表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/73

ストーカー1

 僕は、突然現れた赤い竜の近くに魔法『空間転移』で移動し、即座に赤い竜と一緒に無人の荒野の上空に転移した。

 赤い竜は、そのままブレスを吐いた。赤い炎が吐き出され、爆裂しながら空間を破壊していった。街の中で放たれていたら、死者は膨大な数になっていただろう。

 赤い竜のステータスを確認すると、LV99で生命力と体力と魔力は9999で他の能力値は全て999だった。まるでゲームで言う所のカンストしている値だったが、この世界でLV200の化け物を一人知っていたし、自分の魔力も1万越えなので、奴のステータスには何かの制限が掛かっているように思えた。

 そういえばセバスのレベルも99だった。あれもカンストだったのだろうか?この世界の上限がよく分からなかった。

 しかし、目の前の赤い竜が僕よりも強いのは確かだった。僕のLVは66で能力値は生命力と体力が400台で他は魔力を除けば600台なのだ。唯一の救いは魔力が膨大なので魔法は使い放題な事だった。

 相手のステータスを見ていて特徴的だったのは、名前が無かったことと種族名が赤の暴虐竜ローツ・ゲバイト・ドラッケンだった。厄災と恐れられる魔族の一つだった。

 とりあえず言葉は分かるらしいので交渉してみる事にした。奴の眼前に空間転移で移動して、話しかける。

「なぜ、僕の命を狙ってるんだ?」

「お前は、俺の大事なものを盗んだ。だから、返してもらう」

「大事なもの?」

「俺の女を盗んだ。平民の分際で!」

 そう言いながら、奴は僕に背を向けるように回転した。超高速で鞭のようにしなった巨大なしっぽが飛んで来る。僕は空間転移でかわした。そして、目の前の竜が何なのか理解してしまった。スキルに『嫉妬の炎』と『嫉妬』があった。それと、奴の思考の中に彼女の名前があったのだ。僕が殺した後で奴もこの世界に転生したらしい。となればやる事は一つだった。

 僕は魔法『道具生成』で黒刀を作り出した。そして、ストーカーの頭上に空間転移して、大上段に剣を構えた。このタイミングでアンネからの補助魔法がきていた。能力値が5割増し、持続的回復魔法が掛かった。さらにあらゆる状態異常の無効化と必殺技のダメージが倍増する効果が付与された。これで、能力的には互角となった。

「修羅一刀流、一の太刀、雷撃らいげき

 僕は一筋の雷の如く、天空から地上に降り注いだ。相手を脳天から両断した感触があった。渾身の一撃はストーカーを地面に叩き落とした。だが、ストーカーのダメージは瞬時に回復していた。トロールと同じように即死級のダメージが必要だった。

 ダメもとで魔法『殲滅の黒雷』を使った。黒い雷がストーカーに直撃するが、即座に回復した。ストーカーは起き上がり後ろ足で直立した。

「無駄だ。俺は貴様を殺す為に来たのだ」

 そう言い放ち、もう一度ブレスを吐いてきた。僕は空間転移でかわした。そして、死角から必殺の技を放つ。

「修羅一刀流、ついの太刀、修羅無限闘舞」

 無数の斬撃が、ストーカーを切り刻むが僕の連撃を受けても即死しなかった。体長100メートルはある巨体の表面を切り刻んでも致命傷にはならなかった。

「いまのは少し痛かったぞ」

 そう言ってニタリと笑った。僕は、犬の姿に戻り『斬鉄翼一閃』を放った。翼が伸び硬質化し、片方の翼は5メートルに伸びた。この状態で、ストーカーを上下に真っ二つにするべく空中を駆け抜けた。

 狙い通り、真っ二つにしたが、致命傷にはならず回復されてしまった。もっと速く広範囲に影響を与えられる攻撃で無ければダメだった。

「それが、本当の姿か!あの女の犬という訳か、これは傑作だ。ブハハハハ」

 ストーカーは笑いながらブレスを吐いてきた。僕は空間転移でかわした。一通り通用しそうな攻撃は試した。『魂砕き』と『無間地獄』は試さなかった。『魂砕き』は技の発動が遅いので相手を拘束する必要があるのだが、あの巨体を拘束できる気がしなかった。次に『無間地獄』は相手の全身を細切れにする事で魂を消失させる技なので、ストーカーの巨体を消滅させるまで斬り続ける体力が僕に無いので試さなかった。

 そこからは、防戦一方になった。ストーカーはブレスを吐き、尻尾を薙ぎ、飛び上がって上空から踏み潰しを放ち、鋼鉄の爪で切り裂こうとした。だが、空間転移で全てかわした。

「ちょこまかと鬱陶しいな」

 そう言うと、ストーカーは魔法『暴虐の爆撃』を使った。200メートル四方の空間全てが無数の爆裂で埋め尽くされる。僕は空間転移で退避した。

「ふむ、高速移動ではなく空間転移か、ならこれなら逃げられまい」

 ストーカーはニチャァという擬音が似合いそうな笑みを見せた。そして、スキル『傲慢』を獲得していた。僕は魔法が使えなくなった。常に使っていた魔法『飛行』も使えなくなり翼で飛ぶという事を久しぶりにやる羽目になった。

 そんな僕に奴はブレスを吐いてきた。避ける事が出来ないので僕は死んでしまった。だが、死んだ次の瞬間には蘇生していた。

(シュワちゃん。勝って!)

 アンネの念話が聞こえてきた。どうやら、アンネが僕を生き返らせえたらしい。補助魔法の時もそうだったが、魔法の効果範囲を完全に無視して発動している。特殊な魔法を除いて、目に見えない範囲に魔法の効果を及ぼすことは出来ないはずだった。だが、アンネの魔法は僕に届いていた。

(ありがとう。アンネ)

(お願い!勝って、あいつをやっつけて!)

 いつになくアンネは必死に訴えてきた。

(アンネ。どうしたの?)

(分からない!分からないけど、あいつが心底嫌い!そして、怖い!怖いよ。シュワちゃん。必ずやっつけて!生きて帰ってきて)

 アンネはストーカーを本能的に嫌っていた。こんな時、やっぱり彼女の生まれ変わりだなと思ってしまう。

≪スキル『愛の奇跡』の条件を満たしました。魔法『殲滅の黒流星こくりゅうせい』を獲得しました≫

 たぶん、アンネの願いで獲得したと思われるが、魔法は今封じられていた。だが、アンネが勝ってと願ったのだ。僕が叶えなくてはならない。

(分かったよアンネ。必ずあいつを倒して生きて帰るから、安心して)

(信じて待ってるからね)

 アンネがそう言うと、補助魔法が掛けなおされた。僕は、奴を倒す為に地上に降りて、人間の姿になった。奴を倒す為には、一撃必殺の技が必要だった。ここにキョウレツインパクトが居たのなら、それは可能だった。だが、ストーカーが出現したのが突然だったので、キョウレツインパクトを一緒に連れてくる余裕が無かった。

 だから、僕があいつを倒すしかなかった。それを可能とする魔法はアンネの願いで獲得済みなので、後は奴の『傲慢』のスキルをキャンセルすれば良いのだ。その手段もすでに思いついていた。それは、剣聖の血が僕に教えてくれた。その技を使う為には刀が必要だった。魔法『道具生成』は使えない。だから、アンネにお願いする事にした。きっとスキル『愛の奇跡』が何とかしてくれると思ったからだ。

(アンネ。頼みがあるんだけどいい?)

(なに?)

(僕に刀を送って欲しい)

(刀?剣じゃなく刀ね?)

(うん。鞘付きのやつなら何でもいいから)

(分かった。やってみる)

 狙い通り、僕の目の前に鞘に収まった黒い刀が出現した。僕は、それを鞘に納めたままで腰帯に差した。

(ありがとう。手に入った)

(シュワちゃん。頑張って)

 アンネの声援を受けて、僕はストーカーを見た。奴は地上でこちらの出方を伺っていた。

(どういう事だ!なぜ暴虐のブレスを受けて無傷なんだ?)

 奴は混乱していた。僕が死んだと認識していなかった。攻撃が無効化されたように見えていたようだ。

 奴は再び口を大きく開けてブレスを吐き出した。今度は炎ではなく紫色の毒々しいブレスだった。奴のスキル欄にある蟲毒こどくのブレスだと思われる。だが、毒系のダメージはアンネの補助魔法で無効化出来た。

(ふむ、ブレスのダメージは通らないか、なら踏み潰すまでだ)

 そう思って、奴は空に飛び上がり僕に向かって落ちてきた。僕は、刀を抜かずに、奴の攻撃を受けることにした。この身には魔拳士である母さんの血も流れている。何をしたいのかイメージするとスキル『殲滅の闘法』の技『鋼気功』を会得した。即座に発動させると闘気が全身を覆い体が鋼の様に硬くなる。

 奴の踏み潰しを受け地面にめり込むが、ダメージを受けなかった。奴が僕の死体を確認しようと足をどけるのを待った。

 奴が足をどけた瞬間、奴の首の位置まで飛び上がり、僕は腰の刀の鞘を左手で持ち、右手は刀の柄に手を添えた。

「修羅一刀流、黒の太刀、ぜつ

 一瞬で刀を鞘から抜き放ち、奴の首を両断する。地面に降り立ち刀を抜き放った体勢から刀から汚れを落とす為に軽く振り、左手に持った鞘を眼前に掲げ、刀を鞘に納めた。鞘と刀の鍔がぶつかりキンという音が響くと同時に、奴の首が落ちる。

 だが、奴は死んでいない。ステータスを見ると生命力は8000も残っていた。それは、想定済みだった。一の太刀『雷撃』で脳天を割っても死ななかったのだ。首を落としたとしても同じだと思っていた。さて、頭から体が生えるのか、体か頭が生えるのか、それとも頭と体が引きあってくっ付くのか様子を見ていた。

 どうやら、体から頭が生えるらしい。つまり、頭の方が死んでいる状態という事になる。頭が死んでいるので奴は今意識を失っている状態だった。なので『傲慢』のスキルは解除されていた。僕は、奴の体を魔法『空間転移』で上空に移動させた。理由は、自然を破壊したくなかったからだ。

 そして、魔法『殲滅の黒流星』を発動させた。大気圏外に直径5メートルの黒い金属製の球が出現する。そして、それは超高速で落下し、流星となって奴を貫いて地面に激突する前に消滅した。流星が見えてから少し間を置いて、爆音と衝撃波が発生した。そして、奴は破裂する風船の様にバラバラになり死んだ。

 アンネの願いで覚えた技『斬鉄翼一閃』もそうだが、この『殲滅の黒流星』もえげつない威力だった。これは、アンネが実は残虐なのか、それともアンネの願いが強すぎて威力がおかしい事になっているのか分からなかった。ただ、一つ確かな事はアンネが僕の勝利を願った時、敵対するものには死が訪れるという事だけだった。

 僕は、念のためバラバラになった奴の死体を亜空間に収納した。もしかしたら金になるかもしれないと思った。竜の鱗とかゲームでは最強武具の材料になったりするからだ。

(アンネ。勝ったよ。すぐに戻るね)

(良かった。待ってるね)

 僕は、空間転移でアンネの元に戻った。

 

 僕が町に戻るとアンネは僕の胸に飛び込んで来た。

「良かった。本当に良かった。また、あなた・・・を失うのかと思った」

 アンネの頬は涙に濡れていた。

「大丈夫だよ。僕は強いんだよ?」

「そうだね。そうだよねシュワちゃんは私の騎士だもんね。でも、変なのあの化け物を見てから心が落ち着かなかったの」

「もう大丈夫だよ。きっちり倒してきたから」

 そう言って僕はアンネの頭を撫でた。するとアンネは安心したようだ。

「ありがとう。もう大丈夫」

 アンネは輝くような笑顔を見せていつものアンネに戻っていた。

「アンネ、ごめんね。私、間違ってた」

 ベルタがアンネに謝っていた。

「え?なにが?」

 アンネは驚いていた。ベルタが何を間違ったというのか分かっていなかった。

「この前、救世主様が何でアンネだけを守るのかって言った事、間違ってた。アンネには救世主様が必要だって分かった。あんな化け物に命を狙われているなんて知らなかった。本当にごめんね」

 ベルタは自分の発言を恥じていた。自分を襲うのは盗賊かゴブリンぐらいのものだった。少し強い敵でトロールを見た事がある程度だった。そこへ、あの巨大な竜が現れたのだ。あんなもの普通の冒険者にどうこうできる存在じゃないと理解してしまった。

 それに、僕がストーカーと戦っている時に、アンネは酷く怯えていたようだ。いつも毅然として盗賊に襲われた時も大罪戦士と戦った時も怯える事の無かったアンネが不安そうな顔で取り乱す姿を見て、アンネも自分と同じように恐怖を感じていたんだと分かった。

 だから、本当の友達になる為に、ベルタは自分の間違いを認めたのだ。同じ恐怖と戦う親友としてアンネと仲良くなろうと思っていた。

「良いんだよ。私もベルタがどんな思いをして旅をしているか知っていたから」

「私もアンネが何と戦っているのか分かった」

「じゃあ、私たち、これから親友だね」

「うん。これからもよろしくね。アンネ」

「こちらこそ、よろしくね。ベルタ」

 こうして二人の幼女は親友となった。良い話だな~と思ってみていると、アンネとベルタは僕を同時に笑顔で見た。

「という訳で、これから港町を見て回るけど、ちゃんと護衛してくれるよね?」

「救世主様、守ってくれる?」

 鬼だ。鬼が居る。さっきまで死闘を行っていた僕に言うセリフでは無かった。実際に一度死んで蘇ったのに、これから二人が遊ぶのに付き合えと言っている。正直、休みたかった。だが、二人に懇願されては断るわけにはいかなかった。というか、二人とも切り替え速すぎだろ。

 まあ、僕の方でもさっきの戦いで買い物しなければと思っていたので、二人に付き合う事にした。

「キョウとラビも来るだろ?」

「もちろんっす。海見たいっす」

「私も買い物したいです」

 こうして、港町での観光が始まった。ちなみに、アンネのスキル欄に色々と追加されていた。一つは『絆』だった。このスキルは僕にも追加されていた。たぶん、僕とアンネの間でなら距離の制限なしに魔法を発動する事が出来るというスキルだろう。もう一つは『使い魔武装付与』だった。このスキルが僕に刀を与えてくれたんだと思う。

 そして、アンネも僕もレベルが上がっていた。アンネは新たに魔法も習得していた。それは、幽霊船と戦う時に役に立ちそうな魔法だった。

「そう言えば、さっきアンネに刀って伝えたけど、なんでアンネは刀の形知ってたの?」

 僕は、不思議に思った。この世界に来て目にした武器は全て西洋風の直刀だった。日本の刀の様な曲刀を見た事が無かった。それなのにアンネは刀と剣の違いを知っていた。

「ああ、それはね。セバスが持っているのを見せてもらった事があるの」

「そうなんだ。セバスさんは刀を持ってるんだね。でも、持ち歩いてるのを見た事が無いけど?」

「とても大切なものだから、普段は持ち歩かないって言ってた」

「そっか、まあ何にせよアンネのお陰であいつに勝てたよ。ありがとう」 

「良いんだよ。シュワちゃんのお陰で私は救われたんだから、お互い様だよ」

 そんな会話をしているとベルタが割り込んだ。

「はい!イチャイチャはそこまで、続きは宿に帰ってからにしてね」

「イチャイチャしてないよ。少し話してただけ」

「言い訳は良いから、こっちだよ。このお店がこの町一番の服屋さんだよ」

「え、もう着いたの、楽しみ」

「さあ、早く早く」

 そう言ってベルタはアンネを僕から奪うように連れ去っていった。まあ、情報交換は宿に帰ってからゆっくりすればいいか……。別にイチャイチャしてた訳じゃないしな……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ