港町アムス1
アンネ、ベルタ、キョウレツインパクト、ラビと僕の5人で港町アムスを観光していた。赤い竜が現れて一瞬で消えた事は、多少騒ぎになっていたが現れた理由も消えた理由も僕もアンネも説明しなかったので、不思議な事が起こったぐらいの認識だった。なので、普通に観光ができていた。最初に入った店は服屋だった。
店に入ると、案内役らしい髪をオールバックにした金髪の紳士が立っていた。
「いらっしゃいませベルタお嬢様。今日はどのような服をご所望ですか?」
そう言って紳士はお辞儀をした。
「今日はお友達を連れてきたの彼女と適当に見て回るから、案内は必要ないわ」
「畏まりました。では、ごゆっくりご覧ください」
ベルタは慣れた様子で、店員に応対していた。
「さあ、こっちよ」
ベルタはアンネの手を引いて店の奥へ移動した。そこには子供用の服がずらりと並んでいた。品数は圧倒的だった。西洋風の服だけでなく、東洋、インド、アジア風の服があったのだ。異世界にもインドやアジアに似た国が存在しているのだろう。さすが港町だった。
ベルタとアンネはとっかえひっかえ服を試着していた。二人とも美人なので、何を着ても似合っていた。
僕とキョウレツインパクトとラビは二人が服を着替えて遊んでいるのを見ていた。
「ねぇ、シュワちゃん。これから、少し暖かくなってきたから、この服が欲しいんだけど良いかな?」
そう言って、持って来たのは半袖のワンピースだった。色は水色で、青いリボンが所々についていた。涼しそうな服だった。
「良いと思うよ」
「じゃあ、これ買うからお会計お願いね」
「分かった」
僕は金貨10枚程度だろうと思って快諾した。
「あの服買います」
僕がアンネを指さして店員に告げた。
「では、金貨50枚になります」
「え?あの、桁が間違っていませんか?」
「いえ、この服に使われている青色の染料は貴重品でして、遠い国ヒンドから仕入れたものを使っておりますので……」
店員は嘘を言っていなかった。なので、支払うしかない。一着50万の服って着物かよと思ったが、アンネの機嫌を損ねる方がよっぽど損失なので支払う事にした。それに、幽霊船を消滅させた場合の報酬が金貨500枚だったので、支払っても問題ないと思った。
アンネは早速水色のワンピースに着替えた。金色の長髪にとても似合っていた。ベルタは赤い髪を目立たせるために、白いワンピースを着ていた。赤毛は綺麗だったが服と合わせるのが大変そうだった。基本的に赤と相性が良い色少なかった。なので、ベルタは白いワンピースと黄色のワンピースを買っていた。白いワンピースの方は今着ているものと襟元と袖の刺繍が違っているものを買っていた。
「私は、これとこれを買うわ。そして、今日は黄色の方を着て帰る。いつも通り請求はお父様に、服はいつもの宿に届けておいてね」
ベルタは店員にそう言った。
「畏まりました」
店員はベルタから服を受け取り、着て帰ると言った服を女性の店員に渡して、奥に移動していた。女性の店員はベルタの着替えを手伝うためにベルタを案内した。デニスはかなりの金持ちらしい。店員からの信頼も半端なかった。
服屋を出てからベルタお勧めのレストランに入った。そこで、少し遅めのランチを食べる事になった。このレストランでもベルタは常連らしく、海の見える見晴らしのいい広い席に案内された。
「すごい!海が見える!」
アンネは感激していた。確かに絶景だった。港も一望できるベランダに設けられた席だった。空にはカモメに似た鳥が飛んでいて、港には大小さまざまな船が停泊し出入りしていた。海は青く輝き、潮の香りも感じられた。
「あれが海っすか~。大きいっすね~」
「こんな景色初めてです~」
キョウレツインパクトとラビも感動していた。僕は前世で画像だけならテレビやらインターネットで見慣れていた。でも実物を目にするとそれなりの感動はあった。
「みんな、気に入ってくれたみたいね。よかった」
ベルタは輝くような笑顔を見せた。
「連れてきてくれて本当にありがとう。ベルタ」
アンネも輝くような笑顔で返した。
「さあ、風景も良いけど料理も絶品よ。注文しましょう」
そう言って、ベルタが席に着いたので、僕たちもテーブルに座った。相変わらず文字は読めないが、メニューの内容はアンネとベルタを通して理解できた。港町に相応しく魚介類の料理が豊富だった。しかも、高級レストランなので、魚介類以外のメニューも豊富だった。
「さあ、何でも頼んで頂戴、ここは私が驕るわ」
ベルタは張り切っていた。自分がアンネをおもてなしすると意気込んでいた。
「じゃあ、ベルタのお勧めを食べたいな」
アンネがベルタにそう言った。
「まかせて、とびっきり美味しい料理があるの」
ベルタは自信満々にそう言った。
「じゃあ、僕も同じもので」
ここは、食べた事がある人に任せた方が良いと思った。
「俺っちはニンジンで」
「あたしもニンジンで」
キョウレツインパクトとラビは相変わらずだった。
「少し、不思議に思ってたけど、なんで二人はいつも野菜ばかり食べてるの?」
ベルタは旅の間、野菜しか食べない二人に疑問を抱いていた。
「ああ、キョウとラビは菜食主義者なんだ」
「あ、やっぱりそうなんだ。宗教的な理由?」
「少し違うけど、そういう認識で問題ないよ」
「そうなんだ。ここ港町だから色んな国の人が出入りしてでしょ?だから、違う文化を持つ国の風習にも対応してるの。菜食主義用のメニューもあるけど見る?」
キョウレツインパクトは文字など読めない。だからキョトンとしていた。
「あ、見てみたいです」
ラビの方はメイドのスキルのお陰で教養があるので興味を持ったらしい。
「じゃあ、持ってこさせるわね」
「すみません。菜食主義者用のメニュー持ってきてください」
ベルタがそう言うと清潔感溢れるウェイターがメニューを持って来た。ラビが受け取りざっと目を通した。そして、満足げに頷いていた。
「私、メニュー決まりました」
「分かった。そちらのインパクトさんは決まりました?」
ベルタは一緒に旅をしてから初めてキョウレツインパクトを呼んだ。奴を紹介する時にキョウ・レツ・インパクトと教えたので、苗字で呼ぶとインパクトになる。だが、奴には通じていない。なので、僕が念話でフォローする。
(キョウレツインパクト。とりあえずラビと同じものを頼むと言うんだ)
(合点承知!)
奴は念話を使えないが心の中で返事をしてくれた。
「とりあえずラビと同じものを頼む」
キョウレツインパクトはカッコよく言った。ベルタは心の中でこう思っていた。
(あまり接点が無かったけど、結構強そうでカッコいいのよね。無手の覇者だっけ?彼を護衛に雇えないかしら?)
ベルタは自分の身を守る為に戦力増強を考えていた。しかし、それは無理だろう。なぜなら、奴は忠誠心の厚い男だった。
「じゃあ、ウェイターを呼ぶね」
ウェイターが注文を取りに来た。
「ニシンのマリネとカレー粉と牛肉のコロッケとエビとアボカドのサンドイッチを3人分、あと飲み物に紅茶を甘めのミルクティーで」
ベルタが慣れた様子で注文した。そして、ラビを見る。
「私とキョウ様は、ニンジンのステーキと春野菜のサラダドレッシングなしで、飲み物はニンジンジュースを砂糖入りで」
ラビもメニューを理解して注文していた。
「畏まりました」
そう言ってウェイターは下がっていった。
「ずっと気になっていたんだけど、救世主様とアンネの関係って何なの?恋人?友達?」
ベルタの問いに僕とアンネは口をそろえて答えた。
『友達だよ』
それを見てベルタは笑った。
「本当に仲がいいよね。もし、6年後結婚するって決めた時は私も結婚式に呼んでね」
ベルタが6年後と言ったのはこの世界での成人の年齢だった。15歳で結婚するのが一般的だったのだ。
「結婚はしないよ。だって私は婚約者が居るもの」
「フーリー法国の王子様、光の神子ライト様だよね?」
「そうだよ。だからシュワちゃんとは結婚できない」
「ねぇねぇ、ライト様ってどんな方だった?」
「え?会ったことは無いよ?」
「そうなの?婚約者なのに?」
「うん。婚約自体は国が決めた事だから」
「政略結婚か、聞くんじゃなかった……。そうなると御神託の相手は別にいるのね」
「母様もそう言ってた」
「その相手が救世主様?」
「よく分かんない」
「そうだよね。一生一緒に居たいと思う相手って難しいよね。私もよく分かんない」
「あ、でも、シュワちゃんとは一生の友達でいたいとは思うよ」
「そっか、友達か~。救世主様はそれで良いの?」
ベルタがニヤニヤしながら聞いてきた。
「アンネが良いなら良いよ」
僕は笑顔で答えた。これは本心だった。
「つまんない答え」
ベルタは不満そうな目で僕を見た。
「愛だの恋だのは大人になってからするものだよ」
「そうだね~」
ベルタは不満ながらも納得したようだった。そんな会話をしていると料理が運ばれてきた。どの品も美味しかった。魚介類とカレーは、この世界に来て初めて食べた。少し感動した。でも、アンネは僕とは比べ物にならないぐらい感動していた。
「これって何?こんな食感初めて、味も美味しい」
「そうでしょう。そうでしょう。これがニシンで……」
とても嬉しそうにベルタがアンネに料理の説明をしていた。そんな二人を他所にキョウレツインパクトとラビも感動していた。
「このニンジン美味いっス」
「先輩、これはニンジンのステーキって言って……」
この二人も幸せそうに食事をしていた。のんびりとした平和な空間だった。前世ではいつも一人で食事をし、その内容もコンビニ弁当が殆どだった。前世での食事は栄養補給という意味しかなかった。アンネと一緒に旅を始めてから食事が楽しいと思えるようになった。本当にアンネと出会ってからの日々は楽しかった。敵に襲われるというアクシデントは度々起こるが、それを差し引いても楽しい毎日が続いている。
食事を終えて町を見て回っていた。
「ねぇ、ベルタ。剣を買いたいんだけど、どこに行けば良いかな?」
「ああ、それならこの先の自由市場で買えるよ。私もアンネと一緒に見て回りたいと思っていたから、救世主様も気になる店があったら立ち寄ってね」
こうして、市場を見て回る事になった。市場には露店がずらりと並んでいた。アンネとベルタは髪飾りや首飾りを見て楽しそうに会話していた。キョウレツインパクトとラビは異国のお面やら不思議な道具を見て楽しそうにしていた。
僕は武器屋を探して市場を見ていた。鎧や兜などの防具も売られているようだ。しかも、海の向こうの国からもたらされている武器も売っていた。ただし、値段は物凄く高かった。剣一本が真銀貨一枚とかざらだった。
そうして見て回っていると日本人らしき中年の渋い顔のおっさんが日本刀を売っていた。
僕が刀を見ていてもおっさんは何も話しかけてこなかった。刀の値段は金貨10枚から真銀貨50枚までと幅が広かった。
一番安い刀を見ると、僅かだが刀身が曲がっていた。なるほど、安いのには安いなりの理由があるのか……。一方一番高い刀は、材質がそもそも違っていた。僕のスキル『鑑定の魔眼』は武器の性能も見せてくれた。一番高い刀は真銀で作られていた。高いのも頷ける。
さて、これからの戦いで魔法を封じられても剣を使えるように購入しようと思っていたが、まともな剣を買うとなると真銀貨一枚が必要となる。買って良いかアンネに聞いて見る事にした。アンネは近くの店をベルタと見ていたので声をかける。
「アンネ。真銀貨一枚の武器を買おうと思うんだけど良いかな?」
「良いよ。というか、お金はシュワちゃんが稼いで管理してるんだから旅に支障が出ない範囲でなら好きに使って良いんだよ?」
「そっか、ありがとう」
僕は日本刀を売っている店に戻って、おっさんに話しかけた。
「あの、この刀売ってください」
「真銀貨一枚だ。払えるのかボウズ?」
おっさんは不愛想に答えた。
「どうぞ」
僕はそう言って真銀貨一枚差し出した。
「誰かのお使いか?」
「いえ、自分で使う為に買います」
「おい、ふざけんじゃねぇぞ。俺の作った武器は玩具じゃねぇ。素人には売らん。帰れ」
どうやら職人気質のおっさんだったらしい。ステータスを確認すると職業が『刀匠』となっていた。自分で作って自分で売っているらしい。
「素人ではありませんよ。ちゃんと使えます」
「信じられねぇな、なら俺から一本取ってみろ」
そう言って一番高い刀を鞘から抜いて露店から出てきて僕に向かって剣を構えた。なので、僕は魔法『道具生成』で剣を作り出して大上段に構えた。




