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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

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港町へ1

 朝起きて、朝食を食べて、みんなで旅支度をした。と言っても荷物は僕のスキル『亜空間収納』にしまってあるので問題ない。

 アンネが病床に臥せっているという話を聞いているであろう宿の受付嬢は何も聞いてこなかった。これが、高級宿の守秘義務というやつだと思った。

 僕たちはルークスの街の冒険者ギルドに立ち寄った。冒険者ギルドまでの道中、街の住人が僕を見るたびに「救世主様、ありがとうございます」とか挨拶してきた。その都度、挨拶を返すが有名になり過ぎて辛い。

黒の魔法使いシュワルツ・マギア様、今日はどういったご用件ですか?」

「海が見たいと思ったらどこへ行けば良いかな?」

「海ですか?ここから一番近い港はアムスになります。街の北門から出て街道を真っすぐ進めば着きますよ。馬車も出ているので利用すると良いですよ」

「ありがとう。これから向かう事にする」

「いいえ、こちらこそ感謝です。問題の起こっている町に優先的に移動頂けるなんて本当に感謝しかありません」

「え?問題が起こってるの?」

「御存じなかったのですか?港町アムスでは、幽霊船が出没すると騒ぎになっているのです」

「それは知らなかった。でも、そういう問題があるのなら、それが運命なんだと思う」

「そうだと思います。 黒の魔法使い様の旅に神のご加護があらんことを」

「ありがとう」


 冒険者ギルドを出て、アンネとどうするか話す事にした。

「港町への行き方は分かったけど、乗り合いの馬車で移動する?それとも、キョウレツインパクトに乗って移動する?」

 僕は出来れば犬の姿で気ままな旅がしたかった。救世主扱いされているので乗り合いの馬車だと質問攻めにあいそうな気がしていた。でも、これは僕の意見だった。アンネがどんな旅にしたいかが一番大切だった。

「馬車だと、寄り道出来ないよね?」

「そうだね」

「だったら、キョウちゃんに乗っていきたい」

「分かった。キョウレツインパクト、問題ないか?」

「合点承知!」

 相変わらず気合の入った返事だった。という訳で北門から人間の姿で街を出て、人気が無くなってから、犬と馬と兎になりアンネと一緒に気ままな旅に出た。街道は人が多い訳ではない。旅をするものが極端に少ないのだ。

 旅をするのは冒険者か商人が主だった。その数も少ない。後は訳あって街を移動するものだけだった。そういった人達は乗り合いの馬車で移動する。乗り合い馬車も本数が少なく朝と昼の便のみだった。

 街の近くには畑が多かったが、街を離れると草原や森が広がっていた。殆どが手つかずの自然だった。草花を見ながら気ままな旅をしていた。僕はアンネに抱っこされ、ラビは時折アンネがモフモフしていた。

 天気も良く、旅は順調だった。だが、長い時間歩いていると話題が無くなる。最初はあれこれ話していたアンネが、話す事が無くなって無言になった。風景も同じ様なものが続き、見飽きてきた。

「シュワちゃん。つまんない。なにか楽しいお話して」

「海は広くて大きいよ」

「さっき聞いた」

「いい天気だね」

「それも、さっき聞いた」

「いい景色だよね」

「さっきから同じ風景だよ」

「えっと、僕も話す事が無くなった」

「つまんない。何とかして」

 アンネは我がままを言うようになった。セバスやマリーが居た時はこんな我がままを言う事は無かった。僕に気を許して素を見せていると思えば嬉しくもあるが、困ったものだ。

 そこへ、四人ほど護衛が付いている馬車が後ろから僕らを追い抜いていった。そして、少し前で止まったのだ。アンネは気にせずにキョウレツインパクトを歩かせていた。すると、護衛の一人が、アンネに話しかけてきた。

「お嬢ちゃん。一人旅かい?」

 話しかけてきたのは腰に剣を佩いた男だった。年齢は35歳、職業は冒険者で戦闘スタイルは戦士だった。髪は短く刈り上げて整えられていた。髪の色は緑で優しい緑色の眼をしていた。

「違うよ。四人で旅してるの」

「ああ、そうだね。失礼した。でも、この街道には盗賊が出るんだ。四人だと危険だから私たちと一緒に来ないか?君と同じ年頃の女の子もいるんだ。楽しい旅になると思うけど、どうだい?」

 男は親切心で言っていた。この人は良い人そうだった。こういうのに限ってすぐ死んだりするんだよな~と思っているとアンネが念話で聞いてきた。

「一緒に行っても良い?」

 僕の答えは決まっていた。

「もちろん」

「ありがとう。シュワちゃん」

「お言葉に甘えます」

「目的の街はどこだい?」

「港町のアムスを目指してるの」

「そうか、なら目的地は一緒だ。私は冒険者クラウス、今は商人の護衛をしている。私の雇い主を紹介するよ」

「私はアンネ。観光旅行しているのよろしくね」

 そう言ってアンネはクラウスに手を差し伸べた。クラウスはアンネの手を取って握手した。

「ああ、よろしく」

 そして、馬車の御者台まで移動した。御者台には人の好さそうな35歳の恰幅の良いおっさんが座っていた。服はそれなりに立派なものを着ていた。黒目黒髪で口髭を蓄えていた。

「クラウス。どうだった?」

「心配した通りでした」

「事情は聞いたか?」

「いえ、まだです」

「そうか」

 二人の話が一段落して、恰幅の良いおっさんが御者台から降りてアンネと向かい合った。

「初めまして、デニスと申します。旅の商人をしております」

「初めまして、アンネです。よろしくお願いいたします」

「ああ、よろしく。それで、お嬢ちゃん。ご両親はどうしたんだい?」

「家出してきた」

「なぜ?」

「私とシュワちゃんの仲を引き裂こうとしたから……」

 アンネは素直に答えた。まあ、嘘のカバーストーリーでもそうなっているので何も問題は無かった。

(ふむ、指輪をしてるって事は貴族か……。どっかで聞いた事があるような……。あ、あれだ救世主様の婚約者だ。って事は救世主様が近くに)

「すみません。もしかして救世主様と何かご関係がある方ですかな?」

「うん」

「救世主様はどこですか?」

「これ」

 そう言ってアンネは抱っこしている僕を持ち上げてデニスに見せた。

「え?救世主様は黒髪の美少年だと聞いたのですが……」

「アンネ。しょうがない放して」

 僕は念話でアンネに伝えた。

「分かった」

 アンネが手を放すと僕は人間の姿になった。するとクラウスとデニスは目を丸くして驚いていた。

「変身なさっていたのですか?」

「ええ、まあ、少し有名になり過ぎたので普段は犬の姿で旅をしているのですよ」

「ああ、なるほどそうでしたか、では私たちが危惧していた事は杞憂でしたか」

「いえいえ、旅は大勢の方が楽しいので誘って頂いて嬉しいです」

「それなら良かった。しかし、困りましたな馬車には後一人分のスペースしかないのです」

「問題無いですよ。犬の姿に戻りますので」

「ああ、すみません。そうして頂けると助かります」

「馬は馬車についてこさせますので心配しないでください」

「大丈夫ですか?かなり飛ばしますが、その大きさでついてこれるのでしょうか?」

「心配ないですよ。アンネ、馬から降りて欲しい」

「うん」

 アンネはラビを抱っこして、キョウレツインパクトから降りた。僕はキョウレツインパクトへの魔法『縮小』を解除した。キョウレツインパクトは元の立派な馬に戻った。

「おお、これは立派な馬ですな」

「ええ、なのでご心配なく」

「では、アンネ様と救世主様は荷台に乗ってください」

 デニスの案内で荷台に入った。馬車の荷台にはちゃんと屋根がついていた。屋根と言っても角材の枠に布を張っただけの簡素なものだったが、日差しと雨はよけれそうだった。

 荷台の中にはデニスの奥さんと娘が乗っていた。他には商品と思われる木箱が所狭しと置かれていた。

「あら、いらっしゃい。私はコリンナよ。よろしくね」

 奥さんはおっとりした人だった。旦那同様に恰幅が良かった。赤毛で赤目だった。

「私はアンネです。よろしくお願いいたします」

「僕はシュワルツです」

「あの、私はベルタって言います。よろしくね」

 娘の方は、母親似で赤毛で赤目だった。優しい雰囲気の女の子だった。体型は似なかったようでほっそりとしていた。髪は肩口で黄色いリボンで結んでいた。そして、アンネには負けるが可愛かった。奥さんも痩せたら美人なのかもしれない。服は上品なシルクの白いワンピースを着ていた。デニスは商売上手らしく儲けているらしい。

「あ、僕は犬になりますけど、驚かないでくださいね」

「ええ、話は聞こえていましたよ」

 僕が犬になり、アンネの隣に座ると馬車が走り出した。その後で、ベルタが僕に反応した。

「すごい。可愛い~~~。撫でて良い?」

 僕はアンネを見た。

「良いよ」

 アンネがベルタに応えて、僕をベルタに渡した。

「ありがとう。アンネ」

 そう言ってベルタは僕をナデナデした。

「すごい。スベスベ。気持ちいい~」

「え?そんなに?」

 コリンナはベルタの反応があまりにも凄かったので興味を持っていた。

「うん、絹よりも肌触りが良いの」

「絹よりもかい?私も撫でてみていい?」

「うん、良いよ」

 アンネは僕が褒められたのが嬉しかったのか上機嫌で許可した。コリンナも僕を撫でた。

「すごい!なにこれ?救世主様が犬に変身すると毛並みも凄い事になるんだね~」

「そうでしょう。だから、私シュワちゃんを抱っこするの大好きなんだ」

「いいな~。港町に着くまで交代で抱っこしても良い?」

 ベルタがアンネにお願いをすると、アンネは得意げに答えた。

「シュワちゃんだけで良いのかな?ここにモフモフが居るんだけど?」

 ラビは大人しくアンネの膝の上に乗っかっていた。それをアンネはモフモフしていた。

「え?その子は?」

 ベルタが興味深々で聞いてきた。

「ラビって言うの、シュワちゃんと違った感触だよ?」

「触っても良いの?」

「じゃあ、シュワちゃんと交換ね」

 こうして、僕はアンネに抱っこされた。ラビはベルタに抱っこされた。そして、モフモフされている。ラビは大人しくしていた。

「わ~。フワフワでモフモフだ。凄い」

「そうでしょ?ラビちゃんも凄いでしょう?」

「すごいね。この子も人間なの?」

「本当わね。でも、馬が一頭しかないから兎の姿になってもらってるの」

「白って事はこの子が白い踊り子ブラウ・テンツァー?」

「そう呼ばれているね」

「すごいね。アンネは良いな~こんな可愛いのと一緒に旅が出来るなんて」

「う~ん。そうでもないよ。同じメンバーで旅をしていると話す事が無くなっちゃうよ」

「あ、それ分かる。私たちも話題が尽きて困ってたの、ね~母さん」

「そうだね。移動に時間がかかるからね~」

「だから、私、ベルタに会えてうれしい」

「私も」

 こうしてナデナデ、モフモフされながら女子トークは盛り上がっていった。


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