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9.2020年よりのシシャ、あわてん坊の相棒を鍛え上げる為ストレステストを敢行するのコト。

 

 結局、あの日は5500万を超えた所で帰路に着いた。桜子の変なテンションに彼女の心が保たないと判断した為である。


 メインの産経大阪杯(当時G2)までメンタルが保たなかったのは残念ではあるが、配当も370円とガチガチだし、まあ、それは良い。


 良くないのは桜子のテンションである。


「ぐへへ。三峰しゃま! 今週は、行かないのでしゅか〜」


「キュン」が「しゃま」になっていやがるんだよな〜 揉み手までしてるし。


 俺としては、確かに手足の如く動く「奴隷」が欲しかったのだが、多分コレは違うヤツである。


 少なくとも三下属性は望んで無い。


 俺は、俺の代わりに法的手続きやらを行い俺自身の立場を強化する為の立ち位置を保証してくれる「大人」が欲しかっただけなのだ。


 少なくとも、俺の両親はそういった事に無関心で、俺の身を守れる程に世慣れていないのが不幸なのである。権威に弱く、相手の言う事を無抵抗に受け入れ、にも関わらず、その対処法についてはサッパリと言う、何とも頼りない事だが、その生い立ちを考えるとさもありなんと言うしかない。


 まあ、それは良い。問題は桜子のコトである。


 あの日の儲けは俺と、桜子の折半にして、桜子には、早々に「奨学金」の一括返済をさせた。それと共に、俺の取り分から更に一千万を支度金として渡し、彼女に仕事を辞めさせた。


 無論、理由として上司によるセクハラを理由にさせたのは当然である。円満退社とは言えなくなるが、若い女性の退社理由としてはこれ程説得力のある理由も無い。


「とりま、アンタを退社させたのはこれから最初に行って貰うのが【会社設立】だからだ。こないだの一千万はその【資本金】だな。それでアンタには【社長】になって貰う」


 無論、株式は51%を俺の持ち分として会社の支配権は俺の物にする積りではあるが。


 名目上の社長が東大卒の見目麗しい美人ともなれば、銀行相手の覚えも目出度いだろうし。


「え〜と、それから〜、こないだみたいに【お仕置き】もたまにはして貰いたいかな? な〜んて……」


 俺の蔑む様な視線に段々とトーンが低くなってゴニョゴニョと……


「まあ、気が向いたら、な?」


 そう言うと、パーッ! と花が咲いた様な良い笑顔で微笑まれた。くっそ! こういうトコはカワイイんだよな? 変態の癖に。


「それと、会社からのリアクションですが、やはり退職願いの撤回を求めて来ました」


 だろうな。普通なら「一身上の都合」とだけ書かれている筈の退職届に自社の恥部が記載されてる訳であるからして、普通にケンカ売ってる様なモノだからなぁ。


「現状は無視で構わんよ。手続きが終わっても何か言って来るならそれこそ会社名義で【内容証明】でも送り付けてやればいい」

「イエっス ユア マジェスティ」


 職業選択の自由ってのは当人にのみ許される権利だ。それを無理矢理撤回させた所で、奴ら自身コイツの身柄をどう利用すると言うプランがある訳でも無い。


 ましてや、本当に撤回させたとて、精々が扱いに困って飼い殺しにする他にやれる事が無いのである。


 ここはお互い大人になって、精々相手の幸福(或いは不幸)を祈りつつ赤の他人として別れを告げるのが吉だとは思うのだがな。


 まあ、良い。そっちは成り行きに任せつつ、こちらもある程度は準備を進めるだけだ。


「ところで、定款に記載する【業務内容】ですが、どうしますか?」

「う〜ん、それなんだが、基本は【純粋持株会社】でいいと思うんだけどなあ」


 この場合の【純粋持株会社】ってのは、例えば商売などの業務によって利益を得るのではなく、様々な企業を支配下に置いてその収益を集めて利益を得るだけの会社と言う意味である。


 この頃日本でも漸く解禁されたビジネスモデルで、今では結構当たり前になっているが、この時点では、何しろバカな老害にとって【邪道】としか認識出来ない反逆行為扱いされていた。


 有名所ではライ○ドアと日○テレビの抗争が有名であるが、アレは若き日のホリエ○ンが相手を舐め過ぎて犯罪者に落とされた失策であり、日テレ側が一方的に【正義】だった訳でも無い。


 それでもアレの所為で日本のビジネス界は100年後退したと言って良いだろう。上級国民と下級国民の分断がハッキリとした最初の事件でもあった。


 まあ、他人の事はどうでもいい。


「とは言え、ホントにこんな方法で上手く会社として回って行かれるのでしょうか?」

「お手本となるのはアメリカのパークシャーハサウェイって会社だな。アレも独自の事業を行わず持ち株の管理だけに特化して利益を得ている。まださほど知名度は無いが、今後間違い無く世界の大富豪として注目を浴びる筈だ」


 俺達の基本方針は、そのパークシャーハサウェイの顰みに習い、彼らより小さく、だが、確実に同じ様な方向性で、目立たず、人知れず儲けて行くのだ。高速道路を走るベンツの後ろにスリップストリームでくっついて、燃費を稼ぐ軽自動車の様に。


「とりあえず、当面はこのボロアパートを事務所代わりにしながら、基本的な部分の勉強がてら進めてくれ。まあ、プライベートに侵食して悪いとは思ってるが」

「それは、むしろ私にとってはありがたい話でしゅ。お家賃も補助してもらえるし、何よりエアコンが入ったのが最高でしゅ!」


 まあ、他に固定電話の加入もしといたから一気に【人間の住処】にはなったな。


 この時代、まだパソコンなどは一般的では無く、ウインドウズ98はおろか、その前段階の95さえ後6年も待たねばならないのである。


 当然、株を買うにも電話でのやり取りが一般的で、ほぼ専属担当者の当たり外れで顧客の投資成績が決まると言う部分もあったのである。


 非道い奴だと、注文を受け、入金された金を実際の投資には使わず、そのまま持ち逃げして、行方を眩ませるなんて話もザラにあったのだ。


「証券会社は無難にノ○ラでいいだろうが、担当者は出来るだけ新人の女性を希望しておけ。変にベテランのエリート男子なんてのが、一番信用ならないのがこの世界の悪しき風習だからな」

「了解でしゅ」

「最悪、そう言う担当しか付けない様なら第二候補の日○に鞍替えしちまえ!」


 そうは言ってもこの時代、証券会社は売り手市場。これまで取引の無かった作り立て企業で口座残高が1億未満の客など「お呼びじゃ無い」のは確か。ましてやトップがこの桜子じゃ、確実に舐められるのは否めない。


「担当が決まったら何かしら理由を付けて此処に呼び出せ。そこで面接を付けてからソイツを信用するかどうか決める。それまでは絶対金は動かすなよ?」

「イエっス ユア マジェスティ!」


 だが、こちらの心配を無碍にする形で、桜子はアッサリと決まった担当者にしてヤラレてしまったのである。


 翌週、漸く証券会社に口座が出来たと報告があって、更に3日。その週、俺は所用で桜子の所に行かれなかったのだが、その間隙を突き、担当者となった有名大学出のイケメンとやらに桜子はフニャフニャにされ、あらぬ銘柄の株を買わされたのだ。


 それも、チョット調べれば分かる程に「割高」な値段で。


「今すぐ全株を売却しろ!」

『はあッ? 何バカな事を言ってるんですか? 大体、社長の桜子さんならともかく、誰だか分からないガキの言う事なんか聞く必要があるとでも?』


 電話口に出たのは、桜子に甘い声で囁いて唆したイケメン野郎だった。


 なる程、確かに奴の立場からすると、これまで窓口だった桜子とは違う誰かとやり取りをする必要を感じ無かった様である。だが、口座開設の書類にも、一応取引担当者として、桜子の他に俺の名前も記載してあるのである。担当者の主観が強いこの時代でも、奴の態度はルール違反であり、許される事では無い。


 結局、当人にいくら言っても梨の礫であった為、紆余曲折を経て本社クレームセンターを経由し、漸く売却出来た時には当初1200万が850万円まで目減りしていた。


 普通なら、こんな損切りは俺としてもやりたくは無かったのだが、件の銘柄は、一年も保たずに不正が発覚し、上場廃止になる筈である。そんなDQN銘柄をわざわざ初心者に勧めて来ると言う事は、大方、経営者に近い筋からババを引く相手を探す様指示されていたのではないかと推測される。結果としてだが、損切りが出来た事が幸いと思い350万の損害は飲むしか無いだろう。


 何しろ、現時点では、俺達は証券会社から見れば「クズ」と呼称される程度のちっぽけな存在でしか無いのであるから。


 だが、この御礼参りは高くつくと思っておけよ!


 俺はそう決意してこの舐め腐った証券会社とは手を切る事にした。


 結局、証券会社を乗り換え、再度口座開設が成ったのが一月後。実にダービーが終わった後の6月1週目である。


 その間は毎週桜子と共に後楽園通いで目一杯ストレスを与えながら資金の回復に努めたのである。


 毎週の様に大勝負を繰り広げる事が、桜子にとっては何気に苦痛だった様で、毎週メインレースの頃にはレースを見る事も無くトイレに籠もりきりで吐いていたと言う。


「ち、違いましゅ! お仕置きは求めていましたが、こういうのは違いましゅ! もっと、スパンキングとか、性的なお仕置きなら大歓迎でしたのに、うっ! オロロロロロロロロ!!」


 尚、新たな証券会社は担当者にその年の新人女性を付けてくれ、漸く体制が整った時には、口座に先の証券会社の10倍の資金が入金された為、大層顧客として優遇されたとか。


 その後、縁を切った担当者から翻意を求める電話があったので、それらの顛末を教えた上で絶縁を改めて宣言してサヨナラした。


 教訓


 慌てる乞食は貰いが少ない。


 

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