第四話『急展開』
俺とグレンが素振りをしていると、ラディオ先生とその他の生徒が広場へとやってきた。
そして、最終的にこの場に集まったのは俺、グレン、ラディオ先生、そして俺と年の近い少年たちが三人。右から順番に、ジーク、ユルト、ロイだ。
「それじゃあ、今日も始めるとするか」
ラディオ先生は、全員が揃ったのを確認すると、俺が居ないことに気が付いたらしい。
「今日はアルスが居ないな。グレン、何か知ってるか? ん?」
そう言ってラディオ先生はグレンの方に視線を向けると、側にいた俺と目が合った。というかさっきまで存在に気付いていなかったのか!?
「おいグレン、お前に妹なんていたのか?」
「先生、耳が付いてない時点で気付いてくださいよ」
「そうだったな」
どうやって説明しようか。単刀直入に「俺がアルスです。こんな姿になってしまいましたが、宜しくお願いします」的な感じでいいのだろうか? 流石にそれでは信じてくれそうにないな。「悪い魔女に魔法をかけられてしまったの」的な感じはどうだろうか? それも流石に少女の戯言ということで流されてしまうのが落ちな気がしてきた。
まあ、最悪グレンが何とかしてくれるだろうし、やるだけやってみるか。
俺はその場から一歩前へと踏み出ると、勇気を出して言った。
「今日の朝目覚めるとこの姿になっていました。アルスです。信じてもらえますでしょうか?」
するとラディオ先生は何かに気がついたような顔をして言った。
「もしかして、噂に聞いてたアルスの真似ごっこのお嬢ちゃんかい? イーナがそれはもう驚いた表情で、今朝知らない女の子がアルスの部屋で寝てったていう話をするもんだから、俺もたまげたもんだよ」
「「……」」
「オーマイガー」と言うべきなのだろうか…… 母さんの行動力、それとも村の情報伝達力が原因か?
「アルスには、嬢ちゃんのような可愛い子を虜にできる程の勇気と容姿があるわけが無いからな。もしかしたら本当にお嬢ちゃんがアルスなのかも知れねえな!」
冗談を言いながら高らかに笑うラディオ先生。さあ、任せたぞ…… グレン、キミにきめた!
俺は全力でモン○ターボールを地面に叩きつける思いで心の中で叫んだ。比喩表現だからね? 別にグレンは獣人犬型ポ○モンとかじゃないから……
俺の思いに答えるかのように、グレンは一歩前へと前進して、ラディオ先生の方へと立ち寄った。
「ラディオ先生、残念ですが…… このどうしようもなく可愛い生物があのアルスなんですよ」
「どうしようもなくは余計だろっ!」
「ガハハッ! グレンも言うようになったな。別に俺の冗談に付き合ってもらいたいわけじゃねえんだよ。もしかしてグレン、このお嬢ちゃんに惚れたのか?」
「いや、まあこの中身がアルスじゃ無ければ僕だって惚れてたと言いますか……」
「惚れっ!?」
今の俺ってそんなに可愛いの? ってまあ、前に鏡で見てるから大体は予想が付いていたけど、あのグレンが惚れるくらいなんだから本当に結構可愛いのかも知れない。
「ラディオ先生、信じられないかもしれませんが、本当にこの子がアルスなんです。僕も最初は信じられなかったですけど、本当なんです」
するとラディオ先生はグレンが冗談を言っていない事に気がついたのか、顎に手を当て、考える仕草を始めた。
「試しに何か質問してみたらどうですか? アルスが答えられる質問なら何でも答えられると思いますよ」
ナイスだぞ、グレン。これならグレンの時と同じように信じてもらえるかも知れない。あ、まって、こんな事言ったらフラグが立つわ。今の台詞はナシでお願いします。ナシだから……
ラディオ先生は、「少し時間をくれ」と言い、右手を前に出し、少し待つようにと合図をした。
「イーナの歳は幾つだ?」
「32歳じゃなかったっけ?」
「違うな、35だ。お前本当にアルスなのか?」
おいいぃー、ここでまさか息子に対して年の鯖を読んでいた疑惑が!? それと質問一つでアルス否定するのやめて貰えます? そうだ、別の質問だ。これでは疑われてもおかしくない。
「別の質問にしてくれ。今のは内容が悪かった」
「お、おう。じゃあ、イーナの元就職先は?」
「それは簡単すぎるんじゃ……」
「グレン、俺は母さんの元就職先なんて知らんぞ」
「正解はアズレット王国宮廷魔導師団だ。アルスを名乗っておいて、そんな事も知らなかったのか?」
ここに来てまさかの発言来ましたよ。あの母さんが、王国宮廷魔導師団所属だったんですって。あの人、家の結界魔法以外で魔法を使う素ぶりなんて一度も見せたことありませんよ? ましてや、魔法の原理やら使い方やらも教えてもらったことが無かったのに…… 流石に宮廷魔導師だったら知ってて当然だよな!?
「アルス、そのくらいなら僕でも知ってたけど…… まさか教えてもらってなかったの?」
「僕も知ってるよ」
「俺も」
「ワイも」
「聞いた事もないぞ、そんな事」
「まあ術詞すら教えてくれない人だからしょうがないのかもしれないね……」
あ、これは村の人は皆知ってる的なやつですね、はい。てか、先程まで空気だった三人の中に一人ありえない喋り方をしてる人がいるんだが…… 誰も気にしてないのか?
「残念だが、お嬢ちゃんをアルスだと認めることはできねぇな。第一、素振りの仕方がアルスと違う。剣筋は長い間、鍛え、調整しない限り、そうそう変わることはない。しかも、お嬢ちゃんが剣士を目指すには体力、そして筋力が足りないんじゃないか? 木剣は軽いが、真剣は比べ物にならないくらい重い。お嬢ちゃんが思っている以上にな。別にお嬢ちゃんを否定したいわけじゃないが、剣士を目指すのはそんなに甘くはないぞ」
ぐぬぬ…… という声が心の中で響くほど悔しい。てか、もはや何でアルスだって認めてもらいたかったかすらも分からなくなってしまった。
確かに自分が自分ではないと否定されるのは心に来る物があるが、別にアルスじゃ無くたって剣を学ぶことは出来たはずだ。まあ、俺の母親に関しては俺が俺であることを理解してもらわないと住む場所もないし、心配を掛けてしまうことになるから、理解してもらう必要がある。
理解していたつもりだけど、やっぱり直接剣士さんに言われるとキツイな。この感じだと剣士は諦めなきゃいけない雰囲気だよね。体を動かすのは好きだけど、座学は嫌だなー。魔法だって名前とか魔力の扱い方とか勉強しなきゃいけない感じだろ? 多分、俺には絶対できないな…… 第一、感覚を身につけるとか絶対できないわ。
あ、剣士を目指したとしても魔法は覚える必要あるのか。何これ人生詰んだ感じですか?
「まあ、そんなに深く考え込むな。グレン、ジーク、ユルト、ロイ、お前達だって今のままでは剣士になる道は程遠いぞ」
「「「「はい……」」」」
「それじゃあ、今から剣術について教えていきたいと思う」
そんなこんなで、俺はアルスだと認められなかった。フラグ回収お疲れ様、俺。というわけで、特に何もできないので、そこらへんに座って見学することになった。まあ、今日の授業内容は実技というよりかは剣術を見るだけなので、グレンも俺の隣に座っている。
「今から見せる技は、『二段切り』という技だ。術詞を使う技の一つで、人間には再現不可能な速度で対象を二連続で斬撃する」
すると、ラディオ先生は剣を構え、『二段切り』と叫ぶと、目の前に存在していた木を三つに切っていた。
凄まじい速さで、剣を振ってたな。俺には剣がブレたようにしか見えなかったんだが……
「このように、二段切りの権限さえあれば、この技は誰にでも使うことができる。但し、この動きに耐えることができる程の筋力、そして体力が必要だ。まあ、俺が言いたかったのは、基礎練習が大事だってことだな。速度、精度は筋力、体力、そして集中力に比例する。今、お前たちが剣を扱う職に就いたって、技が使えたとしても、まともに扱うことも出来ねえだろうな」
――
「ん?」
俺たちがラディオ先生の授業を受けていると、村の方向から馬車を引く音が聞こえてきた。
そして、馬車は俺達の前で止まり、中から複数人の立派な鎧を纏った騎士達が現れた。その中の一人が、赤と青をベースに黄色をアクセントとして装飾された豪華な旗を掲げている。
あれは確か…… アズレット王国の旗だな。ということは多分、王国所属の騎士団の人達なのかも知れない。
王国騎士団の人達は何故ここに来たのだろうか? そう疑問に思っていると、ラディオ先生が元王国騎士団所属だったのを思い出した。急用でもあるのだろうか?
「これはこれは、エルス副騎士団長。久しいな」
「嗚呼、ラディオ。久しぶりだ」
「こんな辺鄙な村にどんなようだ?」
「実は、王命で人探しをしているところなんだ」
「おう、どんな奴だ」
「緑玉の瞳と、白金のように輝く髪を持つ少女を探している。各班に別れて各国を巡っているのだが…… 今日、この村にそれらしい目撃情報があってな。村を周っていたところなんだ」
緑玉の瞳と、白金のように輝く髪か…… さぞかし綺麗な人なんだろうな。そんな事を考えていると、横に座っていたグレンの顔が真っ青になっていた。
「いや、まさか…… そんな訳無いよな」
「どんな訳だ?」
「今自分がどんな姿をしているのか分かっているのか?」
「へ?」
俺の姿…… 白金色の髪と、エメラルドグリーンの瞳。それでいて、少女だ。
えっ、もしかして俺のことを言っているのか!? 王様に呼ばれるようなことはしていないと思うのだが!? ってか情報の伝達早すぎんだろ、おい。
「俺が呼ばれる訳がないじゃないか」
「まあ、確かにそうなんだけど……」
あたふたとグレンに向かって話す。
俺達の目の前に居たラディオ先生がその場所を動き、副騎士団長と目が合った。
「「「……」」」
三人の間に沈黙が流れた。というか、この場に居る誰もが微動だにしていなかった。
すると、最初に口を動かしたのはグレンだった。
「それじゃあ、僕達は帰ろうか。アルス」
「そ、そうだなー」
棒読みをしながら俺達は立ち上がり、グレンの家を目掛けて真っ直ぐ帰ろうとしたその時だった。騎士団長のエルスさんに肩をがっしり捕まえられてしまった。
「ちょっと、そこのお嬢ちゃん。少し付いてきてくれないかな?」
「こ、困りますよー。俺、今から家に帰るところなんで……」
一瞬、その場が凍りついたかと錯覚してしまうような雰囲気が流れたと同時に、俺達は逃げの構えをとった。
しかし、副騎士団長の行動は俺達の想像を遥かに超える程早かった。
「お前たち、この少女を囲めっ! 逃したら今日の飯は無いと思え!」
連れの騎士団が大声で返事をすると、俺とグレンを囲もうとこちらに集まってきた。
「早く逃げるぞ、アルス!」
「おうっ!」
まあ、特に逃げる意味も無いんだけど、捕まると面倒ごとが多そうだったので逃げることにした。いや、まてよ。逃げたほうが後で面倒ごとになるんじゃないか? ……まあ、いいか。
俺たちは持ち前の小さな体を活かして、騎士達を掻い潜り、村の方角を目指した。通りすがりの村人とは何回か目が合い、知り合いと何度か素早い挨拶を交わしながらも、グレンの家へと目指した。
すると後ろの方から不穏な声が聞こえてきた。
『魔法壁展開』
『速度低下』
物騒な単語が出てきたなと思ったのも束の間、放たれた言葉は現実と化していた。
走っていた俺たちは忽ち速度を落とし、紫色に輝く障壁に四方八方を塞がれてしまった。
「何故逃げるんだ君たちは。後ろめたいことでもあったのか?」
副騎士団長のエルスは俺達に尋ねた。
「どことなく面倒くさそうだから家に帰るだけですっ! 帰るお家もないけどなっ」
ドヤ顔で答える俺。
「取り敢えず付いてきてもらおうか。詳しい話は私達も聞いてはいない。まずは君の素性を教えてくれ。一応、親族には事情を話しておこう」
ここは大人しく言うことを聞くしか無いっぽいな。まあ、俺を知っているわけじゃなくて、俺と同じ容姿の少女を探しているのだから、王様に会うことができれば、直ぐに人違いだと気づいてくれるだろう。
「お、俺の名前はアル……」
するとグレンは俺の耳元で言った。
急に耳元で話しかけられたので、体がぴくりと震える。
「急に話しかけてくるなよっ、くすぐったいな」
「悪かった。でも今は少し静かにしてくれ」
「何だ?」
「ここは一度、偽名を使ったほうがいいと思う? どうせ、アルス本人だって言っても信じてくれる人は誰も居ない。後の話は僕が何とかしてみせるよ」
「分かった」
分かったとは言ったものの、何を名乗ればいいのやら。無難な名前にしたとしても、後で変えたくなったら面倒だしな。
ここはグレンに聞いてみるか? いや、そんな時間があるわけがない。
しゃーないな。ここはそれっぽい名前で行こう。無理に凝っても愚作が出来るに違いない。
そうして俺はドヤ顔で騎士達に向けて言った。
「ソフィー、それが俺の名前だ」
少しづつではありますが、ブックマークが増える事が嬉しくて嬉しくて堪りませんっ!
そして、次回の更新は4/14日です。予定が狂ってしまわなければの話ですが…… 頑張ります。
差し支えなければ、評価&ブックマーク登録の程、宜しくお願いします。