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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

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無能の削除1

 朝起きて朝食をとった後で義勇軍が居た建物に向かった。そこで、義勇軍と待ち合わせしていたのだ。

黒の魔法使いシュワルツ・マギア様、昨日はありがとうございました」

 挨拶してきたのは義勇軍のリーダーだった。そこには義勇軍だけが居た。砦に囚われていた者たちと生き返らせた者たちは、村を復興させる為に、それぞれの村に戻っていた。

「いえ、当然の事をしたまでです。それとこれを」

 僕はそう言って昨日両替した金貨200枚を渡した。

「あの、これは?」

「僕はすでに十分な報酬を頂きました。一人では使いきれないので、このお金は村の復興に使って下さい」

 僕がそう言うと、義勇軍はアンネにしたように僕にも忠誠を誓うポーズをとった。

「感謝します。救世主様」

「困った時はお互い様ですよ」

 最初の村長の時と同じくみな感激していた。

「では、今日も砦で100人生き返らせましょう」

 アンネがそう言った後で、全員で砦に移動し昨日の続きを行った。


 アンネが蘇生を行っている間に、僕は疑問があったので義勇軍のリーダー『ヨハン』

に質問した。

「ねぇ、なんで国は村を守らないの?」

「黒の魔法使い様、国は村を守る為に魔物に賞金を懸けています」

「いや、そうじゃなくて何故軍を派遣して魔物を討伐しないのかだよ」

「それは、国ではなく領主様の役割です」

「その領主様は何をしてるんだ?500人も領民が犠牲になっているのに」

「領主様は主要な都市を守るので精一杯だと聞いております」

「そうだとしても、一時的に軍を組織して魔物を倒すという事も出来るんじゃないのか?」

「私には分かりかねます」

「そうか、そうだよな~」

「黒の魔法使い様は何故怒っていらっしゃるのですか?」

 どうやら領主の対応に対する怒りが漏れ出ていたようだ。

「地位が高いものは、それ相応の役目を果たすべきだと思っているんだけど、ここの領主は役目をはたしていないように思う。だから、怒ってるんだよ」

「私の様な農民には理解できない怒りですね」

「そっか、僕はアンネローゼ様を見てきたから、領主が何もしてないように思ってしまうんだ」

「聖女様には感謝の言葉もありません。もちろん黒の魔法使い様に対しても同様に思っております。農民である我らに本当によくしてくださいました」

「僕たちが異常なのかな?」

「お二人は特別です。農民の為に命を賭けて戦って下さったのですから」

「それが、この国の常識なのか……」

 カルチャーショックは受けたが僕はこの国のルールを受け入れた。その上で僕に出来ることをしようと思った。

「あの、黒の魔法使い様、出来れば私たちを強くしてくれませんか?」

 ヨハンは自分たちの身は自分で守りたいと思っていた。だから、僕はこう答えた。

「魔法は才能が無いと覚えられない。でも剣だったらある程度教えることは出来る」

「それで、構いません」

 こうして、僕はヨハンたちに剣の基本を教える事になった。


 村人たちの蘇生は5日で完了した。その間、アディーヌ湖の宿に泊まる事も出来たが、村人たちが僕たちをもてなしたいと言ったので、アンネはその願いを無下に断る事が出来なかった。ベットも粗末だし、料理もそれなりだったが、それでも真心のこもった歓迎をアンネは喜んでいた。

 村人たちが用意したお風呂もあったが、庶民のお風呂ではアンネがいつも入っているお風呂とは雲泥の差があった。入浴剤は無いし、髪を洗う洗剤もレベルが低かった。アンネは少しづつ不満を貯めていた。

 キョウレツインパクトとラビはニンジンが食べれればそれで満足だった。村人たちには偏食だと思われていた。


「本当に色々とありがとうございました。聖女様、救世主様」

 全員を復活させた後でヨハンはそう言ってきた。人払いは済ませてあった。

「良いんですよ。私の力はみんなの為にあるのですから」

 アンネは聖女として答えた。

「僕は余ったものを分けただけですから」

「それでも、お二人に感謝を……」

 そう言ってヨハンは片膝をついて頭をたれた。

「頭を上げてください」

 アンネはそう言ってヨハンの手を取って立たせた。

「聖女様、身に余る光栄です」

「これから、大変なのはあなた方の方です。村の復興が上手く行くことを願っています」

「もったいないお言葉、私もお二人の旅の安全を願っております」

 こうして、僕たちは村から離れた。ヨハンは5日間の訓練でLV20になっていた。修羅一刀流の一の太刀『雷撃』も習得していた。ヨハンには剣の才能があるかもしれなかった。他のメンバーもそれなりにレベルが上がり、強くなっていた。ゴブリン程度なら義勇軍で倒せるだろう。


「お風呂入りたい」

 村から離れた後でアンネがそう言ったので、アディーヌ湖の宿に1泊した。ちなみに、アンネが公務に参加しなくなり、聖女の安否が噂になっていた。病で寝ているという噂だった。アディーヌ湖の宿屋は高級宿なので、アンネが何をしていようとも情報が漏れることは無かった。なので、安心して利用していた。

 お金の残高は真銀貨3枚と金貨10枚になった。金貨が少なくなったので翌朝、冒険者ギルドで両替してもらおうと思い、人間の姿でルークスの冒険者ギルドに入った。すると、何故か兵士風の男たちに囲まれた。

「黒の魔法使いだな?領主様がお呼びだ」

「僕は領主に用が無いけど?」

「逆らうというのか?ならば罪人として連行する事になるが?」

 さて、思考を読む限り、奴らは正当な要求をしているらしい。僕はアンネを見た。

「領主の命令は絶対です。私が身分を明らかにすれば拒否できるけど……」

 アンネは念話で僕に伝えて来た。

「身分は明かしたくないし、大人しくついて行くことにするよ」

「分かった」

 念話での会話を終えて、兵士に告げる。

「分かった。大人しくついて行くよ」

「じゃあ、こっちだ」

 兵士たちに案内され、馬車に乗り移動する。30分程でルークスの街で一番大きい建物、領主の館に案内された。

 中に通されて謁見の間に案内された。謁見の間の上座に存在する豪華な椅子には中年太りの小男が豪華な服に身を包んでふんぞり返って座っていた。それが領主だった。領主の側には側近らしき人物が立っていた。謁見の間の下座には義勇軍の面々が居た。全員鎖で縛られていた。そして、全員拷問を受けたのか酷い怪我をしていた。

 僕はその場で領主を殺そうかと思った。だが、そんな事をすれば義勇軍の人たちも生き返らせた村人たちにも迷惑が掛かる。だから、我慢した。謁見の間には冒険者レギオン『赤の狩人』のリーダーも居た。奴はニヤニヤとこちらを見ていた。

 僕は兵士に案内されるがまま領主の前に進み、一応臣下の礼を取った。

「さて、黒の魔法使い殿、ここに呼んだのは他でもない。貴殿が盗んだ報酬についてだ」

 領主は僕が報酬を盗んだと言った。『赤の狩人』のリーダーが居たので、嫌な予感はしていた。どうやら、あいつは領主と手を組んで金を稼いでいたようだ。

「なにを……」

 アンネが怒りのままに抗議しようとしていた。それだと領主の思うつぼなので、僕がアンネを宥める。

「アンネ。ここは僕に任せてくれないか?あいつらの目的は分かっている」

 僕はアンネに念話で伝えた。

「分かった。シュワちゃんを信じる」

 アンネから念話で了解を貰ったので、僕の思うように事を進める。

「盗んだとは心外です。冒険者ギルドの要請に従ってトロール討伐を行ったまでです」

「それを盗んだと言うのだよ。トロールの件は私の権限で冒険者レギオン『赤の狩人』リーダーであるロバートに任せていたのだ。それを横からシャシャリ出てきて奪ったのはそちらの方だ」

 領主の言に嘘は無かった。だが、反論する。

「なら何で僕がシャシャリ出てくるまで何もしなかったのですか?」

「こちらは入念な準備をしていたのだ。敵の情報を探り、拠点を特定し、武具と人員を準備していた。そこへ、居場所だけ知った君たちが、こちらが攻め入る前にトロールを倒したのだ。言っている意味は分かるかね?入念に調査して敵の拠点を突き止めたのに、君たちが手柄を横取りしたんだ。何か反論はあるかね?」

 領主の言っている事は一見筋が通っているように見える。だが、砦を占拠された時、すでにトロールたちを討伐する戦力は整っていたのだ。『赤の狩人』はいつでもトロールを討伐出来る状態だった。

 それを、僕が主張したところでロバートが否定するのは目に見えていた。それに、領主は僕が何を言ってもお金を巻き上げるつもりだった。だから、この場は相手の要求を飲むことにした。

 それに、ヨハンたちはこう思っていた。

(救世主様、私たちの事をお見捨てになってください)(領主のいう事は言いがかりです、従う必要はありません。どうか御自身の理想の為にお見捨てください)

 ここまで思われて見捨てるなんて事は出来なかった。無論全員殺されても蘇生できるが、そもそも死の体験は気分の良いものではない。出来るだけ、彼らを傷つけたくなかった。

「分かりました。報酬はお返しいたします」

「では、村人たちを蘇生するために高位の神官に支払った報酬の補填もするという事でよろしいですかな?生き返った村人は200人、蘇生魔法の一人当たりの相場は真銀貨1枚なので神白金貨2枚になりますが?」

 神白金貨は一枚一億円の価値があった。当然支払えるものではない。だから、僕はアンネに聞いた救世主の設定を活かすことにした。

「そもそも、トロールたちが略奪した村に、それほどの財宝があったと本気で思っているんですか?」

「いや、砦に元々あった財宝が神白金貨2枚なのだが?」

 領主は嘘を言っていた。

「そうですか、僕が砦を探した時には金貨30枚程度しかありませんでした。トロールが使ったのでしょう」

 この件に関しては証拠はどちらも無い。言ったもん勝ちである。

「では、村人を生き返らせる金はどこから出したのですかな?」

「僕は、救世主です。無償で彼らに蘇生魔法を使用しました。なので、トロールが蓄えていた財宝など無いのです」

「それを証明できるのか?」

「お望みとあらば」

「では、そいつを殺せ、生き返ったら信じよう」

 僕の目の前でヨハンが殺された。僕は怒りを抑えてヨハンを生き返らせる。念のため、人間と同じように詠唱を行った。

「冥府の神ヘルに願い奉る。ヨハンの魂をお返しくださいませ」

「ふむ、本当に蘇生できるようだな。ならば信じよう。村人からは金貨200枚を回収してある。残りの報酬、真銀貨3枚を置いて行くのなら、そなたらの罪は不問としよう」

 領主はありもしない財宝を主張するのを諦めて、僕の正当な報酬を横取りする事にしたようだ。僕は大人しく真銀貨3枚を僕の隣に立っている兵士に渡した。

「良かろう、砦に元々あった財宝はトロールたちが使ったと認めよう」

 元々無かった財宝だ。腹が立つが余計な請求をされなかった事を喜ぶ事しにした。

「では、そこの村人たちも解放して頂けますか?」

「良いだろう。好きなようにせよ」

「アンネ。キョウ。ラビ。行くよ」

 僕の言葉でみんな分かってくれた。みんなで捕まっている義勇軍のメンバーと合流する。そして、魔法『空間転移』でヨハンの村に移動した。


 僕は全員の鎖を全て素手で破壊した。するとアンネが魔法を使った。

「聖女アンネローゼ・フォン・シュワルツェンドの名において、治癒の奇跡を与える」

 アンネの魔法で義勇軍のメンバーは傷が回復した。今回使った魔法はアンネが新しく覚えた魔法だった。アンネのLVは25になっていた。僕とキョウレツインパクトが敵を倒すとLVが上がっているようだった。そして、新しい魔法も覚えていった。

「聖女様。感謝いたします」

「礼には及びません。本当に申し訳ないと思います。あなた方の為に用意した金貨も奪われてしまいました」

「良いのです。命が助かっただけでも良かったのですから」

 ヨハンはそう言ったが、僕は納得していなかった。

「必ず金貨は取り戻します」

 僕は領主の行った事が許せなかった。

「それは、いけません。救世主様が法を犯してはなりません。我らは耐える事が出来ます。どうか、その御心を汚す事が無きようにお願いいたします。救世主様と聖女様が私どもを助けて頂いただけで、私たちは満足なのですから」

 ヨハンの申し出を聞いて、余計にあの領主の思惑通りにしたくなくなった。


 僕とアンネとキョウレツインパクトとラビはアディーヌ湖の宿に移動していた。残った金貨10枚のうち8枚を使って宿を取った。

「シュワちゃん。私に話す事があるでしょう?」

「そうだね。ちゃんと話し合おう」

 宿の一室で僕とアンネは今後、どうするのか話し合う事にした。キョウレツインパクトとラビは話し合いから除外した。人間の権力構造に無理解だったからだ。

「シュワちゃんは、どうするつもり?」

 アンネの問いに僕は正直に答える。それが、僕の望む結論では無かったとしても、それしか方法が無いように思えた。

「今夜、僕は領主と、その血縁を皆殺しにする。女子供赤子も含めて……」

「その後、どうするの?」

「謁見の間で、一人だけ領主の物言いに対して、拳を握りしめていた人が居たんだ。その人に領主になってもらいたい」

 アンネからの回答は意外なものだった。

「良いと思うよ」

「え?僕は赤子も殺すんだよ?」

「何も問題ないよ。だって、その人が領主になったと決定してから生き返らせれば問題ないと思うよ?」

「え?それで良いの?生き返った後で後継者だと主張したら問題にならない?」

「シュワちゃんは分かってない。国というのは一度決定した事は簡単に覆せないんだよ?」

「つまり、一度領主が決まったら、何が有ろうとも覆せないの?」

「そうだよ。領主は世襲制だけど、断絶した場合は皇帝の権限で後任を決める事になってるの。その決定がなされた後で、元領主の血縁が生き返ったとしても、領主を元の血縁に戻すことは無いんだよ」

 この時、僕はアンネに相談して本当に良かったと思った。僕が知らない事を知っていた。

「アンネが友達で本当に良かったと思う」

「じゃあ、これから一緒に次期領主に会いに行きましょう」

「アンネも来るの?」

「当然よ。これから行う事を皇女が了承した事だとお墨付きを与えるのと与えないのとでは、どっちが良いと思う?」

「分かりました。どうかお願いします。皇女アンネローゼ・フォン・シュワルツェンド様」

「そういう言い方はモテない男がする事だよ?」

「ああ、分かったよ。頼む。僕を助けてくれ。アンネ」

「素直でよろしい。一番の友達の願いを叶えます」

 そう言ってアンネは笑顔を見せた。まったく美人というものは卑怯だ。その笑顔だけで、理不尽な要求を受けても良いと思えるのだから……。

「じゃあ、早速行こう」


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