7.2020年よりのシシャ、【貧乏】に喘ぐお姉さんを型にハメて奴隷落ちさせるのコト。
お待たせしました。
「え? え〜と? アナタは、ど、どちら、様でしょう???」
どうしよう? 思いっきり、テンパってらっしゃる。
身長150cm程の小柄な肉感バディを、リクルートスーツで包み、生まれたての小鹿の様に膝をガクガクさせた、童顔の合法ロリっぽいショートカット美少女が、胡乱な目で俺を見つめている。
ヤバい! 初登場の仕方間違えたか?
確かに俺達の前世での出会い方から言えば、奴の方こそ【変質者】であったが、今回の俺の「ブランコカタパルト」では、どう贔屓目に見ても、俺の方こそ因縁吹っかけに来た【怪しい子供】である。
「えーと、ボクは、貴女を【破滅】の運命から救う為にやって来た『2020年よりのシシャ』なのです」
そう言った俺に向かって訝し気な顔をしていたが、やがて何某かの記憶と整合されたのか、
「あ! アナタ、時々この公園で本、読んでましたよね? 結構目立つんで良く覚えてました」
ビクッ! こ、コイツ!? まさか俺がボッチのとこを見ていた、だと!?
「こ、高円寺図書館で本借りて、偶に、此処で読んでた事はありましたけど、良く覚えていましたね?」
ビクッ! ん? 今度は奴の方がビクッとした、だと?
「しょ、しょ、しょれは、キミがとっても可愛らしい男の子だったからで……しょれで、わ、わたちに一体何の『御用』でしゅか!?」
……何故か『御用』の二文字に「逮捕」のニュアンスが感じられるのは、俺に対していかがわしい企みでも持ってた所為じゃ無いだろうな?
「ボクが貴女に会いに来た用向きは、近い将来訪れるであろう、貴女の『破滅』の運命を回避する為。そして、その見返りとして、貴女にはボクの為に働いて欲しいのです。とは言えそんな事をいきなり言われても信じられないのも「信じましゅ!!」は?」
ものごっつい喰い気味に喰いついて来た。俺の両手を握りしめ、目には涙を浮かべながらも赤面した上気した頬と、フンス!とばかりに荒い鼻息。そしてテンパり過ぎだろうってツッコミたくなる程にぐるぐる回る瞳孔。
ヤベ! そんな気は無かったのに、「追い込め」過ぎた?
「こんなところぢゃなんでしゅから、ぜひともわたちのあぱーとまでごそくろいただきたくぞんじましゅ〜」
そう言って、漢字変換の間ももどかしく、俺を小脇に抱えるとBダッシュボタンでも押したかの様にバビューン! と連行されて行かれたのである。俺、このまま童貞を散らす事になるのかしらん? ドナドナ。
◆
超事案!
遂に、遂にやってしまいました。
いくらカワイイ男の子に声を掛けられたからと言って、よりにもよって、その子をアパートに連れ込むなんてっ!?
私は一体どうしてしまったのでしょうか?
ちょっとだけ鋭い目つきですが、地元にはこの位荒んだ目の男の子はいくらでもいましたし、むしろ、ショタなのに蔑む様な目、ってゾクゾクキテしまいます。
男の子は13歳以下に限りまふ! うちの弟達は既に成人してしまったので、最早愛でる対象ですらありません。
「ま、まじゅは、これをご覧下しゃい!」
アパートの自室(二階角部屋南西向き)に入り、取っておきのバヤリースの封を切ると、それを男の子の前に献上し、私は正座で彼の向かい側に相対しました。
◆
「預金、通帳ですか? ふむ、月に16万円の奨学金。たしかお姉さんは東大卒でしたよね? とっても優秀だったのですね?」
と、ちょっとだけ持ち上げて見たのだが、彼女は更に暗い雰囲気になっただけだった。
「ん〜ん、そうじゃなくて、その奨学金はある程度誰でも借りられるお金みたいなモノなの。それで、卒業した後、こんなふうに返済しなきゃいけないんだけど……」
そう言って通帳の頁を何枚か捲ると、今度は引き落としの欄に「奨学金」の項目が……えっ!?
「昨年四月に就職すると、今度はその奨学金を返済しなきゃいけないんだけど、それが毎月合計7万円強。それを毎月15年間支払いしなきゃいけない訳なの」
そう言う彼女の自嘲ぎみの言葉に愕然とする。
彼女の給料が手取り15万弱。家賃が3万8千円、光熱費が1万として、3万も残らない。そこに加えて地方出張の交通費が毎月3万円近く。まともに残るお金はほぼ端数のみ。これが就職間も無いとは言え、働いて暮らしている人のポートフォリオだろうか?
「正直、ボクはお姉さんの心の闇を晴らしてあげれば問題は解決すると思っていましたが、どうやら見込みが甘かった様です。この上は、貴女の問題を早急に解決する必要があるかと思いますので、ボクに出来る事なら何でも言って下さい」
そう言うと、彼女はポロポロと泣き出してしまった。嗚咽すら漏らさずにただ涙を流すのみの彼女の姿に、絶望の深さを思い知らされた様な気分であったが、その姿が余りにも不憫で、俺はただ、彼女の頭を撫でながら、彼女が話し始めるのを待つしか無かった。
◆
「た、大変お見苦しい所をお見せしました」
ふと、我に返った彼女はボロい畳に頭を擦付け土下座をかました。
ほっとくとそのうち全裸土下寝とかまで発展しかねないので、気にしてない旨を伝えた上で、彼女の事情を聞いてみた。
曰く、昨年春の就職以来、彼女はビンボーに喘いで苦しんでいたそうだ。
普通、と言うか、昭和の昔より、大抵日本でビンボー生活と言えば「学生時代」と言うのが相場である。
これも実は当然と言えば当然の話で、金を稼ぐ能力の無い癖に一方的に金を「消費」するばかりの存在。それこそが「学生」であるからだ。
明治、大正の古くから「学生」と言うのはある程度「尊敬」を受ける存在ではあったのだが、それにはいくつかの理由があった。
例えば、「学費」の確保。これが出来るのはそれだけの「所得」の持ち主だけであり、それ以上に、「学費」以外の費用をも賄いその間「穀潰し」を養う能力のある家の【子供】、即ち【金持ち】の家の子供だからこそ、尊敬されていたのである。
一方、当時の貧乏人が「学校」通いをするにはどうしていたか。例えば、入学金だけは確保出来る程度の蓄えがあっても、卒業までは些か怪しいと言う場合、諦めるかと言えば、そうではない。
とりあえず「入学」はさせて後は学生本人の器量に任せようと言うパターンもあり、ある者は赤貧に耐え忍び、ある者はバイト三昧でまともに授業にも出れないまま、ドロップアウトしたりもした。
或いは、目端の効く者なら、金持ちの家にありとあらゆる算段を付けて転がり込み、彼等の金とコネ、権力で学生時代を謳歌する。所謂「書生」と言ったパターンもある。先の「学生」と言うだけで尊敬される謂れの一つとしてこういった形での金持ちとのコネクションもあるかも知れない。
何れにしても、ある程度の金しか無いのに「学生」を抱え込むのは、普通なら親子共に共倒れしかねない「自殺行為」であり、百年前なら身の程知らずの庶民がそのまま奈落へと突き進む「貧乏街道」まっしぐらな愚行だと、今の俺ならそう思う。
ところが、ある程度日本が裕福になると、過去の「学生」となった人々の成功体験が持て囃され、僅かな投資で将来「大儲け」と言う夢を見た庶民達が、大挙してこの「学生市場」に参入して来た。
むしろ参入しない者は、「非国民」で「愚か者」で「子供を虐待してる」と言うレッテルまで貼り付け、全国民の9割以上が、何らかの方法で「高等教育」を受ける風潮を植え付けた。
結果的にではあるが、生徒一人辺りの「客単価」はある程度安くなったものの、それでも大学卒業までで普通に千万単位の金が動く。それを「素」の状態で余裕綽々支払える家なら問題は無いが、普通の家なら、子供が生まれた時から逆算して資金調達するレベルの「計画性」が必要なのである。
ところが、バブルが弾けて親達の懐が怪しくなると、「人の親」もふと、我に返ってしまうのである。
「アレ? いくら自分の子供でも、子の人生は子のモノだよね? だったら、子の人生を豊かにする『教育』の資金は『子供』が払うのが『筋』じゃね?」と。
結果、日本と言う国からは高等教育を受けるなら「奨学金」と言う「常識」が誕生し、学生時代に貧乏に苦しむ「苦学生」と言う存在を駆逐する事に成功いたしましたとさ。
めでたし、めでたし。
とはいかず、単に親の懐を狙っていた教育産業が、知恵も経験も一般常識も知らない「子供世代」に的を絞り「奨学金」と言う名の「学生ローン」で型にハメていっただけである。
結果、何が起こったかと言うと、学生時代に貧乏に苦しむ筈の学生が、卒業後に社会人になってからその間利用した奨学金の支払いに困窮すると言うスキームが誕生した。
その間棚上げになっていた「利息」と言うオマケを上乗せされて。
ある意味、これは日本版サブプライムローンと言う問題であり、不動産の代わりに後に残らない「教育」に掛かったお金を担保に若人をカタにハメる。俺の元いた時代、2020年頃においてようやく社会問題になり掛けたばかりの話である。
思うに、彼女の問題は、その問題のプロトタイプ、或いは実証実験として選ばれてたのであろうか?