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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
運命は二人を引き寄せる

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シャインニングトルネードジャイロアタック 効果:敵は死ぬ

 シュワちゃんとセバスが様子見に行ったので、私は馬車の中でマリーに質問をした。それに気が付いたのは今朝だった。何気なくステータスを確認してみると、見慣れない文字が書かれていたのだ。

「ねぇ、マリー。私のステータスに獣使いって書いてあるんだけど、何か分かる?」

「獣使いですか?確か魔獣を使役する戦闘スタイルだったと思います」

「じゃあ、この使い魔の欄に書かれているのが私の魔獣?」

「そうだと思います。シュワルツ君は分かりますが、キョウレツインパクトって何でしょうね?」

「聞いたことのない名前……」

「使い魔にする条件は、使用者が名前を与える事と、魔獣がその名前を受け入れる事、後は魔獣が使用者の指示に従う意思を持つこととなっていますので、アンネ様がキョウレツインパクトと名付けているはずです。心当たりは?」

「う~ん。思い出せない」

「そうですか、呼びかけてみては?」

「キョウレツインパクト~!返事をして~」

「はい?なんですアンネ様」

 その声は、馬車の前から聞こえて来た。だが、そこにはスレイプニルしか居なかった。私が辺りを見回すと、マリーが聞いてきた。

「返事があったのですか?」

「え?マリーには聞こえなかったの?」

「ふむ、獣使いにしか聞こえないのでしょう」

「アンネ様!何か来たっす。こいつはヤバいやつです!」

「マリー。何か来たって言ってる」

 マリーが音もなく馬車の外に出た。すると、何もない場所から三人の女が現れた。

 一人は黒装束に身を包んだ黒目黒髪の暗い目をした女だった。髪は腰まで伸ばしていた。武器は腰に小剣を佩いていた。

 一人は黄色の武道着に身を包んだ金髪碧眼のポニーテルの女だった。長身痩躯でありながら胸はデカかった。鋭い目つきと発達した筋肉が印象的だった。武器は何も持っていなかった。

 一人は鋼鉄の鎧に身を包んだ灰色の髪と灰色の眼をした小柄で華奢な女だった。髪はボサボサで顔は虚ろだった。武器は小剣と盾を持っていた。

 マリーは三人を確認すると御者台に上がって、スレイプニルに鞭を打った。

「アンネ様、強行突破します。ご容赦ください!」

 だが、馬車は走り出さなかった。

「む~だ~で~す~よ~。その馬は怠惰になりましたから~」

 抑揚のない間延びした声で、灰色の女が答えた。灰色の女はそのままその場に座り込んだ。

「あはは、久しぶり、黒死蝶さん。聖女様をお迎えに上がりました~」

 気味悪く笑いながら黒い女が言った。

「どうして、ここが分かった?」

「えへへ、教える訳ないじゃないですか~。投降するのなら丁重に扱いますよ~」

「答えるまでもない!」

 マリーはそう言って黒い女に向かった。黒い女もマリーに向かった。二人が交差すると黒い女が切り刻まれ死んだと思った。しかし、黒い女は復活した。

「いひひ、無駄だって分かっているのに、なんで戦うんですかね~。ルベド様と分断された事で勝敗は決まっているのに~」

「私が時間を稼げばセバス様は必ずアンネ様を助けに来ます」

「その前に、俺が聖女を攫うに決まってんだろ」

 黄色い女が男の様な口調で宣言し、不敵に笑いながら走って馬車に近づいてきていた。私は馬車から降りて逃げとようとした。しかし、その瞬間、体が重くなり動けなくなった。

「に~が~し~ま~せ~ん~よ~」

 灰色の女がそう言った。たぶん、さっきスレイプニルが動かなかったのも灰色の女の仕業なんだろう。私はどうしたら良いのか分からなかった。だから、私は念話で助けを求めた。

「キョウレツインパクト私の使い魔なら何とかして!」

「合点承知!」

 キョウレツインパクトからの返答の直後にシュワちゃんから念話が入った。

「アンネ。敵の待ち伏せにあった。急いで逃げてくれ」

「我は解き放つ、封印されし力を……」

 キョウレツインパクトが何か言っていたが、無視してシュワちゃんと会話する。

「シュワちゃん!大変なの!敵が三人も来て、マリーが応戦してるけど、このままじゃ」

「我は勝利、約束された勝利の覇者」

 キョウレツインパクトが何かおかしなことを言いだしていた。私は思考が停止しそうになっていた。

「分かった。出来るだけ早く行くから、待ってて!」

 シュワちゃんの声が私を正気に戻してくれた。

「我が逝く道は覇者の道、我が道を塞ぐ者は悉く敗北する。喰らえ必殺シャインニングトルネードジャイロアタック!」

 言っている意味と必殺技の意味がまるであっていなかった。キョウレツインパクトの胡散臭い技が発動するのかも疑問だったので、シュワちゃんと会話を続けようと思った。

「うん!え?あれ?スイレプニルなんで光って?きゃあぁ~~~」

「アンネ?アンネ?どうしたの?」

 スレイプニルが突然発光し消えた。そして、何故か黄色い女が空中に浮いて複数の打撃を受けているような音がした。スレイプニルは打撃音が止んだ後、黄色い女の後ろに出現し後ろ足で立ち上がり何かポーズを決めていた。その背には『覇』の文字が白で書かれていた。黄色い女はいつの間にか倒れていて白くなり砂のように崩れ去った。

「そんな、馬鹿な……。私たちを倒せるのはルベド様だけだったはず」

 黒い女は今起きた事が理解できてない様だった。私も理解できていない。スレイプニルが何をやったのか分からないが、黄色い女は死んだ。そうして私の体の重さも消えた。

「エンリ、ふざけないで、約束が違うじゃない、ルベドを抑えれば安全に聖女を確保できるって言ったのはあなたじゃない」

 灰色の女は間延びした喋り方を止めて立ち上がっていた。

「ふざけてなんかない!あんなの知らない!」

 黒い女はエンリという名前らしい。

「何言ってるのよ、偵察が得意なあなたの情報だから信じたのよ」

 二人は醜く言い争っていた。

「情報不足は認めるけど、今は逃げるわよ」

 そう言って、エンリはマリーに背を向けて走り出し、白い砂の中から赤い何かを取り出して灰色の女と合流した。マリーは二人を追わなかった。二人はそのまま姿を消した。

 私は、ある疑念を解消するために念話で名前を呼んだ。

「キョウレツインパクト」

「なんですか、アンネ様」

 スレイプニルが私を見ていた。

「スレイプニル居る?」

 スレイプニルはキョロキョロとあたりを見回していた。私はそれで確信した。キョウレツインパクトはスレイプニルだと……。私が確信した時にシュワちゃんが目の前に現れた。

「無事かい?」

「うん、大丈夫だよ。敵は逃げてった」

 私が答えるとシュワちゃんは遠くを見るような眼をしていた。たぶん、セバスの戦いを見てるんだろうな~と思った。私はセバスの心配はしていなかった。伝説の朱羅の剣聖なのだ。負ける理由が無い。

 暫くたってシュワちゃんが伝えて来た。

「アンネ。セバスも敵を倒したから、こっちに来るって」

「良かった。セバスも無事なのね」

 当たり前の事とはいえセバスが無事なのは嬉しかった。

「それで、こっちでは何が起こったの?」

「あ、それなんだけど、キョウレツインパクトって知ってる?」

 シュワちゃんは驚いた表情をしていた。そして、念話で私だけに聞こえるように話してきた。

「どこまで知ってるの?」

「スレイプニルがキョウレツインパクトだって事だけだよ」

「だれが、名付けたか知ってる?」

「知らないけど、たぶん私なんだよね?」

「あいつからは、五年前にアンネが名付けたと聞いたよ」

「私、覚えてない。なんか変な名前だよね?」

「僕もそう思うけど、あいつは誇りにしていたよ。アンネから直接つけてもらった名前だってね」

「そっか、今からスレイプニルにはなれないかな?」

「これは、僕の個人的な感想だからね。キョウレツインパクトに名前を変えるよと言えば案外すんなり受け入れるかもしれない。でも、スレイプニルって名前はアンネが付けた名前じゃないんだろ?だとしたら、あいつはガッカリすると思う。それだけ、アンネから名前を貰ったって事が大事なんだと思うよ」

 シュワちゃんの話を聞いて、私の心は決まった。

「キョウレツインパクト、助けてくれてありがとう。でも、名前呼びにくいからキョウちゃんって呼んでも良い?」

「アンネ様、感激っす。名前だけじゃなく愛称まで頂けるなんて、このキョウレツインパクト、アンネ様の為に粉骨砕身で働くっす」

 スレイプニル、改めキョウレツインパクトは喜んでいた。だから、私は今後も彼をキョウちゃんと呼ぶことにした。そして、再びシュワちゃんと会話を再開した。

「シュワちゃん。ありがとう。キョウちゃん喜んでくれた」

「それは、良かったけど、スレイプニルがキョウレツインパクトだって事と、何があったのかが関係するの?」

「うん、実は敵の一人をキョウちゃんが倒したの」

「ええ?マジで?必殺技にシャインニングトルネードジャイロアタックがあったからもしかしてと思ったけど、本当に奴が倒したのか……」

 シュワちゃんは動揺していた。

「うん、何が起こったのか説明は出来ないけど、敵は白くなって死んだよ。そしたら、他の二人は慌てて逃げちゃった」

「なるほど」

 シュワちゃんは納得したようだった。そして、念話でキョウちゃんとの会話を始めた。その内容は私にも聞こえるようにしていた。

「キョウレツインパクト、お手柄だってアンネから聞いたぞ」

「兄貴!俺、ようやく必殺技に目覚めたんすっよ。遺跡でセバスの旦那の技を見た時に閃いたんっす!俺の技はこうあるべきだってイメージが、そしたら必殺技を覚えてたんすよ」

「ねぇ、キョウちゃんは私の言葉分かるの?」

 私は念話ではなく言葉で話した。

「もちろんわかるっすよ」

 この答えで、遺跡でスレイプニルがマリーに怒られているのに何も反応しなかった理由が分かってしまった。

「アンネ。その話はマリーとセバスも交えてちゃんとした方が良い」

 シュワちゃんが念話で私だけに話した。その理由も分かっている。

「分かってる。だから、確認しただけ、マリーとセバスにはキョウレツインパクトが誰なのか、ちゃんと説明できるまでは黙っているから」

「その方が良い。無駄にあいつを傷つけても仕方ないからね」

「シュワちゃんは優しいね。だから、何も言わずに罠を防いでいたの?」

「そうだよ。だって、勘違いしているあいつにそれを言っても仕方ないだろ?幸せな誤解で済むのならそれが一番だと思うよ」

 私はシュワちゃんが好きだった。その気遣いも優しさも全ては他人の為にあった。自分が損な役回りをしているのに文句ひとつ言う事なく誰かの幸せの為に動いていた。

「それで、その技の効果は?」

 シュワちゃんが話題を戻してキョウちゃんの必殺技の効果を聞いた。

「シャインニングトルネードジャイロアタック、その効果は『敵は死ぬ』ですよ。最強の必殺技なんです」

「そうか、そうだよな。お前が考えた技なんだもんな……」

 シュワちゃんは効果を聞いて遠い目をしていた。たぶん、聞いた僕が馬鹿だったと思っている顔をしていた。

 そんな会話をしているとセバスが戻って来た。

「お待たせいたしました。さあ、参りましょう」

「ちょっと待った。セバスさんとマリーさんに話がある。そんなに時間はかからないがどうか聞いてほしい」

 私はキョウちゃんの事でシュワちゃんが根回ししてくれるんだと思った。だから、援護射撃を行った。

「大切な事なの、どうか二人ともシュワちゃんの話を聞いて」

 私がお願いすると、二人は恭しく頭を下げてこういった。

『畏まりました』

 そこまでの礼をされる様な重大な内容ではないけど、キョウレツインパクトが傷つかないようにするための口裏合わせを行うのだ。たぶん、シュワちゃんは私より前にその事実を知っていたはずだ。

 それなのに、キョウちゃんを責める事をせず、マリーの八つ当たりも責めず、セバスが言うべきことを言わなかった事実を飲み込んで罠を打ち破ってくれた。私は幸せ者だ。マリーにもセバスにも愛されている。その上でシュワちゃんは誰も傷つかないように私をフォローしてくれた。

 ただ、言って欲しいなと思ったのは「アンネは手綱捌きが出来てないよ」という本当の諫言だった。シュワちゃんから私は間違いを認められない矮小な存在だと思われているのが悔しかった。


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