ボストロール討伐4
ボストロール倒した後で、義勇軍からのリーダーから僕に話があった。
「黒の魔法使い様、この砦に何人もの人が攫われているのですが、探して頂けませんか?」
「すでに見つけているよ。あっちの部屋に閉じ込められているよ」
僕が場所を教えると義勇軍はそこに向かった。僕とアンネとキョウレツインパクトとラビは訓練場で待っていた。その間、トロールたちが集めていたものを物色していた。
暫くして義勇軍のリーダーが戻ってきた。
「聖女様、お話があります」
「なにかあったのですか?」
「どうやら、この砦で多数の村人が殺されていたようです」
リーダーはオブラートに包んで話していた。彼らは食料とされていたらしい。
「分かりました。何人になりますか?」
「300人程です」
「では、今日は100人蘇らせましょう。死んだ者達の名前は分かりますか?」
「ええ、分かるものを連れて参ります。それと、聖女様の事は秘密にいたしますので、ここで生き返ったものは別の部屋に閉じ込められていた事に致します。それと、村で蘇生魔法を使う時は人払いをさせたうえで高位の司祭様にお願いした事にします。資金はトロールたちが財宝を持っていた事にしてごまかします。これで宜しいでしょうか?」
義勇軍のリーダーはアンネとの約束を守る為に必死に考えて嘘を作った。
「それで、構いません」
こうして、村人の蘇生が始まった。生き返ったものは死の直前の光景を覚えていたが、義勇軍のリーダーが「悪い夢でも見たんだろ、生き残って良かったな」と言うとすんなり信じた。
100人を蘇らせ、僕の魔力は残り千になった。時間的には、お昼の時間になっていた。義勇軍は食べ物を持ってきていたが、生き返った村人の分の食料が無かった。
「シュワちゃん。みんなに何かしてあげれないかな?」
「分かった。何とかするよ」
僕はアンネの要望に応えるために村人たちにお願いした。
「すみません。みなさん一か所に集まって貰えますか?」
村人たちと義勇軍のメンバーは僕を中心に集まってくれた。
「あの、何が始まるんです?」
「みなさんを一度ルークスの街まで転移させます。そこで昼食を食べましょう」
昼食はまともなものなら銀貨一枚、つまり千円だった。助けた村人は100人だから、金貨10枚あれば全員昼食を食べられるのだ。
「ですが、持ち合わせが……」
義勇軍のリーダーがそう言ってきた。
「これを使って下さい。先ほどボストロールが居た場所で見つけました」
そう言って僕は金貨30枚を渡した。中庭で見つけた金貨は20枚だった。それだけだと義勇軍の方々の夕食分が足りないと思ったので、僕の持っていた金貨13枚から10枚を出した。
「良いのですか?戦利品は冒険者のものという決まりが……」
「だから、大丈夫ですよ。僕があげると言ってるんです。それに、これは元々あなた方のものでしょう?」
「ありがとうございます。黒の魔法使い様」
そう言って、リーダーは金貨を受け取った。そして、ルークスの街まで転移した。みな口々にお礼を言ってそれぞれ食堂に入っていった。
「じゃあ、私たちも昼食にしましょう。今度は美味しいお店をちゃんと聞いてから行こうね」
そう言ってアンネは嬉しそうに歩き出した。
街の人に聞いて食堂に入り、料理を注文して食べた。昨日の夜の料理に比べれば負けるが、それなりに美味しい料理だった。アンネもキョウレツインパクトもラビも満足していた。
食事の後で、冒険者ギルドに向かった。受付には今朝と同じお姉さんが座っていた。
「お帰りなさいませ、黒の魔法使い様」
「ボストロール討伐してきました」
「はい、すでに義勇軍の方から聞いております。討伐数の確認をいたしますね」
受付嬢は全員の討伐数を確認した。
「ボストロール1体とトロール527体で間違いありませんか?」
「はい、間違いありません」
「では、報酬の真銀貨5枚と金貨27枚です」
真銀貨は金貨百枚の価値だった。つまり一枚100万円だった。結構な大金が手に入った。
「すみません。真銀貨2枚は金貨に両替してもらっても良いですか?」
「ええ、構いませんよ」
両替が終わると受付嬢はこう言ってきた。
「それと、キョウ様は試験なしでゴールドクラスに昇格しました。念のためステータスを確認させて頂いても良いですか?」
「あの、なんで試験が無いんですか?」
「それは、ボストロールを討伐した時に目撃者が多数いたので試験は必要ないと判断されました」
「そうですか、分かりました」
僕は、キョウレツインパクトのステータスを偽装した。僕のスキル『能力偽装』は他人のステータスも改変出来た。キョウレツインパクトのステータスの年齢を20歳、名前をキョウ・レツ・インパクト、種族を人間に改編し、馬関連のステータスを非表示にした。
「ステータス確認いたしました。これがゴールドの認識票です。それとキョウ様には無手の覇者の字が贈られます」
「良かったな、キョウレツインパクト、カッコいい字が付いたぞ。ここは『ありがたく頂こう、フロイライン』と答えるとカッコいいぞ」
僕は念話でキョウレツインパクトに指示を出した。
「ありがたく頂こう、フロイライン」
キョウレツインパクトがそう言うと受付嬢の眼がハートになっていた。罪作りな男だぜキョウレツインパクト。
こうして、キョウレツインパクトの認識票もゴールド製になった。冒険者ギルドでの用事も終わり、暇になった。
「シュワちゃん。お願いがあるの」
アンネが言おうとしている事はすぐに分かった。そして、それはアンネが言わなくても僕はやるつもりだった。
「言わなくても良いよ。僕も最初からそうするつもりだったから、金貨に両替したんだよ」
「そっか、やっぱりシュワちゃんは優しいね」
「そんな事はないよ。人として当然の事をするだけだよ」
「その人として当然の事が出来ないのが人間なんだよ?」
アンネは深い事を言っていた。だが、ここで褒めちぎられても僕が嬉しいだけなので話題を変えた。
「さて、今日はもう疲れたよ。どっかで休みたい」
「じゃあ、今日もアディーヌ湖の宿に泊まる?」
「俺っちは賛成っす。ニンジン食べたいっす」
「私もニンジン食べたいです」
「お金も手に入ったしそうするか」
僕たちが楽しそうに話していると水を差してきた馬鹿が居た。
「よう、新入り、楽しそうだな、俺たちは獲物を横取りされて不機嫌なんだ。有り金全部置いて行ったら許してやるよ」
気が付くと二十人の冒険者に囲まれていた。リーダーらしき人物が話しかけてきた。赤いバンダナを巻いた黒目黒髪の盗賊風の男だった。片手で短剣を弄んでいた。年齢的には二十代後半だろう。顔は整っていたが、頬に切り傷が付いていた。女にモテそうな悪い男だった。
「何の話だ?」
「トロールの話だよ。俺たちは奴らが増えるのを待ってたんだ。報酬をたんまり貰うためにな、なのに横取りされちまって困ってるんだよ」
最低な奴らだった。こいつらは村人たちが正規の成功報酬を用意しなかったから、依頼を受けずに放置していた。数が増えたら一気に殲滅してがっぽり稼ぐという下劣な考えで行動していた。
「今の話、本当なの?」
アンネは怒っていた。
「本当だ。だから、金を置いてけ、そうすれば命だけは助けてやる」
「シュワちゃん。キョウちゃん。お仕置きして!」
「合点承知!」
「分かった。キョウ・レツ・インパクト。殺さないように手加減するんだぞ」
「委細承知!」
僕の魔力は減ったままだが、体力は回復している。相手のレベルは35~30で能力値は350~250程度だった。負ける要素は何もないので軽く撫でてやることにした。
僕とキョウレツインパクトは素手で冒険者たちを戦闘不能にしていく、10人程倒したところで、冒険者は卑怯な手段に出た。アンネに剣を突きつけたのだ。
「動くな!動けばこいつを殺す」
「ご主人様に何をするんですか~~~!」
叫んだのはラビだった。すると冒険者たちの思考が狂った。
(なんて美しい。あれを手に入れなければ)(欲しい、あれが欲しい)(ああ、なんて可愛い)(行かねば)
アンネに剣を突きつけていた冒険者はアンネに興味を失ってラビに剣を向けていた。そして、その剣を振り下ろした。ラビは優雅な動きで剣をかわした。
「草原の覇者の加護を信じます。どうかお守りください」
そう言って、踊るような所作で逃げ出した。冒険者たちはラビを一心不乱に追いかけた。ラビはその攻撃全てをかわして逃げている。そして、キョウレツインパクトの元へ冒険者たちを誘導していった。
(先輩に任せれば全て上手くいく)
キョウレツインパクトは期待に応えるようにラビに群がる冒険者全てを一撃で昏倒させた。
すると歓声が起こった。
「すごい。冒険者レギオン『赤の狩人』を子ども扱いかよ。さすが黒の魔法使い様と無手の覇者様だ」「あと、白い女の子も凄かったな、あれだけの数の冒険者に追いかけられて無傷で逃げ切ったぞ」「しかも、踊るように美しい動きで逃げていた」「あの子は白い踊り子だ」
ラビにも字が付いたようだ。
「草原の覇者の加護に感謝します」
ラビはキョウレツインパクトを神の如く崇めていた。
「俺っちはアンネ様の命令に従っただけっすよ」
「良いんです。先輩が側に居てくれるだけで私は死の恐怖から解放されるんです」
その言葉は本当だった。キョウレツインパクトが草原の覇者だと分かった時からラビは落ち着いていた。そして、さっきは自分の意思でアンネを守る為に行動していた。ラビのお陰でこのパーティーに欠けていたものが埋まった。キョウレツインパクトは単体攻撃が強い。僕は全体攻撃が強かった。でも、アンネを守る盾の役割が無かったのだ。ラビが敵の攻撃を引き付けてくれるのなら、回避盾として機能しそうだった。
それにしても『赤の狩人』嫌われすぎだろ、あいつらが負けて喜んでいる者はあっても、悲しんでいる者は皆無だった。
「みんな、よくできました」
アンネは物凄く喜んでいた。
「いえいえ、アンネの願いを叶えるのは僕の務めですから」
そう言って、騎士の真似事をして片膝をついて忠誠のポーズをとった。不愉快な出来事があったので、少しふざけてアンネの気を紛らわせようと思ったのだ。
「頼もしい騎士様、少し不愉快な事はありましたが、私を癒し空間に運んで頂けますか?」
アンネも僕に便乗した。
「畏まりました」
僕は魔法『空間転移』で移動した。こうして、僕たちは再びアディーヌ湖の宿に泊まる事になった。みんなでお昼寝をして、散策をして、豪勢な夕食をして、犬の姿でベットに入った。
ベットでアンネが僕に話しかけてきた。
「ねぇ、シュワちゃん。どうして私が蘇生魔法が使える事を秘密にしようと思ったの?」
それは、当然の疑問だった。だから、正直に答えた。
「蘇生の魔法を使えるのは高位の神官か聖女しか使えないと知っていたからだよ。僕はアンネを皇宮から連れ出した。出来れば、それは秘密にしておきたかったんだ。聖女が出歩いていると知ったら色んな奴らが狙いに来るのだろ?」
「そっか、私の為だったんだね。シュワちゃんが人間なんてどうでも良いと思ってなくて良かった」
「僕も出来れば救いたいと思っていたよ。僕も蘇生の魔法を使えるようになっていたから、僕が生き返らせると言ったら良かったんだけど、アンネは僕の制止を聞かずにバラしてしまったから……」
「え?シュワちゃん蘇生魔法も使えるの?」
「うん、使えるよ。先に言っておけばよかったと後悔しているよ。ただ、そうなると僕が高位の神官だと説明する必要があるんだけど、いいアイデアが無かったんだ」
「先に言って欲しかったな、シュワちゃんは救世主だと思われているから、蘇生魔法使えるって言っても誰も疑わなかったと思うよ」
「え?そうなの?救世主も蘇生魔法使えるんだ……。知らなかったよ。先に相談すれば良かった。ごめんね。でも、アンネは凄いよ。あの状況で僕たちの秘密も守って村人たちの願いも叶えてしまうんだから」
これは、本心だった。
「凄い事じゃないよ。やりたいと願い。それを実行する時、正しい道を歩んでいる者には神様の加護が与えられるんだよ」
「神か、僕は裏切られた経験しかないな」
「そんな風に思っちゃ駄目だよ。神様はちゃんと私たちの願いを聞いてくれているんだよ。そこに私たちには理解できない理由はあるかもしれない。でも、神様は私たちの願いをちゃんと聞いているんだよ」
「僕は彼女の側に居たいと願った。でも、その願いは叶わなかった」
「そんな事はないはずだよ。神様はちゃんとシュワちゃんの願いを叶えてくれてるはずだよ?」
アンネの言葉を信じるなら、彼女の転生者はアンネとなる。僕の願いを直接叶える事が出来なかったので、この世界に転生させたと思う事も出来た。
「シュワちゃんは、今不幸だと思っている?」
アンネの質問に対する答えは明白だった。
「そんなことは無いよ。僕はアンネに救われている。今は楽しいよ」
これは本心だった。
「じゃあ、神様に感謝しなくちゃね」
「不本意だけど、仕方ないね。確かに僕は救われている」
「それと私は知っているんだよ。シュワちゃんがとっても優しい人だって」
「そんな事ないよ」
「そんな事あるもん。シュワちゃんは優しくて強くてカッコいいんだよ」
「僕はそんなに凄い人間じゃないよ」
「シュワちゃんは凄いよ。私はそれを知っているもの。だから、自信を無くしたら私に言ってね。私がシュワちゃんの凄い所をいっぱい言ってあげるから」
アンネの言ったセリフを聞いて『真実の魔眼』が無かったら、僕は勘違いしていたと思う。アンネは本気で僕を異性として支えようと思っていなかったのだ。ただの友達として僕を励まそうと思っていた。
「ありがとう。自信を無くした時にはアンネに相談するよ」
アンネは嬉しそうに微笑んで眠りについた。




