聖女の盾
アンネがスレイプニルとキョウレツインパクトが同じ存在だと気づいてしまった。だから、僕はセバスとマリーに根回しをする。キョウレツインパクトが真実に気付いてショックを受けるのを放置しても良かったが、兄貴と言われたからには、放置するのは気がひけた。だた、それだけの理由だった。
「あ~、二人に話しておきたいことがあるんだ」
「なんですかな?シュワルツ殿」
「スレイプニルは自分の名前をキョウレツインパクトだと思っている」
「キョウレツインパクト?」
「え?キョウレツインパクトってスレイプニルの事だったの?」
「マリーは、何か知っているのですか?」
「ええ、さっきアンネ様に『使い魔の欄にキョウレツインパクトが書かれている』と聞いていましたので」
「キョウレツインパクトって名前は、アンネが初めてキョウレツインパクトと出会った時に、そう名付けてキョウレツインパクトも自分の名前だと認識したらしい」
「そうだったのですか」
「じゃあ、遺跡で私がスレイプニルに対して怒っていた事は……」
「キョウレツインパクトにとっては他の誰かが怒られているという認識だったよ」
「つまり、シュワルツ殿は、それを分かったうえで、我らに何も言わなかったのですな」
「それは、申し訳なく思う。だって、あの状況で誰も悪者にしないためには、僕がフォローするしかないと思ったんだ」
僕の言葉を聞くと、セバスもマリーも理解を示した。
「そうですな、私はアンネ様に『手綱を渡してください』と言えなかった」
「セバスの気持ちは分かるよ。だって、アンネは嬉しそうに手綱を握っていたんだから」
「私もアンネ様を咎められなかった」
「マリーの気持ちも分かるよ。だって、アンネは悪くないからね」
「シュワルツ殿、かたじけない」
「シュワルツ君、ありがとう」
セバスもマリーも僕に感謝していた。お互い、後ろめたい気持ちがあったのだ。
「良いんだよ。誰も傷つかないのなら、それが一番いい。だから、スレイプニルは謎の六人目だったってことにしない?」
「ええ、良いですともシュワルツ殿の意向に従いましょう」
「それでいいわ。それでアンネ様が良いのであれば」
「アンネはそれで了承済みだから、今後キョウレツインパクトを責めるのは無しね」
「当然です」
「分かったわ」
こうして、スレイプニルは闇に葬られた。
僕が根回しを済ませて、アンネの元に戻ると、アンネはキョウレツインパクトと何事か話していた。僕に気が付くとアンネは駆け寄って来た。
「上手くいった?」
「うん、二人とも分かってくれたよ」
「良かった」
そう言って、アンネはホッとした表情を見せた。
「さて、敵も排除しましたし『聖女の盾』を蘇らせるために移動しましょう」
セバスがそう言って、キョウレツインパクトを馬車に繋ぎなおした。そして、アンネとマリーと僕は客車の中へ、セバスは御者台でキョウレツインパクトを走らせた。アンネは僕を抱っこしなかった。だから、僕はアンネの横に座った。これから、『聖女の盾』を復活させるのだ。すでに皇女モードになっていた。
「ねぇ、シュワちゃん。私って注意されたら怒るタイプだと思ってる?」
アンネが念話で聞いてきた。たぶん、マリーにもセバスにも聞かれたくないのだろう。だから、僕はアンネにだけ念話で答えた。
「そうは思ってないよ」
「じゃあ、なんで遺跡で私に注意しなかったの?手綱さばきが悪いせいでキョウちゃんが罠を避けれなかったって……」
アンネは馬車の外を見ている。感情を顔には出していなかった。女優のスキルをフル活用してマリーに悟られずに質問している。
「アンネが楽しそうだったから水を差したくなかったんだ。あの時、注意すればアンネは聞いてくれると思ってたよ。でも、僕は注意したくなかったんだ。楽しそうに手綱を握るアンネを見ていたかったんだ。
それに、注意したらセバスに手綱を預けていただろ?実はキョウレツインパクトもアンネに手綱を握ってもらえたことを喜んでいたんだ。だから、キョウレツインパクトの為でもあったんだよ。
それに、セバスも嬉しそうなアンネを見て何も言えなかった。アンネが手綱を渡すって言ったら、アンネが自分のミスに気が付いたことをセバスは分かってしまう。そうなるとセバスは自分を責めると思ったんだ。
だから、何も言わずにフォローする事にしたんだ」
「そっか、良かった。私、てっきり間違いを受け入れる事が出来ない矮小な人間だと馬鹿にされてたのかなって思ってた」
「そんなこと思ってないよ。だって、アンネは嫌な事でも必要ならやるれ子だって知ってるからね」
「それなら良いんだ」
相変わらず外を見ていたが、アンネは嬉しそうに微笑んだ。
『聖女の盾』が全滅した草原に到着すると、アンネが馬車の外にでた。僕も外に出た。僕は空中に浮遊してアンネの左側に移動した。セバスとマリーはアンネの少し後ろに立っていた。アンネの右側にセバスが、アンネの左側に居た。
そして、アンネが『蘇生』の魔法を使う。
「冥府の神ヘルに願い奉る。アーサーの魂をお返しくださいませ」
僕の魔力が100程減り、一人の人間が蘇生した。アーサーは隊服と思われる黒い服を着て蘇生していた。腰には剣を佩いていた。髪の色は青で瞳の色も青だった。中背で引き締まった体をしていた。騎士の物語に出てくる主人公の様なイケメンだった。
「アンネローゼ殿下、私は死んだはずでは?」
「喜べ、アーサー。アンネローゼ様は聖女としての能力を開花させた。いま、蘇生の奇跡でお前を復活させたのだ」
マリーが上から目線でアーサーに言い放った。
「ありがたき幸せ」
そう言ってアーサーは平伏した。それから、アンネは二十人いる『聖女の盾』のメンバーを復活させた。驚くべきことにアンネは二十人全員の名前を全て覚えていた。『聖女の盾』には女性もいた。男女比は半々だった。全てのメンバーが復活した時、それは起こった。
復活してから『聖女の盾』のメンバーはずっと平伏していた。全員が揃い平伏すると示し合せたように全員が声を上げた。
『我ら聖女の盾二十名はアンネローゼ殿下を守れず戦死した事を恥じます。私たちに聖女の盾たる資格が無いと思うのなら、どのような処罰でもお受けします』
全員が一斉に声を上げていた。ヤバい発言だった。発言もヤバいが、もっとヤバいのが全員が心からそう思っている事だった。『聖女の盾』全員が武士道を体現していた。
「なぜ、そのように思うのか、そなたらの献身があったから、私は今ここに居る。私がそなたらを蘇らせたのは何故か?同情だとでも言うつもりか?私は、そなたらの働きに満足している。だから、蘇らせたのだ。この説明で不足だと思う者は意見を述べよ」
アンネは嘘つきだった。本当に同情で蘇らせただけなのに、騎士たちのプライドを守る為に役に立つから生き返らせたと嘘を吐いた。一つだけ本当なのは、騎士たちの献身には感謝しきれないほど恩を感じていた。
「そのお言葉、感謝に堪えません。私たちは死ぬ運命でした。それを変えてくださったのがアンネローゼ殿下です。今後も死を厭わずアンネローゼ殿下にお仕えいたします」
そう言って全員立ち上がり、剣を抜き放ち剣先を上にして両手で胸の前で剣を握った。それは、騎士たちの敬礼だった。
そんな、騎士たちを見てアンネは顔には出さないが、心の中で思っていた。
(あなた達も被害者で、本当なら自分自身の幸せを願っても良いのに……)
騎士たちの言葉を聞いて、アンネが悲しそうにしていたのは僕だけの秘密にしようと思った。『聖女の盾』は復活した。そのまま、皇宮へと行軍が開始された。
聖女の盾のメンバーは馬を失っていたので徒歩での行軍だった。さすがに可哀そうだと思ったが、『愛の奇跡』は発動しなかった。やはり、アンネの為にというのが重要らしい。
急ぐべき理由が無いので、アンネの為にと思ってもスキルは発動しないのだ。だから、アンネに提案してみる事にした。
「ねぇ、アンネ。『聖女の盾』全員に魔法の加護をつければ、みんな楽になると思うんだけど試してみない?」
「そうだね。そうしてみる」
「聖女アンネローゼ・フォン・シュワルツェンドの名において、我を守護する者達に加護を与える」
アンネの魔法で走っている騎士たちの速度が上がった。
「なんだ、体が軽い」「いくらでも走れるぞ」「呼吸が楽だ」「すごい飛んでいるように走れる」
こうして、宿場町ルークスまで短時間で戻ることが出来た。その後は、馬と武具を買い。全員で皇宮のあるシュワルツエンド皇国の首都ベルンを目指した。
道中、僕の存在を『聖女の盾』のメンバーが気をかけていた。特にリーダーのアーサーが「あの犬はなんだ?」と僕に視線を向けてきていた。途中の街の宿で休息している時に僕はアンネに提案した。
「アンネ。僕の説明を『聖女の盾』にした方が良いと思うんだけど」
「そっか、そうだよね。セバスに相談してみる」
「セバス。シュワルツの説明を皆にした方が良いと思うが、どうか?」
アンネは皇女モードだった。人目のある所ではセバスとマリーを部下として扱っていた。それに、対してセバスもマリーも不快に思うことなく受け入れていた。むしろ、皇女モードのアンネに対し、喜びを感じているようだった。
(ああ、アンネ様。私にもご命令を下さい)
マリーは相変わらアンネ命だった。
「これは、失念しておりました。翌朝にでも私から説明しておきましょう」
そう言ってセバスは、恭しく頭を下げた。
「頼んだぞ」
アンネは威厳たっぷりにそう言った。
そして、翌朝、出発の準備が終わり、僕とアンネとマリーは客車に入っていた。馬車の後ろに『聖女の盾』が整列するとセバスが話始めた。
「みな、不審に思っていたかもしれないが、黒い犬はアンネローゼ様の使い魔である。名前をシュワルツという。怪しいものではないから安心するように」
セバスの説明に対して、騎士たちは心の中で色々思っていた。
(使い魔?あの子犬、役に立つのか?)(ペットの間違いだろ?)(抱き心地良さそう)(撫でたい)(お手とかするのかな?)
うん、普通にそう思うよね。僕は、侮られても何も思わなかった。僕にとって大切な事はたった一つだけなのだから、それ以外はどうでも良かった。
「セバス様、質問をしても宜しいですか?」
アーサーが声を上げた。
「構わぬ」
「どういった経緯で使い魔になったのでしょうか?」
アーサーは僕が魔物なので信用できないと思っていた。
「詳しくは説明しないが、シュワルツ殿がアンネローゼ様の危機を救ってくれたのだ。そして、君たちが復活できたのも半分はシュワルツ殿のお陰だ。命の恩人として扱うように」
セバスの説明で、騎士たちは動揺していた。
(え?アンネローゼ殿下の危機を救った?)(もしかして強いの?)(というか命の恩人って)
「事情は分かりましたが納得できません。なぜアンネローゼ殿下と同じ馬車に乗っているのです。使い魔なら自分の足で歩くべきでしょう」
アーサーは上下関係を気にしていた。皇女と同じ馬車に乗るという事は僕の方が騎士たちよりも上位の存在だという事になるらしい。
「アンネローゼ様が許可されたのだ。不服か?」
「いえ、ですが彼の実力を知りたいと思っています」
アーサーは食い下がった。
(困ったものですな、自分より上だと確認しないと納得できないのですね。まあ、プライドを持つことは悪い事ではありません。シュワルツ殿には申し訳ないが、戦っても貰いましょう。死んでも蘇生魔法がありますし、この際、全力で戦ってもらい実力の差を教えておくのが今後の為にも良いでしょう)
セバスは心の中で恐ろしい事を考えていた。まあ、僕も戦っても良いと思うが死合いが前提なのが怖い。
「シュワルツ殿、すみませんが手合わせをお願いしてもよろしいですかな?」
「分かった。いいよ」
僕は快諾した。
「では、街を出て広い場所に移動してから決闘を許可する」
「ありがとうございます」
アーサーは頭を下げた。
「ごめんね。シュワちゃん。アーサーは頑固で上下関係に煩いけど悪いやつじゃないから許してあげて」
アンネは念話で僕だけに話した。
「分かった。許すよ」
ただ、戦うだけだ。それほど面倒でも無いし、騎士道貫いている奴は嫌いじゃなかった。
広い草原を見つけると、そこで馬車は止まった。馬車の前後で護衛していた『聖女の盾』も止まって馬を降りた。
「アーサー以外にもシュワルツ殿の実力を測りたいと思った者は戦闘に参加して構わない」
セバスがそう言うと、全員が僕の前に隊列を組んで並んだ。全員やる気らしい。
「なお、アンネ様が蘇生の魔法を使えるので、全力で戦う事を許可する」
セバスの宣言を聞いて、『聖女の盾』のメンバーは色めき立った。
(あんな子犬、強い訳がない)(目に物見せてくれる)(私の魔法でやっつけちゃうんだから)(可愛いからって調子に乗ってんじゃねぇぞ)(マリーさんと一緒の空間に居るのが許せない)
酷い言われようだが、僕が小さいのも可愛いのも仕方のない事だった。なんか、嫉妬で戦おうとしている奴もいるようだ。マリーの心の内を知らなければ優しいお姉さんだから仕方ないね。理由は様々だが僕は騎士たちに認められていなかった。
アーサーたちは鎧を装備し始めた。その鎧は白で統一されていた。胸には乙女が祈りを捧げる姿と盾をモチーフにした紋章が黒で刻まれていた。
アーサーたちが準備している間、僕はアーサーたちのステータスを確認した。アーサー含めLVは30前後でこの前倒した冒険者よりも劣っていた。能力値も300~250の間だった。特筆すべきスキルは無いものの、それなりにスキルを持っていた。
戦闘スタイルは騎士、槍騎士、魔法騎士、弓騎士の四種類だった。武装は基本的に剣だが戦闘スタイルに合わせて盾、槍、魔法の杖、弓も持っていた。
全員が鎧を装備し終えるとセバスが確認の言葉を口にした。
「双方、準備は良いか?」
「問題ない」
僕はセバスの問いに念話で答えた。この時『聖女の盾』のメンバーにも伝えた。すると、アーサーから予想外の反応が返って来た。
(人語を理解して空飛ぶ黒い犬と言えば黒の殲滅者じゃないのか?魔族だぞ?なんでアンネローゼ殿下の使い魔になっている。油断させて殺すつもりか?)
アーサーの疑念がさらに深まる結果となってしまった。他のメンバーも同じ感想を抱いたらしく、全員から殺気が発せられていた。
『戦闘準備準備ヨシ!』
騎士たちは声を揃えて答えた。
「では、始め!」
『うおおおおおお~~~』
騎士たちはアーサーを先頭に隊列を組んで突っ込んで来た。前列の五人の騎士は盾を構えて、中列の五人の槍騎士は槍を構えて、後列の五人の魔法騎士は杖を構えていた。弓騎士の五人はアーサーが突撃する前に矢を放って来た。
僕は矢をかわして魔法で応戦する。魔法『黒の剣鎖』を放った。十本の剣鎖が『聖女の盾』の先頭集団に向かっていく。
アーサーたちは剣鎖を盾で弾いて接近してきた。次は魔法『殲滅の黒雷』を放った。黒い球が出現し、球の表面を黒い雷が迸っていた。そして、黒い雷が『聖女の盾』に襲い掛かった。
「雷を集めよ!避雷針」
魔法を使ったのは魔法騎士で副長のネヴィアだった。ピンク色の髪と目をした可愛い印象の女性だった。中背で顔は普通のレベルだった。
(魔法戦なら負けない!)
ネヴィアは心の中で僕に宣戦布告してきた。なので、一通り使える魔法を使ってみる事にした。魔法『殲滅の黒炎』を発動する。黒い球が出現し、球の表面を黒い炎が迸っていた。黒い炎が弾丸となって射出された。
「風よ!受流せ!」
黒い炎は風によって方向を変えられて『聖女の盾』に当たらず左右の地面に落ちた。落ちた炎が爆ぜて地面を抉った。爆発をものともせずアーサーたちは肉薄してきた。
他の魔法を使う余裕は無くなっていた。先頭のアーサーが剣を振り上げて僕に斬り降ろしを放った。僕は空中を移動してかわした。すると別の騎士が追撃してきた。その攻撃もかわした。騎士たちは次々と攻撃してきたが、僕を捉えるには速さが足りなかった。
ネヴィアが次の魔法を放った。
「光の神バルドルに願い奉る。我が敵をその聖なる鎖で縛めたまへ」
地面から光の鎖が飛び出して、僕を束縛しようとしていた。この魔法には一度自由を奪われて殺されているが対策はバッチリだった。僕は魔法『結界』で自分を球形に囲んだ。光の鎖が結界を束縛した。動けなくなった僕を囲んでアーサーたちが攻撃を加えてくる。結界は頑丈だが、限界はある。なので、魔法『空間転移』で上空へ退避した。
「目標!上!」
遠くで待機していた弓騎士が僕の位置を全員に知らせた。そして、弓で攻撃してきた。狙いは正確だったが、僕はヒラリとかわした。長々と戦っても良い事は無いので、決着をつけたかったが、魔法は防がれるし、流星咬は鉄鎧で急所を隠した騎士に決まるとは思えなかった。
そんな時、アンネの声が聞こえた。
「シュワちゃん。勝って!」
≪スキル『愛の奇跡』の条件を満たしました。『殲滅の闘法』の技『斬鉄翼一閃』を獲得しました≫
アンネの『愛の奇跡』が発動したらしい。僕は早速『斬鉄翼一閃』を放つべく地面から1メートルの位置に移動した。そして、翼を広げた。目の前では『聖女の盾』先程のように隊列を整えて、前列の者は盾を構えて前進してきていた。
僕は『斬鉄翼一閃』を放った。上空に置いてあった千里眼から僕が何をしているのかよく見えた。黒い翼が伸びて『聖女の盾』の隊列の幅以上になった。そして、硬質化した。その状態で、僕は目にも止まらぬ速さで、隊列を通り過ぎた。後には死体しか残らなかった。
「シュワちゃん勝ったのは嬉しいけど、ちょっと残酷……」
アンネが念話で苦情を言ってきた。
「ごめん」
僕は謝った。でも、この技はアンネの祈りで出来た技なんだよな~。
アンネの魔法で『聖女の盾』が復活すると、アーサーがセバスに向けて言った。
「セバス様、戦う機会を与えてくださり感謝します。しかし、彼は魔族ではありませんか、人間を滅ぼそうとしている魔王の手下を信じるのですか?」
(セバス様はともかく、私と同じように両親を魔族に殺されたマリー様が何故黙っているのか……)
アーサーは心の中で怒っていた。マリーが僕をなかなか信じなかった理由も分かった。
「私から説明する」
そう言ったのはマリーだった。
「アンネローゼ様が蘇生の魔法を使えるようになったキッカケがあったのだ。それは、シュワルツの死だった。この意味が分かるか?」
「まさか、アンネローゼ殿下の為に命を賭けて戦ったと?」
「そうだ、その上、蘇生の魔法で昏倒し、死の危険にあったアンネローゼ様に魔力を分け与えて救ったのがシュワルツだ。ここまでされてもまだ魔族だからと信じないのか?」
マリーの言葉を聞いてアーサーを始め、全ての騎士が僕に剣を上に向けて持つ敬礼を行った。
『シュワルツ殿!疑ってすみませんでした!』
全員が言い訳することなく謝罪した。
「いや、大丈夫だよ。僕が魔族で魔王は人間の敵なんだから疑って当然だと思う。だから、良いよ。これからは協力してアンネローゼ様を守ろう」
『こちらこそ、よろしくお願いいたします』
こうして、僕は『聖女の盾』に認められたのだった。その後は、なんの妨害も無く二日後の朝にはシュワルツェンド皇国の首都に着いた。セバスが事前に皇宮に連絡を入れていたので、皇女の帰還は国民に知らされていた。
シュワツェンドの首都ベルンは、とても立派な都市だった。高い城壁に囲まれ、道は舗装されていて広かった。街並みも綺麗で、石造りの二階建ての建物が調和のとれた美しさで立ち並んでいた。お店もたくさんあった。
『聖女の盾』に守られた馬車が通ると皆、道を空けた。そして、道行く人々がアンネに言葉をかける。
「聖女様、視察はいかがでしたか~」「聖女様お帰りなさい」「皇女殿下おかえりなさい」「騎士様たちもお疲れ~」「きゃ~聖女様が手を振ってくれた」「アーサー様~」
ものすごく歓迎されていた。僕は馬車の中で行儀よくアンネの横に座っていた。アンネは馬車から国民に手を振って応えていた。こうしてみるとアンネは聖女で皇女なんだな~と実感するのだった。
聞こえてくる声の内容で気になる事があった。みな、アンネが襲撃にあった事実を知らないようだった。何か、理由があるかもしれない。ともあれ、皇宮に着けば、僕の役割は終わる。アンネの危機は去り、護衛する必要が無くなる。そうなれば僕は心置きなく、彼女に会いに行けるのだ。




