等活地獄1
気が付いた時、俺は草だった。なんか、前世で悪い事をしていたような気がする。でも、記憶がない。だから、俺はこの世界で植物として天寿を全うする。そう決めた。
「太陽サンサン。空気が旨い。土も美味しい。大きくなるぞ!」
誰に聞かせる訳でもないが、俺は歌った。風が俺の体を撫でていく。俺は草原の草の一本だった。周りには似たような草が生えている。本当に草生える。むしろ草しか生えない。もっと言えば大草原だ。こんな事を思いついても書き込む板も無い。板ってなんだ?前世の記憶の断片だろうか?
「よう、調子はどうだ?」
「今日もいい天気だな」
「昨日より背が伸びたんじゃねぇか?」
毎日のように周りの草に話しかけるが答えは無かった。俺は孤独だった。そんなある日、事件は起こった。
「草食って、ク〇出して、走り出そうぜ~♪
草食って、ク〇出して、走り出そうぜ~♪
ハムハムモグモグよく噛んで~♪
草食って、ク〇出して、走り出そうぜ~♪」
小学生が考えたような下品な歌だった。そいつは黒い馬だった。俺の仲間を貪り食いながらこちらに歩いてきていた。
食っては歌い。歌っては食っていた。そして、ついに俺は食われた。短い人生だった。何をしたら草に転生するのか分からなかったが、次はもっとましな生き物に生まれ変わりたい。
「よう、凄い歌だな」
何かが馬に話しかけていた。
「あ、シュワルふのあひひ、おふかれさんれふ」
「飲み込んでから話してくれ」
これが、俺が草として聞いた最後の言葉になった。だが、何となくだが『シュワルふのあひひ』と呼ばれた存在が俺をこんな目に合わせた張本人だと思った。
次に気が付いた時には、俺は緑色の小さい醜悪な化け物になっていた。森に住みつき、村から野菜を盗んで生きていた。
「今日も大量だったな」
「ああ、兄弟、明日も大量だ」
醜悪な化け物はいっぱい居た。草と違って会話が出来た。ボスはおっかない鬼だった。だが、頼れるボスだった。何度か冒険者が襲ってきたが、ボス一人で撃退していた。
「さすがです。ボス」
俺は、ボスの機嫌を損ねないように気をつけていた。理由は仲間の一人がボスの機嫌を損ねて殺されるのを見ていたからだ。
「困ったことがあったら俺を頼れ、小さき者どもよ」
「はい、感謝しております」
そう言って、村から盗んで来た食べ物をボスに捧げる。ボスが先に喰い。残りを仲間たちで分け合って食べていた。危険はあったが、それなりに楽しい日々だった。
そんな日々は唐突に終わりを告げた。森を歩いている時に、何者かに殺されたのだ。敵の姿は見えなかった。黒い剣に鎖がついたものが俺の体を貫いていた。その鎖には見覚えがあったが、どこで見たのかは思い出せなかった。
次に意識が戻った時、俺は青い毛むくじゃらの化け物だった。人間を襲い食い。ボスの命令に従って、悪逆非道の限りを尽くしていた。
人間を食うと体が分裂して仲間が増えていった。500を超える仲間が居て、砦があり、俺たちは無敵だと思っていた。そこへ黒い小さい人間が近づいてきた。俺は、敵が来たと思って、人数を数えた。一人、二人、三人……。
三人目の白いメイドを見た時、意識が途切れた。気が付いた時、俺は死んでいた。俺を殺したのは黒い小さい人間だった。何となく、草だった時に『シュワルふのあひひ』と呼ばれていた存在だと認識していた。
俺はどんな罪を犯して、何度も殺される運命を背負わされたのか分からなかった。だが、黒い小さい人間への怒りだけは覚えていた。あいつさえ居なければ、俺は幸せになれた。憎しみだけが募っていく。
この輪廻転生の先に俺が復讐出来るチャンスはあるんだろうか?分からないが俺は復讐の機会を伺う事にした。次は何に生まれ変わるのか?あいつを殺せる存在に生まれ変わりたい。そう願った。
「その願い。叶えよう」
どこからともなく声が聞こえた。
「本当ですか?」
「ああ、ただし君があいつに勝てるかは君の努力次第だ。あいつは愛の女神に愛されている。君には嫉妬の女神たる私の加護を授けよう。私と愛の女神の力は同等なのだ。だから、君の努力次第で、あいつに勝てる」
「その言葉を信じます。それで、俺は次は何に生まれ変わるんです?」
「赤の暴虐竜魔族最強の厄災だ」
「竜か悪くない」
「では、契約成立だ。私は愛の女神が嫌いだ。愛の女神の加護を受けたジークフリードとアンネローゼを殺してくれ、それだけで私は嬉しい」
「分かった。転生した後に記憶を失っていないのなら遂行しよう」
「それは、約束しよう。君が何故死んだかも記憶を蘇らせておこう」
「それは、助かる。俺はどうやら黒い小さい人間と因縁があるらしい」
「その通りだ。選ばれなかった者を救うのが私の務めだ。君は悪い事をしていない。ただ、純真に好きな気持ちを伝えただけだ。なのに法律だとか、ルールだとかくだらない事で君の愛が否定された。それが許せない。
愛とは一方的なものだ。見返りを求めない崇高な行為だ。それを実践している君が何故裁かれねばならないのか、私は納得できない」
「分かった。俺は俺の思う愛を貫こう」
「見せてくれ、愛と勇気で幸せをつかむ物語を……」
「ああ、約束しよう」
俺は全てを思い出した。俺は選ばれた上級国民だった。優秀な父と良家の母との間に生まれた選ばれし人間だった。
最高学府を卒業し、働かなくても生きて行けるだけの財産を持っていた。そんな俺を慕って平民の女が俺に付き合って下さいと言って来た。平民の女なんてごめんだったが、付き合ってやることにした。
当然、俺に養ってもらうつもりのバカ女なんだろうから、立場を分からせるために徹底的に躾けた。褒めると調子に乗るのが女だ。だから、俺は事あるごとに貶めた。女は犬と一緒だという掲示板で仕入れた情報を元に俺は哀れな平民の女を養ってやっていた。
だが、ある日、別れるとぬかしやがった。何様のつもりなんだ?平民の分際で上級国民の俺をふるなんて言語同断だった。
探偵を雇い。バカ女をつけさせた。すると他の男と浮気してやがった。俺は許せなかった。バカ女に立場を分からせてやるために、俺は言ってやった。
「なんだよ。何なんだよ。そんなブスがそんなに良いのかよ」
これで、バカ女も分かるだろう。あいつには俺しか居ないと……。
「ブス?君の眼は腐っている。こんな美人を目の前にしてブスだと?眼科に行くことをお勧めする」
だが、間男は俺にたてついてきた。上級国民である俺に……。
「ふざけやがって!」
気が付いたら俺は平民を殺していた。まあ、問題ないだろう。俺は上級国民だ。優秀な弁護士がついて、不起訴になるだろう。そしたら、俺が彼女を迎えに行くのだ。
だから、慈悲深くも俺が彼女の浮気を許してやって、出所したら迎えに行くと伝えてやった。これで、彼女も喜ぶだろう。だが、手紙には死ぬと書いてあった。ありえなかった。上級国民である俺をふって、平民の禿と一緒になるなんてありえないと思っていた。
そして、奴が来た。あいつの正体は殺された時は分からなかった。でも、今は分かる。あいつは禿だ。しかも、異世界でバカ女と一緒に行動していた。
こんな事はあってはならない。彼女は俺のものだ。他の誰にも渡さない。だから、もう一度殺しに行く事にした。
気が付くと、赤い小さな竜に転生していた。こんな小さくては奴に勝てない。
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。成長を促進します≫
俺は大きくなった。自分の強さがどれぐらいなのか知りたかった。
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。ステータスを表示します≫
レベルは1で能力は100前後だった。そして、スキル覧には『嫉妬の炎』が表示されていた。これが、嫉妬の女神の加護だろう。このスキルは俺が望めばどんな奇跡でも起こせるスキルなのかもしれない。あいつを殺す為に最強の強さを手に入れたい。
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。LV99になります≫
俺のステータスはLV99になり能力値は生命力と体力と魔力が9999になり、他は全て999になった。だが、能力値だけ高くても意味がない。強い魔法と強い技、それに無敵のスキルが必要だった。
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。魔法『暴虐の爆撃』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『暴虐の闘法』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『暴虐の闘法』の技『薙ぎ払い』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『暴虐の闘法』の技『踏み潰し』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『暴虐の闘法』の技『斬鉄爪』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『暴虐の闘法』の技『暴虐のブレス』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『暴虐の闘法』の技『蟲毒のブレス』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『状態異常無効』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『瞬間自己再生』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『魔法ダメージ軽減』を獲得しました≫
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『物理ダメージ軽減』を獲得しました≫
概ね俺の望んだ結果となったが、 魔法ダメージ軽減と物理ダメージ軽減は希望通りでは無かった。本当はダメージ無効にしたかった。そうすれば俺は無敵なのだ。だが、何度願ってもスキルは獲得できなかった。
嫉妬の女神の力の限界なのだろう。使えるのか使えないのかいまいちわからない女神だった。さて、最強の力を手に入れた。次は奴らの居場所を特定しなければならない。
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。スキル『嫉妬』を獲得しました≫
嫉妬のスキルを獲得した時、俺はアンネローゼの位置とジークフリードの位置を把握した。さて、すぐにでも移動してあげないと……。
≪スキル『嫉妬の炎』の条件を満たしました。魔法『空間転移』を獲得しました≫
これで、アンネローゼの元に行ける。傍には禿もいる。もうすぐ俺は取り返すのだ。俺が失ったものを取り返すのだ。待っててくれアンネローゼ。君を幸せに出来るのは俺だけだ。
魔法『空間転移』を使うとそこは港町の上空だった。時間的には朝方だった。多くの人間が行きかっていた。海には船もあった。俺のアンネローゼはジークフリードと一緒に建物から出てきた。このまま攻撃すればアンネローゼも巻き込むことになる。だが、問題ないだろう。嫉妬の女神に願えば蘇生魔法ぐらい使えるはずだ。
死んだ後で生き返らせれば彼女も泣いて喜ぶだろう。きっと「助けてくれてありがとうございます。ご主人様」と尻尾を振って喜ぶに違いない。それにしても前は不細工だったが、今は少しマシな顔になっているようだ。これなら、俺の妻として迎えるのに支障は無いだろう。
俺は、早速、奴らを殺す為に『暴虐のブレス』を放つために口を大きく開けた。街から悲鳴が聞こえてきた。とても心地いい音楽だった。




