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犬に転生したら何故か幼女に拾われてこき使われています  作者: 絶華 望(たちばな のぞむ)
運命は二人を引き寄せる

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黒死蝶と嫉妬のエンリ

 僕は眠った。だが、この体になってから熟睡は殆どしない。多少の物音でも眠りから目が覚めるのだ。また、熟睡しても5分ほどで目が覚める。ただ、体を休める為に夜はじっとしている。黒の殲滅者シュワルツ・フェアニヒターはそういう生き物らしい。

 なので、深夜に僕は異変を察知した。何かが屋根伝いに歩いてきていた。しかも、この宿を中心に円形の包囲網を敷いて、輪を狭めてきていた。人間には聞き取れないであろう僅かな足音だった。

 僕が起き上がると、マリーがすでにベットから抜け出してメイド服を着ていた。そして、僕を見て人差し指を立てて唇に当てた。静かにと言うジェスチャーだった。

(アンネ様はお疲れです。起こしたら外の敵と一緒に殺しますよ)

 僕はマリーの忠告に従って、元の体勢に戻った。そのタイミングでアンネが寝返りをうった。マリーから殺気が放たれたが、寝返りをうっただけだと分かると殺気が消えた。僕は命拾いしたようだ。

 マリーが音もなく窓を開けて外に出て行った。セバスを見るとセバスも起きていた。セバスは最初から左足は伸ばして右足は折り曲げ剣を肩にかけて座る姿勢で眠っていた。何かあればいつでも動ける体勢だった。

 僕がセバスに視線を向けるとセバスは微笑んだ。

(心配ありませんよ。万全の準備をしたマリーはあの程度の敵に遅れは取りません)

 マリーもそうだがセバスも人間離れしていた。人間には聞き取れない音しか出していない敵の存在を感じ取っていた。

 足音から察するに敵の数は十人だった。マリーは、北の敵に向かっていった。僕はマリーの実力を知っていた。だが、外の敵の強さは知らなかった。セバスは何となく感覚で分かっているようだったが、僕は心配だった。マリーが死んだらアンネが悲しむ、それは嫌だなと思った。せめて、相手の実力が分かれば、僕がどうすべきか判断できるのにと思った。

≪スキル『愛の奇跡』の条件を満たしました。スキル『千里眼』を獲得しました≫

 スキルを獲得した瞬間、僕の視界が増えた。もう一つの視界はこの宿の真上からの視界だった。マリーが敵に向かって音もなく近づいていくのが見えた。敵のステータスを確認したが、セバスが言った通り『あの程度の敵』だった。

 レベルは20台で、能力値も200~100だった。戦闘スタイルはマリーと同じ暗殺者だった。月明かりしかない薄暗い深夜の街で、暗殺者同士の戦いが始まった。敵の武装はマリーと同じで小剣と短剣数本だった。服装は全員黒装束だった。

 いつの間にかマリーの首筋に黒い蝶の文様が浮かび上がった。それは、魔法に反応して浮かび上がっているようだ。マリーは自分自身に身体強化魔法をかけていた。

 マリーは最初の敵に対して蝶の様に舞い上がり、すれ違いざまに小剣を横薙ぎにした。敵はマリーの一撃をかわして、反撃でマリーへ短剣を投げていた。マリーはヒラリと飛んで短剣をかわした。敵はマリーを無視して前進していた。

 マリーは最初の敵を追いかけずに次の敵の元に向かった。次の敵にも一撃を放つだけで、それがかわされると次に向かった。マリーは時計回りに敵に接触していった。どの敵にも一撃放つだけで追撃をしなかった。敵から反撃もあったが、その全てをかわしていた。その姿はヒラヒラと舞う蝶の様だった。

 マリーは敵を倒す気が無いように見えたが、最後の敵と接触した時に異変が起こった。最後の敵以外が一斉に倒れたのだ。マリーはすれ違う一瞬で敵に小さな針を投げていた。その針には毒が塗られていたのだ。しかも、同時に死ぬように毒の種類を変えていた。

 同時に死ぬようにした理由は、敵を警戒させない為だった。最初から毒殺すると敵が警戒してしまう。そうなると、倒すのが面倒になるので、同時に殺したのだ。

 最後の敵に対してマリーは接近戦を挑んだ。敵も一人になった事で戦う事を選択したようだった。そして、毒の事も警戒していた。マリーが投げた毒針も認識して回避していた。マリーと敵は何度か交差し、その度に攻撃を放っていたが、どちらも致命の一撃を入れる事は出来なかった。しかし、敵は動きが鈍くなった。

 マリーの服に仕込まれていた。毒が鱗粉のように舞っていた。これが黒死蝶と呼ばれる所以なんだな~と思った。動きの鈍くなった敵にマリーはあっさりと止めをさした。

 敵を全員倒してもマリーは宿に帰らなかった。何かを待っているようだった。

「隠れているのは分かっている。いい加減姿を現したらどうだ?」

 マリーがそう言うと、屋根の上に一人の女性が現れた。黒装束に身を包み。胸は平だった。髪は黒のストレートで腰まで延びていた。顔は不細工ではないが、美人でもなかった。なぜなら、目が怖かった。ストーカーの様なイッてる目をしていた。腰に小剣を佩いていた。

「ふふふ、よく気がつきましたねぇ。このままルベド様に会いに行こうと思ってたのに~。ねぇ、このまま行かせてくださらない?」

 彼女は両目を見開いて気味悪く笑った。セバスの事を知っているようだった。マリーは平然としていた。そして、剣を構えて攻撃態勢を取った。

「あらあら、やる気ですかぁ~。私、こう見えて強いんですよ?」

 彼女のステータスを見た時、レベルは50とマリーより少し高く、能力値は300~400台、俊敏性だけが突き抜けて高く700台だった。能力値は俊敏性以外はマリーより少し高いだけだったが、信じられないスキルを持っていたのだ。彼女が姿を現した時、セバスは異常を察知し窓から出て行った。

 マリーは、彼女の言葉を無視して彼女の首を刎ねた。彼女は抵抗しなかった。普通ならこれで死ぬはずだった。だが、刎ねた首が映像を巻き戻した様に元の場所に戻りくっついた。

 マリーは困惑していた。確かに首を刎ねたのに彼女は生きていた。彼女が持っていたスキルは『不老不死』だった。

「あはは、いきなり首を刎ねるなんて酷い女、これは懲らしめないといけませんね~。あはは、いひひっ。でも、その前に挨拶しておきますね~。私はエンリ、オールエンド王国の大罪戦士の一人、嫉妬のエンリ。ああ、あなたは名乗らなくても良いですよ~。裏切り者の黒死蝶さん。うふふふ」

 そう言ってエンリはマリーに襲い掛かった。マリーは向かってくるエンリに袈裟切りを放ったが、エンリはそれをかわすことなく受け、切られながらマリーに上段からの斬り降ろしを放った。

 マリーは小剣を手放し、バク転して斬撃をかわした。そして、かわしざまに短剣を投げていた。短剣はエンリの眉間に刺さった。エンリはそれをゆっくりと引き抜いて捨てていた。

「あはは、生きてる感じがする~。やっぱり、痛みは最高ですね~」

 小剣に右肩を切り裂かれたまま、エンリは笑っていた。エンリはドMだった。マリーは死なないエンリに怯むことなく近づき、エンリに蹴りを放った。蹴りを放つと同時に小剣の柄を握り、小剣を奪い返した。エンリはマリーの蹴りをみぞおちにくらって吹っ飛んだ。

 その後、マリーは死なないエンリに対して何度も攻撃を行った。だが、エンリは死ななかった。マリーはエンリに毒針も刺しているし、毒の鱗粉も撒き散らしていた。だが、エンリには効果が無かった。

「あはは、強いですね~。さすがは黒死蝶ですね~。でも、あなたは私に勝てませんよ~。だって、ご自慢の毒は効きませんからね~。いひひ」

 エンリはヘラヘラと笑いながらマリーにそう言った。マリーが手こずっていると、セバスが到着した。

「あら~。あなたの方から出向いてくれるなんて嬉しいわ~」

 エンリは嬉しそうに笑った。セバスは、そんな彼女を無視して二本の剣を抜いた。セバスは二刀流になっていた。

「羅刹二刀流、ついの太刀、無間地獄」

 セバスが思い描いてる攻撃範囲と攻撃回数は常軌を逸していた。しかし、実際のセバスの攻撃はイメージの百分の一程度だった。それでも、一瞬で二十回もの剣撃を繰り出したが、エンリは全てかわした。セバスの攻撃をエンリはかわしたのだ。マリーの攻撃は全て受けていたのに……。

「あはは、ルベド様、危険な技を編み出していたのね~。でも、残念、今のあなたでは私に掠り傷一つ付ける事は出来ませんよ~」

 エンリはセバスをなじった。セバスは肩で息をしていた。エンリのステータスはセバスよりも上だった。

「ルベド様、あの女を捨てて私たちの仲間になりませんか?そうすれば永遠の命が手に入りますよ~。あの女を差し出せば神王様も過去の遺恨は水に流してくれると思います。そうしたら、私と二人で幸せに暮らしましょう。永遠に若い私と永遠に強いあなたとで永遠に永遠に愛し合いましょう」

 エンリはセバスを誘っていた。

「断る。お前たちの様な外道の仲間になるつもりは無い」

「はぁ~。やっぱり、あの女が居るからダメなんですね~。しょうがないな~。大好きなルベド様の為にも私があの女を連れて行きますね。あの女が居るから、ルベド様は私を愛してくださらないのよね~。

 あの女さえいなければ、私とルベド様は結ばれる。だってそうでしょ?昔は、あんなに愛し合っていたんだから~」

 それはエンリの妄想だった。エンリはストーカーだった。セバスとそんな関係にはなっていない。セバスの思考を読んだ時、エンリに対するセバスの感情は憎悪だけだった。しかも、その理由はエンリが不老不死になる為に行った行為にあった。不老不死になる為にエンリが行った行為は外道と呼ぶにふさわしいものだった。

 エンリは二人を無視してアンネの元に移動しようとしていた。マリーもセバスもそれを阻止するために攻撃を開始した。しかし、エンリは二人の攻撃を完全にかわしてこちらに向かって来ていた。遊びは終わりらしい。僕は魔法『黒の束縛』を発動させた。

 エンリが黒い紐に囚われて拘束される。

「風よ切り裂け」

 エンリは魔法を使った。だが、黒い紐は切れない魔法の紐だった。しかし、エンリが切ったのは自分の体だった。自分の体をバラバラにして拘束を抜け出したのだ。

「あはは、魔法使いも居るんでしたね。あの黒いワンちゃん。私が可愛がってあげますからね~。うふふ」

 僕はエンリをアンネに会わせたくなかった。あんな悍ましい存在がアンネに近づくのが嫌だった。だが、僕がここを離れたらアンネを守る者が居なくなってしまう。どうにかアンネを守る方法は無いのか?

≪スキル『愛の奇跡』の条件を満たしました。魔法『結界』を獲得しました≫

 僕は早速、使用した。アンネの周りに光の壁が出現した。アンネの身の安全を確保したので僕は『空間転移』でエンリの前に出現し、『黒の剣鎖けんさ』でエンリを拘束した。そして、エンリと共に『空間転移』で母さんが居た森に移動した。

 母さんは起きていた。そして、僕とエンリを見ると一瞬で人型になった。

「死ね、外道!」

 母さんは敵か味方か僕に確認することなくエンリに技を叩き込もうとしていた。

「あひっ、殲滅のエリーゼ、これはやばい。あははは」

 エンリはそう言うと、母さんの拳が届く前に魔法以外の何かを使った。そして、エンリが光に包まれて消える。

「逃がしたか、クソッ」

 母さんは悔しがっていた。

「母さんは、あいつが何者か知ってたの?」

「いや、初めて見る奴だ。でも、スキルを見た時に何者かは分かったよ。それで、ジークはなんでここに来たの?」

「不死身の化け物がアンネを狙ってて、セバスもマリーも歯が立たなかったから、母さんだったら殺せるかな~と思って連れて来たんだ。迷惑だった?」

「迷惑じゃないよ。良い判断だったと思う。でも、本当ならジークがあいつを倒さなきゃね。アンネを守るって決めたんでしょ?」

「不死身の化け物を倒す方法が分からないよ」

「私の技の中にあいつを殺せる技が一つだけある。何か分かるかい?」

 僕は母さんの技の一覧を見た。そして、答えが分かった。

「ありがとう。母さん。次にあった時には、僕があの化け物を殺すよ」

「さすが、私のジークだね。自慢の息子だよ」

 そう言って母さんは僕を撫でた。

「じゃあ、僕は戻るよ」

「ちゃんとアンネを守るんだよ」

「うん。じゃあ、またね」

 僕はアンネの元に戻った。アンネは無事だった。静かに寝息を立てていた。セバスとマリーは屋根の上で敵を警戒していた。僕はセバスたちに状況を説明するために『空間転移』でセバスたちの前に移動した。

「おお、シュワルツ殿、無事でしたか」

「シュワルツ君、あいつはどうなったの?」

「僕の母さんに倒してもらおうと思って空間転移したんだけど、逃げられた」

「シュワルツ君って賢いのね」

 マリーは説明を聞いて本当にそう思ったようだ。

「その手がありましたか、私も思いつきませんでしたよ」

 僕は気まずかった。僕が母さんの所に行こうと思ったのはセバスがヒントをくれていたからだった。『蘇生魔法があれば、五大厄災でも出てこない限り死ぬことは無い』とセバスが考えていたから、不死身の化け物でも五大厄災なら殺す手段を持っていると思ったのだ。

「たいしたことないよ」

 僕はカンニングで高得点を取ったような気まずさを感じていた。

「シュワルツ殿は謙虚ですな」

「アンネ様を守れたのはシュワルツ君の機転のお陰ですよ」

 マリーの優しい言葉が胸に突き刺さる。心を読めることがバレたら僕は殺されるので真実は言えない。だから、この気まずさを飲み込むことにした。

「タイミングよく襲撃があるので監視が居ると思っていましたが、嫉妬のエンリが監視役だったとは、オールエンド王国は本気でアンネ様を誘拐するつもりですな」

「セバス様はあいつを知っているのですか?」

「ええ、因縁のある相手です。大罪戦士は私の敵です。最初は全員殺すつもりで20年前に挑んだのですが、返り討ちにあいましてな」

「セバス様でも倒せないほど強いのですか?」

「いえ、大罪戦士の厄介さは、強さではありません。不死身なのが問題なのです。20年前は奴らを倒す術が無かった。今は倒す術は持っておりますが体力が続かないのです」

「アンネ様の支援があれば、倒せるのですか?」

「そうですね。アンネ様の魔法があれば勝てるかもしれません。ただ、こんな夜中にアンネ様を起こすのは気がひけますな」

「そうですわね。こんな夜中にアンネ様を起こしたくはありませんわ」

 二人にとって、アンネは特別だった。自分たちの都合でアンネを患わせたくない。その想いは本物だった。

「さて、今夜は、もう敵も襲ってこないでしょう。明日に備えて戻りましょう」

 セバスが締めくくり、僕たちは部屋に戻った。アンネにかけた結界を解いて、僕はアンネの横で眠った。


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