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8.2020年よりのシシャ、変態女の借金問題にメスを入れ「あひィー!」と言わせるのコト。

 

「そ、それだけじゃ無いのでしゅ〜」


 彼女は、正に今日あった事についても話しだした。


 曰く、彼女の勤める法律事務所は、大手で全国にクライアントがいる為、それなりの頻度で地方出張も発生する。大抵は年配の「弁護士(センセー)」と若手の「見習い」を組ませて実務経験を踏ませると共に、諸経費の計算をやりやすくする為、年配者の「リーダー」には法人用の「クレジットカード」を持たせて経費を一括で管理させている。


 一方、入所間も無い彼女の様な「若手」については、そう言った「カード」を持たせる事に抵抗があるのか、一度自費での精算をし、領収証のある物についてだけ、月末に精算すると言う方式を取っている、らしい。


 コレ、思うのだが、リーダーのカードで彼女の経費も精算してやれば全て丸く収まる様な気がするのだが……


 だが、現実問題、その様な配慮はされておらず、彼女は乏しい給料の中から交通費を何とか捻出してギリ付いて行っていたらしい。


「だ、だけど、この一年で奨学金の残りを少しずつ貯めてた蓄えも無くなり、食費を切り詰めて来たのももう限界で……そんな時、先生からこう誘われたんでしゅ。『月に2回程、愛人関係を持ってくれたらお金の問題は解決してあげる』って」


 はい。アウト〜っ!!


 このオッサン、完全に確信犯だよな。絶対、自分がやるべき経費管理を逆手に取って、弱い立場の彼女をハメ(文字通り)てやろうと企んでやがるわ!


「あの、言い難いんだけど」


 俺は流石に黙っていられなく、彼女にそのオッサンの企み(と言うか、俺の考えだが、ほぼ間違い無いだろう)を暴露した。始めこそ、そんなバカな〜と言う様に疑心暗鬼の目で俺を見ていたが、段々話が進む内にサーッと顔色が悪くなり、


「あの時センパイが言ってた事はそう言う事だったと……」


 と、何故か博多弁丸出しな感じで瞳ぐるぐるさせながら絶○先生みたいな顔で


「絶望したとー! 東京砂漠を一人でがむばって生きるか弱い女の子を餌食にしようとする中年男性の性欲の魔の手に、絶望したとー!!」


 突然叫び出した彼女にドン引きしながら、もしかして、相当余裕あるんじゃないかコイツ、と思ったのも事実。


「ふっふっふ。こうなったら会社に迷惑が掛かろうとも知った事じゃないのです。私もあの糞係長のレベルにまで降りてでも、悪の権化として生きてやるのでしゅ! と、言う訳で、そこのボク? お姉さんがと〜っても気持ちいい事、教えてあげましゅから、大人しくしててね〜」


 ああ、なる程。きっとコイツ前世の時も真実を知った挙げ句に暴走して痴女になったのか……って、イヤイヤ! 俺はそんな話をしにきた訳じゃねー!


「いいから落ち着け!」

「へぶしっ!?」


 カウンターでビッグブート(十六文キック)をかましてやった。無論、俺の足は現在19センチ。両足揃えても馬場さんには尚及ばない。(16文は38.4cm。一説には34cmと言う説もあるが、伝説に駄目出しするのも野暮である)


 それでも体重差1.5倍近くある大人をふっ飛ばしたのは、俺の前世の研鑽の賜物「少よく大を制す」技術を貪欲に求めた結果である。


「し、しどいでしゅ! 女の子に手を挙げるなんて!」

「今のお前は女の子云々言う以前に一人の性犯罪者(候補)だっ!! それよりも、だ」


 俺はもんどり打って倒れた後、女の子座りで抗議する彼女に手を差し伸べ、


「どうだ? そもそもの根源的問題である『貧乏』から脱出して、自分自身の人生を取り戻さないか?」


 俺には、今の俺にしか出来得ない解決方法がある。そう。此処から未来の記憶である。


 それを現金化すると言う方法なら、それこそ星の数程も存在するのだ。


 具体的方法? ま、それは見てのお楽しみってコトで。


「ふえっ!? こ、こんな私をまだ見捨てないと?」


 ウルウルの目で九州弁丸出しなトコだけ見ると守ってあげたい系美少女ってかんじなんだけどなあ。変態でさえなければ。




 ◆




 次の日曜日の事でしゅ。


 な、何と、私はあの後、三峰キュンとで、デートの約束をばしたのでしゅ! 場所は後楽園遊園地。なんだ、大人びた事を言っていても、行動自体は可愛らしい男の子じゃありませんか?


 そう思って楽観していた私がおバカでした。


「あ、あにょ? 此処は一体?」


 その建物からは何とも言い難い独特の負のオーラが滲み出て来ておりました。東京ドームを横目に遊園地すらスルーして辿り着いたその怪しげな黄色いビルは、そのオーラが我が地元に有った有名巨大施設にそっくりだったのです。


「此処は日本最大の場外馬券売り場。此処であんたの問題を一挙に解決する! で、今日はあんた幾ら持って来た?」


 ガビーン!


 コレ、地元には幾らでも居たろくでなしの博打打ちと、ダメ男を愛した可愛そうな女の典型的パターンでは???


「え、え〜っと、今日のデート資金にとなけなしの諭吉さんを一枚……」

「ちっ! んだよ! 湿気てんなあ。まあいい、コレ渡しとくから落とさない様に気を付けろ!」

「ぴっ!?」


 三峰キュンから渡された銀行の封筒の中からは、な、何と百万円の束が!?


「あ、あにょ? 三峰キュン? コレは一体?」


 帯の掛かった札束なんて初めて見ましたが、もしかして三峰キュンは大金持ちの家の子?


「ああ、親父の会社の金をガメて来た。な〜に、今日中に元金耳を揃えて返せば決済自体は平日だから問題無い」


 ! 問題大アリでしたっ!? 


「あのね、三峰キュン? それは横領と言うれっきとした犯罪なのでしゅよ?」

「会社への腹いせに俺を手ごめにしようとした女が正論を〜」


 フン! とか! 鼻で笑われました〜!


「どうしても、って言うなら、ハードモードになるけど、お前の金だけを使ってコロガシの連戦で資金を得る方式もあるけどなあ。ハッキリ言って精神的にはずっとシンドイぞ!」


 嗚呼、見えましゅ! ニヤリと不敵に笑う三峰キュンの天使の笑顔の裏側に、小倉競馬場の負け犬通りをとぼとほ帰る数多の敗残兵の群れを。帰りを待つ悲しい女の疲れ果てた笑顔を……




 ◆



 午前を終わり、結局ヤツ、桜子の不安は杞憂と終わった。ヤツの1万円は、第一レースで5万程に。第二レースで穴が出て早くも百万の大台に乗った。その後は青い顔の桜子を気遣い、ハーフダブルベットに留め単勝のみに賭けたのだが、それでも昼休憩までに早くも8桁が見える所まで来た。


 まあ、当たり前っちゃ当たり前なんだがな。俺の趣味の一つである「競馬」それもデータ派と言われる俺としちゃ過去のレースの勝馬位ならほぼ全て脳内で網羅している。


 流石に2着や配当までは全記憶はしてないが、半数位はその馬の生涯成績まで記憶している。


 何れにしても過去の蓄積から傾向を予想するよりは、単に結果を掘り返す方がナンボか楽だった。我ながら良く覚えているものだと感心もしたが。


 それよりも問題はあの変態、桜子の方である。


 今は、目の前の光景に半信半疑の酩酊状態で、余りの放心状態にクラクラしている彼女を労う為、昼飯は後楽園飯店で高級中華と洒落こんだ。


 何の照らいも無く1万円のコースを注文する俺を桜子と店員は信じられない物を見る様な目で見ていたが、酒を頼まなかったのは、鉄火場での闘いを前に自重したのだからそこは理解して欲しい。いや、俺に出したりは店側もしないだろうが。


「信じられないでしゅ! まさか全戦全勝で、あっと言う間に一千万とか? 一千万とか?」

「静かにしろ。あんま大声で騒ぐな! こんな場所に負け組は来ないだろうが、誰の目が光ってるか分かったもんじゃねーぞ!」


 尤も、負け組定番のドーム脇の安中華でかた焼きそばと言うのも乙なのだがな。


「北京ダックとか、初めて食べました。卵のスープも美味しいでしゅし、ギョーザがオサレでしゅ!」

「流石に俺もここでコースは頼んだ事無かったが、強いて言えば伊勢海老頼みたかったな」

「あの一品で1万越えのヤツでしゅか!?」


 漸くこの頃になると幼少期の食っても食っても身にならない悪夢の様な体質は改善され始めて成長期に入ったのを自覚している。とは言え、後二年で10キロ弱しか成長しない我が身である。量が喰えないなら質に走るのも道理と言うモノである。


「それよりも、ここ迄儲けさせてやったんだ。午後は俺の資金調達にも協力してくれよ?」

「フフッ。お代官様も相当なワルでありましゅな?」


 ここ迄、俺と桜子は、ろくでなしの姉と染まりつつある弟のプレイで入場口の警備員をやり過ごして来た。俺は当然として、ウッカリすると桜子も「未成年」の疑いを掛けられる程、見た目は幼いのだから、リクルートスーツを着てなければヤバい所だった。尤も、大手法律事務所の社員証は十分錦の御旗として通用したのだから、この時代はまだおおらかだったと言う事だろう。


 そして、午後の結果であるが、


 むちゃくちゃ勝ってパンパンになったバッグを挙動不審に持ち帰り、桜子のアパートに着いた瞬間尻をスパンキングしたら、「あひィー!」と鳴いて昇天した。

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