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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
宿命は氷の貴公子を復讐に駆り立てる

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深夜の襲撃者

 祝賀パーティーで成すべきことを成した後で、客室に案内された。ヨハンと二人で部屋に入る。来賓用の部屋らしく、室内には絵画や彫刻が飾られており、高級感が溢れていた。

 部屋は手前が護衛の宿泊する部屋になっており、その奥に来賓が寝泊まりする部屋があった。

「ヨハン、何もないと思うが、何かあれば知らせてくれ」

「分かりました。安心してお休みください」

 私はヨハンを手前の部屋に残して、寝室に向かった。皇宮内には見張りの兵もいるし、部屋の扉の前にも歩哨が立っている。賊が侵入する可能性は皆無だった。私は明日、叔母上と話す内容とゴミクズどもと話す内容を頭の中で整理してから眠りについた。


 ガキィ~~~~ンという甲高い金属音で目が覚めた。

「アイス様!賊です。お逃げください!」

 ヨハンが戦っているようだった。私は、寝間着のままヨハンの部屋に入った。そこには薄気味悪い男が居た。目はがらんどうの様に黒く光が無かった。黒い長髪はボサボサで手入れされていない状態だった。そして、異様に手足の長い黒装束の男は不自然なぐらいに痩せていた。右手には小剣を持っていた。

「あはは、いひひ、とりあえず死んでもらえます~~~~?」

 どこか女の様な甲高い声で黒装束の男は言ってきた。ヨハンはすでに刀を抜いて対峙していた。

「アイス様、ここは私にお任せください」

「分かった」

 私はヨハンに任せることにして、戦いの成り行きを見守る事にした。

「じゃあ、行きますよ~~~~」

 男は小剣を持った長い右腕をでたらめに振り回して、ヨハンを斬ろうとしていた。それは剣術というにはあまりにもお粗末な攻撃だった。ヨハンは冷静に攻撃を受け流していたが、リーチは相手の方が長いので防戦一方となった。

 だが、ヨハンは焦っていなかった。何かを狙っていた。

「あはは、頑張りますね~~~~。でも、守ってばかりじゃ勝てませんよ~~~」

 男はヨハンを挑発していた。だが、ヨハンは隙を見せる事無く攻撃を捌き続けていた。すると業を煮やしたのか男は大振りの攻撃を仕掛けた。長い右腕で大上段からの袈裟切りをヨハンに放った。ヨハンは刀を正眼に構えていた。

「修羅一刀流、四の太刀、流撃りゅうげき

 ヨハンは男の小剣を受け止めた後で刀で受けつつ受け流し、そのまま流水を思わせる動作で男の首を切った。勝負あったかに見えたが、男は死ななかった。傷口が塞がり元通りになった。

「あはは、痛いですね~。生きている感じがする~」

 どうやら、相手はエンリと同じ不死身らしい。不死身の化け物に対して有効な攻撃方法が分からなかった。ヨハンは男を見て、驚いているかと思ったが、ヨハンは冷静だった。相手と距離をとり剣を正眼に構えなおしている。

「アイス様、剣を一本貸してください。こいつを倒します」

「は?何言ってんですか?」

 ヨハンの言葉に男は不愉快そうに聞き返した。私は男を無視して魔法で剣を作ってヨハンに渡すことにした。

「凍てつく剣よ、顕現せよ」

 氷の剣が眼前に出現した。私はその剣をヨハンに投げた。ヨハンは剣を受け取ると二刀流となった。右手に刀、左手に氷の剣を持って、両手を下げた構えをとった。そして、ヨハンから凄まじい闘気が立ち昇っていた。眼光は鋭く、虎が獲物を狩る様な目で黒装束の男を見ていた。

「羅刹二刀流、ついの太刀、無間地獄」

 その言葉を聞いた瞬間、黒装束の男は消えた。ヨハンが倒したのではない。ヨハンが技を放つ前に逃げたようだ。

「どうにか上手く行きました」

 そう言って、ヨハンは息を吐き出した。

「上手くいった?逃げられたの間違いではないのか?」

 私はてっきりヨハンが敵を倒す手段を持ってると思っていた。だが、どうやら違うようだ。

「いいえ、私はまだ、この技を完璧に使いこなせてはいないのです」

「では、ハッタリだったのか?」

「ええ、救世主様に、この技を教わった時に言われていたのです。もし、不死身の化け物と遭遇したら、フリでも良いから技を出してみろと……」

「結果、不死身の化け物は恐れて逃げたと?」

「そうらしいです。きっと、不死身の化け物は、あの技を知っているんだと思います」

「そうなると、救世主様には感謝しかない。君が居た事で私は死なずに済んだ」

「もったいないお言葉、きっと救世主様はあなたを救うために私を遣わしたんだと思います」

 もし、そうなら救世主は私のスキル『神算鬼謀』と同程度のスキルを持っている事になる。スキル『神算鬼謀』は未来予測が出来る。もちろん、知っている情報から予測する為、知りえぬことがあれば予測は正確に行われない。だが、全てを知っていれば予測は外れる事が無い。つまり、情報収集を怠らなければ私は予知が出来るのだ。

 予知を正確に行うために、私は簡単に手に入る味方の情報よりも敵の情報を優先して手に入れようとしていた。

 今のところ、私の予測では6年後にゴミクズどもを地獄に叩き落すことになっていた。だが、この予測はまだ正確では無かった。敵の情報が正確では無いのだ。

 そして、今日の襲撃は予測できなかった。それは、不死身の化け物を私が知らなかったからだ。少なくとも不死身の化け物はオールエンド王国の者だと知っている。だが、エンリを介して私はオールエンド王国と取引しているのだ。敵対するとは考えにくかった。

 分からない事はもう一つあった。奴はどうやってこの部屋に侵入したのか……。

「ヨハン。奴はどこから現れた」

「扉の外で人が倒れる音がして、すぐに部屋に入ってきました」

 私は部屋の外に居るであろう歩哨がどうなったのか見に行くことにした。

「ヨハン。部屋の外に出る。警戒を怠らずについてこい」

「畏まりました」

 そう言ってヨハンは二刀を構えたままついてきた。私は魔法で外の様子を伺った。待ち伏せを警戒して詠唱は行わなかった。

 扉の外に生きている人間は居なかった。扉の前に2人の死体があった。私は、扉を開けて外に出た。そこには首を切り裂かれた兵士の死体があった。二人とも争った形跡が全くなかった。

 まるで、敵に気付く間もなく殺されたようだった。完全な不意打ちか、顔見知りに殺された可能性が高い。だが、あんな異様な風体の者が居れば顔見知りだとしても警戒するはずだ。よって逃げた時と同様に突然現れて殺したという仮説が有力だと思われる。となると奴はこの皇宮内に詳しいという事になる。

 転移魔法の大前提なのだが、知っている場所にしか転移出来ないという制約があった。

「あいつは、皇宮内を自由に動き回れるらしいな」

「内部に裏切り者が居るのですか?」

「その可能性が高い」

「では、犯人を探すのですか?」

「いいや、無駄だろう。何も証拠がない」

「証拠ですか?」

「ああ、あの風体で皇宮内を歩いているとは考えにくい。変装しているはずだ。または皇宮に協力者がいて手引きした可能性もある」

「どちらにせよ。あの外見だけを頼りに調査を行うのは無理だ」

「分かりました」

「だが、襲撃があった事は報告せねばならん。守衛の部屋に行くぞ」

「はい」

 私とヨハンは守衛の部屋に赴き、状況を報告した。


「分かりました。では、早速現場に向かいます。バロン・マルクス様には別室を用意し、警護の兵で守りを固めます。我々を信じて今日の所はお休みください。重ねて警備の不手際をお詫び申し上げます」

「いや、今回は相手が悪かったのだ。警備兵の不手際ではない。私の方からそなたらの不手際を追求することは無い」

「感謝いたします」

 警備の主任は終始申し訳なさそうに謝ってきた。無理もない。賊の侵入を許し、死ぬ可能性もあったのだ。首が飛んでもおかしくない状況だった。だが、私もヨハンも無事だったのだ。厳罰は望まなかった。

 警備兵に守られ、その後、襲撃は無く朝を迎えた。


 朝起きると一人の初老の男が訪ねてきた。白髪交じりの赤髪の長身痩躯の男だった。ヨハンが寝泊まりしている警備兵用の部屋に備え付けてある応接用のソファーに座って貰った。私とヨハンは初老の男と対面するように座った。

「お初目にかかります。セバスと申します。皇女アンネローゼ様の執事をしております」

「初めまして、アイス・フォン・マルクスです。今日はどのようなご用件で?」

「昨日、襲撃を受けたと聞きました。その者が不死身だったと聞いたので、詳しくお話を伺いたいと思ったのです。もしかしたら私の知っている人物かもしれませんので」

「不死身の化け物に心当たりがあると?」

「ええ、私はその化け物を倒すために生きてきました」

「化け物の正体は?」

「オールエンド王国の大罪戦士でしょう。あなたの部屋に現れたものの特徴から嫉妬のエンリだと思われます」

「オールエンド王国の大罪戦士?」

 大罪戦士という単語自体が初耳だった。

「神王ネロの側近7人の事です」

「昨日の襲撃者がそのうちの一人だというのですね」

 嫉妬のエンリが、旧領主と取引していたエンリだとするとオールエンド王国は、この国の中央まで工作員を潜り込ませている事になる。とても危険な状態だった。

「そうです。嫉妬のエンリは黒い長い髪とがらんどうの様な黒い目が特徴の中肉中背の女です」

「女?昨日の襲撃者は男の様に見えました。それと、手足が異様に長く痩せていました」

「男だったのですか?見間違いではなく?」

「人間離れした外観でしたが、骨格は男のものでした」

「ふ~む、そうなると別人かもしれませんな」

 セバスは少し悩んだうえで、そう答えた。

「そうとも言い切れないでしょう」

「なぜです?」

「私の部屋の入り口に歩哨が2人居たのですが、いずれも一撃で殺されていました」

「ええ、あれは完全に不意を突かれて殺されておりましたな」

「そうです。完全に不意を突かれていたという事は、敵が突然現れたか、もしくは顔見知りだった可能性があります」

「聞いた限りの風体の者は皇宮内に居りません」

「だと思います。異様すぎますからね。なので、考えられる可能性は2つ、1つは奴は皇宮内では変装している可能性と、もう1つは、奴を手引きした者が皇宮内にいる可能性です」

「なるほど、そうなると昨夜の男が嫉妬のエンリである可能性が残るわけですな」

「その通りです」

 もし、昨日の男が嫉妬のエンリなら、私が復讐するべき本当の相手は大臣たちでは無くなる。まだ、可能性の段階だが、計画の修正を考えなくてはならない。

「分かりました。皇宮内の者をそれとなく探っておきましょう。本当は死んだ兵士たちを生き返らせれば事実がはっきりとするのですが……」

 セバスはその先を言わなかった。これは暗黙の了解なのだ。兵士の命は軽い。領主の暗殺未遂如きでは生き返らせてまで証言を得ることはしない。暗殺されていたのなら犯人特定の為に金が出る可能性はある。

 または、私が蘇生の代金を肩代わりすれば生き返らせて証言を得る事は出来るが、完全な不意打ちで襲われて殺されていた場合は、なんの情報も得られずに終わる可能性がある。

 生き返らせても何も情報を得られないのなら、金を捨てる行為に等しい。軍資金を集めている今、情報を得られる確証も無いものに金を使う余裕は無かった。

「私が調査依頼を出しても無駄でしょうね……」

「そうですな、あの大臣たちは金を出さないでしょう。話は変わりますが、ヨハン殿は誰から修羅一刀流を学んだのですかな?」

「救世主様から教わりました」

「救世主?」

 どうやらセバス殿は救世主が何なのか知らないようだ。

「黒の魔法使いシュワルツ様の事ですよ」

 私が補足説明を加えた。

「ああ、シュワルツ殿でしたか、今は救世主と呼ばれているのですか?」

「ええ、メシアス教の救世主様ですよ」

 ヨハンは嬉しそうに応えた。

「メシアス教?今は、そんな宗教が流行っているのですな」

 セバス殿はメシアス教を知らなかったようだ。なので、かいつまんで私が説明する事にした。

「フーリー法国が聖女様の予言を信じて新しく興した宗教ですよ。聖女様に選ばれた救世主が世界を救うという教えです」

 メシアス教を信じているヨハンが居るので、私はオブラートに包んでセバス殿に説明した。メシアス教の実態は、フーリー法国が聖女の予言を利用し、シュワルツェンド皇国と取引してでっちあげたご都合主義の宗教だった。救世主になるのはライトという三聖の一人、黒金くろがねの聖騎士ニグレドの血を引く少年だった。

 これをありのままに伝えると救世主がシュワルツ殿だと信じているヨハンが混乱すると思ったので、あえて言わないことにした。

「ああ、なるほど、そういう事でしたか説明ありがとうございます」

 セバス殿は私の言外の意図も組んで返事をしてくれたようだ。

「話が、それてしまいましたな、本題はヨハン殿がどこまで教わり、どこまで使えるようになったかを知りたかったのです」

 セバスは真面目な表情で聞いてきた。

「修羅一刀流は……」

 ヨハンがうかつにも答えようとしたので遮る。

「待て!ヨハン」

 ヨハンが驚いて私を見た。セバス殿は私が制止した意図を察したようだ。

「ふむ、この部屋で話した内容は外には漏れないようになっておりますよ。それとも私が信用できませんかな?」

 セバスは私の眼を真っすぐに見て応えた。後ろ暗い事など無いという眼だった。ヨハンはセバスの言葉で、ようやく自分が何をしようとしたのか理解した。昨日の男が変装して目の前に居る可能性があったのだ。迂闊に羅刹二刀流の終の型は使えないという情報を知られたら今度はハッタリが効かないことになるのだ。

「昨日の男が変装して来たと言いう可能性を先ほど申し上げたばかりですよ?」

「なるほど、ならば剣で応えるしかないですな」

 そう言うとセバスは剣を抜き放って立ち上がった。その意味を私は昨日の襲撃犯だという告白だと受け取った。ヨハンは立ち上がり刀を抜いた。

 セバスが剣を大上段に構えた。

「この意図が分かりますか?ヨハン殿」

「ええ、シュワルツ殿に剣を教えて頂いた時に教わっております」

 ヨハンも同じように大上段に刀を構えた。ヨハンは先程のセバスの言葉を私とは違った意味で受け取っていたようだ。

『修羅一刀流、一の太刀、雷撃らいげき

 二人は同時に技を放った。二つの雷が激突したかのような衝撃が奔った。だが、部屋の物は何一つ壊れなかった。ただし、セバスの剣が斬られていた。

「予想以上の腕ですな、天性の才能があるのでしょう。これは鍛えがいがありそうだ」

「アイス様、この方は信用できます。少なくとも昨日の敵ではありません」

「剣を交わしただけで分かるのか?」

「剣士なら当然です。生き方は太刀筋に現れますから」

 私の問いにヨハンは当然とばかりに応えた。

「分かりました。信じましょう。それにしてもあなたも朱羅しゅらの剣聖ルベド様の技を使えるのですね。驚きました」

「実は私がルベド・リッターなのですよ。ですが、年老いた今、その名に恥じぬ戦いが出来なくなりました。なので、今はセバスと名乗っております」

 セバスは臆面もなくそういった。

「アイス様、私の現状を教えても?」

「ああ、良いとも」

「セバス様、修羅一刀流は終の太刀まで習得済みです。羅刹二刀流は終の太刀は知っていますが使いこなせていない状態です。他は知りません」

「ネヴィアからも話があったと思いますが、『聖女の盾』の訓練場に来なさい。稽古をつけてあげましょう」

「アイス様、良いですか?」

 異論はない、伝説の剣聖直々に指導してくれるというのだ、断る理由が無い。

「いえ、こちらからお願いしたいところです。ヨハンをよろしくお願いいたします」

「ありがとうございます。アイス様」

 ヨハンは嬉しそうに礼を言った。

「では、待っておりますよ」

 そう言って、セバスは部屋から出ていった。

「さて、私は皇妃殿下との約束がある。ヨハンは早速、剣の稽古をつけてもらうと良い」

「分かりました。行ってきます」

 ヨハンは、セバスを追うように出ていった。


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