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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

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幽霊船2

 深夜の海に透き通った歌声が響き渡った。

「迷える魂よ。輪廻の輪から外れた存在よ。その永劫の苦しみから解き放たれる時が来た」

 アンネが歌い出すと、何故か天から光が降り注ぎアンネを照らした。それは、さながらアイドルのコンサートでスポットライトが当たったかのような光景だった。そして、アンネは歌がとても上手かった。

 スケルトンたちは歌声を無視して殺到してきた。僕とキョウレツインパクトは、先頭集団を素手で薙ぎ払った。

 スケルトンの中には鎧を着た戦士風のスケルトンも居た。僕は強いスケルトンを優先的に浄化しようと思ったので、雑魚スケルトンは素手で吹っ飛ばすだけにした。

 一方、キョウレツインパクトはそんな事は考えもせずにがむしゃらにスケルトンを吹っ飛ばし、すでに3回の浄化を使い終えていた。だが、奴はそれで良いのだ。難しい指示を出しても理解できないのだから……。

 スケルトンたちは僕とキョウレツインパクトで吹っ飛ばしまくった。ボーリングの球に弾かれるピンの様にスケルトンたちは総崩れになった。なので、前線の時間稼ぎは完璧だったが、上空からは幽霊が襲って来た。僕とキョウレツインパクトを無視して後衛に襲い掛かっていった。

 上空の幽霊たちを後衛の魔法使いが攻撃魔法で迎え撃つが、一旦は効果があって幽霊は四散するが、時間が経つと元に戻っていた。神官の浄化の魔法が頼りだった。そんな時、クルトが放った矢が幽霊たちの集団に穴を開けた。これはいけるかと思ったが、その穴もすぐに塞がってしまった。

 アンネの歌は続いていた。

「忘れないさい。己の罪を。忘れなさい。己の執着を。忘れなさい。全ての後悔を」

 歌が進む度に、光の範囲が広がっていった。だが、そこで幽霊に対する魔法が止んだ。魔法使いや神官たちの魔力が尽きたのだ。

 幽霊たちが魔法使いと神官に殺到した。すると、幽霊に憑りつかれた者が発狂した。結果、後衛が大混乱に陥り、アンネに攻撃に向かう者も出始めた。だが、それを阻止したのがのラビだった。

「メイド流光殺法こうさっぽう宝技ほうぎ地清浄ちしょうじょうの舞』」

 モップを振り回し人間ではありえない高さまでジャンプし、空中でヘリコプターの様にモップを回転させた後、モップの糸の部分を下にして垂直落下した。

 モップが甲板に激突すると何故かその部分を中心に半円上の白い光が発生した。そして、正気を失っていた後衛が元に戻り、憑りついていた幽霊たちが浄化された。さらに、ラビが発生させた光に触れた幽霊たちも浄化された。

「メイド流光殺法、宝技『天清浄てんしょうじょうの舞』」

 ラビはもう一度高くジャンプし、空中でモップを縦横無尽に振り回した。すると、空中に光が留まり結界の様に幽霊たちと後衛の間に立ちふさがった。幽霊たちはラビが残した光に触れると浄化されていった。

「あれが、白い踊り子ブラウ・テンツァーの舞か、なんと美しい……」

 ラビに助けられた冒険者たちが感嘆の声を漏らした。そうこうしているうちにアンネの歌が次の段階に移った。

「聞きなさい。私の歌を」

 その瞬間、アンネを照らしていた光が幽霊船全体を包み込んだ。そして、スケルトンと幽霊は動きを止めた。冒険者も僕もアンネの歌に聞き入った。

「聞きなさい。私の願いを

 聞きなさい。私の慈悲を

 聞きなさい。私の慈愛を

 もう苦しまないで

 もう恨まないで

 天に帰りなさい

 あなたたちにはその資格があるです

 憎しみも執着も手放しなさい

 あなたたちには、もう憎しみと執着を生み出す体は無いのだから

 天に帰りなさい

 すでに神の慈悲は与えられています

 すでに神の愛は、あなた達に届いています」

 スケルトンは、骨を無くし魂だけの姿になった。そして、生前の姿と思われる人間の姿で穏やかな表情で立ち尽くしていた。あるものは海賊の姿であるものは水夫の姿で、ある者は戦士の姿だった。幽霊たちも同様に人間の姿を取り戻し、穏やかな表情をしていた。

 月明かりの中で光り輝くアンネを見た時、僕は美しいと思うと同時に、決して手に入らない高嶺の花を見ているような気分になった。

 僕が感傷に浸っている時に、事態は一変した。人間の姿を取り戻した幽霊たちが一斉に苦しみだしたのだ。

『嫌だ!もう嫌だ!戻りたくない!助けて!』

 幽霊たちはみな同じ事を口にして消えていった。僕は魔法『索敵』を使った。すると船の中に敵の反応があった。やはり、ここに浄化した幽霊をリセットする何かがあるのだと思った。

「最後のは何だったんだ?」

 ムラマサが不審に思い声を上げた。

「いや、でもすげえ魔法だった。あれだけいたアンデットをいっぺんに浄化してしまったぞ」「それに歌声も綺麗だった。俺、もう一度聞きたい」「アンコールだ!」「アンコール」「アンコール」

 冒険者のみんなは既に戦いが終わったとばかりに気を緩めていた。

「あの、まだ戦いは終わってないんですが……」

 僕が控えめに主張したので騒ぎは収まる気配が無かった。そんな僕をムラマサが見ていた。

「おい!おめぇらうかれてんじゃねぇ!」

 ムラマサの一喝で冒険者たちは理性を取り戻した。

「あ、すみません」「勝ったと思ってました」

「救世主様が話があるそうだ。まずは聞け!」

『分かりました』

 ムラマサは冒険者たちを見事に統制していた。みんな僕の言葉を待っていた。だから、説明を始めた。

「まずは、一旦アンデットを退けはしましたが、みなさん思い出して欲しいんです。この船は沈めても復活し、アンデットを浄化しても復活していましたよね?」

「ああ、そうだ」

 冒険者を代表してムラマサが答えた。

「その元凶が、この下に居ます」

「となるとみんなで行くことになるか?」

 それは不味いと思っていた。浄化したアンデットが全部復活すると仮定し、そのタイミングが分からないかった。もし仮に相手の都合のいい時に復活できるとしたら、狭い空間で密集している時に復活されたら犠牲者が出る。もちろん、蘇生魔法で蘇らせるつもりだが、幽霊たちが残した言葉『もう戻りたくない』が、どこかの場所だとして、ここで死ぬとそれに囚われてしまう可能性があった。

 そうなるとみんなで下に行くのはリスクが高かった。出来れば犠牲なく勝ちたい。という訳なので、下に行くのは僕一人、残りのメンバーには甲板で待機してもらいたかった。甲板での戦いなら先ほど勝利している。同じ数が出てきてもキョウレツインパクトとラビとアンネが居れば対処できるのだ。

「できれば、僕一人で行かせてください」

「なんでだ?」

「浄化したアンデットがいつ復活するか分からないからですよ。僕は出来る限り犠牲を出したくないと思っているんです。甲板での戦いなら先ほどの要領で確実に勝利できます。ですが、狭い船内で同じように戦う事は出来ないでしょう?それに、ゲスな話をしますが、僕は手柄を独り占めしたいんですよ」

「最後のは余計だよ。だれも救世主様が私利私欲で動くと思ってねぇ。今までやってきた事を知ってるからな」

 ムラマサがそう応えた。

「そうだそうだ」「嘘が下手だぞ」「全く噂通り本当に優しいんだから」

 冒険者たちも同意していた。

「分かりました。正直に話しますよ。誰も犠牲になって欲しくないので一人で行きます」

「最初からそう言えば良いんだよ」

 そう言ってムラマサは爽快に笑った。

「それじゃあ、シュワルツ様が下を探っている間、甲板の汚れを掃除しても良いですか?」

 ラビが目を輝かせて聞いてきた。どうやら汚い船を掃除したいらしい。

「良いよ。気が済むまで掃除してくれ」

「じゃあ、ハタキも貰って良いですか?」

「良いよ」

 僕はそう言って魔法『道具生成』でハタキを作ってラビに渡した。

「ありがとうございます。シュワルツ様」

 ラビはハタキを受け取ると、左手でハタキ、右手でモップを持った。そして、ハタキで天を差しモップで地を抑えるなんか優雅なポーズを決めた。

「メイド流光殺法こうさっぽう宝技ほうぎ大祓おおはらいの舞』」

 そう言った後で、ラビはハタキとモップを振るい。船の甲板を踊りながら掃除し始めた。

「じゃあ、私はアンデットが復活してもすぐに浄化できるように『鎮魂歌』を歌うね」

 アンネはそう宣言して魔法『鎮魂歌』を歌い始めた。

「じゃあ、あっしはラビに負けないように踊るっす」

 キョウレツインパクトが拳法の型を始めた。キョウレツインパクトは一流の格闘家だった。その動きは優雅にして繊細だった。武術を収めたものなら見惚れるほど完成度が高かった。こうしてアンネローゼコンサートが始まった。バックダンサーはラビとキョウレツインパクトだった。

 僕は、離れがたい衝動を振り切って涙を隠しながら下の階に移動した。出来る事なら全部見てから降りたかった。アンネもキョウレツインパクトもラビも完成度高すぎだろう。


 甲板上のコンサートを見たいという欲求を振り切って、僕は一人で船内に降りた。船内にもアンネの歌は届いていて本来なら暗いはずだが明るく輝いていたのだ。船内には大砲がずらりと並んでいた。砲弾や火薬の類も置いていあった。そして、船尾の方に玉座らしき立派な椅子とそれに腰かけた海賊の頭らしきスケルトンが居た。

 そのスケルトンの右目には青い宝珠が嵌められて光を放っていた。左目には赤い宝珠が嵌められて光を放っていた。『鑑定の魔眼』でそれぞれの効果が分かった。右目の青い宝珠は『復元のラピスラズリ』だった。その効果は宝珠が鎮座されている構造物を任意の時点の状態に戻せるという、家や船を持っている者なら喉から手が出るほど欲しいチートアイテムだった。

 左目の赤い宝珠は『不死者の都』だった。半径1キロメートル以内で死んだ魂を永久に閉じ込めアンデットとして蘇生し兵士にする事が出来る『神々の遺産アーティファクト』と呼ばれるものだった。『不死者の都』の方が『復元のラピスラズリ』よりも価値が高かった。

 それを確認した瞬間、僕の行動は決まった。『不死者の都』は破壊する。『復元のラピスラズリ』は奪う。それらを所持する海賊のスケルトンは浄化する。『不死者の都』を破壊する理由は、幽霊たちの苦しむ表情を見てしまったからだ。レアアイテムを破壊するのは心苦しいが、助けたいと思ってしまったのだから仕方がない。

 人間の姿の時に『殲滅の闘法』の『流星咬』は『流星拳』と変わっていた。なので、『流星拳』で『不死者の都』を破壊し、『復元のラピスラズリ』は奪い取り、残った体はカミラの魔法で浄化能力の付いた刀で、浄化する事にした。

 『不死者の都』を破壊する為に魔法『道具生成』でメリケンサックを作り、右手にはめた。相手との距離は10メートル程だった。僕が構えても海賊のスケルトンは動かなかった。なので、遠慮なく『流星拳』を放った。僕は流れ星になって『不死者の都』を右の拳で打ち抜いた。

 僕の拳が当たると『不死者の都』はあっけなく砕け散った。すると、宝珠からおびただしい数の幽霊があふれ出した。これはピンチか?と思ったがアンネの歌で幽霊は速攻で浄化され消えていった。

「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」「ありがとう」

 感謝の言葉を残して霊たちは消えた。残った海賊のスケルトンもアンネの歌で浄化され始めた。右目の『復元のラピスラズリ』が床に落ち、骨は消え去り、立派な黒ひげを蓄えた中年のイケメンの霊が現れた。

「救ってくれてありがとう。さんざん悪事をはたらいてきたが、罰にしては酷すぎる。終わりがない事がこんなにも苦痛だと思わなかった。本当にありがとう」

 その言葉を残して海賊の霊も消えた。僕は『復元のラピスラズリ』を手に入れた。そして、魔法『空間転移』で甲板に戻った。甲板ではアンネのコンサートがクライマックスを迎えていた。甲板はラビの『大祓の舞』で光り輝いていた。そして、キョウレツインパクトも何故か発光していた。

 僕が戻ったことに誰も気が付かなかった。そして、アンネが歌い終わるとラビとキョウレツインパクトも踊りを良い感じに終わらせた。そして、拍手喝さいが起こった。

「良い歌だった」「感動した」「ラビ様の踊りも最高だった」「キョウ殿の踊りも凄かった」「いいもの見せてもらった」

 僕はアンネの元に歩いていった。そこでみんなが僕に気が付いたようだ。ものすごく注目を集めていた。こんなにも注目される事が無かったから何故か緊張した。それは、コンサート会場でアイドルに呼ばれてステージに上がるファンの様な心境だった。

「アンネ。終わったよ」

 平静を装って言葉を出せたのは奇跡かもしれない。

「そっか、じゃあ、帰ろう。私、もう眠い」

 そう言ってアンネは大きなあくびをして、ウトウトし始めた。僕は、アンネの手を取って、魔法『空間転移』で宿に移動した。キョウレツインパクトとラビも一緒に連れてきた。

「ラビ、アンネを寝かせてくれ、僕は後始末をしてくるから」

 僕がそう言うとアンネが不満そうに文句を言ってきた。

「今日は一緒に寝てくれないの?」

「用事が終わったら一緒に寝るから」

「すぐに帰って来てね」

「分かった。だから、ベットに入ってるんだよ」

「うん」

「キョウレツインパクト。何もないと思うけど、何かあったらアンネを守ってくれ」

「合点承知!」

 キョウレツインパクトは、元が馬なので僕と同じく熟睡する時間が少ないし、物音がすればすぐに目を覚ますので、護衛にはもってこいだった。まあ、正確には馬ではなく聖獣『草原の覇者』なのだが、性質は馬に近かった。

 アンネの護衛をキョウレツインパクトに任せて僕は船に戻った。


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