【外伝】俺が異世界では娼館の主な訳:アーデルハイド編
扉を開けて、少女が部屋に入ってきた。
「アルジャーノン、ただいまー」
と言って、ベットにバタンキュー。既にスヤスヤと寝息をたてている。
全く、騒がしいやつだ。
この部屋の主である俺様を呼びつけにしておいて、あげくの果てには、勝手に寝込んでいるなんて言語道断、毅然とした態度で抗議を行うことにした。
まずは、奴を起こさないとこちらの抗議も聞き入れられないので、大きな音を発てて目を覚まさせるしかない。
とは言っても、めぼしい手持ちの機材には適したものがないので、いつものやつを回すしかない。
今日は3倍速位で行ってやる。
物音に気がついた少女は、眠そうな目を擦りながら、
「アルー、私が帰ってきて嬉しいのかなー、そんなに回していると目がまわるよー」
と呟いた。
駄目だ、いつものように効果が無い。
三倍速は疲れるのでここらで休止、となると床に降りるしかない。
奴は横のベットで熟睡モードに移行したようだ。こうなったら、何をしても無駄なことは経験上判っているので、こちらも休むことにする。
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「アルー、おはよー」
こっちはまだ寝ているのに、自分が起きたからっていい気なもんだ。
食事の用意はしてくれたようなので、一応起きることにするか。
そこではっと気がついたが、今日は奴が1日部屋にいる日ではなかったか?となるとあの鬱陶しい遊びに一日中付き合わされることになる。
気が重くなったので、黙々と朝食をとることにする。
奴はあーだこーだと、口に物を入れながら話しているが、俺は行儀よく無視を決め込む。
「アルー、昨日はねー、すごーく大変だったんだー。聞いてるー?」
俺は嫌でも聞こえてる声を敢えて無視して、食事を続けた。
しかし、食べ物が底をついてしまうと、振りをし続けるわけにもいかなくなる。
まずい、今さら寝た振りをするわけにはいかないし、かといって外へ出かける訳にもいかない(出来ないし)。
諦めて、部屋をうろうろするしかない。
「アルー、出たいんだねー。ちょっと待ってて」
と言って俺をつまみ上げて机の上に降ろす。
さすがの俺様でも、この高さを飛び降りる訳にはいかないので、机という新たな領土内をうろうろするしかない。
新たなとは言ったが、毎度毎度の事なので、特に新鮮味が有るわけではないのだが。
そんな俺を見ながら奴は、
「ちょっと待っててねー、今食器片付けちゃうから。」
と言って部屋から出ていく。
チャンス到来!!、といつものように脱出経路を探すが、如何せんこの高さでは落下時に骨折はまぬがれまい。
奴のベットに跳び移る手もあるが、最近重くなったこの身体では無理だ。
そうか、そうさせないために日夜俺に食事を大量に出していたのか、我ながら気づくのが遅かった。
こうなると諦める、の一言だ。戻ってきた奴は、俺の頭をなでなから、
「アルー、ごめんね。また遠征に出ないといけなさそうなの。世話はちゃんと頼んでおくから心配しないでね。3群とだから何時帰れるかな。だから、あそぼ!」
と言われても、俺にとっては追っかけられたり、こづき回されたりと、ヘビーなトレーニングの域を出ないのだか。
次の日の朝、奴が、
「じゃあね、アル」
と言って部屋を出て行ってからしばらく姿を見ない。
時々見知らぬ娘が食事と水を補給してくれるが、奴の姿は見えない。
暫くして、見知らぬ娘が二人で部屋に入ってきた。
「荷物をまとめて送れって事よ」
「あーあ、アーデルハイドさまはこのまま3群にお残りになるのかしら」
「あんなヴァルキュリアの舞をしていただける殿方に出会えたらそうなるでしょ」
「いーなー、見えたんでしょ舞」
「美しくて、幻想的で、耽美で、みんな息を止めて見入っていたわ」
「見たかったなー」
「後でもっと詳細に話してあげるから、私物を送らないと」
「このハムスターも送るんでしょ」
「ちゃんと、エサと水やりのお願い事項書いておかないとね」
…
…
…
あれ、俺ってネズミじゃなくてハムスターだったんだ。