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不可解なせかいに少女はとまどう  作者: もっちりお餅
第一章『プロローグ』
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第十話『アズレット王国学園入学・アルス視点』

 俺は今、夢を見ているのかも知れない。

 身体も意識も少しふわふわとした感じで、ぎこちない。


 来たことがあるのだろうか―― 俺は懐かしい雰囲気の場所に一人立っていたのだ。

 辺りを見渡してみるものの、そこは只々真っ白い世界で、何一つ物体が存在していなかった。


 少しの間遊歩していると、目の前に何者かが現れた。

 その身は白く輝き、容姿すらも確認できない。


「何じゃ、妾を忘れおったのか?」


 何処かで聞いたことのある声…… あっ、思い出したぞ。俺をこの世界に連れてきた例の神様(ソフィリア)だ。


「お主、最近は大変そうにしておるのう」

「ぼちぼちってところだな」

「目的は果たせておるか?」

「えっーと、それもぼちぼち――」

「何もやっておらぬな、正直に言ってみよ」

「あ、はい」


 俺の不甲斐ない言葉に、ソフィリアは溜め息を吐いた。


 久しぶりに出会ったので、俺は色々とソフィリアに疑問をぶつけてみた。どうして俺はある日突然、少女に生まれ変わってしまったのか? どうして王様は俺を王都まで連れてきたのか? 神様なら全てを知っていると思って、俺は色々と質問してみた。


「お主、その身体が嫌いなのか?」

「嫌いっつーか、顔立ちも良いし、可愛いとは思うぞ? けどな、自分がこいつになりたいとは全く思わんな」

「そうか、可愛いか…… じゃあ、良いじゃないか」


 少し嬉しそうな声でソフィリアは言った。


「いや、俺が訊きたいのは何でこの身体になってしまったかってことなんだよ!」

「その事はまだ話すことが出来ない…… じゃが、今お主の周りで起こっている事は、全て必然的な運命なのじゃ」

「運命? お前が仕掛けたのか?」

「仕掛けたとは響きが悪いのう、これは世界を救――


 突如として意識が途絶える。曖昧な景色に、宙に浮かぶような感覚。


「――今のお主には書庫に立ち入る事が出来ない。これは妾の過ちじゃ……」

「書庫? 何のことだ?」

「書庫は書庫じゃよ。詳しい説明は省かせてもらう。これだけは絶対に覚えるのじゃよ――

「絶対って、そんないきなり難しいこと言うなよ」


――『顕現ぜよ、神の御技よ。今ここに、その奇跡を証明せよ…… 第三節『探検と開拓の道標(パスファインダー)』」


――


 俺はベッドから飛び起きた。

 彼女が最後に言った言葉が今も耳に残っていて、俺の好奇心を擽る。


 あれは多分、魔法に違いない……


 珍しく俺は二度寝をせずに、いそいそと昨日渡された学園用の制服を身に纏い、履き心地の悪いローファーを履き、颯爽と自室を出る。


 どんな効果かは分からない。けれど、使えるようになれば、ぐっと入学の可能性が上がるだろう。

 期待を胸に、俺は庭園へとやってきた。


 日は既に登っていて、空いた腹の音がなる。

 昨日は何度も唱えていたはずなのに、俺は魔法を唱えることに少しばかりか緊張を感じていた。


 そして、俺はそっと詠唱句を口にする。


『顕現せよ…… 神の御技よ。今ここに…… その奇跡を証明せよ。 第三節『探検と開拓の道標(パスファインダー)


 俺が最後の言葉を発したと共に、緑色に発光する魔法陣が、ゆっくりと、広がっていくように、俺の足元に展開されていった。

 魔法陣の展開が止まると、その数秒後に魔法陣はじんわりとその光を薄くして消え去った。


 ぷるぷると震える身体。俺は、確かに魔法を使うことが出来た。

 そして今のふわふわとした感覚と脱力感は魔力なのだろうか?


 試しに他の魔法を一通り唱えてみたものの、何一つ発動することはなかった。

 けれど、今の俺はあまり気にしていなかった。グレンに魔法が使えたことを報告したいという一心だったのだ。


 その後、食堂で朝食を口の中に掻き込むように摂り、グレンの元へと急いだ。

 短い脚を全速力で回転させ、制服が汗ばむ勢いで走る。


 扉を開くと、制服姿のグレンがそこに居た。

 てっきりベッドの上でくつろいているかと思っていたが、扉から近くて結構びっくりした。


「どうしたんだいアルス?」


 あまりに急に押しかけた為か、おっかなびっくりとした表情のグレン。


「グ、グ、グ、グレン…… お、俺っ、ま、魔法っぽい何かが使えたっぽい」


 俺もいざ話そうとすると、言葉に詰まっていた。


 俺は夢の経緯を話し、グレンの前で魔法を使ってみせた。

 グレンが言うに、これは「魔法っぽくない」らしいのだが、確かに発動後に魔力波が出ているらしい。


「魔法を使うのって結構楽しいんだな」


 足元に出現しては消える魔法陣を見て、俺は不思議と嬉しさを感じていた。

 すると、グレンが俺に問いかけてきた。


「あのさ、気になることがあるんだけど」

「何だ?」

「最初のところを言わずに魔法名だけで唱えてみてくれないか?」

「いいけど」


 グレンの要望通りに『探検と開拓の道標(パスファインダー)』の部分のみを口にしてみた。

 俺とグレンの間に沈黙が流れる。


 少し待ってみるものの、特に何も起こることは無かった。

 魔力が流れていく? のも感じられなかったし、魔法として扱われていないのだろう。

 この世界の仕組みがどうなっているのやら…… 俺達には全く分からなかった。


――


 あの後、何度か魔法を行使すること数分、俺は魔力切れを起こして一時間ほどぶっ倒れていた。

 目が覚めると俺はグレンの腕の中に居て、あまりの気持ちよさに二度寝してしまいそうになったが、グレンに起こされてしまった。学生服の着崩れが気になるらしい。

 汗も掻いてしまったので、いっそのこと着替えようかと思ったが、そういえば制服は一着しか持っていなかったのだ。


 そういえば何で入学前に制服を渡してきたのだろうか? 入学が決まっているわけでも無いのに…… ここの王様は馬鹿なのだろうか?


 そんな事はさておき、魔力切れのせいなのか、お腹が空いて仕方がないのだ。

 学園に向かう予定の時間が昼過ぎの午後一時で、昼食は馬車の中で摂る事になっていたのだが、侍女曰く昼食の準備は既に出来ているようで、あまりの空腹に今直ぐ食べることにした。


 昼食を取り終えた俺とグレンは、馬車に揺られること数十分。目的地であるアズレット王国学園へと辿り着いた。

 第一印象は取り敢えず『デカい』であった。俺の中での学校のイメージが高校までのせいなのか、例えるならば大学の様な大きさだ。


 校門の前で待っていると、学園の関係者の人が扉を開けてくれた。

 見るからにセキュリティはしっかりとしていて、防犯対策も完全なのだろう。

 所々に張り巡らされている不思議な筒と怪しげな箱は、多分王都で見た街灯の類と同じなのだろう。

 俺は生まれてから一度も魔物をこの目で見たことがないが、冒険者という職業があるからには、沢山の魔物がアズレット王国外には生息しているのかも知れない。

 王都に向かう際の馬車の旅の途中ですら、魔物に会って居ないのだからな。それだけアズレット王国領が安全であるという証拠なのだろう。まあ、寝ていた俺が言っても何の信憑性も無いけどな。


 グレンが参加証を学園の関係者に見せると、道を案内してくれることになった。

 そいつに付いていくと、俺達は試験会場へと辿り着いた。


 会場内には多くの人々が集まっていて、人酔いの激しい俺には最悪の場所だ。

 受付には長蛇の列が出来ていて、俺達はそれなりに待たなければならないらしい。

 俺達の後ろには誰も列んでいないことから、多分俺達は遅れてきたのだろう。


 それにしてもこの世界の人々は派手な服を着るものだ。

 所々に、俺の住んでいた村の人達の様な服装の人を見かけるが、それ以上に俺の目を引いたのは、ド派手な刺繍や装飾品を纏った貴族達であった。鈍感と呼ばれている俺ですら貴族だと断言できたのは、そいつらの達振る舞い…… とかで分かるはずもなく、明らかな見た目だ。


 列に並ぶこと数十分。流石にここに居るのがきつくなってきた。

 グレンに助けを求めようとしたが、グレンは真剣な表情で上の空を向いていた。


「おい、グレン。俺の事を忘れてるんじゃねーだろうな?」

「嗚呼、ごめんごめん」


 グレンの腹部に思いっきり拳で殴打する。

 しかし、グレンはびくともしなかった。

 すると、列の前の方から一人の少年が俺達の後ろに列んだ。


「とんだ災難だね」

「見ていたのかい?」


 何の話だ?

 淡々と話を続けるグレンと見知らぬ少年に、俺はついて行けなかった。


 二人の会話を傍から見続けていると、漸く俺達の番が来た。

 受付の横には魔法や武術を披露するスペースが存在していて、俺達の前に居た人が試験官に向けてアプローチしている姿が窓越しから見えた。


 少し緊張しながらも、グレンの後ろに隠れていると、如何にも紳士的な男性が俺達の前に現れて、話しかけてきた。


「君達がグレン君とソフィーちゃんかい?」

「ソフィーちゃんは止めてくれ」


 俺は反射的に言ってしまった。


「おっと失礼…… とりあえず君達は僕に付いてきて欲しい。試験を受ける必要なんて無いからね?」

「そうなんですか?」

「そうとも、制服を貰った時に気が付かなかったのかい?」


 試験を受ける必要が無い? その言葉を聞いて、漸く俺は王様のおかしな行動に理解した。

 あの幼女好きな糞オヤジは、多分俺を弄ぼうとしたに違いない…… でもまあ、入学できることに変わりはないので、グレンも喜んでくれているに違いない。何せ、王都に付いてくる程、俺が好きな奴なんだからな。


 微笑むグレンの顔に、俺は安堵した。


「取り敢えず他の貴族にはあまり知られてはいけないから、場所を移動しよう。その服を着ていると感づいてしまう人達も居るかも知れない」

「分かりました」


――


 俺達は学園内を如何にも紳士的な男性――ウォルチェ校長――と一緒に周った。

 学園内は思った以上に広くて、方向音痴の俺は迷子になりそうで心配になった。


 校長曰く、学園は完全な単位制で、入学試験は四半期に一度行われるらしい。その分、一定の単位を取り終えた生徒たちは、直ぐに冒険者ギルドからの推薦が来るので、卒業する奴が一週間に何人も出るとか……


 魔法も武術も不完全な俺にはもってこいの場所だが…… グレンと一緒に卒業出来るかが心配だ。

 武術はともかく、新たな魔法を得るには魔導書もしくは天職(てんしょく)(まなこ)を通さなければいけない。

 基礎魔法ならば誰でも唱えることが出来るらしいが…… 俺はそれすら唱えることが出来ないらしい。ソフィリアもそれっぽい事を言っていたが、あまり聞き取れなかったのが残念だ。

 現状、彼女に会う術は見つからないが、いつかまたあんな感じで交渉してくるんじゃないかと思っている。


 寮内を紹介するに当たって、俺とグレンは別々の案内をされることになった。やはり俺は男子寮に入ることが出来ないらしい。


 女子寮の管理人である、安産型な身体のお姉さんが、俺が住むことになる部屋まで案内してくれた。


 自室のベッドで寝転びながら、俺は詠唱句を口ずさむ。

 例によって、魔法陣が空中に展開され、その後弾けて消えてしまった。


 主な使い道が分かるまでは、短剣でどうにかするしかないな。

 それにしても、ここの学校は何を教えているのだろうか? 入学試験が実技のみって聞いていたから、てっきり授業も実技のみかと思っていたが、さっき参観した時は、座学をしているように見えた。歴史だけは絶対に嫌だ…… それだけは勘弁して欲しい。


 そういえばさっき俺をこの部屋まで案内してくれたお姉さんが「暇だったら自由に学園を回っても良いからね?」なんて事を言ってたな…… グレンの居る寮に遊びに行っても良いのだろうか? あそこも学園内だよな、ってことは大丈夫なわけだ。


 ひょいとベッドから腰を上げ、ブレザーと帽子を放り投げた。今朝侍女達に無理やり結ばれた髪留めを解き、部屋を後にする。


 男子寮は俺の今居る場所を出て左にある建物だ。外装こそ女子寮と鏡合わせになっているだけであるが、男子寮は女子寮と比べて一回り程大きい為、ひと目でその違いが分かる。


 グレンの居場所が分からないものの、男子寮に潜入するのはいとも簡単だった。

『女性の立ち入りを禁ずる』という張り紙があったものの、学園内の為か警備をしている者は一人も居なかった。


 スネ○クの如く、俺は忍び足で廊下を駆ける。女子寮と同じく部屋の扉の前に名札が付いているので、後はグレンの名を探すだけだ。

 建物の柱の隅に隠れては移動し、隠れては移動しと、その動作を繰り返すこと数十分。漸くグレンの居る部屋を見つけた。


 そっと扉を開けると、そこには優しい寝息を立てているグレンの姿があった。

「起きろー」と身体を揺さぶってみるが、一向に目を覚ますことは無かった。


 こいつ、死んでるのか? あ、息はしてんのか。


 グレンが目を覚ますまで横に居ることにした俺。

 小窓から射す暖かい夕日が俺を爆睡させるのには、数分も掛からなかった。

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