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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

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アンネローゼとの再会

 僕は冒険者ギルドで報酬を貰い10日程過ごした。その間、僕は眠る度に彼女の夢を見ていた。その夢はいつも同じだった。彼女が風呂場で死んでいるシーンだった。死んでいる彼女の声が聞こえる。

「○○さん。デートの続き、楽しみにしてますね」

 僕はいつもそのセリフを聞いた後で目が覚める。いつも僕は泣いていた。彼女を守れなかった後悔と、彼女の願いを叶えられなかった自分が情けなくて泣いていた。

 10日間は、宿に泊まって、ご飯を食うだけの日々だった。もう彼女には再会できないと思っていた。そう思うと涙が止まらなかった。僕は転生してこの世界に来た。彼女は死んだ後どうなったんだろうか?

 もし、僕と同じように愛の女神に会って僕との再会を願ったとしたら、この世界に転生している可能性はある。もし彼女も転生しているのなら、『愛の奇跡』の発動条件が運命の人にしか発動しないと考えると、アンネがそうだという結論に至る。だが、それが分かったからと言って喪失感と無力感は拭い去れなかった。

 それに、アンネに前世の記憶があるように見えなかった。演技をしている姿は大したものだと思っているが、基本的にアンネは年相応の子供だった。

 転生しても記憶がないのでは、別人と変わりない。結局、僕は彼女を幸せに出来ない事になる。そんなモヤモヤした気持ちを抱えたまま、僕はアンネの元に向かった。人間の姿で『聖女の盾』の隊服を着て、皇宮の正門まで来た。

 皇宮の門番が僕を呼び止めた。

「失礼ですが、どなたですかな?」

 この門番は僕がアンネの使い魔シュワルツである事を知っていた。だが、規則ゆえに僕に質問していた。

「アンネローゼ殿下の使い魔シュワルツです。殿下との約束を守り帰還いたしました」

「要件は承りました。しばし、お待ちください」

(アンネローゼ様、良かったですね。大切なお友達が帰ってきましたよ)

 門番は嬉しさを隠し切れず。心の中で喜んでいた。そして、若干速足で報告に行った。アンネは兵士たちはもちろん、城のメイド達からも愛されていた。アンネに好感を抱いていないものは、敵の間者と大臣たちだけだった。

 大臣にとっては、民衆を味方に付けている厄介な存在と認識されていた。アンネの要望を聞かなかったと噂になるだけで、大臣たちに苦情が山のように来るのだ。大臣たちにとっては頭の痛い存在だった。


 それほど待たされることなく、僕は訓練場に通された。そこにはアンネとセバスとマリーと人間の姿のキョウレツインパクト、アーサーとネヴィアと『聖女の盾』の騎士たちが整列していた。

 アンネが先頭で、その後ろにセバスとマリーとキョウレツインパクト、その後ろがアーサーとネヴィア、最後に騎士たちが並んでいた。

「良く帰ってきてくれました。約束を守ってくれたことを嬉しく思います」

 アンネは皇女モードだった。

『シュワルツ殿、お帰りなさい』

 騎士たちは声を合わせて歓迎してくれた。

「それで、あなたの誓いは無事、果たせましたか」

 アンネは悪意があってそう言ったのではない、ただ僕が誓いを果たせたか知りたくて質問してきただけだった。だが、その瞬間、僕は彼女の最後を思い出してしまった。視界が歪んでいく。そして、心もぐしゃぐしゃになっていく。僕は何も出来なかった。

「どうしたのです。シュワルツ」

 歪んだ視界の中でアンネが僕に近づき、僕の手を握った。たった、それだけの事で僕は何か救われた気がした。

「僕は、僕は、誓いを果たせなかった。彼女を救えなかった」

 そこから悲しみが溢れ止まらなくなった。

「アンネローゼ様!場所を移しましょう」

 事情を知るアーサーがアンネに提案した。

「分かりました。歓迎会は中止します」

 僕はアンネに手を引かれて移動した。移動した先はアンネの部屋だった。

「みな、外に出なさい」

 アンネの命令で、部屋に居たメイドたちは外に出ていった。僕はソファーに座らされた。アンネは僕の横に座った。

「どうしたの?何があったの?」

 僕は泣きながら悲しみを吐き出した。

「僕は、彼女を悲しみから救いたかった。でも、出来なかった。僕は彼女を守れなかった。彼女は……死んでしまった」

「辛かったね」

 そう言ってアンネは僕を抱きしめて、僕の頭を撫でた。僕は今までため込んでいた悲しみを全て吐き出すかのように泣いた。泣いているうちに僕は落ち着きを取り戻した。

「大丈夫?」

 泣き止んだ僕を見てアンネはそう聞いてきた。

「ありがとう。落ち着いた」

「良かった。シュワちゃんが大切な人を失ったのは分かった。シュワちゃんはどうしたい?」

 アンネは覚悟を決めて僕に聞いてきた。

(シュワちゃんが一人になりたいって言ったら、引き留めない。私も最初に友達を失った時は一人になりたかったもん)

「分からない。でも、一人でもいても解決しない事だけは知ってる」

 10日間、僕は何も心の整理が出来ていなかった。

「そっか、じゃあ昔話するね。私ね。『聖女の盾』のみんなが好きだったの。だから、今よりももっといっぱいお話してたし、みんなとも仲良くしてたの……。

 でもね、ある日、私が暗殺者に襲われて私を守る為に騎士の一人が死んだの。その人はマリアって名前の女性騎士だった。そのマリアが死んだ時、私もシュワちゃんと同じように悲しんだ。でも、セバスが言ったの『アンネ様、それ以上悲しまないで下さい。それではマリアが報われません。マリアは最後になんと言って死んだのですか?』ってね。

 マリアは死の直前、私の姿を見てこう言ったの『無事で良かった』って、そうして笑って死んでいったの。だから、私は彼女の為に泣いて過ごすのは止めたの。彼女が守りたかったのは私の笑顔だって知ってたから……。シュワちゃんの大切な人はシュワちゃんにどうなって欲しいって思ってたのかな?」

 それは、アンネの辛い過去と経験だった。そして、僕に対する答えでもあった。日本の彼女は僕と笑って過ごせる未来の為に死んだのだ。だから、僕がこんなに悲しんだと知れば彼女は心を痛めるだろう。そう思ったら、泣いてばかりはいられないと思えるようになった。

「ありがとう。アンネ」

「良いんだよ。だって、シュワちゃんは私の事をいっぱい救ってくれたんだもん」

 そう言って、アンネは僕に良い子良い子をした。僕は不意に意識を失った。次に気が付いた時は、僕はアンネの膝を枕にして寝ていた。

「あ、ごめん!どれくらい寝てた?」

 僕は慌てて飛び起きた。

「たぶん5分ぐらいかな」

「本当にごめん」

「良いよ。あんまり眠れてなかったんでしょ?」

「うん、いつも夢を見て起こされてたから」

「じゃあ、今日から私が怖い夢を見ないように一緒に寝てあげるね」

「いや、それは色々と問題になると思うのだけど……」

「大丈夫、犬の姿だったら、誰も文句言わないよ」

「そっか、そうだよね」

 旅では、犬の姿で一緒に寝ていたのだ。ここで、そうしても問題は無いだろう。僕も犬の姿なら、アンネに対して複雑な感情を抱かずに済む。


 僕は改めてみんなに再会した。

「さっきはごめん。僕は自分の誓いを果たせなかった。大切な人を死なせてしまった。でも、もう大丈夫。アンネローゼ様が僕を救ってくれたから」

(ああ、分かる。アンネローゼ殿下は優しいからな)(そうよね、アンネローゼ様なら救ってくれるよね)

 どうやら、アンネは僕以外のメンバーも救っていたらしい。

「今日の歓迎会は先延ばしにするかい?」

 アーサーが僕に気を遣ってくれた。

「いいや、今は気分転換したい。みんなと楽しく過ごしたいと思う」

「では、準備が出来たら歓迎会だ」

 

 歓迎会は夕方5時から始まった。みんなは僕の帰還を喜んでいた。アーサーは僕に話しかけてきた。

「約束通り戻って来てくれて嬉しいよシュワルツ」

 アーサーはお酒が入って上機嫌になっていた。

「当然だよ。黒の殲滅者シュワルツ・フェアニヒターの誇りにかけて誓ったんだから」

「聖女の盾は強くなる。私が守り、シュワルツが倒す。最高のコンビだと思わないか?」

 アーサーは楽しそうに言った。確かに、その通りだった。敵が現れたとしても、アーサーが攻撃を防いでくれるのなら、僕は攻撃に専念できる。

「ああ、アーサーが守ってくれるのなら僕もだいぶ戦いやすいよ」

「それに、私は新しい技を編み出したんだ。今度、君の翼で切り裂く技と戦わせてくれ」

「斬鉄翼一閃か、あれを防げる技を編み出したの?」

「そうだとも、今度は負けないぞ」

「楽しみだな、僕のあの技を防げるって事は、大抵の攻撃は防げるって事だからな、頼もしいよアーサー」

「私がアンネローゼ殿下の盾で君が剣だ。二人で殿下を守っていこう」

「ああ、頼りにしてるよ」

「こちらこそ」

 そう言って僕とアーサーは固く握手を交わした。その光景を見ていたセバスの心の中に看過できない単語があった。

(ライバルであり友でもある。良い親友を持ったな息子よ)

 アーサーとセバスに血の繋がりはない。だとすれば、息子というのは僕の事だとなる。僕が居ない10日間に何があってセバスが僕を息子だと認識しているのか確認しなければならなくなった。母さんから僕は父親の事を聞いたことが無かった。僕自身興味が無かったのもあるが、母さんも父親の存在が無いように振舞っていた。黒の殲滅者はそういう生態だと思っていた。今晩にでもアンネに時間をもらって母さんに聞きに行かねばならなくなった。


 僕とアーサーの会話が一段落するとマリーが僕に近づいてきた。

「シュワルツ君、少し話があるんだけど良いかな?」

「ええ、構いませんよ?」

「ちょっと、人に聞かれたくない事だから、こっちに来てくれる?」

「分かりました」

 僕はマリーについて行った。マリーは歓迎会の部屋を出て、僕と二人きりになった。

「まずは、戻って来てくれてありがとう」

 マリーは優しい微笑みで僕に感謝した。

「いえ、約束しましたから」

「単刀直入に聞くわ。黒の魔法使いシュワルツ・マギアという名前に心当たりはある?」

「あります」

「10日間、何をしていたかは聞かないわ。たぶん、私の想像通りなんだろうけど、それならそれで私やセバス様を頼ろうと思わなかったの?」

 マリーは飽きれていた。頼ってくれればお金ぐらい用意するのにと思っていた。なぜ、頼ってくれなかったのか、仲間だと思い、手を貸すのは当たり前だと思っていた。

「あの、僕は自分の都合でアンネ様との再会を先延ばししました。だから、自分の都合で迷惑かけたくなかったんです」

 僕がそう言うと、マリーは僕を抱きしめた。

「馬鹿ね。辛い時には頼りなさい。あなたはそうして良いだけの献身をアンネローゼ様にしているんですよ」

 突然の抱擁に僕は、驚いた。普段のマリーの心を見ていたから、余計に予想外だった。

「ごめんなさい」

「謝るんじゃなく、次からは頼りなさい。私はあなたを認めているんだから」

「ありがとう」

 マリーは僕を放していい子いい子した。

「そう、それでいい。でも、一つ注意してね。あなたとっても強いのよ。冒険者ギルドで大騒ぎになってるわよ」

「え?なんでです?」

「黒の魔法使いという貴族出身の天才魔法使いが現れたって、しかも婚約者を魔物に殺されたから、同じような人を生み出さないために冒険者になり、魔物を退治する旅に出たってね。しかも、賞金の殆どを困っている人にあげる聖人だって、クレメン村の村長は救世主だって騒いでいるらしいわ」

「ええ~」

 村長の妄想をみんなが信じるとは思わなかった。

「真偽はともかく、君の強さは規格外なんだから、今後気をつけてね。それと君の居場所がバレたら冒険者からパーティーやレギオンに誘われる事になるけど、アンネ様との約束守ってね」

「分かりました」

「分かったらアンネ様の元に戻って良し」

 そう言った、マリーの笑顔は、とても綺麗だった。心を見なければ僕はマリーに惚れていたかもしれない。

 僕は会場に戻り、アンネの隣に座った。キョウレツインパクトはニンジンを頬張っている。何故か『聖女の盾』の女性の二人がキョウレツインパクトにニンジンを与えていた。

「マリーと何を話してたの?」

「僕が、なんでも一人で抱え込む癖を直す様に言われたよ」

「同感、もっと私たちを頼って良いんだよ」

 それは、僕が前世で退職を決意した時に同僚に言われた言葉だった。あの頃から僕は何も変わっていなかった。生まれ変わったのに、何でも自分一人で何とかしようという癖は治っていなかった。

「分かった。もっと周りを頼るようにする」

「ぜひそうしてね」

 そう言ってアンネは僕の手を握った。それは、とても温かい手だった。


 歓迎会が終わり、アンネが自室に戻ったタイミングで僕はアンネに言った。

「アンネ。少しだけ時間貰っても良いかな?」

「何?」

「母さんに確認したいことが出来たんだ。すぐに戻ってくるけど、一旦アンネの元を離れても良いかな?」

「良いよ。というかいちいち許可とらなくても良いよ。これからずっと私と一緒に居てくれるんでしょ?なら、少しの時間外出するだけなら、用事があるから出かけてくるって言えば良いよ」

「ありがとう。じゃあ、少し行ってくる」

「行ってらっしゃい」

 僕は犬の姿になり魔法『空間転移』で母さんに会いに行った。


「あら、ジーク。こんな夜更けにどうしたの?というか『異世界転移』は上手くいったのかい?」

「え?なんで『異世界転移』したって知ってるの?」

「この前、ルベドに用事があって会いに行った時に聞いたんだよ」

 やはり、セバスが僕の事を息子だと思っている原因は母さんだった。

「異世界転移は上手くいったよ。それよりも聞きたいことがあってきたんだけど」

「なに?」

「僕の父親についてなんだけど」

「ああ、あなたの父親はルベドよ」

「ええ?なんで、今まで教えてくれなかったの?」

「え?だってジークは父親なんて気にしてなかったでしょう?」

「それは、そうだけど」

「黒の殲滅者にとって、父親という存在はあまり意味が無いのよね。才能の継承元という意味でしかない」

「というか、なんでルベドが急に僕を息子だと認識しているの?」

「簡単な理由よ。私が教えたの」

「ええ?最初に会った時に何で教えてくれなかったの?」

「黒の殲滅者には人間の様な父親という存在は無い。だから、私も失念していたんだけど、人間は父親が子供に技術を継承する風習があるのを思い出して、つい先日教えに行ったんだよ」

「え?つまり、僕は剣聖ルベドの才能を引き継いでいるって事?」

「そうだよ。だから、ジークを鍛えるようにルベドにお願いしといたよ」

「あの、僕は人間と黒の殲滅者のハーフなの?」

「何を言ってるんだい。異種交配しても黒の殲滅者の子は黒の殲滅者だよ」

「なるほど、母さんありがとう。状況は分かったよ。でも、どうして僕が人間の姿になれるって知ったの?」

 僕が人間化できるようになったのは、10日程前の出来事だった。

「え?もう人間化できるようになったのかい?」

「知らずにルベドに頼んだの?」

「知らなかったよ。でも、あなたも黒の殲滅者だから気まぐれにどっかに行くこともあるかもしれないと思ったから、前もってルベドに頼みに行ったんだよ。でも、もう訓練が出来るんだね~」

「そうだね。剣を持てる体になってるね」

「ジーク。強くなるんだよ」

「分かった」

 僕はアンネの元に戻った。アンネは寝間着姿で待っていた。

「シュワちゃん寝るよ」

 アンネは大きな欠伸をした。僕はアンネに抱かれて眠りについた。その日からは僕は彼女の夢を見なくなった。


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