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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

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祭りの後

 こうして、1億円は手に入らなかったが、幽霊船のクエスト報酬金貨500枚と討伐報酬金貨100枚を手に入れて、銀行口座を開設した。ちなみに、僕が赤の暴虐竜を倒した事は公然の秘密となっていた。

 町に現れた赤の暴虐竜を人知れず倒し、その報酬も受け取らずに民衆の為に戦うと言ったと町中の人たちが知っていた。それを言葉に出していないが、僕が心を読むとそんな事を思っていた。

 ちなみに、冒険者のランクはアンネは僕と同じミスリルにラビはゴールドになった。キョウレツインパクトはゴールドのままだった。


 そのまま、港のデニスさんの船に向かった。ベルタとの約束を果たす為だ。船の近くに来るとベルタが僕らを見つけて船から降りてきた。

「ベルタ。来たよ~」

 駆け寄ってくるベルタにアンネが手を振って声をかけた。

「アンネ。これからも一緒だね」

 息を切らせながらもアンネの手を取ってベルタは嬉しそうに言った。

「うん。よろしくね」

「救世主様もよろしく」

「ああ、よろしく」

「キョウ様とラビ様もよろしくね」

「ああ、任せておけ、俺はキョウ・レツ・インパクト。俺より強い男を探す旅をしている」

 ああ、キョウレツインパクトは今日も絶好調のようだ。ベルタがキョウレツインパクトの言葉の意味を理解しかねて混乱していた。

「あ、うん」

 これが、ベルタが出せた精一杯の答えだった。無理もない僕でもなんて応えるのが正解か分からないのだ。

「ベルタ様、よろしくお願いいたします」

 ラビはメイドの作法に則り、スカートの裾を上げて優雅にお辞儀した。さすがメイドスキルを持っているだけはある。ラビが締めくくったおかげでベルタは正気を取り戻したようだ。

「じゃあ、船の部屋へ案内するね」


 船の部屋へ案内された後で、僕はデニスに商談を持ちかけた。赤の暴虐竜を倒した時に手に入れた素材を買い取ってもらおうと思ったのだ。

「あの、デニスさん。これって商品として価値がありますか?」

 僕は亜空間収納から赤の暴虐竜の鱗を一枚取り出して見せた。鱗一枚の大きさはシングルの敷布団一枚ほどの大きさだった。

「あの、これは?」

「あるドラゴンの鱗です」

「ああ、例のドラゴンですね。鑑定してもよろしいですか?」

 デニスは赤の暴虐竜の鱗だと知っていた。まあ、公然の秘密なんだから当然なのだが……。

「ええ、構いませんよ」

 デニスが鑑定を終えて僕に言ってきた。

「これは、真銀ミスリルですな」

「という事はかなりの高値で売れるんですかね?」

「そうなります。この鱗一枚で真銀の剣が20本は作れます。となると1枚で神金貨1枚の価値があります」

「そうなると、僕は億万長者ですね。この鱗、千枚はあるんですよ」

 僕が伝えるとデニスは真顔になった。

「救世主殿、この事は誰かに言いましたか?」

「いや、言ってないけど?」

「それは、良かった。ならばこちらは濡れ手に粟で稼げますぞ」

「え?言ってたら不味かったの?」

「救世主様は相場を理解していますか?」

「希少価値がある物は高く売れて簡単に手に入る物は安くなるってやつ?」

「その通りです。真銀は手に入り難い。だから高価なのです。それが大量に手に入ると知ったら誰が高値で取引すると思います?」

「なるほど、だから誰かに言ったかが重要なわけか」

「そういう事です」

「流通量はデニスさんに任せます。僕の取り分は1割で良いよ」

「救世主様は無欲でいらっしゃいますな」

 デニスは悪い笑顔を見せた。

「違うよ。僕はそれでも大金を得られると思ったからデニスさんに任せたんだよ」

 相場を崩さずに売り切った場合の利益は1兆円なのだ。その十分の一でも100億円、一生遊んで暮らしてもおつりがくるのだ。

「分かりました。では、私は救世主様のご期待に応えられるように、出来るだけ高値で売りさばきましょう」

「デニスさんの手腕に期待しますよ。あ、鱗一枚はムラマサに依頼して僕らの武器と防具に加工して欲しいな」

「分かりました。全額こちらもちで手配いたしますとも」

「なら、デニスさんとコリンナさんとクラウスたち、それにベルタと僕らの分も含めて発注してくれると助かる」

「良いのですか?私たちの分まで?」

「これから、一緒に旅をする仲間に最高の装備をっておかしいかな?」

「そう言って頂けるとありがたいのですが、武具の製造はすぐに終わる物ではありません。一ヶ月二ヶ月で出来るものです。その時、一緒に旅を続ける状況にあるか分かりませんよ?」

 デニスは正直だった。この前の取引の時、僕が打算抜きで交渉した事で、デニスは僕に駆け引きを行わなくなった。だから、僕も本音をぶつける。

「それでも、こうして知り合って一緒に旅をした仲間が、別れた後も無事であって欲しいって願う事は不自然な事なのかな?」

「いえ、救世主様がそう言ってくれるのなら、私はありがたく受け入れましょう。商人のデニスではなく、ただの旅仲間のデニスとして救世主様の御好意を受け入れます」

 僕はこの時、デニスの言った意味を重く受け止めていなかった。商人として誇りを持って生きて来た人間が、商人ではなく人間として対等の存在として受け入れると言った意味を知らなかった。


 鱗の商談が成立した後で、僕とデニスさんでムラマサの元に向かった。

「おう、デニスの旦那、それに救世主様、今日はどうしたんで?」

「これで、みんなの武具を作って欲しい」

 そう言って、僕はミスリルの鱗をムラマサに渡した。

「これは?何かの鱗に見えますが、まさか……」

「その先は言わなくても分かるでしょう?」

 デニスがムラマサにそう言った。

「ええ、分かりますとも。それで、何を作ればいいですかい?」

「全員の武具を作って欲しい。代金は私が支払います」

「全員って言うと?」

「救世主様、アンネ様、キョウ様、ラビ様、クラウス、カミラ、クルト、ドミニク、ベルタ、コリンナ、私の分だ」

 自分の家族と自分を最後に言うあたりがデニスの性格を物語っていた。

「あんたは相変わらずお人好しだなぁ~。まったく調子狂うぜ。商人てのはもっと利己的な人間だと思ってたんだがな……」

 ムラマサはデニスを気に入っていた。理由は前回、クラウスたちの武具を買う時に言った言葉だった。

「私は戦えません。だから、私を守る者達には最高の武具を与えたいのです。私が死んでも私を守ろうとしてくれた勇者が生き残れるようにね」

 この言葉で、ムラマサはデニスに武具を売る事を了承したのだった。

「全くあんたには敵わねぇぜ。冒険者でもねぇのに、覚悟だけは勇者なんだからよ」

「そんなたいそうな事ではありませんよ。守りたい者がある。それを守る為なら何でもする。親として当然の事をしているだけです」

「俺には分からねぇ。親になった事が無いんでな……。でも、そんなあんたがカッコいいと思う。だから、引き受けるぜ」

 こうして、真銀製の武具が1か月後には整う事になった。しかも僕が失うのは、ストーカーを倒して手に入れた鱗だけだった。


 船に戻るとデニスは思い出したように僕に言ってきた。

「あ、そうそう『復元のラピスラズリ』の代金を支払いますね」

「銀行からお金を借りれたんですね」

「いや、それが必要なくなったんですよ。アンネ様のお陰でね」

「どういうことですか?」

「いやね。撮った写真を売ろうとしたんですが、枚数が少ないのに客が殺到しましてね。だから、オークションを開いたんですよ。そしたら、金貨1000枚以上になりましてね」

 デニスはホクホク顔で嬉しそうに報告してきた。この世界では写真は貴重品だった。そこにさらに希少な価値が加わったのだ。高値で売れるのは当然だった。この時僕は、この写真のせいで師匠とマリー、それに『聖女の盾』が窮地に陥る事になるとは微塵も思っていなかった。

「では、振り込みますね」

 デニスはそう言うと銀行のカードを取り出して、カードを操作した。僕は自分の銀行のカードを取り出して取引履歴を確認する。デニスは金貨1200枚を送ってきた。

「あの、約束よりも額が多いようですが……」

「良いんですよ。アンネ様のお陰で儲けられましたから」

「そういう事であれば、遠慮なく受け取っておきます」

 僕は、お金の事で困る事が無くなった。デニスがこの後、真銀で大儲けするからだった。そして、船は出港し僕らはシュワルツェンド皇国を離れた。


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