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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
運命は二人を引き寄せる
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セバスと幼犬

 僕がマリーのご機嫌を取ろうと必死でもがいているとアンネが頬を膨らませていた。

「シュワちゃんのエッチ、そんなにマリーが良いの?」

 アンネちゃんはマリーに嫉妬したらしい。僕はマリーに取り入るのを諦めて、アンネの元に戻った。するとアンネはすぐにご機嫌になり、僕を抱きしめる。

「良かったですね。アンネ様」

 マリーは最上級の笑顔を見せた。だが、心の声はこうだった。

(くそ、アンネ様に取り入りやがって、裏切ったら毒漬けにして、たっぷりともがき苦しませた後で殺してやるからな)

 大丈夫、絶対に裏切らないから、その殺意の波動を静めて欲しい。女性ってこんなおっかない存在だっけ?と思っていると、アンネが僕に語り掛けて来た。

「ねぇ、シュワちゃんはステータス見ないの?」

 すでに見ているが、『鑑定の魔眼』は相手の承認を必要としないらしい。だから、僕がすでに二人のステータスを把握済みという事は、伝わっていなかった。だから、僕は見なかったことにした。

 僕が頷くと、マリーの殺意が減少した。

(それで良い、命拾いしたな犬っころ、アンネ様のステータスを見ていたら貴様に明日は無かった……)

 心の声と現実の態度の差が激しすぎて女性不信になりそう。でも、アンネの心は清らかだった。心の声と発する声にずれが無い。こうして、ロリコンが生まれていくのだろうか?だが、僕には彼女が居る。彼女に会うまでは他の誰にも心を許したりしないぞと改めて誓った。

「アンネ様、セバス様にもシュワルツ君のステータスを見てもらった方が良いと思うのですが」

 マリーは、さも当然という体でアンネに提案した。だが、心の声はこうだった。

(このいつ裏切るか分からない魔族を早急に追放して頂かなければ、セバス様ならこの獣の危険性を理解してくれるはず)

 なんか、疲れた。僕、なんか悪い事しましたか?アンネ様を助けて、あなたの命を救い、セバス様の傷を癒した子犬ですよ。アンネが僕を抱きしめてくれていなかったら、心が折れていたかもしれないぐらいに傷ついていた。

「そうだね。それが良い」

 アンネは悪気無く答えた。それだけが救いだった。

「ねぇ、セバス。シュワちゃんがステータス見せてくれてるんだけど、セバスも見る?」

 アンネの問いにセバスはすぐに答えた。

「本当ですか?黒の殲滅者シュワルツ・フェアニヒターのステータスを見れるのなら是非に」

 そう言った後で、馬車は止まった。そして、セバスが客車に入って来た。入った時点で僕はセバスのステータスを把握した。セバスのステータスは名前から違っていた。

 名前はルベト・リッター、戦闘スタイルは『剣聖』だった。レベルは99で、そのステータスは筋力・俊敏性・器用さが500台だった。だが、歳のせいか生命力と体力が100台だった。他の値は400台だった。スキルは『剣聖』に相応しいものが並んでいた。『見切り』『後の先』『修羅一刀流』『羅刹二刀流』『斬鉄』『必中』『拳闘術』『受流し』と剣で戦う事に特化していた。

 偽名なのが引っかかるが、良い人そうなので気にしないことにした。セバスが僕のステータスを見て感心して言った。

「さすがは、厄災と呼ばれる存在、子供でもこれほどの強さを誇るとは頼もしい限りですな」

 セバスは物凄く嬉しそうに言った。

「そうですね。でも、やはり魔族ですし危険ではないですか?」

 マリーが笑顔を崩さずにセバスにやんわりと注意喚起する。

「大丈夫だよ。シュワちゃんは私の味方だよ。だって私とお揃いの『愛の奇跡』ってスキルを持ってるんだから」

 アンネはとびっきりの笑顔で答えた。

「そうですな、シュワルツ殿は信頼できます」

 セバスも笑顔で答えた。

「そうですね。私たちを助けてくれたんですものね」

 マリーも二人に同調した。だが、心の声は……。

(アンネ様をたぶらかしやがって~。セバス様も危機感が足りない。でも、ここで強固に反対しても空気が悪くなるだけだし、諦めるしかないわ)

 とりあえず難は逃れたようだ。

「シュワルツ殿、『黒の剣鎖けんさ』とはどんな魔法ですかな?」

 セバスに問われたので、魔法を発現させる。『黒の剣鎖』は狩りで使用していた魔法だった。黒い鎖の先端に短剣の刀身が付いているものだった。これを射出し獲物を絡めとって先端の剣で止めを刺し、手元に引き寄せる魔法だった。

 今は一本だけ出しているが、本来は十本出して獲物をしとめる魔法だった。

「なるほど、こういう魔法でしたか、参考になりました」

 セバスは笑顔を絶やさずに答えた。だが、セバスも油断ならない相手だった。

(なるほど、この魔法ならば剣で対抗できそうですね。あとは『殲滅の黒雷』をどう防ぐか……)

 隙あらば倒そうとするのは『剣聖』のサガなのだろうか?少なくとも僕が裏切るとは思っていなくても倒す方法を考えているようだった。

「それにしても、やはり魔族の魔法やスキルは効果が分からない物が多いですね」

 セバスが感想を述べた。

「そうですね。『真実の魔眼』とか『鑑定の魔眼』は聞いたことがありませんわ」

 マリーが同意した。

「『真実の魔眼』は罠や隠し扉を見つける効果ですかな?」

 セバスが僕に同意を求めて来た。とりあえず心を読む魔眼だとバレると僕の生命に危険が及びそうなので頷くことにした。

「なるほど、それでは『鑑定の魔眼』は物の効果を見極める効果ですかな?」

 ステータスを見れる魔眼ですとバレると命の危険があるので、僕は頷いた。

「なかなか、便利なスキルを持ってるんですね。ステータスは把握しました。アンネ様を頼みますよ。シュワルツ殿」

 そう言ってセバスは手を差し伸べて来た。僕はお手をした。何か通じ合った気がした。セバスはそのまま御者台に戻り馬を走らせた。


 昼近くになり、ようやく街が見えて来た。街を囲む白い城壁の南門に向かっていた。すると、今まで僕を片時も離さなかったアンネが僕を隣の席に置いて、自身は背を伸ばし、顔を隠す為のベールが付いた黒い帽子を被った。

 その佇まいは九歳の子供には見えなかった。身なりこそ小さいが、そこには貴婦人が居た。アンネのスキル欄に書かれていた『女優』の意味を知った。皇女とはそういう存在なのだろう。ちなみに、なぜ年齢を知っているのかというとステータスに書かれていたから知っていた。

 そんなアンネを見たマリーの心の声が聞こえた。

(アンネ様、こんな時でも自分がやるべきことを分かってらしゃる。本当は、今頃アンネ様のお気に入りの場所で楽しく昼食をとっていらっしゃる時間でしたのに……。泣き言も言わずに本当にお強い方、不安もあるでしょうにそれを我らに見せずに頑張っていらっしゃる。私が命に代えてもお守りします)

 マリーが僕に殺意を向けるのも全てはアンネの為、そう思うとマリーを嫌いになれなかった。

 南門に着くと、城壁を守る兵士に呼び止められたのか、馬車が止まりセバスと兵士が話している声が聞こえて来た。

「通行証はあるか?」

「すまないが持っていない」

「どこから来た?」

「パルスから来た。商家の娘が物見遊山で、港町カーレンに行くところだ。この街へは昼食をとる為に来た」

「そうか、なら通行料は三人なら銀三枚だ。支払えるか?」

「ああ、問題ない」

「たしかに、受け取った。昼食なら、この道をまっすぐ行ったところにある『森の幸』って店がお勧めだ」

「ああ、ありがとう」

 その後で、馬車が動き出した。街に入って暫くして馬車は止まった。セバスが客車に入って来た。

「アンネ様、昼食はいかがいたしますか?」

「セバスに任せる。よきにはからえ」

 さっきまでの子供っぽさが消えていた。そこには皇女が居た。

「畏まりました。では、昼食を手配いたします。外に出るのは危険ですので馬車内での食事となりますが、ご容赦願えますでしょうか」

「構わぬ」

「御意。マリー私が食事を手配している間、アンネ様の護衛を頼むぞ」

「畏まりました」

「シュワルツ殿にもお願いいたします」

 僕は頷いた。セバスは心の中でアンネを心配していた。

(人目があるところでは皇女として振舞わねばならんとはいえ、こんな状況でも完璧に演じておられる。本当は息抜きの旅行になるはずだったのに……。これを仕組んだ犯人は必ず見つけて報いを受けさせねば……)

 セバスもアンネの忠臣だった。アンネが皇女だからなのか、それともアンネの人柄なのか、今日出会ったばかりの僕には分からなかった。

 セバスは一旦馬車を離れた。それから、少ししてセバスはパンとスープを持って来た。それなりにおいしそうだった。僕には干し肉をくれた。アンネとマリーが食事を始めたので僕も干し肉を食った。

 セバスは御者台で僕と同じく干し肉を食い。水を飲んでいた。食事が終わると、セバスが客車に来て、アンネに告げた。

「では、私は護衛を雇いに行きます。アンネ様はここでお待ちください」

「分かりました。セバス、気をつけるのですよ」

「ありがたきお言葉、行ってまいります」

 それから、暫くしてセバスが戻って来た時には、二十人の人間を連れて来た。年齢は二十代~四十代、十六人が男で四人が女だった。武装はまちまちで、鎧を着こんだ重装備の者から、ローブだけの軽装の者、皮鎧を着こんだ者も居た。武器は剣、弓、短剣、槍とバリエーションが豊富だった。

 その中でひと際イケメンの青年が居た。純白の鎧に身を包み、金髪を短く整えたナイスガイだった。武器は片手剣、大きい盾を背負っていた。ステータスを見ると戦闘スタイルは『騎士』と書いてあった。

 そいつが客車の扉の前に来て跪いた。

「この度は護衛の仕事を与えてくださり感謝します。私は冒険者レギオン『白の城壁』団長ウィル・シュバリエと申します。貴女は高貴な生まれと聞き及びました。無礼は承知で申し上げます。ご尊顔を拝見してもよろしいでしょうか?」

 ウィルの言葉にマリーが答えた。

「貴殿を信頼していないわけではないが、拝謁は出来ない。身の程をわきまえよ」

 マリーは冷酷な暗殺者の顔で答えた。客車の扉が開いている訳ではないので、その表情は見れないだろうが、声の温度の低さは伝わっていると思われる。

「出過ぎた申し出でした。ご容赦ください。ただ、自分が誰の為に死ぬのか知っておきたいという思いからでした」

 彼の言葉を聞いて、アンネは立ち上がり客車の扉を開いた。マリーもセバスもそれを止められなかった。

「私の為に命を賭けると約束するのなら、見せても良い」

 アンネの言葉には、圧力があった。命を賭けれないなら前言撤回しろという意思が込められていた。

「約束しましょう。私は命を賭けて御身をお守りいたします」

 その言葉を聞いて、アンネは帽子を脱いで顔をさらした。ウィルも他の団員達も息を飲んだ。そこには絶世の美女が居た。正確には将来美女になるであろう幼女が居た。

「その言葉、信じる。私を守れ」

「ありがたき幸せ。命を賭して守らせていただきます」

 そう言ったウィルの心の内を見て、僕は激怒した。だが、ここで彼らを殺せば僕はただの虐殺者になる。彼の心を知っているのは僕だけだった。言葉だけを信じれば彼は何も悪い事は言っていない。

 だから、奴らが馬脚を現した時、僕は彼らを一瞬で皆殺しにすると誓った。


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