエンド王国から命を狙われているのだから……。

「でも、シュワちゃんみたいに大きな刀を振れるかな?」

 アンネは自分の腕力で僕と同じ武器を扱えるか気にしていた。だが、その心配は無用だった。なぜなら、アンネのレベルが50になっていたからだ。それに伴って身体能力が飛躍的に上がっていた。そこら辺の冒険者よりも強くなっていた。

 ステータスは知性、魔力、精神力、運が600台で、他は400台だった。たぶん大剣ですら片手で持てるぐらいの筋力は付いている。ただし、見た目は幼女そのものなので、周りの人間は誰も大剣を振り回せると思わないだろう。

 それに、アンネが大剣を振り回す姿を見たくなかったので、僕はアンネに刺突剣を教えることにした。僕は魔法『道具生成』でレイピアを作り、アンネに渡した。

「この剣なら、アンネでも使えると思うよ?」

 僕がレイピアを渡すとアンネはいきなり振り回した。レイピアは刺突用の剣で他の剣に比べて細く長かった。なので、振り回すのが難しいはずなのだが、アンネは軽々と振り回していた。やはり、見た目と違い筋力はあるようだった。

「すごい、この剣、軽いよ」

 アンネは僕が作った剣が凄いと誤解していた。でも、それが可愛かったので、そのままにしておく。

「アンネ。その剣は刺突剣と言って突き刺す事に特化した剣なんだ。だから、戦う時はこうやって突くんだよ」

 僕は、もう一本レイピアを作り出して、アンネに突きの見本を見せる。右手でレイピアを持ち、肘を90度曲げる。相手に対して半身になり、前足を出すと同時に腕を伸ばして突き出した。

「こう?」

 そう言ってアンネは僕を真似て突きを出した。なかなか、良い突きだった。

「そうそう」

 こうして、アンネはレイピアの練習を行うようになった。練習を始めてから数日後、デニスさんがアンネの練習を見て、僕に話しかけてきた。

「聖女様は戦闘訓練を始めたのですか?」

「そうですよ」

「そうなんですか、聖女様が得意とするのは、宝珠オーブを使った操球術だと聞いています。剣よりもそちらの訓練をされた方が良いのでは?」

 デニスが言っている操球術が何なのか分からなかった。だが、アンネのスキル欄に『聖女の闘法』というものがあった。これが、操球術に関係していそうだった。

「宝珠とはどこで手に入れるんですか?」

 何となくだが、宝珠を操って戦うというイメージを持った。となると、宝珠が無ければ戦えないことになる。

「たしか、ドワーフの王国とエルフの王国で手に入ると聞いていますね」

「ドワーフの王国へはどうやって行くんですか?」

「海路と陸路、両方あります。急ぐのでなければ、フーリー法国での商売が終わった後でドワーフ王国に行く予定ですがお急ぎですか?」

「いいえ、急いではいないので、デニスさんの予定に合わせますよ」

 どうやら、デニスはドワーフ王国で真銀をある程度売りさばくつもりらしい。


 アンネの剣の修行が始まったと同時にベルタがアンネと歌の練習を始めた。理由は、二人とも暇だったのだ。最初の内は、初めての海にアンネは感動の連続だったが三日もすると飽きていた。ベルタも船旅は何度もしているので、最初は嬉しそうにしているアンネにあれこれ教えて楽しんでいたが、アンネが飽きると同時にベルタもすることが無くて暇を持て余していた。

 そして、ベルタは船の甲板で歌の練習を始めた。どうやらいつもこうして暇つぶしをしていたらしい。その結果、歌が上手くなり、両親が商売をしている間に、港町で歌っていたら有名になり『薔薇の歌姫ローゼン・ディーヴァ』と呼ばれるようになったのだ。

 ベルタは船の安全を願う歌を歌っていた。その歌声は華やかで情熱的だった。まさに薔薇バラを連想させる歌声だった。その歌を聞いてアンネがベルタにこういった。

「ベルタ、その歌、私も歌いたい」

「いいわよ。じゃあ、まずは同じ音階で歌いましょ」

「うん」

 金色の歌姫ゴールデン・ディーヴァと呼ばれる。アンネとベルタが息を合わせて歌っていた。アンネの歌声はベルタと違って、透き通るような鐘の音に似ていた。その二人の歌声が船上に鳴り響いた。

 船の船員たちは、その歌を聞いて、それぞれ心の中でこう思っていた。

(今日もベルタちゃんの歌は完璧だ)(アンネ様も上手だな)(この歌がタダで聞けるなんて最高だ)

 二人は大人気だった。歌は練習開始から二人とも完璧に近かった。そこから、パートを分けてハモるようになった。それから、ベルタは色んな歌をアンネに教えて一緒に歌の練習を行った。


 アムスをたってから6日でフーリー法国の首都に最も近い港町アブールに寄港した。時間的には昼過ぎだった。

「さて、私たちは商売をしてきます。救世主様たちはお好きにしていてください」

 そう言って、デニスたちは積み荷を降ろして、どこかに行ってしまった。

「ねぇ、アンネ。私と一緒に歌ってみない?」

 ベルタはアンネに提案した。

「練習の成果を試す時ね」

 アンネは嬉しそうに答えた。僕は二人の邪魔をするつもりは無かったので、好きなようにさせるつもりだった。

「救世主様とキョウ様とラビ様も一緒に来てくれます?」

「いいよ」

「合点承知!」

「畏まりました」

「じゃあ、こっちよ」

 ベルタに案内されてたどり着いたのは真ん中に噴水のある公園だった。所々にベンチが置いてあり、遊んでいる子供たちや、座って休んで居る老人、愛を語らう恋人たちなどがいた。

 ベルタは噴水の前に移動すると僕たちに指示を出した。

「アンネは私の隣ね。救世主様とキョウ様は不審人物が近づいて来たら、やっつけてね。ラビ様は、私たちが歌を始める前に『これから、ゴールデン・ローゼンによるライブを行います。歌が良かったらお金をお支払いいただければ幸いです』と言って、この箱を持ってて」

「いいよ」

「合点承知!」

「畏まりました」

 それぞれに返事をして、配置についた。噴水を背に、アンネは左側、ベルタは右側に立ち、僕はアンネの左側にキョウレツインパクトはベルタの右側に立った。ラビはアンネとベルタの前の方に四角い空き箱を持って立っていた。

 僕は、黒のローブと黒のズボンを着ていた。ローブは腰ひもで縛っていて、腰ひもには黒い鞘の刀を佩いていた。キョウレツインパクトは、黒い武道家の様な服を着ていた。これでサングラスをかければ警備員っぽく見える様な服装だった。

 ラビは、いつもの白を基調としたメイド服だった。アンネは水色のワンピース、ベルタは黄色のワンピースを着ていた。


「ラビ様。お願いします」

「これから、ゴールデン・ローゼンによるライブを行います。歌が良かったらお金をお支払いいただければ幸いです」

 ラビは普通の声の大きさで言っただけだが、スキル『挑発』と『誘因』が発動し、公園内の人間の注目を惹くことに成功した。

 アンネは、ワンピースのスカートを少し持ち上げて優雅にお辞儀した。ベルタもワンピースのスカートを少し持ち上げて優雅にお辞儀した。金色の百合と赤い薔薇がお辞儀した。

 そして、歌が始まった。その歌は春の訪れを喜ぶ明るく楽しい感じの歌だった。二人はそれぞれのパートを完璧に歌いこなしていた。その歌を聞いて公園の人たちは一人、また一人とアンネとベルタを囲むように集まってきた。さらに、人が集まっているのを見て、公園を埋め尽くすほどの人だかりが出来た。

 歌が終わった時、公園には万雷の拍手が鳴り響いた。

「良い歌だった」「また、聞きたい」「次はいつ?」「『薔薇の歌姫ローゼン・ディーヴァ』じゃないか、今年は少し遅かったな」

「ご清聴、ありがとうございました。これから、3日間歌いますのでどうぞよろしく」

 ベルタが、そう言うと観客はラビの箱に次々とお金を入れて二人の歌を褒めちぎり帰っていった。

「大成功だったね」

 アンネは嬉しそうに言った。

「そうだね。明日も頑張りましょう」

 ベルタも嬉しそうに答えた。その日は、町を観光した後で、デニスさんが用意してくれた宿で夕食をとった後で眠りについた。


 翌日も昼過ぎに同じ公園でライブを行うと、前回よりも多くの客でにぎわっていた。今回も大好評でお金も多く集まっていた。アンネとベルタの周りから人が居なくなったので帰ろうとしている所へ一人の青年が駆け寄ってきた。

「ベルタ様。デニス様から伝言です。夕食を一緒に取りたいので、お連れするように言われてきました」

 思考を読んだが青年の言葉に嘘は無かった。金で雇われ指定の場所まで護衛するように言われていた。僕は、デニスが護衛を寄こしてきたという事は家族水入らずで食事をしたいという事だと思ったので、ベルタについて行く事を遠慮しようと思ったが、ベルタに先を越された。

「お父様が家族水入らずで食事したいと言ってるみたいなので、私だけで行くね」

「そっか、じゃあ、私たちは私たちで食事するから、また後でね」

 アンネはそう言って、ベルタに手を振った。ベルタもアンネに手を振った。僕もベルタに手を振った。

 こうして、ベルタと別れて、デニスさんが用意してくれた宿に戻った。すると、そこには慌てた様子のデニスさんとコリンナさん、それに護衛のクラウスたちも顔を青くしていた。

「なにが、あったんです?」

「ベルタは、ベルタはどこですか?」

 デニスは顔を青くして僕に聞いてきた。

「え?デニスさんが寄こした護衛に着いて行きましたよ」

「どんな奴でした?」

「普通の青年でしたけど?」

「ああ、なんという事だ」

 デニスは頭を抱えてうずくまった。

(油断した。救世主様が居るから大丈夫だろうと過信していた。救世主様は善良な方だ。誘拐犯の卑劣な常套手段など見抜ける訳が無い。これは私の落ち度だ……。ベルタ、どうか無事でいてくれ)

 デニスの思考を読んで、ベルタが何者に連れて行かれたか知った。あの青年は誘拐犯にカネで雇われた護衛だったのだ。デニスと名を偽り、ベルタを指定の場所に連れてくるように依頼したのだ。

 僕は自分の愚かさが許せなかった。こんな単純な手口で騙されて、アンネの友人であるベルタを危険にさらした。

「デニスさん。ベルタに何があったんですか?」

 僕はデニスさんに事実を言って欲しくて聞いた。

「誘拐されたんです」

 デニスさんの言葉を聞いて、アンネは僕を見た。顔面は蒼白で、何か言おうとしているが、恐怖のせいなのか声が出ていなかった。

(シュワちゃん。助けて)

 アンネは心の中で、そう思っていた。

「任せて、すぐに助ける」

≪スキル『愛の奇跡』の条件を満たしました。魔法『検索』を獲得しました≫

 アンネが助けてと願った。そして、僕は助けたいと思った。だから、スキルは発動した。魔法『検索』を使うと、ベルタの位置はすぐに分かった。港にある倉庫の一室に居るようだった。僕は魔法『空間転移』で瞬時にその部屋の中央天井近くに移動した。

 倉庫の部屋は天井が普通の部屋よりも高かった。僕は部屋の天井近くに転移し部屋を見た。ベルタは椅子に座らされて、猿ぐつわを噛まされ、目隠しをされた状態で椅子に固定されていた。暴行を受けた様子は無かった。誘拐犯たちは、ベルタの監視が二人、扉の見張りが二人の4人が居た。僕には気づいていなかった。とりあえず他に仲間がいるかもしれないので、殺さずに生け捕りにする事にした。

 魔法『黒の剣鎖』を使い、八本の剣鎖を出現させ、八足の足の甲を貫き地面に縫い付ける。

「ぎゃあああ~~」「ひぎぃぃ~~~」「ああああああ~~」「なぁああああああ~」とそれぞれ悲鳴を上げてうずくまった。

 ベルタは悲鳴に驚いて首を左右に振っていた。僕は地面に降り、刀でベルタの拘束を解除した。

「ベルタ?大丈夫?」

 僕が聞くと、ベルタは真剣な眼差しで僕に訴えてきた。

「救世主様!この人たちを殺さないで!この人たちも被害者なの!」

 僕はベルタが誘拐事件の被害者が生き残るために犯人と仲良くするストックホルム症候群を発症したのかと思った。

「大丈夫、こいつらには洗いざらい吐いてもらってから罰を与えるから」

「だ~か~ら~、違うってば!」

 そう言ってベルタはビンタしてきた。僕は頭が真っ白になった。あれ、これってベルタ完全に洗脳されてるんじゃね?


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