神様は嘘つき
僕は女神によって犬に転生した。だが、女神は嘘つきだった。
僕は魔犬の子として転生していた。なぜ魔犬だと分かったかというと、自我が芽生え前世の記憶が蘇った時に目の前に翼の生えた漆黒の犬が居て、話しかけたら自分が魔犬だと言われたからだ。
「あの、お母さん?」
「あら、ジーク三歳でもう言葉が話せるようになったのね。お母さん嬉しいわ」
そう言って漆黒の魔犬は優しい微笑みを見せた。
「えっと、僕は犬だよね?」
「何を言っているのジークは私と同じ由緒正しき魔犬『黒の殲滅者』なのよ。犬なんて下等生物と一緒ではありませんよ」
そう、いま会話できているのが親だとしよう。そして僕はその息子だ。それも問題ない。だが、地球に翼の生えた犬など居ない。
「ねぇ、この世界に日本って国はある?」
「日本?う~ん聞いた事ない国ね。というかジークは国が何なのか知っているの?」
「人間達が作っている集落のこと」
「まぁまぁ、なんて賢いのかしら、私嬉しいわ」
そう言って母親は僕の体を嘗め回した。ああ、犬の子供ってこんな感じなのかと撫でられているような心地よさを感じていた。でも、予想通りというか、きっと異世界なんだろうな……。
女神よ。なんで彼女の近くに転生させてくれなかったのか、せめて同じ世界に転生させてくれよ……。犬に転生して欲しいとお願いしたよ。それを叶えてくれたのは感謝するよ。でも、彼女の側に居たいともお願いした。なのになんで異世界なんだよ。恨むぜ女神……。
そんな文句を言っても女神は出てこなかったし、元の世界に戻る方法も分からなかった。だが、いつか彼女の元に戻る為に僕は魔犬として立派に成長する事にした。魔法があるなら奇跡も起こせるだろうと考えた。
母親から狩りの方法、魔法の使い方、空の飛び方等、生きる為に必要な事を学んだ。その過程で、魔王なら世界を超えて移動できる魔法を使えるかもしれないと母さんから聞き出せた。
だが、魔王と呼ばれる存在に教えてくださいと言って良いよと言われるイメージが沸かなかった。無礼者として打ち首になる。又は、魔法を学ぶための代償がとんでもないものになりそうだったので、相談するのは最後の手段にしようと思った。
なにせ、魔王は母さんでも勝てないと言っていた。山を消し飛ばしたとか、人間の要塞を隕石を落として消滅させたとか、やばい話を聞かされた。だから、本当に手詰まりになった時以外は助力を請わない方向で行こうと思った。
そうして九歳になった時、僕は母の元を巣立った。
「いい?ジーク。くれぐれも人間には気をつけるのよ?」
「はい、母さん」
「奴らは敵よ。私たちを狩って毛皮にして喜んでいる危険な連中なのだから、むやみに近寄ってはいけませんよ?」
「はい」
「じゃあ、気をつけて行くのよ。あなたに相応しい土地を見つけて幸せに暮らすのよ」
「ありがとう。母さん。僕、行ってくるよ」
母からの言葉をそのまま聞く気はなかった。魔法についてもっと勉強して、なんとか地球に帰る方法を知りたかった。一刻も早く彼女の元へ帰りたかった。
だから、僕は人間の街を目指すことにした。人間の街に行けばきっと魔法について詳しい書物が売っているはずだと思った。
街がどこにあるかなんて分からない。だが、勘が言っていた。東に向かえば何とかなるだろうと……。根拠はないけど……。たぶん、大丈夫。