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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
必然が彼らを冒険に誘う

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アンネローゼが見たシュワルツの世界

 シュワちゃんと別れてから、私はシュワちゃんの視界を見る事にした。シュワちゃんの大切な人がどんな人なのか知りたかった。シュワちゃんと別れて、私たちが街に入った後で、シュワちゃんの視界が草原から切り替わった。

 その瞬間、不思議な事が起こった。シュワちゃんの視界以外の時間が停止したのだ。私は意識があるが、体を認識できなくなった。見えるのはシュワちゃんの視界だけだった。それは夢を見ているような感覚だった。

 シュワちゃんの視界には、血まみれの男の人と泣いている女の人、それに地面に押さえつけられている男の人と、その他、多くの人間が居た。そこは不思議な空間だった。私の知っている建物と根本的になにかが違っていた。白衣の人間がベットの様なものを持ってきて血まみれの男をそれに乗せた。

 そして、白い馬車の客車の様なものに運んで行った。泣いていた女の人は、血まみれの男の人について行った。その後、視界が変わり奇妙な部屋の中に居た。変わった形の机が置いてあり、ベットやテーブルがあるが奇妙なデザインの物が多かった。本も置いてあったが文字は見た事もない形をしていた。

 しばらくの間、視界は動かなかったが、突然視界が動くようになり、黒い四角い箱のボタンを押す指が見えた。シュワちゃんは人間の姿になったようだ。そして、四角い黒い平べったい板に文様が浮かび上がった。何かの魔法だろうか?そこから、よく分からない事が起こっていった。

 私は見た映像の殆どを理解できなかった。シュワちゃんは部屋の中でじっとしている事が多く、たまに出かけているが、その光景は理解に苦しむものが多かった。お金は紙で出来ているし、芸術品と呼べるほどのデザインが施されており、硬貨にも緻密なデザインの彫刻が施してあった。

 そして、お店の中には溢れんばかりの商品が置いてあった。その種類は豊富で、こちらの世界で十軒以上のお店が一つになっているかのような品揃えだった。

 シュワちゃんは雑誌を手に取って読んでいた。そこには絵と文字で物語が綴られていた。文字は理解できなかったが、絵は理解できた。その物語はとても面白そうだった。そして、シュワちゃんはいつもお店でご飯を買っていた。

 その種類は豊富で、見た事もない料理ばかりだった。ある時、ご飯を買って出るとシュワちゃんは喧嘩していた。小さいシュワちゃんを大きい男の人が囲んで何か言っていた。だが、シュワちゃんは勝ったようだ。

 その後、数日同じような日々が続き、ある日、シュワちゃんはお風呂に入っているようだった。背の低い薄い壁が並び、その壁の上部には金属の突起物が付いていた。その突起物からは水が出ていた。

 その壁に向かうようにして男の人たちが並んで体を洗っていた。シュワちゃんは床に置いてある奇妙な形の椅子と桶を持って、壁に向かって並び、突起物についている取っ手の様なものを動かして水を出した。そして体を洗い始めた。

 体を洗い終えると、シュワちゃんは大きな湯船に入った。そのお風呂はとても大きかった。シュワちゃんはお風呂から上がると、モフモフの布で体を拭いていた。そして、服を着て部屋を移動し、四角い箱の前に立っていた。箱の正面はガラスで出来ていて、中には瓶に詰められた白い飲み物と茶色い飲み物が並んでいた。シュワちゃんは銀色の硬貨を取り出して、箱の中に入れた。すると箱の右側に何個もついてる小さな突起が赤く光った。

 シュワちゃんが突起の一つを押すと、棒のようなものが動き出して、箱の中の茶色い飲みものを箱の下に運んだ。シュワちゃんはそれを取り出して紙の蓋を開けて茶色い飲み物を一気に飲み干した。私は、その飲み物の味を知りたいと思った。

 その日の夜にシュワちゃんは茶色い箱を地面に置いてそこに入った。夜が明けると、女の人が出てきて、シュワちゃんを家の中に入れた。この人がシュワちゃんの大事な人なんだろうか?

 暫くして男の人が出て来た。そして、若い女の人も出て来た。私は、この女の人を知っていた。シュワちゃんと出会った後に見るようになった夢に出てくる女の人だった。

 そこから、平穏な日々が続いていた。シュワちゃんはよく箱に映る動く絵を見ていた。音は聞こえないが、私もそれを見ていた。不思議な絵だった。生きている人間が中で動いているように見えた。

 そして、そんな日々は唐突に終わった。若い女の人が死んだのだ。そこから、視界はめまぐるしく変わった。

 なかでも、シュワちゃんが無抵抗の男の人をゆっくりと殺す様は衝撃的だった。優しいシュワちゃんが、あんな残酷な事をするなんて思ってもみなかった。でも、シュワちゃんを怖いとは思わなかった。たぶん、あの男の人はシュワちゃんを怒らせるだけの事をしたんだと思った。


 そして、視界は草原に戻った。その瞬間、私の止まった時間も動き出した。今まで見ていた事が夢だったかのように、私は街の中を歩いていた。私は皇宮に戻り、いつものように過ごした。公務は暫くなかった。なので、ご飯を食べて花壇を見て回り、『聖女の盾』の訓練を見たりして過ごしていた。

 その間、シュワちゃんは冒険者になったらしく、魔物を退治していた。シュワちゃんは約束を果たしたら私の元に戻ってくると言ってくれた。まだ、約束を果たしていないのだろうか?これから、どこか遠くへ行くのだろうか?

 その日、シュワちゃんは魔物退治の報酬をお爺さんに分けてあげて、どこかに宿をとって食事をして眠りについたようだ。念話を使えばシュワちゃんと話せるが、一度離れると約束したのだ。だから、シュワちゃんから連絡があるまで、私は念話を使わない事にした。

 私も何事もなく過ごして、眠りについた。そして、夢をみた。それはいつもの夢だった。

 黒いストレートヘアの女の人が念入りに化粧をして白いワンピースとピンクの肩掛けを着た。それに足の爪に綺麗な文様を描いていた。その後で、少し禿げかけの優しそうな男の人と手を繋いで歩いていた。それは、幸せな光景だった。夢はいつも同じ所で終わった。

 不思議な夢で、いつもこの夢を見た後は幸せな気持ちになっていた。だが、シュワちゃんが居なくなって初めての朝に私は何か足りないと思った。何かが足りなくて幸せな気持ちになれなかった。

 美味しかった食事も綺麗だった花も楽しかった噂話も何もかも足りなくなっていた。一緒に分かち合う存在が足りないのだ。シュワちゃんと一緒に居ると何もかもが楽しかった。危険な状況でさえ、シュワちゃんが居れば何とかなると思っていた。

 シュワちゃんの視界を見てみると、シュワちゃんの視界が滲んでいた。泣いているようだった。なにがあったのだろう?理由は分からなかった。それから、シュワちゃんは食べて寝るだけの生活を続けた。朝には決まって泣いていた。心配だったが、私がシュワちゃんの視界を見れる事は秘密にしていた。


 シュワちゃんが私の元を離れてから5日後、セバスに変わった来客があった。その人は女性だった。しかも、結構美人だった。赤いストレートヘアでどこかシュワちゃんと似たような面影を持った女性だった。白いローブに身を包み、不思議な雰囲気をまとっていた。

「セバス様、リーゼと名乗る女性がセバス様を訪ねて来たようですが、いかがいたします?」

 マリーがセバスに質問するとセバスは懐かしそうに眼を細めて言った。

「リーゼですか、十年ぶりですね。彼女には恩があります。お会いしましょう。マリー個室を用意してください」

「畏まりました」

 こうして、セバスはリーゼと名乗る女性と何事か話していた。マリーとメイドたちは早速、セバスとリーゼの関係をあれこれ詮索していた。

「リーゼって方、セバス様の思い人かしら?」

「セバス様も嬉しそうでしたよね」

「あの年で結婚とかあるのかな?」

「でも、歳が離れすぎてない?」

「娘って可能性もあるよね?」

「ああ、髪の色一緒ですもんね」

『ああ~、気になる~』

 そんな噂話をしつつもセバスに直接聞く者は居ない。プライベートにズケズケと土足で踏み入るようなメイドは居ない。彼女たちは噂話は好きだが、聞いていい事と聞いてはいけない事の区別はついていた。

 そうでなければ、皇宮の貴族たちを相手に身を守れないのだ。根ほり葉ほり聞く者はスパイと疑われ、最悪処刑される事もあるのだ。だから、本人がしゃべらない限り、秘密は秘密のままだった。だが、誰かに話した時点でメイド達には全て伝わってしまう。

 皇宮とはそういう場所だった。セバスとリーゼは1時間ほどして個室から出て来た。セバスはリーゼを城門まで見送って戻ってきた。

「ただいま戻りました。警備に戻ります」

「よろしく頼む」

 私も何も聞かなかった。必要なら事柄ならセバスから話すからだ。何も言わないという事は私が知る必要のない情報なのだろう。


 それから、5日たった。この間、『聖女の盾』のメンバーは急激に実力を上げた。理由はセバスだった。若返りの魔法を使って訓練を行ったからだった。全盛期の朱羅しゅらの剣聖から稽古をつけて貰っているのだ。強くならない理由が無い。

「さあ、かかってきなさい」

 セバスは剣を正眼に構えていた。対するアーサーは盾を前に剣は下段に構えていた。

「せぁ~~~~~」

 気合を吐いて、アーサーがセバスに切りかかる。セバスはその攻撃をかわしてかわしてアーサーの首筋に剣を当てる。

「動きに無駄が多い!それではネヴィアを守れないぞ!」

「はい!」

「次!」

 こうして、騎士たちは実力を上げていった。LVは30前後から35前後に増えていた。新しいスキルや魔法を習得した者も多かった。中でもアーサーが覚えたスキル『守りの盾イージス』はセバスも絶賛していた。

 アーサーが『守りの盾』を習得したのは、実戦形式の模擬戦だった。若返ったセバス対『聖女の盾』全員の戦いだった。私の魔力がシュワちゃんから供給され続けている事が分かったので、死人が出ても復活させればいいという事になり、訓練場で実戦形式の訓練が行われる事になった。午前10時に訓練は行われた。

 訓練場は石畳が敷き詰められた100m四方の庭だった。訓練場の中央でセバスと完全武装の『聖女の盾』が対峙していた。

 訓練が開始されると、セバスは圧倒的強さで『聖女の盾』のメンバーを次々に倒していった。最後にアーサーとネヴィアが残った。

「ふむ、さすがに強くなりましたね。二人とも」

 セバスは息も切らしていなかった。一方二人は満身創痍だった。

「次の一撃で最後にしましょう」

 そう言ってセバスは剣を正眼に構えた。アーサーは盾を前に出して攻撃に備えた。ネヴィアはアーサーを援護するために杖を構えた。

「修羅一刀流、ついの太刀、修羅無限闘舞」

 そう言った瞬間、セバスは消えた。そして、セバスは百人程に増えてアーサーとネヴィアを囲んでいるように見えた。だか、それらは全て一瞬で消えた。

「うぉおおおおおおお~~~~~~」

 アーサーが吼えた。すると、光の盾が出現した。その盾はアーサーとネヴィアを包み込んだ。そこから凄まじい金属音が鳴り響いた。1分ほどたった後で、セバスがアーサーの正面に姿を現し、肩で息をしていた。

「防がれてしまいましたか、必殺の技だったのですが、悔しいですね」

 セバスはそう言ったが、アーサーは立ったまま気絶していた。

「おや?私の完全な負けでも無いようですな。気絶していては、私の次の攻撃はかわせませんよ」

「私がやらせない!光の神バルドルに願い奉る。我が敵をその聖なる鎖で縛めたまへ」

 ネヴィアがそういうと地面から光の鎖が飛び出してセバスを拘束した。

「やれやれ、これは私の負けですね」

 セバスは嬉しそうに言った。


 訓練が終わって昼食を食べ、お昼寝が終わった頃に、シュワちゃんの視界に変化があった。どうやら、皇宮に向かっているようだった。私は途端に嬉しくなった。ようやくシュワちゃんと再会できるのだ。

 だが、不思議だった。シュワちゃんが悲しませないと誓った人がどうなったのか分からなかった。時間が止まった時の夢の中に居たのかもしれない。だとしたら、なんでこっちの世界で10日も時間を潰していたのか分からなかった。

 そんな疑問もシュワちゃんに会えば全て分かるのだ。私は、シュワちゃんからの連絡を待つことにした。


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