港町へ2
旅は順調だった。途中、馬を休める為に川のほとりで休憩を行った。
「この先、盗賊が出る森がある。そこに入る前に救世主様に護衛のメンバーを紹介したいんだが良いかな?」
クラウスが僕に話しかけてきた。
「良いよ」
僕が快く返事をすると、残りの護衛の3人が並んだ。
「こいつはドミニク。魔法使いだ」
青目青髪、痩身中背二十代男性だった。顔はフツメンで髪は短く整えてた。服装は青いローブだった。
「救世主様、よろしく」
普通に爽やかな挨拶だった。
「こいつはクルト。狩人だ」
黒目黒髪の痩身中背二十代男性だった。顔は鋭い目つきが印象的だった。髪はくせっけだが短く切りそろえていた。服装は、森に紛れる様な緑の迷彩服を着ていた。
「よろしく」
挨拶は簡潔だった。
「そして、最後にカミラ。俺の妻だ」
緑目緑髪の中肉中背の二十代女性だった。顔はほっそりとしていた。髪はストレートで腰まで伸ばし、神官のローブを身にまとっていた。標準的な女性らしい体型だった。
「そこは、神官のじゃないの?」
「ああ、すまない。神官が抜けていた」
どうやら仲良しらしい。
「よろしくね。救世主様」
優しい微笑みで話しかけてきた。
「よろしく」
犬の姿で念話で回答した。護衛メンバーの強さはLV25~20だった。標準的な中堅冒険者だった。
「盗賊に襲われた時は、基本戦わずに切り抜けるつもりだ。どうも数が多いらしい」
「そういう情報があるって事は盗賊に襲われて生き残った人たちが居るって事?」
「それが、妙なんだ。誰も殺されていないらしい。盗賊たちは義賊を名乗っていて、通行料を支払えば通してくれるんだとか」
「支払いを拒否した場合は?」
「それでも、殺される事はないそうだ。ただ、お金は奪われるそうだ。あと、食料も取られたって話も聞く」
「ふ~ん。なんか変わった奴らだな、そんなことするなら魔物退治でもすればいいのに」
「私もそう思うよ」
「まあ、いざとなったら僕が何とかするよ」
「救世主様ならそう言ってくれると思ってたよ」
僕の名声は大きくなり過ぎていた。でも、期待されたからには善処するしかない。有名人の辛い所である。
僕が護衛メンバーの紹介を受けている時に、アンネとベルタはおやつを食べていた。それを食べ終わるとベルタは立ち上がってアンネに話しかけていた。
「ねぇねぇ、アンネ。この近くに凄いお花畑があるんだ。一緒に行かない?」
「行きたい!」
「じゃあ、行こう。こっちだよ」
そう言って、ベルタはアンネの手を取って駆けだした。金髪碧眼の幼女と赤毛赤目の幼女がキャッキャしながら走っていく。デニスもクラウスも微笑ましい光景を眺めていた。どうやらこの場所には危険が無いと認識しているようだった。
だが、僕は視線を感じていた。なので、魔法『索敵』で調べてみると、草陰に隠れてこちらを見ている者が居た。どうやら、盗賊の斥候のようだった。心を読んだ結果、放置する事にした。どうやら、そんなに悪い奴らではないらしい。わざと襲われて拳で説得する事にした。
今は襲う気が無い様だが、アンネたちが心配になったのでついて行くことにした。一応犬の設定なので地面を歩いて行くことにした。
アンネたちは広い花畑で遊び始めた。色とりどりの花に囲まれてはしゃいでいた。
「ねえ、アンネ。どっちが綺麗な花冠作れるか勝負しない?」
「かかんってなに?」
「花で作る冠の事だよ?アンネは作った事ないの?」
「ない」
「そっか、じゃあ、教えてあげるね」
そう言ってベルタは花を摘んで花冠の作り方をアンネに教えた。アンネはすぐにコツを掴み花冠を作った。ピンクと赤と白い花で作った花冠だった。
「ねぇシュワちゃん可愛いかな?」
アンネが僕に聞いてきた。
「可愛いと思うよ」
僕がそう言うとアンネは嬉しそうに微笑んだ。
「救世主様、私の花冠はどうですか?」
ベルタも聞いてきた。ベルタの花冠は赤い髪が映えるように白い花と黄色い花で作られていた。
「可愛いと思うよ」
ベルタも嬉しそうに笑った。
『どっちが可愛い?』
二人同時に聞いてきた。これは回答を間違うとダメなパターンだ。僕はじっくり考えて二人の望む答えを出した。
「二人とも同じぐらい可愛いよ」
ベルタはニタニタと笑っていた。
(ふふふ、私の撫で方に救世主様も心を動かされたようね)
アンネはニコニコしていたが、心の声はこうだった。
(どうして、そこで私を選ばないのよ。一番の友達なんじゃないの?)
めっちゃ怒っていた。だが、一度出した言葉は引っ込めれない。なので、追撃を加える。
「でも、どちらか選ぶならアンネかな」
今度はベルタがニコニコになった。
(やっぱり、二人の絆には入り込めないのか……)
アンネは変わらずニコニコしていた。
(分かってるじゃない。さすが私のシュワちゃん)
そう、ここで優先するべきはアンネだった。ベルタとは港町に着けばお別れなのだ。アンネとは今後も旅を続けるのだ。今後の旅が楽しいものになるか胃の痛いものになるかの選択で間違ってはいけない。
生きるか死ぬかの二択を無事潜り抜けて花畑から戻ると、出発の準備が整っていた。
「お、二人で花冠作ってきたのか、二人ともいい出来だ」
デニスが二人を褒めた。
「どっちが可愛い?」
ベルタが問いかけると、デニスはこう答えた。
「優劣なんてつけるもんじゃない。二人ともそれぞれの美しさがある。だから、二人とも世界で一番なんだぞ。でも父さんの一番はベルタだからね」
パーフェクトな答えを見た気がした。これが妻帯者の対応能力なのか……。僕は何故か負けた気がした。
そんな事があったが、馬車は移動を開始した。そして、森に差し掛かった。隠れて奇襲するにはうってつけの地形だった。
案の定、森の道の途中に不自然な倒木が置いてあった。クラウスも罠だと見抜いていた。護衛の魔法使いドミニクが魔法を使って撤去する。
「世界の法則を捻じ曲げる魔力よ!立ち塞がる障害を打ち砕け!」
巨大な氷の柱が馬車の前に出現し、倒木を打ち砕いた。馬車はスピードを緩めることなく、通り過ぎようとしていた。だが、そこで爆発音が鳴り響いた。馬車の馬たちが驚いて足を止めてしまう。
そこへ、盗賊たちが現れ、デニスから馬の手綱を奪い取った。そして、デニスの首に短剣を当てる。
「死にたくなければ動くな」
デニスは両手を上げて抵抗しない意思を見せた。
「みんな武器を捨てろ、命は保証する。ただし、通行料を少しばかり頂く」
「アンネ。キョウレツインパクトを人間にしてくれ」
僕は念話でアンネに伝えた。
「分かった」
キョウレツインパクトが人間になると、盗賊は驚いていた。
「なんだ、馬が人間になったぞ!」
その隙を逃さずに僕は魔法『結界』でデニスの首を守った。そして、人間の姿になり、荷台から御者台に一瞬で移動し盗賊を殴り飛ばした。
「なんだ!突然、子供が現れたぞ!」
「おい、無駄な抵抗はやめろ!痛い目にあうだけだぞ!」
大声で僕に警告をしてきたのは強面のスキンヘッドの筋肉達磨だった。身長は2メートルを超えていた。
盗賊たちのLVは25~20で能力値も250~200の間だった。僕とキョウレツインパクトの敵ではなかった。
「キョウレツインパクト、全員殺さずに捕獲するぞ!」
僕はクラウスたちにも聞こえるように大声で言った。クラウスたちは僕の意図を理解して静観してくれるようだった。
「合点承知!」
僕とキョウレツインパクトは、ほとんど秒殺で全員を気絶させて一か所に集めて魔法『黒の剣鎖』でグルグル巻きにした。盗賊の数は全部で52人だった。
「アンネ。悪いけど全員回復してくれるかな?」
「良いよ」
「アンネの名において、治癒の奇跡を与える」
聖女とか身バレしそうな文言を省いてアンネは魔法を使った。盗賊たちが目を覚ました。
「くそっ!俺たちは義賊だ。クソ領主を倒す為に資金を稼いでいたんだ!お前達もクソ領主の行いには腹を立てているんだろう?」
盗賊の頭だと思われるスキンヘッドがそう言ってきた。
「そのクソ領主なら魔物に襲われて死んだよ」
「え?」
スキンヘッドは目が点になっていた。どうやら知らなかったらしい。
「本当に?」
「本当だよ」
「いや、あの領主の息子もクソ野郎だったはずだ!」
「そいつも死んだよ。今はアイスってやつが新領主をやっている」
「待てよ、そいつもクソ野郎かもしれないだろう?」
「そいつは、僕がクソ領主に奪われたトロール討伐の報酬を返してくれたよ」
「え?トロールも討伐されていたのか?」
「何も知らないのか?」
「街には暫く戻っていない」
「分かった。何があったか教えてやる」
僕がクソ領主と何があったか、新領主が何をしたのか時系列に沿って説明した。説明で村人を全員生き返らせたと言ったあたりからスキンヘッドが号泣しだした。他の盗賊のメンバーの半数も同じ反応だった。
僕の話を最後まで聞き終えるとスキンヘッドは語り出した。
「ありがとう。ありがとうございます。救世主様。俺はアローク村カールの弟、バルトルトと申します。冒険者をしておりました。村の近くにトロールが現れた時、俺は村を守る為にクエストを受けようとしたんです。
ですが、領主に邪魔され、倒しに行けなかった。そして、村は破壊され、生き残った村人から兄の死を知りました。だから、領主を殺す為に仲間を集める為にここで金を稼いでいました。
兄が生きているのなら、馬鹿な事を辞めて罪を償います。本当にありがとうございました。本当にありがとうございました」
バルトルトは真っすぐな人間だった。ただ、兄の仇を討つために間違った生き方をしてしまったようだ。
それから、他のメンバーも似たようなことを言い出した。一通り聞いた後で、僕は黒の剣鎖を消した。
「シュワちゃん。この人たち可哀そうだよ。酷い事しないで」
アンネが念話で僕に伝えて来た。
「もちろんだよ。彼らは犠牲者だよ。本当に悪いのは元領主なんだから」
「じゃあ、シュワちゃんに任せるね」
「うん」
僕はバルトルトたちに向かって言った。
「もし、罪を償いたいというのなら、新領主に自分の罪を裁いてもらえ、街までは僕が送ってやるから」
「何から何まですみません」
「という訳で、こいつらを街に送り届けてくるので。少し待ってもらえますか?」
「ええ、もちろん待ちますよ」
デニスは笑顔で答えた。
「では、行くぞ」
「はい、お願いします救世主様」
僕は魔法『空間転移』で街に向かわずにバルトルトの村に行った。
「あの、ここは?」
「故郷の村なんだろ?罪を償う前に家族と話してきて良いよ。ただし、1時間後には迎えに来るから、それまでの間だけだぞ」
「本当にありがとうございます」
バルトルトはそう言って駆け出した。
「他に家族と会いたい者は遠慮なく言ってくれ、送り届けるから」
他のメンバーも同じように送り届けて1時間後に迎えに来ると約束した。この時、僕は奴らが戻ってこなくても良いと思っていた。
元々の元凶はクソ領主なのだ。このまま逃げて家族と暮らしても良いと思っていた。僕は一旦デニスたちと合流した。
「という訳で、1時間後にまた少し時間を貰いたいのですが良いですか」
「本当に慈悲深い方ですね。良いですとも私も少し泣けてきました。彼らの為に時間を惜しまず待ちますとも」
デニスは快く承諾してくれた。
「ありがとうございます」
1時間後に僕は魔法『空間転移』で迎えに行った。すると、全員が罪を償うために戻ってきていた。
「逃げても良かったのに」
僕がそう言うと、バルトルトは胸を張ってこういった。
「犯した罪に背を向けたら、もう人間として生きていくことはできねぇ。俺は人間だから罪を償う」
バルトルトは真っすぐな人間だった。他のメンバーも似たようなことを言っていた。だから、僕は彼らをアイスが居るルークスの街に連れて行った。
彼らは自ら領主の館に入っていった。アイスがどういう処分を下すのか興味はあったが、アンネとの旅の方が重要なので、アイスには会わずに戻る事にした。




