大罪戦士
宿場町ルークスで一泊し、『聖女の盾』が死んだ場所の近くまで移動した。そこからは、僕とセバスが先行し様子を見る事にした。待ち伏せされていたら、町に引き返して援軍を呼ぶ、待ち伏せが無かったら『聖女の盾』を復活させて皇宮に戻る予定だった。
アンネとマリーとキョウレツインパクトは待機していた。アンネは『聖女の盾』の復活に備えて黒字に金の刺繍がしてあるドレスに着替えていた。可愛さはなりを潜め、代わりに威厳が増していた。
ちなみに、セバスには既に若返りの魔法と身体強化が付与済みだった。待ち伏せがあり、敵に見つかった場合に備えての事だった。
現場は、見晴らしのいい草原だった。そこに死体は無かった。敵も居ない様だった。だが、セバスは何かを感じているらしく、僕に目配せしてきた。
(なにか居ます。引き返しましょう)
僕は無言でうなずいて、セバスに倣って後ずさりした。すると、周囲に結界が出現し、四人の男が姿を現した。僕は四人のステータスを確認した。四人はレベル50台で、能力値は500~400程度だった。
一人は白のローブに身を包んだ金髪碧眼の長身痩躯の魔法使いだった。顔はイケメンで髪は腰まで伸ばしていた。手には杖を持っていた。名前はフラドで、スキル欄には『不老不死』と『傲慢』があった。
一人は金色の刺繍が印象的な服に身を包んだ金髪金眼の小柄な盗賊だった。欲深そうな顔で髪は短く切りそろえていた。武器は短剣を持っていた。名前はクリトで、スキル欄には『不老不死』と『強欲』があった。
一人は赤い鎧に身を包んだ赤髪赤眼の中背筋肉質の狂戦士だった。顔は怒りに満ちていた。武器は手斧を二本持っていた。名前はラウスで、スキル欄には『不老不死』と『憤怒』があった。
一人は白のローブに身を包んだ紫色の髪と紫色の眼をした中肉中背の僧侶だった。中性的な色っぽさのある顔立ちだった。武器は杖を持っていた。名前はガストで、スキル欄には『不老不死』と『色欲』があった。
その四人を見て、セバスは二本の剣を抜き、無言で四人に向かっていった。四人は大罪戦士だった。セバスは奴らを殺すつもりだった。
「動くな!動けば聖女を殺す」
プラドが大声でセバスに言った。
「シュワルツ殿!ここは私に任せてアンネ様の元へ!」
「分かった」
そう返事をして、僕はアンネの元に魔法『空間転移』で移動しようとした。だが、魔法は発動しなかった。
「はははっ、無駄だよ。君の魔法は私のスキルで封じさせてもらったよ」
(私のスキル傲慢は相手の能力を何でも一つだけ封じる事が出来るのですよ)
プラドが勝ち誇ったように笑った。
「私が奴を倒します!」
そう言ってセバスは加速した。だが、クリトがセバスに向かった。セバスはクリトを相手にせずにプラドに向かおうとした。しかし、セバスがクリトとすれ違った時、セバスは武器をクリトに奪われていた。
「馬鹿な!」
セバスは驚愕していた。
「おいおい、俺達が二十年間何もしなかったと思うのかよ?あの頃より強くなってて当然だろ?」
(俺のスキル強欲に奪えないものはない。二十年前はやられたが今度はこっちがやり返す番だ)
セバスから奪った武器を弄びながらクリトはニヤリと笑った。
「ぐぅうがぁあ~~~~~~」
雄叫びを上げて、ラウスが二本の斧を縦横無尽に振り回して無手のセバスに襲い掛かる。セバスはラウスの攻撃は全て見切ってかわしていた。
「ふふふ、本当に朱羅の剣聖が若返っているわね」
ガストが男か女か分からない声で言った。そして、ガストが僕を見た。
「さあ、私たちに味方しなさい。ワンちゃん」
そういって、ガストが僕を見た。僕は「ガストの味方をしないと」と思い。セバスに向けて『殲滅の黒雷』を発動しようとしていた。
≪精神汚染を検知しました。スキル『愛の奇跡』が発動します≫
例の機械音声が流れて、僕は正気に戻った。
(スキルが弾かれた?くそっ、まさか、こんな子犬に『色欲』のスキルが弾かれるなんて……。ルベドの方を狙えばよかったわ)
どうやら、『色欲』のスキルは連発できないらしい。先にアンネの状況を確認するために念話を使った。
「アンネ。敵の待ち伏せにあった。急いで逃げてくれ」
「シュワちゃん!大変なの!敵が三人も来て、マリーが応戦してるけど、このままじゃ」
「分かった。出来るだけ早く行くから、待ってて!」
「うん!え?あれ?スイレプニルなんで光って?きゃあぁ~~~」
「アンネ?アンネ?どうしたの?」
だが、返事は来なかった。くそっ!こんな敵さっさとやっつけてアンネの元に行かなきゃならないのに!母さんのあの技と同じ効果がある必殺技を手に入れないと!
≪スキル『愛の奇跡』の条件を満たしました。スキル『殲滅の闘法』の技『魂砕き』を獲得しました≫
僕は目的の技を手に入れた。そして、その効果と攻撃範囲が分かった。
セバスはラウスの攻撃をかわしきり、クリトから剣を奪い返していた。そして、プラドの元に行こうとするがラウスが立ちふさがっていた。セバスは先にラウスを倒すことに決めたようだ。
「羅刹二刀流、終の太刀、無間地獄」
無数の剣閃が始まるかに思えたが、ラウスが奇声を上げてセバスに攻撃をしようとしていた。セバスは攻撃を受け流して技を叩き込もうとしていた。だが、ラウスの斧がセバスの剣に当たった瞬間、剣が粉々に砕け散った。
(はは、やったぜプラドの作戦が見事にはまった。ラウスのスキル『憤怒』はどんなものでも打ち砕く、代わりに正気を失うのは問題だがな)
クリトは心の中でそう思っていた。僕は、全員のスキルの効果を『真実の魔眼』のお陰で知る事が出来た。後は、プラドを殺すだけだった。あいつさえ殺せばアンネの元に行けるのだ。
だから、僕は『流星咬』を使って一瞬でプラドの首をかみ切り間合いを詰めた。僕はプラドの右後ろの地面に着地していた。
(ばかな!魔法が使えるだけの子犬じゃなかったのか?エンリのやついい加減な情報をよこしやがって!だが、この程度の攻撃なら問題ない)
プラドは、不死身だから問題ないと判断し、魔法を使った。
「凍てつけ!」
プラドを中心に半径2メートルの範囲の地面が氷に覆われた。もちろん僕の足も凍って動けない状態になった。だが、問題ない。これから放つ『魂砕き』の間合いだったからだ。僕は『魂砕き』を放った。空中に半透明の狼が出現した。
「なんだ?これは?」
それがプラドの発した最後の言葉となった。半透明の狼がプラドをかみ砕いたように見えた。だが、プラドは無傷だった。なにもダメージが無いかに見えたが、突然真っ白になり、形が崩れた。そして、風に吹かれるとさらさらと砂のように形を変えていった。
最後には白い小さな砂山が残った。その山に、赤っぽい何かがあった。だが、今は戦闘中だった。しかも、セバスは素手で二人を相手にしていた。
僕は、セバスの為に魔法『道具生成』で剣を二つ創り出した。名前は『道具生成』だが、僕がイメージできる物なら何でも実体化できるらしい。剣を生成し魔法『黒の剣鎖』でセバスに投げた。
セバスは空中で剣を受け取った。
「シュワルツ殿!感謝いたす!」
「後は任せた」
僕は、そう言い残して魔法『空間転移』でアンネたちの元に転移した。千里眼はセバスの状況を知りたかったので残した。
転移した先で僕が見たのは信じられない光景だった。なんと、アンネたちは敵を撃退していた。どうやったかは分からないが、敵の一人が白い砂になり他の二人は逃げたようだった。
「無事かい?」
「うん、大丈夫だよ。敵は逃げてった」
僕の問いにアンネが答えた。だから、セバスの様子を見た。
「羅刹二刀流、終の太刀、無間地獄」
セバスはラウスに向けて再度、技を放った。
(武器を破壊するというのなら、剣で受けなければいいだけの事、次は無い)
セバスはラウスの攻撃を体捌きだけでかわし、技を放った。全身を鎧ごと切り刻まれラウスは白い砂になった。
それを見ていたクリトの心の声は恐怖に染まっていた。
(さっきの、犬といい。ルベドといい。どうなってやがる。俺たちは不老不死になったはずだ。俺たちを殺す手段は無いはずだ。なのに、なんで殺されてんだ。これでは約束が違う)
クリトはガストを見た。ガストはクリトの意図を悟った。
(分かったわ。逃げましょう。このまま戦っても勝てないわ。だから、結界を解いて。そして……)
結界はガストの魔法だったらしい。結界は一度解かれた。
「天空神テュールに願い奉る。我を守る結界を与えたまえ」
セバスの周りに結界が出現した。クリトは白い砂山から赤い物体を回収し、ガストと合流した。セバスは結界が現れると相手の意図を察し、結界を破壊しにかかる。
「羅刹二刀流、終の太刀、無間地獄」
無数の剣閃が結界を切り裂き、結界は消滅する。しかし、セバスがガストとクリトを間合いに捉える前に、ガストは魔法を発動させた。
「天空神テュールに願い奉る。我らを望む場所に移動させませ」
ガストとクリトは消えた。だから、僕はセバスに念話で伝えた。
「アンネたちは無事だったよ」
僕の声にセバスは答えたが、その声は聞こえなかった。セバスは念話を使えないからだ。でも、千里眼を通してみた時にセバスの心は分かった。
(シュワルツ殿、感謝いたします。私もすぐに戻りますので、それまではアンネ様を頼みます)
脅威はひとまず去ったので、アンネに何があったか聞くことにした。
「アンネ。セバスも敵を倒したから、こっちに来るって」
「良かった。セバスも無事なのね」
アンネは喜んでいた。
「それで、こっちでは何が起こったの?」
「あ、それなんだけど……」




