2.タイムリープした俺氏、己が人生を振り返るのコト。2
なんと! 早速感想頂いてしまいました!
ありがとうございます。
一言で「暴力教師」と言っても流石に着任早々から暴力を振るう程には世慣れていない筈も無く、数カ月は比較的「凪」の状態が進んでいた。
その間、春の最初の「個人面談」に於いて、俺の母親が俺の「問題」についてある程度話していたのだが、
「その件は校長から聞いております。悪いようにはしませんのでご安心ください!」
とか、安請け合いしていたのである。
だか、「敵」もさる物。それまでは、担任の前だろうが、関係無く暴力を振るっていたのを、流石にキャラの分からない「大人の男」は怖いのか、陰に連れ込み人の見えない所での「暴力」へと切り替わって行った。
やはり、叶わない大人に対してはそう言う物か、とガッカリもしたが、光明が見えた気もしたのだ。
やはり大人には奴らも敵わない。動かぬ「証拠」さえあればきっとコイツらを裁いてくれる筈、だと。
だが、それが錯覚でしか無かった事をまざまざと見せつけられる事件が起こるのであった。
今にして見れば、可笑しい事にも気が付きそうなモノであるが、当時の、毎日顔面に傷跡や青タンが残っている顔で登校していても誰も問題にしない事が「日常化」した俺の毎日に、俺自身が麻痺していたのかも知れない。
ある日、遂に俺がブチ切れた。
その日も顔面にパンチの雨アラレを喰らっていた俺ではあるが、毎日毎日無抵抗でやられていた訳では無い。
例えクリーンヒットからは程遠くても、反撃自体は何とかしようとしていた。尤も、相手とのパウンドフォーパウンドで不利があり、尚かつ相手は複数人の場合が大抵で、隙を見せても別の相手がカバーするという、完全にハメ殺し状態を確保してから「暴力」を楽しむのが奴らの日課であった。
だが、この日は違った。
奴らのリーダー格の奴に隙が出来たのだ。
金的がガラ空きで一発殴ればクリーンヒット間違い無い。そう言う状態だった。
無論、手痛い一撃をくれてやった。慈悲は無い。そして「く」の字に折れ曲がった身長30cmも違うリーダー格の髪の毛を引っ張り、俺は全力で廊下を駆け抜けた。目的地は「職員室」である。
ガラリと職員室の扉を開くとフリーズした室内の空気を意に介さず俺は担任の机まで一直線に向かう。流石に体格に勝っていても髪の毛を毟られるのは嫌なのか、奴は多少の抵抗も虚しく職員室まで引っ張られて連行されてきた。
此処は事情も知る大人達が居る場所。言い訳の出来ない程の怪我も負っている。最早奴らの「年貢の収め時」だと俺は確信していた。だから、俺は大声で叫びながら担任の元へと向かったのだ。
「この卑怯者! いつもいつも、大人の居ない陰に回って暴力振るいやがって! テメエのやってる事が正しいってんなら、大人の前で、担任の前でやってみろ!!」
だが、此処で奴はトンデモナイ事を宣ったのである。
「助けて! 先生!! 三峰くんが僕をイヂめるんですぅ〜」
は?
何をアベコベな事を言ってやがる!? しかも、どう見ても棒読み過ぎて説得力も無え!
だが、担任の反応は余りにも顕著であった。
「オイ、三峰! 可哀想だろ! 今すぐ離してやれ!!」
???
何?
何言ってんの?
俺が、今まで散々暴力を振るわれてる時には助けないで、
それで、コイツのわざとらしい「助けて」には応じるの?
良く見ろよ! この腫れ上がった顔!
良く見ろよ! まだ、血の滴ってる頬を!
全く見た目は無傷の「奴」の方が可哀想って!? お前! 何を見てたらそうなるんだ!?
正義は必ず最後には勝つ!
そう、信じていたのに、裏切られた。
そうとしか思えない異様な話である。
そうかよ!
テメエもかっ!?
テメエもそっち側の人間だったのか!?
うちの親には適当こいて、本来の義務は果たさない、クソ野郎か!?
余りの怒りに我を忘れた!
余りの憎しみに奴を殺したいとすら思った!
だが、それでも1%程はまだ信じていた。単に勘違いしてるだけなんだと。
きっと目を覚ませば正しい行動ご何かを理解してくれる、と。
だから俺は担任に向かって
「目をさませ!!」
とばかりに着ていたセーターを脱いで顔面に投げつけた。無論、怪我を負わせない様に配慮した一撃である。
だが、その行為は、期待した効果とは真逆の悲惨な光景を生み出した。
「てめえ!! 教師様に向かって何をしやがるっ!!」
信じられない事に、本当にそんな事を言いながら、担任は俺の髪の毛を掴むと思いっきり振り回し始めた。
縦回転、横回転、前後不覚どころか、どっちが上か下かすらも分からなくなる程に両手を使って振り回された。
そして、最後は硬い床に叩きつけられた。投げつけたのではない。明らかに地面に向かって叩きつけられたのだ。現代なら、この段階でも充分逮捕モノの暴挙であろうが、更に奴の暴力は続く。
「皆さん、も、見て、ました、よね? 先に、手を出したのが、コイツ、だったのを!」
そう、同僚に言い訳をしながらも、奴は俺の顎先に、鳩尾に、金的に、蹴りを入れてきたのだ。
頭を庇えば腹を、腹を庇えば頭を、と、的確に急所を狙っての攻撃は、180cm、90kgにも届こうと言う担任の体格も相まって、イジメっ子の一撃とは比較にならない程のダメージを与えていた。
此処まで「大人」に暴力を受けたのはいつ以来だろう?
ああ、そうか。
一年生の頃、近所に「阿波おどり」を習いに行った時、
四人居た友達だけは入門を許されたのに、俺だけ仲間外れになって追い返された時、以来、か?
ただ、がに股になって縦に揺れただけで、どうやらリズム感が悪いと判断された様だが、就学僅かの子供に対して
「邪魔だから出てけ!」
は無いもんだ。それも、何処がどう悪いとかの説明も無しに。
あの時の蹴りも痛かったなあ。
食い下がって説明を聞こうとしたのがカンに触ったらしいのだが、この時ばかりは流石に父親が抗議に出向いたそうだが、逆に怒鳴りつけられてすごすご引き下がって帰って来た。
今にして思えば地元の名士に雇われた幹部候補生と、一介の新参者。発言力が対等とはならなかったのだろう。そう考えれば、親父も被害者……………………
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