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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

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港町アムス2

 僕の構えを見て店主は目を丸くしていた。

「おいおい、冗談だろ?その歳でなんでそんなに隙がねぇんだ?」

 店主は刀匠だが、レベル50だった。そこいらの冒険者より頭一つ抜けている強さだった。戦闘スタイルは『侍』だった。店主と僕がもめているので人だかりが出来ていた。

「おいおい、またあの店主かよ」「あのボウヤも可哀そうにね」「選ぶ店を間違えたな」

 どうやらこの店主問題児らしい。

「剣聖ルベドが師匠なのでね」

 僕は刀を買いたかったので、師匠の名を出した。

「ハッタリだ。一本取って見せない限り俺の剣は売らねぇ」

 店主がそう言うと野次馬たちは口々にこう言っていた。

「始まったよ」「最初から売る気が無いならそう言えば良いのに」「また、弱いものイジメかよ」

 ただし、これらは野次馬の一方的な意見だった。店主は心から自分が作った武器が無能なものに使われる事を嫌がっているだけだった。心血注いで作った武器なのだ。それなりの使い手に買って欲しいという職人気質の考えだった。

「避けなきゃ死ぬぞボウズ!」

 店主は刀を両手で持っていた。それをワザと大きく振りかぶって振り下ろした。素人ならそれだけで逃げ出すと思っていた。

 だが、僕は目もつぶらないし構えも崩さずに微動だにしなかった。店主の刀が僕に当たらない事を確信していた。

「おい、なんで動かなかった?ビビッて動けなかったか?」

 凄みを聞かせて店主が聞いてきた。

「当てるつもりのない攻撃をかわす必要がありますか?」

「ふ~ん。じゃあ、これならどうだ!」

 今度は、僕の額の薄皮一枚斬るつもりで店主が大上段から一撃を放った。今度は大振りではなく、最短距離を正確に無駄な動き無く斬りつけた。僕は、数ミリ引いて刀をかわした。

「本当に、剣聖様の弟子だってのか?」

 店主は僕の動きを見て、素人ではない事を確信した。

「証拠を見せますね。危ないので、動かないでくださいね」

「あ?なにを言って……」

 僕は店主が何かを言う前に一瞬で間合いを空けて一撃を放つ。

「修羅一刀流、一の太刀、雷撃らいげき

 天空から落ちる雷撃の如き一撃を見せる。もちろん店主には掠りもしない距離だ。

「本当なのか……」

 店主は驚愕の表情を浮かべて言葉を失っていた。僕は剣を消滅させて店主に話しかける。

「この通り、腕はあるんだけど武器が無くて困ってるんだ。売ってくれないかな?」

「分かった。売ろう」

 店主は我に返って、僕が選んだ刀ではなく店主が持っていた一番高い刀を渡してくれた。

「え?あの高くて買えませんよ?」

 今度は僕が困惑する番だった。

「金は要らねぇ、受け取ってくれ」

「え?でも?あなたにも生活があるでしょう?」

「金には困ってねぇ」

 この言葉は本当だった。なぜなら、この店主冒険者もしていて、売っている武器がナマクラばかりだから自分で武器を作る事にしたらしい。なので、金には本当に困っていなかった。

「おい、あの『狂気の刀匠』ムラマサに認められたぞ?」「何もんだあの少年?」「おい、あれって最近噂の救世主『黒の魔法使いシュワルツ・マギア』様なんじゃ?」

 騒ぎが大きくなってきた。

「ですが、価値あるモノには対価を支払うというのが僕の信条でして、あなたの作った武器には価値があります。なので真銀貨一枚で買える武器にしてください」

 そう言って刀を返した。

「そうか、それが信条なら仕方ねぇ。真銀ミスリル製の刀なら、魔法剣も使えるし魔剣にも出来るんだが、本当に良いのか?」

 そういう事は先に言って欲しかった。魔法剣も魔剣も男のロマンだった。欲しいと思ったが今更、前言撤回するのはカッコ悪かった。

「男に二言はありません」

 僕はきっぱりと諦めて、お金を貯めて後でちゃんと買おうと心に誓った。

「じゃあ、値引きして買える最高の刀をあんたにやるよ」

 そう言って渡してきたのは、真銀貨10枚の刀だった。鉄製の歪みの無い完璧な刀だった。

「良いんですか?」

「ああ、原価は割ってねぇ」

「分かりました。本当は技術料込みで払いたいですけど、あなたの思いを汲んで受け取ります」

 そう言って真銀貨一枚を渡した。

「それでいい。大事に使ってくれ」

「ありがとうございます」

 こうして僕は刀を手に入れた。野次馬たちは騒ぎが収まったのを見届けると居なくなった。


 無事、目的も果たし、観光も順調に進み、最終目的である港に着いた。時間的には午後3時ぐらいだった。青い海、青い空、白い雲を見て、僕とベルタ以外は感動していた。港町なので、白い砂浜は無かった。

 それでも行き来する船を見て感動していた。

「すごい。動いている船を見たの初めて」

 アンネは船が動いているのを間近に見て感動していた。

「船ってデカいっすね」

 キョウレツインパクトは船の大きさに見入っていた。

「うわ~。海に浮いてる~」

 ラビは船が浮かんでいる事に感動していた。

「遊覧船もあるけど、乗ってみる?」

 ベルタが提案するとみんな喜んで返事をした。

「乗りたい!」

「あっしも!」

「私も乗ってみたいです~」

「僕も乗るよ」

「じゃあ、こっちよ付いてきてね。あ、でも船酔いには注意してね」

 ベルタが先導しながら注意事項を言った。

「船酔い?」

「船に乗ると気分が悪くなることがあるの」

「そうなんだ。そうなったらどうしたら良いの?」

「どうにもならないって聞いた」

「そっか、船酔いにならないように祈るしか無いのね」

「そういう事」

 そんな会話をしつつ船に乗った。


 遊覧船はそれなりの大きさの船で甲板に客が座れるような椅子が複数設置されていた。そして、館内にはガラスの窓が嵌められており、外が見れるようになっていた。船底にも強化ガラスが嵌められていて海の中の様子も見えるようになっていた。

 船の中にはレストランや軽食店もあり、豪華客船と言って差し支えない施設だった。さらに、この船は帆船なのだが、動力が風の魔法使いだった。魔法の力で進むので風の魔法使いの魔力がある限り、安定した航行が可能だった。

「さあ、どこから見て回る?この船は2時間のコースだけど、お勧めは、最初に船底で魚を見て、軽食店でおやつを食べて、夕方に甲板で夕焼けを見るのがお勧めよ」

 ベルタの提案が一番この遊覧船を楽しむ方法だというのは説明されるまでもなく理解していた。ベルタが午後3時まで町で時間を潰したのも納得がいく。この提案に反対するものは居なかった。ちなみに、誰も船酔いにならなかった。


 最初の船底での魚の観賞は凄かった。色んな魚が港湾内を泳いでいる姿が見て取れた。単独で遊泳する魚も居れば集団で大きな群れを成す魚も居た。海の神秘を見てアンネは感動していた。

「すごい!海の中って自由なんだね」

「鳥が空を飛ぶように、魚は海を泳げるんだよ」

「私も魚の様に泳げるかな?」

「それは、訓練しないと難しいと思うよ?」

「そうなの?」

「そうだよ?アンネは泳いだこと無いの?」

「ない」

 アンネは自信満々に言ってきた。まあ、皇女様なのだから泳ぐなんてしないのだろうけど、威張るポイントが分からなかった。

「じゃあ、火の季節になったら私が教えてあげるね」

 ベルタが嬉しそうに言った。ちなみに、火の季節は夏に当たる。

「ベルタは泳げるんだ」

 アンネが驚いて聞き返した。

「もちろんだよ。この近くに白い砂浜があるの」

「じゃあ、火の季節になったら、この町で待ち合わせだね。約束しよう」

 そう言って、アンネは小指をベルタに差し出した。

「なに?それ?」

「指切りげんまん。知らない?」

「分からない。どうするの?」

「こうやって小指を繋いで、こう言うの」

 アンネはベルタの手を取って小指を出させ、小指を繋いで言葉を続けた。

「指切りげんまん。嘘ついたら針千本の~ます。指切った」

「変わった約束の仕方ね。どこで習ったの?」

「よく分からない。何となく知ってた。あ、シュワちゃんも知ってたよ?」

「救世主様はどこで習ったの?」

 どう説明したら良いのか分からなかった。だから、斜め上の回答をする事にした。

「宇宙からの電波を受信したんだ」

 アンネとベルタは目が点になっていた。よし、誤魔化せたようだ。

「まあ、よく分からないけど良いわ、次はおやつを食べましょう」


 ベルタの先導で船の中層に移動した。夕食前に間食するのは僕の主義では無かったが、僕以外はおやつを楽しみにしていた。特にベルタは僕が救世主だと知ってからは拒食症が改善していた。となると、美味しいものを食べたいという願いを無下には出来なかった。

 船の中層はビュッフェ形式のレストランだった。席はどこに座っても良く、料理も好きなだけ取ってよかった。遊覧船への入場料が一人当たり金貨2枚だったが、その料金設定も納得の料理とお菓子が並んでいた。

 アンネとベルタはジュースとお菓子をキョウレツインパクトとラビは野菜をとってきて食べていた。僕は、紅茶とバタークッキーを数枚持ってきて食べていた。

「救世主様って、食べ物のチョイスが大人っぽいよね?誰かの真似をしてるの?」

 ベルタが怪訝そうに聞いてきた。

「いや、別に、なんとなく気になったものを取ってきただけだよ」

「嘘だ~。紅茶に砂糖を入れずに飲むなんて大人の真似してる証拠だよ。そんな苦いだけの飲み物、何も入れずに飲むなんてありえないわ」

 ベルタは鬼の首を取ったかのように僕に指を突きつけて断言してきた。だが、大人の真似をしている訳では無かった。単純に味覚も嗜好も前世のものを引き継いでいるだけだった。

「本当に大人ぶってる訳じゃないよ」

「じゃあ、紅茶だけで飲めるの?」

 ベルタは自信満々だった。苦いだけの飲み物を単独で飲めるわけが無いと思っていた。僕は、普通に紅茶だけ飲んだ。苦いとは思うが、紅茶自体の香りを味わった。この香りが良いのだ。

「これで良い?」

 僕は紅茶だけ優雅に少しずつ香りを楽しんで飲んで見せた。ベルタはショックを受けていた。

「うそ、なんで……」

「紅茶は香りを楽しむものだよ」

 言っている事は大人の意見なので、子供が背伸びして苦いものを飲んでいると思われても仕方ないが、本心で言っていた。

「苦くないの?」

「苦いよ」

「なんで、飲めるの?」

「香りが良いから」

「そう、そうなのね……」

 ベルタは何故か敗北を認めたらしい。僕は紅茶をお替りして、今度はクッキーと一緒に楽しんだ。紅茶の香りとクッキーの甘味が交わり口福こうふくを感じていた。こんなゆっくりとした時間、前世では無かったな~と思った。

「シュワちゃん。私も紅茶飲んでみたい」

 僕が幸せそうにクッキーと紅茶を楽しんでいるのを見てアンネも試したくなったらしい。

「いいよ」

 そう言って紅茶のカップを渡した。アンネはカップを受け取ると紅茶をフーフーして冷まして少し飲んだ。

「に~が~い~~」

 そう言って僕にカップを突き返してきた。

「そうだね。苦いね。でも、これを食べてみて」

 そう言ってクッキーを差し出した。アンネは僕の差し出したクッキーを食べた。

「あ、甘~い」

「紅茶の苦みと香りがクッキーの甘さと調和するよね?」

「シュワちゃんが美味しそうに食べてる理由は分かったけど、私は最初から甘い方が良い」

「そうだね。最初から甘い方が食べやすいもんね」

 何気なく間接キスをしていた。僕も意識しなかったしアンネも意識しなかった。僕とアンネの関係に変化は無かった。


 おやつを食べ終えると甲板に出た。そこには沈みゆく太陽とオレンジ色の空と海があった。

「うわ~。凄い綺麗」

 アンネは初めて見る光景に感動していた。キョウレツインパクトとラビも景色に見入っていた。そんな中、ベルタが僕に聞いてきた。

「救世主様は楽しかった?」

「ああ、楽しかったよ」

「それにしては、反応がいまいちだった」

「僕はあまり感情を面に出すタイプじゃないからね」

「アンネが言ってたけど、救世主様って本当に嘘つきね」

 なぜ、アンネもベルタも人の心を読んでくるんだ。顔には一切感情を出していないのに……。

「嘘は言ってないよ。楽しかったし、今見ている風景も感動してる。でも、一度見た事があるから反応が薄いだけだよ」

「ふ~ん。どこで見たの?」

「それは秘密だよ」

「まあ、いいわ。詮索はここまでにする。今日は幽霊船を倒しに行くんだよね」

「そうだよ」

「じゃあ、お願いね。私のお父様の仕事に支障が出ているの」

「え?デニスの商売に関係があるの?」

「そうだよ。だから、今夜は父様が船を救世主様に貸すんだって言ってたよ」

「そうなの?初耳なんだけど?」

「そりゃそうよ。私が伝言を預かってたんだもの」

「いや、船が必要だって冒険者ギルドの説明に無かったからさ」

「普通の冒険者はギルドの用意した船で向かうのよ。だから、港に集合とだけ聞いてたんでしょ?」

「そうか、そういう意味か、てっきり港に幽霊船が着岸するから乗り込むんだと思ってたよ」

「港に着岸されたら大惨事になってるよ。海で迎え撃っているから町の平和が保たれてるんだよ」

「これは、責任重大だな」

「そうだよ。だから、お願いね救世主様」

 ベルタは可愛らしい笑顔で僕にお願いしてきた。お願いをされずとも僕は羅刹二刀流の奥義をもって幽霊船を消滅させるつもりだった。

「任せてよ」

 僕がそう言うとベルタは僕を信じた。

(あの巨大な赤い竜を倒したんだから、幽霊船如き救世主様の敵ではないよね)

 どうやら、ベルタの中で僕は何でも倒せる存在になったらしい。だが、僕は上を知っていた。母さんには逆立ちしても勝てない。母さんが人間の敵となった時、僕は母さんを倒せるイメージを持てなかった。唯一の希望はアンネの願いだけだった。


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